師の教えを超えたバレットスパルタンの一撃。その痛打を浴びたランバルツァーは血反吐を吐きながら数歩後ろへと後退し、よろめくように片膝を着く。彼の足元を染め上げる鮮血が、この一騎打ちの「決着」を物語っていた。
「がッ、はぁッ……! まさか……シェードの改造人間である我々が……グールベレーが、生身の人間に……負けるとはなッ……!」
かつての自分が育て上げたマルコシアン隊の戦士達は、自分の見立てよりも遥かに「成長」していた。その彼らに行手を阻まれた事実に複雑な感情を抱きながらも、ランバルツァーは口角を吊り上げてバレットスパルタン――バイルを睨み上げている。
その眼差しはまさしく、逞しく育った我が子の成長を喜ぶ、「父親」の眼であった。例え敵同士であっても、殺し合うしかない運命であっても、彼にとってバイル達が「教え子」であるという事実に揺らぎはないのだろう。そんな師の姿を、バイルは神妙に見下ろしている。
「これが、あんた達が捨てた人間の力。……あんたが育てた、俺達マルコシアン隊の力だ」
「……ふっ、違うな。これは……俺が与えた力などではない。お前達がジークフリートの元で、自らの努力で掴み取った力だ。正しかったのは……お前達の方だったのだな」
改造人間の武力よりも、人間の可能性と誇りを信じたジークフリート。その信念に基づき、「性能」の壁を超えるほどの「技」を練り上げていたバイル達の実力を目の当たりにしたランバルツァーは、不敵な笑みを溢していた。
「……だが、これで終わりではないぞ!」
「なッ……!?」
やがて、ふらつきながらも立ち上がった彼は胸元の鞘からナイフを引き抜くと――その刃を自らの心臓に突き刺してしまう。蒸気を逸したその行動に、バイルは思わず動揺していた。
「ランバルツァー大佐、あんた一体何を……!?」
「
「なに……!?」
「
その言葉を
「何が……起きているんだ……!?」
絶命したはずのランバルツァーの身体が、だらりと無造作に起き上がった瞬間。何かが地を這いずるような音が、全方位から轟いて来たのである。物言わぬ骸のまま立ち上がっているランバルツァーの挙動は、糸で操られた
「……!? グールベレーの……死体が……!?」
この孤児院跡地に向かって全方位から集まって来る、地を這う何か。それはバレットスパルタンの仲間達――即ちスパルタンライダー達によって倒された、他のグールベレー隊員達の「死体」であった。まるで見えない力に引き摺られているかのように、ぐったりとしている死体が地を滑ってランバルツァーの元に集められているのだ。
「奴らの死体が1箇所に吸い寄せられている……!? 一体、何がどうなってるんだ!?」
「分からない……! とにかく追うぞ! 何か……嫌な予感がする……!」
無論、その異様な現象を見過ごすマルコシアン隊ではない。凄まじい速さで地を滑るグールベレー隊員達を追い、それぞれの場所から走り出していたスパルタンライダー達も、孤児院跡地を目指すうちに合流し始めていた。
「ちょっと、何がどうなってるのよこれ……! あいつらの死体が、ひとりでに動き出して……!」
「奴ら、まだ何か仕掛けるつもりなのかよ……!? 何にせよ、ロクでもないことには違いなさそうだ……!」
「アレクシス中尉、待ってください! 私も同行しますッ! 中尉と共に……最期まで戦わせてくださいッ!」
「俺達も同じ気持ちです……! どうせ一度は死んだも同然なんだ、俺もガルス少尉達にお供させてくださいッ!」
「そうです……! 俺達如きでも、カイン少尉達の肉盾くらいにはなれますッ! 少尉達が命を賭けると仰るのなら……俺達の命も使ってくださいッ!」
ソニックスパルタンこと、アレクシス・ユーティライネン。アサルトスパルタンこと、ガルス・ショウグレン。スザクスパルタンこと、カイン・アッシュ。
彼ら3名に窮地を救われていた3人の一般歩兵は、恐ろしい予感を肌で感じていながら――否、感じているからこそ、仮面の戦鬼達に追従しようとしていた。
明智天峯、上杉蛮児、武田禍継。スパルタンの戦士達に救われ、その勇姿に感銘を受けていた彼らは、血だるまになりながらも小銃を固く握り締めている。彼らの双眸には、自己犠牲の精神に溢れた雄々しい闘志が宿っていた。
上官の命令で無理矢理戦わされていた、先ほどまでの彼らではない。今の彼らは自らの意志で、アレクシス達のために死地に赴こうとしている。そんな男達の様子を目の当たりにしたスパルタンライダー達は
「……生憎だけど。この先に待っているのは、恐らく……いや間違いなく、僕達でも勝てるかどうか分からない相手だ。ハッキリ言って、君達では付いて来れない」
「どうせ一度は死んだも同然……なんだろ? だったらその命は、苦しめられている人々のために使え。俺達なんかの真似してっと、ロクな大人にならねぇぞ」
「人間を超えた怪物を相手に、お前達がどう戦おうってんだ? 外骨格も着てない奴が何人来たって、弾除けにもならねぇよ。勇敢と蛮勇は違うんだぜ」
やがてアレクシス、ガルス、カインの3人は敢えて冷たく天峯達を突き放し、スパルタンハリケーンを奔らせて行く。マフラーから激しい猛煙を噴き出しながら、彼らは勢いよくその場から走り去ってしまった。
未来ある若者達を、こんなところで死なせる訳には行かない。人身御供は、スパルタンシリーズを託された自分達にしか務まらない。それが、アレクシス達の結論だったのである。
「くッ……わ、私達にも中尉達のような装備があればッ……!」
「君達の未熟な手に僕達のような武器はまだ早い。人の身を超えた力を御するためには相応の素質と訓練が必要になる。君達にその『器』があるかどうかは僕達にも分からないが……今は、それを見定めている時間も無い」
「
他者のためなら、自らの命を投げ打つことも出来る。そんな人間が本当に犠牲にならねばならないような戦いは、これで最後にしなければならない。そんな人間は、自分達が消えた後にこそ必要となる。
そう結論付けたアレクシスやガルス達は、天峯達の前から疾風のように走り去って行く。血みどろの若き兵士達は、彼らの背に向かって懸命に手を伸ばすが――傷だらけの手指は、空を掴むばかりであった。
「ま、待ってくださいアレクシス中尉ッ! 置いて行かないでくださいッ! 私は、私達は……まだ戦えますッ!」
「ガルス少尉ィイッ! そんなの嫌です、俺も最期まで戦いますッ! 戦わせてくださいッ!」
「……カイン少尉ッ……! 蛮勇でもいい、愚かでも構わない……ッ! 俺も……俺達も、地獄にまで連れて行ってくださいッ!」
これが、アレクシス達の「優しさ」だということは分かっている。それでも天峯達は、過酷な戦場の中でようやく見つけた「死に甲斐」を奪われた苦しみに、悲痛な叫びを上げていた。
傷付いた身体を引き摺り、アレクシス達の後を追おうとする彼らは震える脚を懸命に動かすが、当然スパルタンハリケーンに追い付けるはずもなく。天峯達はやがて力尽きるように、その場に続々と倒れ伏してしまう。
「……そういうわけには行かん。お前達には重要な任務がある」
すると彼らの前に、1台のスパルタンハリケーンが駆け付けて来る。そこに跨っていたのは、パンツァースパルタンことシュタインだった。マルコシアン隊の中でも有名人である彼の登場に、天峯達も思わず顔を上げる。
「あ……あなたは、マルコシアン隊のシュタイン少佐……!?」
「俺達の……重要な任務……!?」
シュタインの言葉が意味するものを理解出来ず、天峯達は顔を見合わせる。そんな彼ら3人の前で――パンツァースパルタンは、後部のタンデムに乗せていた心堂一芯の身体を持ち上げて見せた。その瞬間、状況を察した天峯達は銃を放り出して慌てて駆け寄り、自分達の小隊長を抱き留める。
「心堂隊長ッ!?」
「そ、その両眼……一体何がッ!?」
「隊長、しっかりしてくださいッ!」
「……うぅ、その声は……そうか、お前達は無事だったのだな……良かった……!」
「し、心堂隊長ッ……あなたこそッ……!」
天峯達の涙声を耳にした心堂は、部下達の生存を悟り頬を緩めている。一方、天峯達は頼れる上官だった小隊長の無惨な姿に胸を痛め、悲痛な声を漏らしていた。両眼を焼かれた上に、全身の骨が折れている心堂は、この場に居る誰よりも重傷だったのだ。
「……分かるな? 彼は次の時代において、必ずや世界が必要とする男だ。断じて死なせてはならない。それを叶えられるのは、この地獄からも生き延びているお前達だけだ」
「シュタイン少佐……!」
シュタインの言葉の意味をようやく理解した天峯達は、涙を拭いながらも力強く頷き、心堂の応急処置を始める。だが、自分が「置き去り」にされようとしていることを察した心堂は、声の方向だけを頼りにパンツァースパルタンの方へと、震える手を伸ばしていた。
「……待ってください、少佐……! 俺はまだ、まだ戦えます……お役に立てます……! 地獄の果てだろうと、付いて行きますッ……! だからッ……!」
「し、心堂隊長……!」
「……心堂。その言葉は、俺が地獄の底まで持って行く。お前は何としても生き残るのだ。死んで行った部下達の分まで……そして、お前にしか守れない『次の時代』のためにも」
どれほど深い傷を負ってもなお、戦い続けようとする心堂。そんな彼の身体を天峯達が押さえ込んでいる中、パンツァースパルタンは愛車のハンドルを切り、仲間達が向かう先へとエンジンを噴かして行く。そして孤児院跡地を目指し、スパルタンハリケーンで走り去って行くのだった。
「うぅっ……あぁあぁあぁあッ!」
己の無力さを呪う男の絶叫が、天を衝く。しかしその叫びさえ、遥か彼方に走り去ったスパルタンライダー達には届かない。マフラーから噴き出す煙すら見えなくなり、心堂達は苦悶の表情で地を這うばかりとなっていた。
◆
一方――グールベレー隊員達の集結先である、孤児院跡地に居るバレットスパルタンは。想像を遥かに超える事態を前に、仮面の下で戦慄の表情を浮かべていた。
「こ、こんなことが……!?」
驚愕する彼の眼前では。立ち上がったランバルツァーの死体に、グールベレー隊員達の死体が群がり始めていたのである。
隊長の元に馳せ参じた悪鬼達の骸はバレットスパルタンの目の前で無惨に弾け飛び、首や手足が見えない力に引き千切られていた。骨や肉が裂け、砕け散る鈍い音が、絶え間なく響き渡って来る。
その死体の欠片は濁流となってランバルツァーを飲み込み――やがて少しずつ、「巨人」の姿を形成して行く。死体の山が人の形に変わって行く光景に、バレットスパルタンは「生命の冒涜」を超えた何かを感じ取っていた。
「こ、これはッ……!」
それから、1分も経たないうちに。ランバルツァーを含めた、グールベレー隊員達の死体で造られた「巨人」が完成してしまう。全長はおよそ20m。その圧倒的な巨体が生み出す長い影が、バレットスパルタンの全身を覆い尽くしていた。
「……死骸の、巨人……!?」
巨人の外観は「悍ましい」という言葉でも足りないほどに、醜悪そのものであった。巨人の全身は、見えない力でバラバラに千切られたグールベレー隊員達の「肉片」で構成されているのだ。
脚部は隊員達の脚。腕部は隊員達の腕。そして頭部は、隊員達の首で形作られている。白目を剥いた無数の生首が、巨人の「顔」を形成しているのだ。並の精神力しかない人間が目にすれば、一瞬で正気を失うほどの異様な姿と言えるだろう。
「そんな……馬鹿な……!」
その恐るべき巨人を仰ぐバレットスパルタンは、ファイティングポーズを取りながらもわなわなと肩を震わせていた。
外見の悍ましさだけが理由ではない。あれほど苦戦したグールベレーの隊員達が、今度は一つの「怪人」に合体してしまったのだ。その巨体から迸る並々ならぬプレッシャーを、バレットスパルタンは肌で感じ取っていたのである。
「大佐ッ……! あんたは……あんたは本当に、そんな姿になってまでッ……!」
何もかも変わり果て、自分のことすら分からなくなっている、かつての父。そんなランバルツァーの哀れな姿に、バレットスパルタンは悲痛な声を漏らしていた。その声にならない慟哭も、この巨人に届くことはない。
理性を持たず、ただ暴れ、吼えることしか出来ない融合巨人兵「グールズ・ブリアレオス」。その怪物の「核」となったランバルツァーにはもはや、誰の声も響かないのだから。
今回はグールベレー戦のラストを飾る、グールズ・ブリアレオスの登場回。第9話のラストで言及されていた「ブリアレオス」とは、もちろんこやつのこと。マルコシアン隊とグールベレーの総力戦を締め括る、最終決戦が始まろうとしております。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)
さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)
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