もう一つのネフィリムーエルバハー   作:赤い変態

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ちょっと早めにできたので、そのまま投稿します
なお翼さんのところ辺りで、「こんなのちがう」と思われたら、すみません(汗)

…しかし、前回の投稿でバーが真っ赤に&お気に入り数の上がり方が……ありがたいし嬉けど、ちょっと怖い(汗)


同行し、同行され

 

ノイズの掃討も無事終わり、戦場となっていたコンビナート周辺は特機部によりバリケードで塞がれ、完全封鎖されていた。

外部には機関銃を装備した隊員が、空を見上げれば数機のヘリコプターが飛び回り周囲の警戒を続ける中、バリケードの内側では特機部所属の隊員達によって事後処理が始まっていた。

倒され、炭化し散ったノイズの残骸に、ノイズによって炭素分解され同じく塵と化した嘗て『人だった』ものを含めての回収。生存者や負傷者の対応に追われる隊員達の姿を横目にしながら、響は、目の前で体育座りをして俯いている異形を慰めていた。

 

『…………もうお婿に行けない』

「え、っと……ご、ご愁傷さまです……」

 

妹によって正体がバラされるどころか、その場にいた響と幼女、そして翼に(翼と通信回線を開いたままだった二課にも)性癖を大公開された異形(國次)

なお事の元凶である奏音は、黒服を着た特機部の者に「機密事項ですので」と情報規制及び口止めとしての誓約書にサインをするため、席を外している。

幼女の方はというと、少し離れた場所で特機部の隊員から暖かい飲み物と毛布を提供され、一息ついていた。

ただ、時折、「キンパツキョニューって、なぁに?」と子供特有の知的好奇心から来る疑問を、男性隊員達にぶつけている。幸いな事に、隊員達は上手いこと「美人で素敵な大人の女性の事だよ?」と誤魔化してくれてはいるが、大丈夫だろうか。

 

……もしあの子が、さっき聞いた事を周囲の人間に喋っちゃったら、イルミネイザーさん(奏音ちゃんのお兄さん)、社会的に死ぬよね……。

 

一応窮地を救ってくれた一人で、友人の兄でもある人だ。心配や同情もする。

……まあ性癖はともかく、流石にスケベ本やDVDのタイトルと思わしきモノに対しては、ちょっと引いてしまったが。

 

……それはそれとして、これ、どうやったら元に戻るんだろう……?

 

身に着けているバトルスーツの解除方法がわからず、どうしたものかと考えあぐねていると、紺色の制服を着た女性(友里)が湯気の立つ紙コップを手に、響と異形の傍に歩み寄ってきた。

 

「あったかいもの、どうぞ」

「あ、あったかいもの、どうも……」

 

受け取り、少し冷ましてから一口飲む。

碌に休憩もせずに走り回ったり、珍妙な姿になって動き回っていた故に疲労気味だった身体に、その温かさが染み渡る。

やっと一息付けたと思い肩の力を抜くと、纏っていたスーツから発生した淡い光が全身を包み、一瞬で元のリディアンの制服姿に戻っていた。

 

「わ、ととっ……!?」

 

いきなりの事に気が動転し、バランスを崩した響はたたらを踏み、倒れそうになったところを後ろから支えられ事なきを得る。

振り向くと、どうにか立ち直ったのか、背中に黒く硬い手を当て、異形が支えてくれていた。

 

『……あー、大丈夫かい?』

 

戦いで見せた圧倒的な力や、人間離れしたその異形の姿からは想像も出来ない程に優しげな声で、此方を気遣う様に語り掛けてくる黒きヒトガタの怪物。

 

……失礼だけど、間近で見ると、どうにも……。

 

先程の一件で友人の兄である事と、諸々暴露されたことで落ち込んでいる姿から中身は普通の人なのだと判ってはいるものの、初見ではバケモノと口に出しかねない程に恐ろしい―――というのは流石に過ぎた表現かもしれないが、少々気味の悪い姿をしている彼に、礼を告げる。

 

「あ、ありがとうございます……」

『まあとりあえず今は、ゆっくり飲んで、落ち着―――――ん?』

 

不意に異形が言葉を切り、視線を響の後方に向ける。

響も振り返ると、其処には先程のバトルスーツのような姿ではなく、リディアンの制服を着た翼が、睨むように立っていた。

 

 

◆■◆■

 

 

翼の瞳に宿る不信感や敵意にも似たそれが、響に向けられていることに気付いた國次は、翼の視線を遮るように前に出て、響を背に隠す。

 

……いや、敵意というより今はまだ苛立ち、かな? あまりよろしくない眼付きには変わりないけど。

 

何処か不満げで、まるで認めたくないような表情を浮かべながら、苛立ちを込めた視線を向けてくることに、何故なのかと思案する。

普段翼が身に着けているバトルスーツと、妹の友人と思わしきこの少女が先程まで纏っていたモノが似通っていた事から関係者かと思ったが、違うのだろうか。

それか、全く関係が無い他人で、それであのスーツを身につけていたことが原因なのか。

 

詳しい事は当人たちに訊くしかないのだろうが、あの様子では質問すら受け付けないであろうことは明白だ。

ならば今は、この場をどうにかするのが先決だろう。

 

『さて、さっきから気になってはいたんだけど……やけに怖い眼して、どうしたの?』

「別に、なんでもありません」

 

異形の言葉をバッサリ切り捨てた翼は、視線を外し、それでも体は響の方へと向けたまま事務的な言動で言葉を続ける。

 

「貴方達を、このまま帰すわけにはいきません」

「へ?」

「特異災害対策機動部『二課』まで、同行をしていただきます」

『……二課?』

 

感情を伺わせない声音で発せられた翼の言葉と共に、サングラスを掛けた黒服達十数人がズラリと、響と異形の周囲を囲う。

何のことか訳が分からない、と言いたげな表情の響の前に、周囲の黒服達と同じ服装で、だがサングラスが無いおかげで顔が見える優男風の青年が立ち、「すみません、貴方の身柄を拘束させてもらいます」と言いながら、もはや鉄塊と言った方がいいような手錠を彼女の腕にかけてしまう。

 

「え、あ、あのぅ……?」

「申し訳ありませんが、規則ですので」

 

そのあまりの手際の良さと素早さに、異形は思わず『おぉー』と声を上げてしまうが、その優男の顔が見覚えのあるものと気付き、声を掛けた。

 

『おや、あの時の方ですか』

「あぁ、イルミネイザーさん。先程ぶりですね。今回はご協力していただき、ありがとうございます」

『いえ、其方のおかげで僕もノイズのいる地点まで素早く行動出来ましたし、礼を言うなら此方の方です』

 

いえいえ。

謙遜せずとも。

まあまあそう言わず。

そうは言っても。

 

「あのぉ、お二人とも……何か忘れていませんでしょうか?」

「―――コホッ」

 

そんなやり取りを繰り返していると、気まずそうな響の声と共にワザとらしく翼が咳を一つ。そして「さっさと進めてください」と言いたげな視線を受け、男二人は共に苦笑いをしながら向き直る。

 

「話が脱線しましたね。それで、イルミネイザーさん。出来ればこのまま一緒に同行していただきたいのですが」

『あー、まあそうなりますよねぇ……「達」って言っていましたし。了解、付いて行こうじゃありませんか』

「っ、……意外ね。何時ものように断るものだと思ったのだけれど?」

 

思いの外あっさりと、異形が承諾したことが予想外だったのか、翼は思わず視線を彼に向けた。この二年間、何度も要請しては拒否され続け、逃げられてしまう等といった事が当たり前だったのに、こうもあっさりと同意されては、今までの苦労は何だったのかと頭が痛くなる翼だった。

一方、異形はというと肩を竦め、『仕方ないでしょ、今回は流石に』と言いながら続ける。

 

『どうせさっきの暴露と妹経由で正体がバレるのも時間の問題だろうし、それで自宅にまで押し掛けられちゃ堪ったもんじゃないからね。ちなみに、実はもう特定されてたりしてます?』

 

言って、優男―――緒川に訊くが「えぇ、もちろん」と頷かれる。

 

「先程妹さんの、国津奏音さんから少々伺ってきました。国津國次さん、確かベーカリー『秋都』の店員だと」

『……うちの妹正直過ぎだなぁ……そこが良いんだけど』

 

さらっとシスコン発言をかます異形に苦笑しながら、「それじゃ、失礼します」と言いつつ先程響に掛けた物より一回り大きめの手錠を用意する緒川やそれを見つめる翼に、異形が待ったを掛けた。

 

『その前に一つ、いいかな』

「……何でしょう」

 

いい加減にして欲しそうな、翼の苛立ちが含まれた声に、苦笑しつつ応える。

 

『ちょっと確認しておきたくてね』

 

言葉を切って、少し離れた場所で口止めとして特機部の職員から説明を受けているであろう奏音を一瞥してから、翼や緒川、そして周囲を囲む黒服達全員に向けて言う様に、訊ねた。

 

『うちの妹を、奏音を巻き込むようなことは、しないと言えますか?』

 

 

◆■◆■

 

 

ただ一人の兄として、妹の身を案じる言葉に、その場にいたものは皆、一瞬呆ける。

人間離れした異形の姿からは考えられない程の穏やかな、しかし拒否させないような力強さを持った声に、翼はとっさに答える事は出来なかった。

 

――――すぐに応える事自体は、出来た筈だ……。

 

それが出来なかったのは、己が身よりも誰かを案ずるその精神に対して、嫉妬と、彼に対し今まで不信感を持って接してきた自分が、馬鹿らしく思えて。

そして異形の後ろにいる、今はもういない相棒が嘗て身に纏っていたノイズを打ち倒すための力(シンフォギア)を何故か持っている少女に対する苛立ちと、憤りを抱いている事が、醜いと突き付けられているようで。

 

そんな自分自身に苛立ち、翼は歯を食い縛る。

この異形が、そういうヒトなのかという事は、この二年でとっくに判っていた事だ。

自身の内側で渦巻く感情が、掻き乱されるのを感じながらも翼は、平静を装いつつどうにか言葉を絞り出した。

 

「―――元より、一般人である彼女を巻き込むつもりはありません」

『……うん、ありがとう』

 

頭を下げ、そう呟く異形を見て余計に自分が惨めに思え、翼は顔を逸らした。

だが直後、異形の方から光が発せられたのに気付き、視線だけ向けると、其処には緒川と同年代と思わしき、柔和な顔付きの青年が立っていた。

周囲から動揺の声が、そして「あ、結構普通の顔なんだ」と既に拘束された少女が何か失礼な事を言っているのを聞き流しながら、翼は問うた。

 

「それが、貴方の……?」

「うん、僕本来の姿……なんだけ、ど……ぅぐっ」

「な、」

 

にへら、と笑い正体を晒した異形の青年は、急に苦悶の表情を浮かべ前のめりに倒れていく。慌てて彼の後ろにいた少女が受け止めようとするが、それよりも早く、手錠を掛けようと彼の傍で待機していた緒川が咄嗟に受け止めた。

それを見て、一瞬焦った翼もほっと息をつく。

 

「わわ……!? 奏音ちゃんのお兄さん!?」

「大丈夫ですか、国津さん!」

「だ、だいじょうぶ……これ、いつもの事なんで……がっ、五分くらい休めば―――げほっ。……ちょっと、待ってね……ぬぁっ」

 

大きく肩で息をし苦痛の声をあげながらも、安心させようとするその姿に、ついさっきまであれこれ考え、苛立ったり自身が醜いと思ったりした自分が余計馬鹿らしくなった翼は、もはや呆れてしまい、このままじゃ全然進まないなと黒服の一人に、担架を持ってくるように伝えた。

 

 

◆■◆■

 

 

既に時間帯は夜の九時半となる頃。

手錠を掛けられたままの響を特機部所有の黒塗りの車で、そして変身解除の反動で暫く動けなくなった國次を救急車で運んで数十分。

辿り着いたのは、片方にとっては自身が通う学び舎であり、もう片方にとっては最愛の妹が通う場所でもある、私立リディアン音楽院であった。

 

その中央棟の前で停車すると、促されるように降り立った響は「なんで学院?」と疑問を口にする。そこへ、救急車から降ろされ、担架ではなく車椅子で運ばれてくる國次が近づいて来るのに気付き、声を掛ける。

 

「あ、奏音ちゃんのお兄さん! もう大丈夫なんですか?」

「平気だよ、と言いたいんだけどまだちょっと足がふらついてね。この通りちょっとご厚意に甘えさせてもらってるよ」

 

まあ流石に手錠はつけさせられたけどね、と言いながら響とお揃いの手錠(鉄塊)を見せる。その様子を、車椅子を押す緒川は申し訳なさそうに苦笑を浮かべる。

 

「すみません。一応車内で国津さんから、変身解除後の不調に関することは伺いましたが、流石に着けて貰わないと示しがつかないものですから」

「まあお役所勤めならその辺はしっかりしておかないと後が怖いですもんね、仕方ないですよ」

「大人の世界も大変なんですねぇ……」

 

そんな風に会話をしつつ、國次と響は導かれるまま中央棟の廊下を進んでいく。

誰もいない校舎の廊下を進み続けて数分、今度はエレベーターに乗せられる。響からすれば何の変哲もない、学院内各所に設けられているものだ。

「学校の中にエレベーターって、ずいぶんとまた豪華な……」と言いながら緒川に押される形で乗り込む國次の言葉に、まあ確かに普通の学校に比べたらブルジョワだよねぇと、思わざるを得ない。

 

翼と響、そして國次が乗り込み終えたのを確認すると、緒川が端末のようなものを取り出し、隅に設置されてあるパネルに近づける。

小さな電子音が鳴ったかと思えば、直後にエレベーターの入り口を本来のドアよりも更に頑丈そうなドアで封鎖され、エレベーター内の両側から折り畳み式の手摺りが展開される。

その手摺りの一つを翼は無言で握り、響はというと緒川に促され、反対側の手摺りに掴まるよう指示されていた。

 

……ちょっと待って、これ嫌な予感するんだけど。

 

ジワリと脂汗が頬を伝い、滴り落ちる。

足の悪い人向けに、エレベーター内で手摺りを配置することはそんなに珍しい事じゃないが、態々こんな、ロック解除するような感じでせり上がるようなものを何故仕込む?

 

まさか。

まさかとは思うが、絶叫系?

 

そんな嫌な予感がする中、緒川が近づき車椅子を手摺りの方へと進ませる。

 

「あの、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう」

 

手錠を掛けられたままの腕をしっかり手摺りに掴まされ、そして車椅子に元々備え付けてあったのか、車に乗せる時等に使う固定用バンドを着々と装着していく緒川に、國次は「否定して欲しい」と思いながらも訊ねた。

 

「まさかこれエレベーターで急降下だとか」

「あ、絶叫系はもしかして苦手でしたか」

「え、待っ」

 

だとしたらすみません、と緒川が告げた瞬間。

 

身体が急激に上方向へと引っ張られるのを感じながら、もはや出しちゃいけない速度で落下し始めたエレベーター内部で、國次と響の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

しばらくして、落下の速度にも慣れ始めたところで國次は鼻水を啜りながら、「これどんだけ落ちるんですか」と緒川に質問するが、「すみません、機密ですので」とやんわり断られる。いやまあ、部外者故に答えるわけにもいかないのはわかるんだけども、と頬をポリポリ掻き、視線を響の方へと向ける。

 

彼女も慣れたのか、何とか捻り出した苦笑気味とはいえ愛想のよい顔を浮かべる事で、先程乙女として上げちゃいけないレベルの奇声を上げていた事実を忘れて貰おうとするが、 

 

「愛想は無用よ」

 

丁度顔を向けた先の翼に、一刀両断されてしまった。

慈悲も無いとはこの事か、とその様子を眺めていると、今まで暗かったエレベーターの外の様子が変わる。

目に入ったのは、様々な色彩で描かれた、壁画のような模様が広がる巨大な空間。

趣味で博物館等によく足を運んでいた國次からすれば、その壁面に描かれたそれは古代文字やその手の模様に見えない事も無く、「ほぉ」と感嘆する。

同様に、響もまた興味深く外の光景を見て息を吐いていた。

 

だがそんな二人に対し、翼は先程の言葉に続けるように口を開いた。

 

「―――これから向かう所に、微笑みなど必要ないのだから」

「……微笑みあってこそ、誰かの笑顔を守れるもんだと思うけどね、僕は」

 

自身にも言い聞かせるように聞こえた、その言葉に國次は、思わず反論する様な形で返してしまう。

一瞬、棘のある視線が向けられたのを感じるも、特に何か言い返される事も無くそれは消え、あとはエレベーターが止まるまで沈黙が続くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――しかし、そんな重々しい空気は、エレベーターのドアが開かれると同時に、呆気も無く粉々になって吹き飛ばされた。

 

「ようこそ! 人類最後の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

 

赤いシャツにシルクハットを頭に乗せた、ガタイのいい男性が満面の笑みで出迎え。

その脇には目が描かれてないダルマが置かれ、男の背後では十人そこらの制服姿の男女がクラッカーを鳴らし、または拍手をしつつ笑顔を浮かべ。

 

後ろの壁には「ようこそ二課へ」というパネルが。

視線を上げれば、折り紙で作った輪を繋げて作った飾りと共に、「熱烈歓迎!立花響さん!&イルミネイザー!」と仰々しく書かれたパネルが。

 

他にもお菓子やご馳走の類を並べたテーブルがいくつも用意されており……。

國次は翼の方に首を振り向かせ、思った事をそのまま、無情に告げた。

 

「微笑みどころか、満面の笑みだけど、何か言うことは」

「……」

 

何も言うなと言いたげに頭を抱え、溜息を吐くだけだった。

 

 




次も早めに、と行きたいですが基本不定期更新になりやすいので、申し訳ありませんが気長に待っていただけると幸いです(汗)
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