もう一つのネフィリムーエルバハー   作:赤い変態

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とりあえず、大変お待たせしました(汗)
切の良いとこで切ったら前回と同じくらいの量に(汗)

とりあえず、今後の分量はこのぐらいが通常となるかもしれませんので、ご容赦を(汗)




イルミネイザー

「あぁ~、もう駄目だぁ~……翼さんに完璧おかしな子だと思われたぁ……」

 

國次の妹が通っている私立リディアン音楽院高等科。

……のとある一年の教室にて、一人の少女「立花響」が机の上に突っ伏して溜め息交じりに、隣の席で勉強をしている親友でルームメイトでもある「小日向未来」にそう零していた。

それに対し未来は、「間違ってないんだから、いいんじゃない?」と返しながら目の前の課題を進めていく。

あんまりな発言だが、それでも遠慮なくスッパリ言い切れるのも二人が長年の親友だからこそだ。

なお、既に立花響の立場はリディアンの友人間では「変な子」として認識されていたりする。

 

課題を黙々と進めていく親友を突っ伏した状態のまま見ながら響は、先ほど言われたことを特に気にしないまま、まだその課題は終わらないかと尋ねようとした時。

 

「お二人ともー、この後暇ー?」

 

と、前方から声が聞こえてきたが、しかし前に視線を向けても誰もいない。

おや、と思いながらあたりを見渡すもまだ学生寮や自宅に戻っていない生徒が数人、離れたところで談笑しているだけで此方に話しかけてきた生徒は見当たらない。

未来も課題を進める手をいったん止め、キョロキョロとしているが声の主を見つけられずにいた。二人は顔を向い合せ、気のせいだろうかと首を傾げる。

 

「いやここだって! 目の前、ってか机の陰になってたり床が傾斜なせいで余計低くなって見えてないだけだから!」

 

もう一度前方から声が聞こえてきた。よく見ると先程からピコピコと茶色の毛玉のような何かが、主張するように机の陰から跳ねるように顔を覗かせているではないか。何がいるのか確認しようと響が身を乗り出すと、そこには丁度机の陰に隠れるぐらい小柄な、リディアンの制服を着ていなければ小学生に間違えかねないくらい小柄な生徒がいた。

その小柄な体より大きく見えるポニーテールを尻尾の如く揺らす少女に、響は思わず謝罪した。

 

「ぁあー……ゴメンね奏音ちゃん、さすがにその位置だと奏音ちゃんの場合流石に見えないというか……」

「このクラス、というか一年の中では奏音って最小どころかハイパーミニマムサイズだもんねぇ……」

「泣くよ、ボク」

 

奏音と呼ばれた小柄な少女「国津奏音」は、クラスメートの二人の発言に僅かながら涙目になり、プルプルと全身を震わせながら天井を仰ぐ。

 

「えぇわかってます、わかってますとも。入学式では迷子扱いにされ、教室に移動したら中等科の子と間違われ、最前列の席に座っても先生の視界に入る事すら稀で、挙手しても気付いてすら貰えないくらい自分が小さい豆粒ドチビであることくらい……って誰がドチビだ!」

 

いや今のは奏音ちゃん自身が言ったことじゃ、と溢しそうになった言葉を響は慌てて飲み込み、「それで、暇かどうか訊いてたけど、どうしたの?」と切り出す。

いくら友人たちから自分が「変な子」認定を受けているとは言えど、私だってさすがに空気くらいは読める。……ところで未来、なんでそんな温かい眼で見ているの? まるで我が子の成長見ているような眼をしているのかね?

 

「―――っと、そうだった危うく忘れるところだった。いやなに、昨日二人の部屋に泊めてもらったお礼をしようと思ってね? 都合が良ければこの後ちょっと奢ろうかなーと」

「御飯が美味しい所ですか奏音ちゃん!」

 

がっつり食える場所ですか奏音ちゃん!

 

「響、涎。で、この後かぁ……課題終わらせるのが先かな」

「んー、もう少しかかりそう?」

 

涎を拭きながら訊いてくる響に、奏音に視線を合わせるために乗り出していた身を戻し、課題の残りを確認しながら頷く。

残りはテキスト二ページ分、今のペースで進めていってもあと二十分程度はかかるだろう。

 

「うん……出来れば早めに終わらせておきたいから、今日は遠慮しておこうかなぁ」

「ありゃりゃー、じゃあ未来ちゃんは次の機会にでも。んで、響ちゃんはどうよ?」

「美味しい所なら是非に! ……と、言いたいんだけど私も今日はその……」

 

問われた矢先、勢いよく拳を突き上げながら席を立つ響だが、すぐさまだらりと腕を下す。

 

「あー、もしかして先約あり?」

「あ、そういえば今日は翼さんのCD発売日だったっけ?」

 

奏音の問いに、思い出したように未来が答えた。

思い返せば午後の授業が始まった辺りから、響がソワソワし始めていたのを思い出す。

しかし音楽も映像作品もネットですぐダウンロード出来る今のご時世に、何故CDなのだろうか。

 

「でも、今更CD? ダウンロード版とかじゃなくて?」

 

疑問に思ったことをそのまま訊き返すが、よじ登る形で机に身を乗り出しチッチと指を振る奏音と、響の「わかってないなぁ」という顔が視界に入った。

 

「わかってない、わかってないねぇ未来ちゃん!」

「初回特典の充実度が違うのだよ、CDは!」

「ダウンロード版でも初回特典はつくことがあるにはあるけども、一度データが壊れればその時点で駄目だし、メインの曲自体も所詮は何度もダウンロードしなおせるデータの塊! それに比べてCDは実際に手に取る感触と充実感、コツコツ貯めた資金で買った時の達成感が段違いなのだよ!」

「カウンターで会計を済ませて手渡されたときに感じるあの重み、そして無事買えたという歓喜! データとは違いCDだからこそ味わえるというもの!」

「故にボク等はCDに拘る!」

「「ねー!」」

 

CDである事に強く拘る理由全てに、熱く燃え滾る情熱的な口調で語る奏音と響。そしてその熱弁から一気に意気投合しハイタッチする二人を前に、苦笑を浮かべるが、未来はふと思った。

 

CDを買う理由は分かったが、超人気アーティストである風鳴翼の初回特典付CDなのだから、早く買いに行かないと、

 

「なら、すぐ売り切れちゃうんじゃない?」

「あ」

「へひょ!?」

 

当たり前の事を言われ、響は素っ頓狂な声をあげて教室の時計に目を向けた。

まあ今気付いたところで目当ての品は超人気なアーティストの初回特典付CD、開店前から朝から並んでいる強者(ファン)達や転売目的で買う不届き者によって全滅していそうなものであるが。予約注文でもしていれば別だろうが、この慌て様ではしてないのだろう。

だがそれでも一縷の望みに懸けたいのか、「ちょ、行ってくる! 奏音ちゃん、美味しい所についてはまた今度! ゴメン未来、先に帰ってて!」とだけ残し、凄まじい勢いで教室を出ていった。

 

「わぁ、早いねぇ」

「無事に手に入るといいんだけど……大丈夫かなぁ響」

「まあ手に入らなかった時は僕の方でなんとかしようか? 一応近場の店で予約してるんだー、翼さんの初回特典付きCD~」

「え、でも、いいの?」

 

いいのいいの、と手を振りながら無邪気に笑いながら奏音はレシートのような紙切れを二枚取り出す。

 

「兄さんの分とボクの分で二つ予約してるんだー。でもまあ、CD聞くだけなら一つで良いし、兄さんも初回特典のあるなしはそこまで拘らないから、だから全ッ然ッ問題無し!」

「うーん……なんか申し訳ないけど、じゃあもしもの場合は、いいかな?」

「おまかせ~。さて、んじゃ早速響ちゃん追いかけるとするかな」

 

ぴょん、と身を乗り出していた机から離れ、大きなポニーテールを尻尾のように揺らし教室から走り出ていく奏音の後姿を見て、歩幅小さいけど追いつけるかなぁと不安になる未来だった。

 

 

◆■◆■

 

 

「矜持、原点……か」

 

その日の仕事を終え夕陽を背に帰路を辿る中、國次は昼間から考え続けていた言葉を口に出しながら今まで自分が抱いた戦う際の理由や状況を振り返っていた。

 

「思い返せば……その場の勢いと状況に流されているのが殆どなんだよね」

 

初めて異形になったあの日、あの瞬間。裡に生まれた仄暗い誘惑を振り切って、目の前の生きて欲しいと願った相手(鏡花)を助けたいという、その場での衝動的な理由(始まりの意志)

 

そして始まり日の翌日に変身した際に得た、今現在自分の、異形としての行動理由となっている「手の届く範囲だけでも助けを求める誰かを救いたい」という、ただ少しでも後悔したくないが故の身勝手な感情(傲慢な願い)

 

どちらも勢いと状況に流され、その場で得た理由と感情だけを頼りにして今日に至るまでを過ごしてきた。ただそれでも、「手の届く範囲だけでも」と自分の中でラインを引いても、当然この手から零したものは無くは無い。

人命救助のプロでもなければ、特機部や蒼い刀剣の少女(風鳴 翼)のようにノイズが発生した際に即駆け付けられるのが出来る程フットワークが軽いわけでもない。

 

コスプレチックな姿をしてまでノイズと戦うあの風鳴翼には、その目から義務感や使命感等の確固たる意志を感じ取れた。

だが自分のは何だ、ヒーロー『ごっこ』、としか言えない中途半端なものではないか。

 

でも、それでも。

それでもただ、今日まで得て来た理由と感情だけを頼りに続けてきたのは……。

 

「……『後悔したくないから』、本当にそれだけ?」

 

立ち止まり、夕陽に染められた橙色の空を見上げながら口に出した自問自答。

しかし答えが返ってくるわけでもなく、空へ吸い込まれるように消えていく。

……このまま、確固たる思いを持たないまま異形の力を使い続けるのは、正しいのだろうか? そんな後ろ向きな考えが頭に浮かぶ中、ふと見えた。

 

―――見えてしまった。

視界の隅で黒い塵が風に運ばれ、宙を舞っているのを。

塵が舞う向こうに、毒々しい極彩色(ノイズ)二十数体ほどの群れが、今にも赤子を抱える女性に襲い掛かろうとする光景が。

―――聞こえてしまった。

甲高く響く悲鳴が。助けてと呼ぶその人の声が。

 

「―――ッ」

 

聞こえた時には既に、足は走り出していた。

走らなければと、衝動的に感じた。でなければ間に合わない、と。

 

 

確かに自分には、彼ら(特機部と風鳴翼)のような義務や使命感は無い。

自分がノイズに立ち向かう理由に足る、決意、あるいは証といったそういうものが。

『後悔したくないから』、それは確かに身勝手な理由なのだろう。だが、今ここでグダグダ悩んだところで事が良い方向に進む訳でもない。ただその間に知らない誰かの命が、誰かの日常が、誰かの笑顔が理不尽な暴力(ノイズ)によって失われる、ただそれだけ。

 

(僕の胸の内にある『コレ』は、あの場の勢いと理由だけの、にわか仕立て……それも自分勝手なソレだ)

 

戦う力を得たと思うのは自分の勝手だ、でも自分には特機部のようなノイズから人を救う義務があるわけでも、風鳴翼の瞳に見えた確固たる意志があるわけでもない。

 

(――それでも、それでもだ)

 

何もせずに、理不尽な暴力(ノイズ)によって、誰かの当たり前(日々の日常)が失われてしまうのを看過するのは。

例えその人が自分とは一切関係のない、見ず知らずの他人だとしても、失われて誰かが悲しむ、それだけは、

 

「それだけは、納得出来(認められ)るか……ッ!」

 

今はまだ、義務も使命感も無い。確固たる意志があるわけでもない。

けれど胸の奥から湧き上がる、衝動にも似た何かがこの体を突き動かす。

例え今は未熟で中途半端な理由でも、この身を突き動かす感情が未熟なにわか仕立てな正義感でも、納得出来ない(認められない)という我儘にも近い『それ』だけは、

 

―――譲れない!

 

そう思った瞬間。

走り続ける体に熱い奔流が巡り、視界に光が溢れ始めた。

そして踏み出した足が、黒く硬質な異形へと変わる。振った腕が、鋭利な爪をもつ黒へと変異する。

 

異形の身体に力が漲る。

戸惑う心はただ一つに焦点を定める。

今は迷わない。戸惑っていられない。

 

あと10メートル程まで迫ったところで、極彩色(ノイズ)の群れが今まさに襲おうとした母子を無視して、一斉に振り返る。

―――だからッ、絶対にッ、

 

『―――伏せて!』

「ッ!」

 

言われ、母親が咄嗟に赤子を守るように身を丸めたのを確認すると同時に、引いた拳をそのまま眼前にいるノイズへ向けアッパー気味に打ちつける。

途端、周囲のノイズ数体を巻き込みながら浮き上がったところに、追い打ちの回し蹴りを浴びせる。また、回し蹴りの際に発生した衝撃波によって、周囲のノイズも巻き込まれるように薙ぎ払われてそのまま塵と化していく。

一連の動作を終え小さく息をつく頃には、母子に周りにいたノイズ約二十体はほぼ塵となって消え、残りは少し離れたところで運良く回し蹴りの衝撃波に巻き込まれずに済んだカエル型が三体。

その三体も跳躍して飛び掛かって来るが、異形が反射的に振るった左腕で薙ぎ払らわれ空へと舞いあがり塵と化した。

 

視界に移っていたノイズはすべて排除したが、まだ他にいないか辺りに視線を巡らせる。

……が、それらしき気配が無いことに気付くと握っていた拳を解き、赤子を抱えていた母親に振り返る。

あと少しでも遅れていれば周囲にある炭素の塊(犠牲者達)のように死んでいたかもしれないという恐怖が未だ抜けていないのか、顔色は紙のように真っ白であった。

ガチガチと歯を鳴らし路上にへたり込んでいた母親に、異形(國次)は歩み寄りながら言う。

 

『もう大丈夫です、落ち着いてください。幸い今ので周囲のノイズはもういないみたいですので、近場のシェルターまで……』

「い、いや! 来ないでバケモノ……ッ!」

『―――』

 

叫ばれて、異形(國次)は硬直した。

助けられたというのに、母親はノイズに襲われていた時以上に怯えていた。恐怖に顔を引きつらせ、赤子を異形に触られないように抱えながら、へたり込んだままじりじりと後ろへ後退る。

違う、自分は―――。

咄嗟に手を伸ばしそうになるが、今の自分の姿と、先程ノイズ達を吹き飛ばしたところを見られている事を思い出す。

 

……彼女から見れば、自分は理不尽の塊であるノイズと変わらないバケモノ(理不尽)なのだろう……でも、

 

ズキリと胸を刺すような痛みが広がっていくのを自覚しつつ、異形(國次)はこれ以上母親をパニックに陥らせないように、伸ばしそうになった手を下す。

代わりに、その場でしゃがみ込み目線の高さを母親に合わせて、怯えさせないよう努めてゆっくりと穏やかな声で告げた。

 

『―――あの、一番近いシェルターがここから西に100m先の商店街付近にあります。あそこのシェルターなら、赤ちゃん連れ向けの専用スペースもあるので』

「……ぇ」

『一応此処でこのまま特機部を待つのが良いんでしょうけど、赤ちゃんの安全のためにも今はシェルターへ行くことを、お勧めします』

 

それじゃ、と告げて立ち上がり、異形は背を向けて去ろうとするが、「ま、待って」と声をかけられた。

振り返ると、フラフラながらも立ち上がった母親が赤子を抱きしめたまま、困惑の表情を浮かべていた。

 

『……え、っと。なんでしょう』

「あなたは、いったい……何者なの」

 

何者なのか。そう問われ僅かに逡巡するも、答えた。

 

『―――イルミネイザー。世間では、そう呼ばれてます』

 




初登場の妹ちゃん、国津奏音(15)について少々補足
身長は120cm程度、ツルペタです。

そろそろ主人公含めキャラ紹介とか出すべきかなぁ
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