学戦都市アスタリスク 本物を求めて   作:ライライ3

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 約二年ぶりの投稿です。


第三十四話 少女へのお見舞い

『范選手! 素早い動きと星仙術でオニール選手を翻弄! オロロムントの攻撃がまったく当たりません!』

『これは完全に手玉に取ってるッスね。オニール選手の純星煌式武装 蛇剣オロロムントは変幻自在の攻撃が売りッスが、しかしこれを見事に回避してるッス』

『おおっと! 范選手! ここで前に出たぁ! オニール選手へと向かいます。しかしその背後からオロロムントの攻撃が襲う! 范選手避けれない! ああっ!? 范選手の姿が消えたぁ!』

『界龍特有の星仙術ッスね。オロロムントの攻撃は確かに強力ッス。しかし当たらなければそれはまったく意味がないッス。范選手はそれは見事に実行しているッス』

『! 今度は范選手。オニール選手から離れた位置から姿を現しました。すかさずオロロムントが襲い掛かる!』

『いや、これは──―』

『オロロムントの攻撃が范選手に直撃! しかしこれも幻影っ! ああっ!? 范選手がオニール選手のすぐ傍に現れたぁ!! そして范選手の刀が校章を一閃! 試合終了です!』

『最後に離れた場所に現れた分身は囮ッスね。そしてオロロムントが離れた隙に止めを刺したッス。いやぁ、お見事ッス』

 

 流れている映像を止める。これは二日前に行われた王竜星武祭 四回戦。范八幡 対 ファードルハ・オニールの試合の映像だ。既に何ども見ている映像だが、繰り返し見続けている。

 

 映像を見ていた少女──―比企谷小町は余韻に浸りながらポツリと呟いた。

 

「──―やっぱり強いなぁ、お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みの時間になった。川崎沙希は教室から出て廊下を歩く。すると、周りの生徒から話し声が聞こえてくる。聞こえてくる話は主に二種類だ。

 

「なぁ知ってるか? 王竜星武祭に出ている雪ノ下陽乃って雪ノ下さんの姉だってよ」

「マジで!? 知らなかったわ」

「総武中学に居たこともあるんだってよ。凄いよなぁ、俺ファンになっちゃったよ」

「……俺もアスタリスク受験してみよっかなぁ」

「じゃあ、一緒に受けてみるか?」

「おう! やってみようぜ」

 

 一つ目は雪ノ下陽乃に関する話題である。有名人である雪ノ下雪乃の姉という事もあるが、何より総武中学に在籍していたことが大きな理由だ。それ故、聞こえてくる話題の殆どがこれだ。

 

 そしてもう一つが──―

 

「なぁ……あれってやっぱりアイツなのか?」

「そんなわけないよ。あんな奴があんな……」

「……だよな」

「絶対違うって……あるわけないよ」

 

 ぱっと聞いただけでは誰のことを言ってるか分からない、要領をえない会話。しかも人目を憚るようにひっそりと話されている。

 

 だが沙希にはそれが誰のことを指しているか直に分かった。信じられないという思いは少しだけ共感できるから。そんな事を思いながら沙希は屋上へと向かった。

 

 そして屋上へと到着し扉を開けると、待っていたかのように後輩の少女が声を掛けてくる。

 

「あ、沙希せんぱ~い! こんにちは~」

「……あんたは変わらないね、一色」

「? どうかしたんですか?」

「いいや、別に」

 

 普段と様子の変わらない一色いろは。そんな彼女に安堵しながら隣に座る。そして弁当箱を取り出す。

 

「いただきます」

「いっただきま~す」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういえば沙希先輩。王竜星武祭って見てます?」

「……どうしたのさ、いきなり? まあ見てるよ、一応。それがどうかした?」

「いやぁ、クラスの子たちが話してるのを耳にしたんですけど。雪ノ下先輩のお姉さんが出てるらしいじゃないですか」

「ああ、そういえばそうだったね」

 

 言われて思い出す。沙希としては八幡のことで頭が一杯だったので、あまり気にしていなかったが。

 

「……あの人なら出てもおかしくないだろうね」

「会ったことあるんですか?」

「去年の夏に一回だけね」

「へ~~わたしも会ってみたかったなぁ」

「…………そう」

 

 昨年の夏に教師の手伝いにと駆られた千葉村キャンプ。そこに付いてきたのが雪ノ下陽乃だった。自身とはあまり関りはなかったが、一目見ただけで只者ではないと分かった。

 

 そして少しだけ──―恐怖を感じた。

 

「しかし自分から振っておいてなんですけど、沙希先輩が王竜星武祭を見てるのは正直意外です」

「まあ、わたしはね。試合に興味があるわけじゃないから」

「? じゃあ、何を見てるんです?」

「それは──―」

 

 問われて沙希は躊躇う。彼のことをどう説明したらいいのかと。少しだけ悩むがそのまま伝えることにした。

 

「……雪ノ下の姉の他にさ。総武中出身の生徒が一人、王竜星武祭に出てるかもしれないんだ」

「あ、そうなんですか。うん? かも、ですか?」

「そう……その辺がちょっと複雑でさ」

 

 曖昧な伝え方に疑問を抱くいろは。一呼吸置き、沙希はいろはに尋ねる。

 

「……ねえ一色。あんた比企谷八幡って知ってる?」

「ええと……知らないですね。誰ですか、その人?」

「そっか、知らないか……」

 

 いろはが知らないと答えたことに沙希は珍しいなと思った。もう一年も前の話になるが、当時の八幡は学年を超えて悪い意味で有名だったのだ。それこそ全学年に存在が周知されるほどに。

 

 沙希が内心考えこんでいる中、いろはは空間ウインドウを開く。そして星武祭の公式ページにアクセスし、本戦のトーナメント表を展開した。

 

「ええと……沙希先輩。いないですよ、その比企谷八幡って人?」

「ああ、こいつだよ」

 

 トーナメント表を見たいろはが沙希に尋ねる。問われた沙希はウインドウの一点を指さし、その選手のデータを開いた。

 

「范八幡? あ、名字が違うんですね。だからですか?」

「それだけじゃないんだけどね……」

 

 確かに名字が違うというのも、断定できない要素の一つだ。だがそれだけならこんなにも迷うことはない。

 

「……何というか独特な目をした人ですね」

「本人は腐った目って言ってたね。これでも随分マシになった方だよ……前はもっと酷かったからさ」

 

 沙希は最後に八幡に会った時のことを思い出す。普段以上に疲れた姿。そしてその瞳は濁りきっていった。何でもないと本人は言っていたが──―限界はとうに訪れていたのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、ふと視線を感じることに気付いた。隣を見れば一色いろはが沙希をじっと見つめていた。

 

「……なにさ?」

「いえ、随分と物思いに耽っているな~と思いまして。親しかったんですか、この人と?」

「そんなんじゃない……ただのクラスメイトだよ」

 

 そう。八幡とどんな関係だと問われれば、クラスメイトと答えるのが一番正確だ。しかし沙希にとって八幡は恩人でもあるのだ。

 

 だから心配してもおかしくはない。と、沙希は自らの心に自己弁護をした。

 

「クラスメイトってことは先輩ですか……しかし凄いですね、この人。王竜星武祭ベスト16ですか。詳しくないわたしでもそれが凄いってことは分かりますよ」

「そうだよね……凄いことなんだよね」

 

 二人の前に展開されたウインドウでは范八幡の戦闘シーンが映し出されていた。変幻自在に飛来するオロロムントを躱す八幡。相手の攻撃を見切るように紙一重で躱したり、もしくは攻撃が直撃したかと思えば、本人ではなく幻影であったりもした。

 

 そのアクションが起こる度に観客は盛り上がり歓声が上がる。目の前の映像を見ていると、ついこの間までこの戦っている彼がクラスメイトだったとは思えない。まるで別の世界の住人のようにも感じてしまう。

 

 そんなことを考えていると隣の後輩が静かなことに気付いた。視線をそちらに向ける。すると同時にいろはが声を上げる。

 

「ねえ、沙希先輩」

「……何?」

「わたしこの人。比企谷先輩? 范先輩? いや、先輩でいいですね。この先輩に」

 

 一色いろはの様子がおかしい。口調が違う。声の質が違う。こんなに熱が籠った一色いろはを見るのは初めてだった。

 

「──―ちょっと興味が沸いてきました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 人通りの多い街中を八幡は一人歩いていく。王竜星武祭に出場して以降、周囲からの視線をよく感じる。しかも勝ち上がるごとに、その視線はどんどん増えていっている。

 

 これが有名税かと思いながら歩いていくと、目的地へと到達した。治療院所属の病院である。入口から建物の中へと入り、受付へ歩を進める。

 

「すみません。知人のお見舞いに来たのですが」

「! はい、どなたのお見舞いでしょうか?」

 

 受付の女性はこちらを見て一瞬驚くも、すぐに平静を取り戻す。そしてこちらに尋ね返してきた。それに対し八幡は答える。

 

「──―グリューエル・ノワール・フォン・リースフェルトです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 階段を上がり目的の階へと辿り着く。そして少し歩くと、受付から教えてもらった部屋へと辿り着いた。扉に対してノックを三回する。

 

「──―はい、どうぞ」

「……失礼する」

 

 相手からの返事を待って部屋へと入る。部屋の中には二人の少女がいた。

 

「…………八幡さま?」

「……どうしたんです?」

 

 病院服を着てベッドに入り、上半身だけ起こしているグリューエル。そしてベッドの横で椅子に座っているのが、その妹のグリュンヒルデだ。二人は驚いた表情でこちらを見ている。

 

「お見舞いに来た。あ、ヒルデ。これを」

 

 言いながらお見舞いの品をヒルデに渡す。籠に入ったフルール盛り合わせだ。

 

「ありがとうございます、わざわざ」

「ありがとう」

「気にするな。ところで、具合はどうだ?」

 

 二人からお礼の言葉を受け取り、グリューエルの容体を確認する。

 

「そこまで重傷ではないです。折れてはいないので……ただ全治一週間だそうです」

「……そうか」

「はい。ですので、次の試合には出れませんね。残念ながら」

 

 名残惜しそうに自身の足に視線を向け、グリューエルが告げる。次いで彼女は八幡の方へと顔を向ける。

 

「ベスト8おめでとうございます、八幡さま」

「……ありがとう」

 

 グリューエルは次戦の対戦予定であった八幡に祝福の言葉を述べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし無茶をする。下手をすればもっと重傷でもおかしくなかったぞ」

「咄嗟の判断でつい……どうしても勝ちたかったのです」

 

 八幡の忠告にグリューエルは反論した。それは先のグリューエルの試合内容についてだ。

 

 グリューエルの対戦相手はアルルカントの序列15位だった。鳳凰星武祭で優勝したペアと同系統の新型煌式武装を使用した相手に、グリューエルは終始押されて苦戦を強いられた。

 

 アルルカントの新型煌式武装は遠近攻防ともに隙が無く、グリューエルに勝ち目はないと思われたのだが──―

 

「相手の煌式武装を掻い潜る。それにはアレしかありませんでした」

「星辰力を脚部に集中させての高速移動。うちの十八番だが、まさかグリューエルが覚えていたとはな」

「完全に習得は出来ていませんけどね。その結果がこれですから」

 

 試合終盤、追い込まれたグリューエルは最後の賭けに出た。全星辰力を脚部に集中し加速。その超加速にアルルカントの選手は反応できず校章を破壊された。

 

 しかし勝利の代償は大きく──―ドクターストップによりグリューエルは次の試合を辞退することになった。

 

「……綺凛さまのようにはいきませんね」

「彼女は天才だからな。比べちゃだめな部類だぞ……というか、綺凛のことを知っているのか?」

「直接の面識はありません。万有天羅から少しお話を伺ったくらいです。ただ──―」

「ただ?」

 

 グリューエルはにっこりと笑う。

 

「同じファンクラブの同志ですからね。親近感は沸いています」

「………………は?」

 

 聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。

 

「ちなみに刀藤綺凛さまは五番目の会員です。同時に鶴見留美さまも六番目の会員と「ちょっと待て」

「はい? なんでしょうか?」

「……今言ったファンクラブってのは誰のだ?」

 

 八幡はグリューエルに恐る恐る尋ねる。それに答えたのはグリュンヒルデだった。

 

「何を言ってるんですか? 范八幡ファンクラブに決まってるじゃないですか」

「…………そう、か。そう、なのか」

 

 グリュンヒルデに何とか相槌を返す。ファンクラブのことなど忘却の彼方になっていた。しかもグリュンヒルデは更に恐ろしい事実を口にする。

 

「喜んでください、八幡さん。今朝の時点で会員数は一万人を突破しました」

「あら、また増えたわね」

「ええ、姉さま。やはり王竜星武祭の効果は凄いですね。どんどん会員が増えています」

 

 誇らしげに語るグリュンヒルデに、感心するグリューエル。そんな二人の言葉は八幡にとって信じられないものだ。

 

「……ええ、と。マジでか? そんなにいるの? 俺のファンって……嘘だろ?」

「嘘じゃないですよ。むしろ少ないくらいです」

「そうですね。もっと多くてもおかしくはないですよ」

 

 二人の自分への評価が高すぎると八幡は戦慄する。

 

「……お前たちからの評価が高すぎて怖いよ、俺は」

 

 八幡はそう突っ込むことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リンゴを8等分のくし切りにし、芯を切り落とす。そして皮の部分に、V字に浅く切りこみを入れる。最後に切りこみを入れた側から、V字を過ぎたあたりまで皮をむいて完成。出来たリンゴを皿に載せる。同じ作業を順次繰り返していく。

 

 日本ではお馴染みのウサギリンゴである。日本で暮らしていれば一度は見たことはあるだろうが、欧州育ちの二人には珍しいものだったのだろう。興味深くこちらを見ている。

 

「……なるほど。ウサギを模した切り方ですか。実に興味深いです」

「可愛いですね。これは小さい子が喜びそうです」

 

 二人は楽しそうにウサギリンゴを見る。何でも欧州ではこう言った切り方はしないそうだ。視覚で楽しませるのは日本らしいとのこと。

 

「……よし、出来た。二人とも食べるか?」

 

 切り終わったリンゴを皿に載せて二人に見せる。プラスチックの楊枝は用意してあるので、手を汚す心配はない。

 

「はい。では遠慮なく「待ってください」

 

 グリューエルが手を伸ばしたところをグリュンヒルデが止めた。

 

「どうした、ヒルデ?」

「八幡さん……姉さまは実は手も負傷してるんです」

「ヒルデ? あなた何を言って「ですから八幡さんが姉さまに食べさせてあげて下さい」……え?」

 

 妹の発言にグリューエルは固まった。そんなグリューエルを八幡は視線を寄せる。

 

「……見た感じ怪我はしてないように見えるが?」

「姉さまは我慢をしてますが、手を使えないのは事実です。では姉さん、どうぞ」

 

 さあ、と姉は妹に促された。グリューエルは少し悩み、そして頬を染めながら言った。

 

「ええと、じゃあ……お願いします」

 

 グリューエルは八幡の方に顔を向けて、ちょっと上目遣いになる。そして目を瞑りながら大きく口を開けた。

 

「……まあ別に構わんが」

 

 八幡は軽く答え、楊枝で刺したリンゴをグリューエルの口へと運ぶ。そして運ばれたリンゴをサクッとかみ切った。

 

「えへへ、美味しいです」

 

 笑顔と共に放たれた言葉はとても可愛らしかった。そんな姉の反応に満足したグリュンヒルデ。彼女は姉の隣にそっと座り──―そして口を開けた。

 

「……お前もか、ヒルデ」

「はい、お願いします」

 

 姉と同じ体勢を取る妹。姉妹が隣に並びこちらを見上げてくる。よく似てるなと思いながら、妹の方にもリンゴを口に運んだ。

 

「うん。美味しいです」

「八幡さま。次はわたしです」

「はいはいっと」

 

 妹に次いで要求する姉。まるで二匹の小鳥に餌を運んでいくような感覚を感じながら、八幡はリンゴを運んでいく。

 

 ──―と、その時だった。コンコンコンと入口の扉からノックの音が聞こえた。

 

「はい、どうぞ」

「失礼する」

 

 一人の少女の声が聞こえると、グリューエルが入室を許可した。そして扉が開かれる──―と同時に入室した少女は驚愕した。

 

「あむ。うん、美味しいです」

「あ、ユリス姉さま。来られたのですね」

「え、姉さま? マジで?」

 

 姉妹と親し気に話す男の存在にだ。少女は知っている。妹達の他者に対する警戒の強さを。特に姉のグリューエルは、異性の男に対しての警戒心が殊更に強い。

 

 だが、目の前のこの光景はなんだ? 異性である男に手自らリンゴ差し出され、それを嬉しそうに食しているグリューエルの姿は。警戒心など何処かに忘れてきたのか、と言わんばかりの彼女の態度に少女は目を見張った。

 

 グリューエルの表情が何を意味しているのかは──―その方面に疎い少女でもすぐに分かった。

 少女は軽く溜息を付き──―そして口を開く。

 

「さて、状況を説明してもらおうか。范八幡?」

 

 鮮やかな薔薇色の髪を持つ少女。ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトは、八幡を睨み付けてそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……疲れた」

 

 帰り道の歩道を歩きながら八幡は呟く。疲れた理由は言うまでもない。お見舞いの場に突如現れた双子の姉、ユリスの登場が原因だ。あの後、八幡はユリスに二人との関係を徹底的に問い詰められた。

 

 八幡は困った。二人がユリスにあの夜の出来事を話していないのは一目瞭然。さてどうするかと悩んでいると──―二人が八幡に変わってユリスに説明してくれることになった。

 

 これ幸いと交代したのだが──―二人の説明が大問題だった。

 

 ──―な、なに!? 初対面でいきなり後ろから抱きしめられただと! それは本当かグリューエル!! 

 ──―ヒルデ。お前はグリューエルの様なことはないと私は信じて……な、なんだ!? そんなに頬を赤らめて…………そうか。お前もか。

 ──―ふふふふ、范八幡。貴様、私の妹二人に手を出すとはいい度胸だ! 決闘だ! その性根、叩きなおしてくれる!! 

 

 決闘宣言までしたユリスから星辰力が溢れだし、一触即発の状態になった。直後にグリューエルがユリスを説得し、決闘は回避された。

 

 その後詳しい説明がなされたが──―誤解は完全に解かれなかった。

 

 ──―そうか。しつこいナンパの類いが原因で、それを追い払うために一芝居打ったと……分かった。一先ずそれで納得しておくとしよう。

 

 一拍置いてユリスは続ける。

 

 ──―范八幡。この二人が信用してるなら、貴様は悪い人物ではないのだろう──―だが、二人との仲を認めるかは話が別だ! 

 

 八幡が病室から帰る前、ユリスからは忠告、否、警告をされた。妹に近付く怪しい男が現れたのだ。彼女の警戒は当然のことだろう。

 

 だがそれはそれとして──―

 

「…………本当に疲れた」

「いったいどうしたんだ?」

「いや、気持ちは分かるんだ。俺だって安易に妹に近付く輩は許さんからな。彼女の反応は理解できる」

「ほうほう。では問題ないではないか」

「いや、そうなんだけどな。だからと言って疲れたのは事実で──―」

 

 知らぬ間に誰かと喋っていた。急いで横を見ると──―

 

「や。久しぶりだな、范」

「……沙々宮か」

 

 青い髪の少女。沙々宮紗夜が、買い物袋を片手にこちらを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 沙々宮紗夜。彼女と会うのはこれで二度目である。初めて会った時は、マッ缶を掛けて決闘寸前までいき、その後チンピラ相手に共闘して戦うなどの出来事があった。

 

 そんな変わった出会いをした二人は今、公園のベンチで休憩をしている。

 

「ふぁぁぁぁ」

「眠そうだな、沙々宮」

「うん。ここ最近は煌式武装の開発で徹夜が続いて……実はあんまり寝てない」

「そうか……」

 

 とても眠そうにしていた。目を擦りながら欠伸をするその様は、気を抜けば直ぐにでも眠ってしまいそうだ。

 

「ところで、久しぶりに出かけたのだが、いつもより人が多い。何かイベントでもあったか?」

「……王竜星武祭の影響じゃないか、多分」

「そうか、もう王竜星武祭だったのか……すっかり忘れていた」

 

 どうやら彼女は八幡の活躍を知らないようだ。煌式武装の開発が忙しいのも原因だろうが、そもそも王竜星武祭自体に興味がないように見える。

 

 しかし八幡的には良いことである。学園を出てからずっと慣れない注目に晒され続けていたのだ。自然体で接してくれるのはとてもありがたい。

 

「煌式武装の開発か。この前のグレネードランチャーも凄かったしな……どんな煌式武装を開発してるんだ?」

 

 興味本位で聞いてみる。だが有用な回答は期待してない。他学園に新型の情報を漏らすとは思えないからだ。

 

「ふふん、超強力な煌式武装だ。これが完成したら凄いことになるぞ。それこそアルルカントなんて目じゃないほどにな」

「なるほど。それは期待できそうだ」

 

 紗夜が得意げな顔で八幡に返答する。予想通り詳細な情報は返ってこない。しかし予測を立てることは出来る。

 

 沙々宮紗夜の戦闘スタイルは遠距離のガンナーだ。前回の戦闘で使用したのはグレネードランチャー。それから見るに、新型は速射性ではなく威力を重視したものだろう。

 

 その証拠として、アルルカントの新型煌式武装は防御に特化した煌式武装である。それを突破出来るのなら相当強力な煌式武装だろう。下手したら純星煌式武装並みの威力を発揮するに違いない。

 

「新型が出来たらどうするんだ? 星武祭に出場するのか?」

「私がこの学園にいるのは、お父さんの煌式武装が凄いことを証明することだ。別に星武祭に興味があるわけじゃない──―それに目立つのはめんどくさいから嫌いだ」

「……そうか」

 

 紗夜の答えは、八幡を完全に納得させるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫く話し込んだ後、八幡と紗夜は互いに自身の学園に帰ることにした。新型の煌式武装に関しては、公式に発表の機会があれば教えてくれるそうだ。その為に互いの連絡先を交換した。

 

 沙々宮紗夜としては、自身の煌式武装に興味を持ったことがかなり嬉しかったらしい。どのような形で発表されるかは分からないが、期待することにした。

 

 そして沙々宮紗夜と別れて帰路の途上。

 

 界龍第七学園まで後少しという所で──―八幡の目の前に空間ウィンドウが突如開いた。

 

 届いたのは緊急のメール。送り主は星武祭の運営。この二つから送られてくるものに予想はついた。

 すぐさまメールを開く。そして中身を確認し──―予想通りと思いながら軽く溜息を付く。

 

「──―舞神が相手か。厄介だな」

 

 クインヴェール女学園序列二位──―ネイトネフェル。彼女が次の対戦相手だ。

 

 




 あらためてお久しぶりです。約二年ぶりの投稿となります。遅れに遅れて申し訳ありません。

リハビリを兼ねてゆっくりと投稿していきたいです。

誤字、脱字、感想等あれば、よろしくお願いします。
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