書いてみたかったんです。すみません、自分なりに頭捻ったんですが、矛盾等あれば教えてください。訂正するかこの作品消します(笑)。

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なんて事無いただの幕間劇

窓の外は雨雲一色。俺が今いる場所から窓を隔てて見えるのは灰色と緑色と…ほんの少し雨に反射する白くらいだ。

教室でぼけーとしているといつの間にか授業が終わり放課後となっていた。特に急いで帰る必要も無い、雨が小降りになることを信じて部活をして時間を潰そうか。

椅子から立ち上がり、その音に少し反応した同級生を無視して教室を出る。別にぼっちだとかそういう訳では無いが、わざわざバイバイの挨拶をするほど親しくもない相手だった。

古典部の部室である地学講義室はここ神山高校の辺境も辺境、特別棟四階に位置する。一度渡り廊下のある階まで降りてから行かなければならないのがなお面倒くさいが、この雨の中で帰るよりは億劫にはなるまい。

渡り廊下を歩こうとした時、俺が歩いてきた方向とは逆の方向、玄関側から箱ダンボールが迫ってきた。その箱が渡り廊下を曲がると、その後ろの運び屋が誰なのか分かった。

 

「あ、折木くんですか」

 

「十文字か」

 

その箱を動かしていた正体は里志の知り合いであり千反田の友人の十文字かほだった。一応俺とも面識はある。

箱の中身はどうやら彼女の部活、占い研究会の備品らしい。あらたに部室に運び込むのだろうか。彼女の体躯から考えれば幾らか大きすぎるそれは、彼女への手伝いを、やらなければならない事にするのに十分すぎた。

 

「手伝う。俺も部室に行くから、そのついでに」

 

「ありがとうございます、正直辛かったです」

 

十文字から荷物を受け取り隣に立って歩く。

 

「家から今持ってきてもらったんですが、配分間違えましたね…」

 

「まだこれ以上家にあるのか…」

 

十文字がかなり濡れていて、かつ箱も側面が二分の一、隣合った2面が濡れていた。肩にかけてあるカバンに使っていないタオルがあるが使うかと言っても遠慮されてしまった。

無事に荷物を部室まで運び礼を言われ、それに対する返答をしてその場を去る。その後は古典部部室へとまっすぐ道草食わず行く。

開けるとそこには腐れ縁の福部里志のみ。

 

「やあ、ホータロー。今日は僕だけかと思ったよ」

 

聞くと伊原は図書委員の集まりで、千反田は一身上の都合だとか。

千反田の『一身上の都合』とやらにはいい思い出がない。かと言って完全に悪い思い出かと言われると渋ってしまうが。

また厄介事に巻き込まれてしまうのか、去年の氷菓事件のように?まあそうなってしまった時はその時考えればいい。今そういう杞憂をするのはやらなくてもいい事だ。

定位置に座り肩からカバンを下ろして、取り出した本を少し読み進めると俺が使う机が揺れた。しかし他は揺れない。机の上のそれを取る。揺れた音に反応してこちらを見やる里志が言う。

 

「いやあ、それにしてもこの古典部のメンバーに前文化の人がいなくなるとはね」

 

「そうだな。俺もいらないと姉貴に言ったんだがな、お使い頼むために買わされた」

 

「ははっ、らしいや」

 

それから2ページほどしか読み進めていない頃、古典部部室である地学講義室の扉が開く。誰かが入ってきたのかなとそちらをちらりと見ると、いるはずの無い人がいた。その人はつかつかと俺の方に歩いてきた、両手をバンと机に叩きつけ、俺に向かってこう言い放つ。

 

「折木さん、すみません。でも私、気になります!」

 

今日もまた面倒ごとに巻き込まれなければならないらしい。ひとりでに手が頭を触り、不可抗力が頭を回す。

 

 

 

 

 

とりあえず今いる3人で固まろうと千反田と里志が各々の定位置から少しずつ移動してちょうど三角形の重心となるような当たりに座る。俺も机の上に置いてあったものを手に取りカバンに入れそちらへ行く。

 

「で、千反田。なぜお前がここにいる」

 

「折木さんに聞きたいことがあるからです!」

 

そうか、それは先程頭を抱える直前に聞いた。つまり俺が聞いているのはそういうことではない。

それを分かっていたのだろう里志が千反田に、言い方を変えてもう一度質問する。

 

「そうじゃなくてだね、千反田さん。ホータローは何故一度帰ると言っていた千反田さんがここにいるのかを聞きたいのさ」

 

「あ、そういう事でしたか。すみません」

 

特に謝られる意味も理由も建前すらない。俺からは何も言わず先を促すことにする。

千反田が一度逡巡するも、やや言葉を詰まらせながら口を動かす。

 

「まず、私は家に帰ろうとしました。しかしこの天気です、傘がいりますよね?」

 

「まさか傘を忘れてきたから帰れないということじゃないだろう」

 

「いいえ、今日は一日中雨が降ってましたし、今朝は流石に時間が無く送ってもらいました。でも確かに私は傘を持って来ました」

 

記憶力に定評のある千反田が自信を持って言うのだから、ほぼ間違いないだろう。

そうだ、このところこの辺では珍しく秋雨前線の停滞のおかげでらしくない雨が続いているのだ。水道関連の職員と雨好きの子供たち以外はあまり嬉しくない天気だが、秋の雨も乙なものだと、俺自体それは嫌いではなかった。

 

「しかし帰ろうとして玄関に行くと傘が無くなってたんです!」

 

「どこに指したかとかは覚えていたのか?」

 

まあ、前述したとおり千反田は記憶力がいいからその線はないだろう。ただの確認だ。

 

「いつも大体同じ場所に指します。見落とすこともありません」

 

「でも沢山あるだろ、傘なんて。万が一見落としたということは?」

 

この雨だ、生徒みんなが傘を持ってくるだろうし、必然的に傘立てはごった返す。ましてやここは年中あまり雨が降らない、傘にこだわりはない人が大半だ。

故に千反田の傘もその幾多もある傘に埋もれて見えなかった、ということもあるかもしれない。もっともこの説は千反田の超敏感なる五感を考えれば、可能性としてはゼロに限りなく近い。

 

「それはありません。私の傘は…その、ともかくよく目立つので」

 

「そ、そうか」

 

千反田が言い淀んだ、まあそれはあまり言いたくないことだったのだとだけ納得する。

俺からばかり質問するのもあれだ、俺は里志へ目を向ける。こいつは肩を竦めて渋々という具合に話を広げた。

 

「ところで千反田さん。傘がないとなるとどうやって帰るんだい?」

 

「それに関しては大丈夫です。先程図書室によって伊原さんに電話を借りました」

 

…なんだ、至極簡単な結末じゃないか。しかしまだ確証できない。里志と千反田の会話に耳を傾ける。

 

「今日はみなさんあまり運がないようですね…」

 

「ん?千反田さん以外にも何かあったのかい?」

 

「え、ええ。かほさんが朝車から学校までの短距離で傘を壊したらしいのです」

 

なるほど、この推理に穴がないか考える。右手は前髪をつまみねじり続ける。…多分問題ない。あとは証拠だな。しかしこれは話していく上ですればいい。

里志が俺の方を向きニヤリと顔を歪める。

 

「じゃあ千反田さんは今日…おっ、ホータロー。なにか分かったね」

 

「本当ですか、折木さん!」

 

「あ、ああ。一応仮説はたった」

 

教えて下さいと言わんばかりの瞳が四つこちらに向く。

簡潔に話そう、千反田が帰るまでの時刻は近いだろうから。

 

「千反田、お前の傘は盗まれたりしたんじゃなくて、借りられたんだ」

 

「…どういうことでしょう?」

 

千反田は人差し指を顎に当て首を傾げる。しかしまあ考えれば簡単な話なのだろう。

どこから話そうとふと外へ目を向けると雨の勢いが少しばかりか何かに殺されていた。

 

「まあいい、雨もほんの少しばかり弱くなった。俺は帰るから、千反田も付いてこい」

 

「は、はい!」

 

「僕はもう少しここにいるよ、また明日。結末教えてね!」

 

床のカバンを肩に引っ掛け椅子から立つ。千反田も支度ができたところで俺達は地学講義室を出た。扉の向こうで里志が手を振るのが見えていた。

しばらく歩いて渡り廊下、このへんから話し始めればちょうどいいだろうか。

 

「千反田、さっき俺は部室でなんと言った」

 

「えっとですね…盗まれたのではなく借りられた、だったと」

 

さすが千反田、言葉遣いの違いはあれど中身は全く寸分違わず正解だ。故に説明がやりやすい。

空はまだ曇っている。雨も微々たるものでありながら、しかし確実に地面を濡らし続ける。

 

「お前は人からものを借りたい時どうする?」

 

「持ち主が誰か調べます」

 

そんな根本的で原初的なことを聞いたんじゃない。がしかしその事は間違ってないし、なんならその事すら今回の話の重要な要素の一つだ。否定せずに次へ促すとこう返ってきた。

 

「持ち主に許可を取ります、使ってもいいですか?と」

 

「そうだな。仮にお前が傘を借りられたのだとしたら、足りないのはそれだ」

 

それはあることを示唆している。

ここまで話してもあまりピンとこないらしい千反田。既に玄関に最寄りの階段へ足を掛けるところだ。

 

「逆に言えばそれさえあればお前は自分の傘は誰かに借りられたと分かったわけだ」

 

「そうですね、でも私はそのようなこと誰からも言われてません」

 

そんなことは分かりきってる、そのような事を千反田が直接言われていたのならわざわざ俺達のところへ聞きに来ていない。

そう、直接は言われてないのだ。ではもし直接ではなくとも言われていたとしたら。

 

「相手はちゃんと千反田に連絡がいったと思い込んでいるんだ」

 

「…すみません、折木さん。もう少しわかりやすくお願いします」

 

俺達はもはや玄関にいた。一度靴を変え、その後話を最後までするために合流地を適当に設定したあと千反田に告げる。

 

「もう一度傘をさしたところを見てみろ、多分ある」

 

自分の靴箱へ赴き靴を変える。傘立てに数多ある自分の傘を探し出す。姉貴が何でもかんでも面白がってホータローとか書くからただのビニール傘でも自分のだとわかる。

世界を旅する時の掟みたいなものだとは分かってるんだが、俺は世界へ出る気は無いぞ。

玄関から出てすぐで千反田を待つ。すぐに出てきた千反田の左手には濡れた傘があった。

よく見ると傘の持ち手に名札が。千反田なんて珍しい名字なかなか無い、千反田のロッカーの場所を知っていれば見つけるのは難しくないだろう。

にしても高校生になってまで傘に名札か、先ほど千反田が言い淀んだのはこれが原因か?まあ、この際それはどうでもいいか。

 

「ありました、折木さん!」

 

「そうか」

 

これでほぼ確定だろう。千反田の迎えが来るまでここで伝えよう。

 

「でも、誰がなんのために傘を持っていったのでしょうか?」

 

「それもお前が家に帰れば分かることだが、言うか?」

 

「えっ!?ん、う〜ん」

 

悩む千反田、ここで彼女が何について考えているのか俺にはわからない。

多分ここで聞くか聞かないか、若しくはなぜ家に帰れば分かるのかを考えているのだとは思うが。所詮それも推測、俺が話すつもりのことも推測。分からないことは想像し推測するしかない人間とはなんと不自由なのか。

変に哲学めいたことを思索していた俺の意識は千反田の降参の言で戻される。

 

「分かりません、どうして家に帰ればわかるのですか?」

 

ふむ、そちらを考えていたか。

ならどう話し始めよう…、まあなんとでもなる。そう信じて口を開いた。

 

「ここになくて家にあるものがある」

 

「…分かりません、何がないのでしょう?」

 

ここまで来てもピンと来ないらしい、つくづくこいつはこういうことに向いてないのだと逆に感嘆する。

肩にかけてあったカバンの中から四角く硬いものを手探りで見つけ取り出す。それを見て、脳内処理を完了させた千反田の顔が納得と遺憾を形容する。

 

「そう…でした。私は今日たしかにそれを持ってきていません、確かにそれに1通送ればいいんですから、相手も勘違いしてしまいますね」

 

「まあ、そういう事だ。借りた人は恐らく十文字だ。あいつは…と、迎えが来たか」

 

「えっ…あ、はい。家の人ですね」

 

玄関から見える道路に1台の軽トラが止まる。流石豪農千反田家、迎えも軽トラか。

 

「ありがとうございました、折木さん。今度からはちゃんと持ち歩くように気をつけます…」

 

「俺も忘れることがある、今からゆっくり慣れていけばいい」

 

「はいっ!では、また明日!」

 

傘をさして走っていく千反田、あいつはどうやら既に雨がほぼ止んでいて、この短距離を行くのに傘がいらないことに気づいていないらしい。

…まあいい。視界の端に光のカーテンを捉えながら家路に着く。ふと手の中にあるものを起動させそれを見る。

 

『ホータローへ、帰りにコンビニかどこかに寄って甘いもの買ってきて〜。お金は私が出してあげるから、あんたも欲しいもの買ってきていいわよ』

 

未だに慣れない操作で拙く返事を返す。

 

『適当に買って帰る。文句は受け付けん』




一応時間軸毎に並べてみるとこうなります。

かほがえるの傘を借りてメールを送って荷物を車まで取りに行く。

その間に玄関でえるが傘を見つけられなくて焦り、とりあえず連絡しようと摩耶花の元へ。

その途中で十文字が傘を玄関に返し廊下を歩く。

千反田が図書館に着くのと、奉太郎がかほに合流するのはほぼ同時。

あとは話の流れ通りです。
かほのダンボールは親に玄関まで持ってきてもらって、かつかほが横からさしていたため、かほがいた方向の面と抱えて雨に濡れない面があり、かほは自分に傘をさしていないから濡れる。とそんな感じになっています。

読んでいただきありがとうございました。


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