仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第33話

 

 マルコシアン隊の奮戦と自己犠牲により、この国は確かに救われた。しかしその爪痕は、彼らを慕う者達の胸中に深く刻み込まれている。オーファンズヘブン市内の軍病院に入院していた「生き残り」の兵士達は皆、英雄達の全滅という報せに沈痛な表情を浮かべていた。

 

 その悲しみは彼らの勇姿を知る者ほど、深いものとなる。それを物語るように、とある1人の負傷兵が病室を抜け出し、病院の外に向かおうとしていた。己自身の眼で、マルコシアン隊の隊員達を探し出そうというのだ。

 

「はぁ、はぁッ……! アレクシス中尉、ガルス少尉……カイン少尉ッ……!」

 

 そんな愚か者である明智天峯は、戦場で別れてしまった勇者達の影を追うように、傷付いた身体を引き摺り病院から出ようとする。全身に包帯を巻いた病衣姿のまま廊下を歩く彼の姿に、他の負傷兵達も顔を見合わせていた。

 

「おい、天峯! 心堂隊長とお前が1番の重傷なんだぞ、無理に動いたら傷が……!」

「天峯、待つんだ! 待っ……うぐッ!」

 

 天峯と同じ病室で治療を受けていた、上杉蛮児と武田禍継。彼ら2人は、負傷により昏睡している心堂一芯の容態を案じながらも、なんとか天峯を呼び止めようとしている。しかし彼らもかなりの重傷であり、天峯を制止出来るほどの力は出せずにいた。

 

「皆……皆まだ、あそこに居るはずなんだ……! 私が……私が助けに行かなくてはっ……!」

 

 戦友にして親友である2人からの呼び掛けにも応えられないほど、マルコシアン隊の安否確認に固執している天峯。彼は傷付いた身体を引き摺り、ついに病院の出入り口にまで辿り着いてしまう。そこで彼の姿を発見した歩哨の兵士達は、ギョッと目を見開き、慌てて天峯の肩を掴んで制止する。

 

「おい、お前! ここで何をしているんだ、早く病室に戻れ! そんな身体で動いても傷が開くだけだ!」

「街に……エンデバーランドに行かせてください! あそこにはまだ……マルコシアン隊の皆が居るはずなんです! きっと、今も傷だらけで……! 助けに行かなくてはッ!」

「……お前……!」

 

 陸軍の発表を受けてもなおマルコシアン隊の生存を信じ、隊員達を探そうとする天峯。そんな彼の悲痛な叫びを前にした歩哨達は顔を見合わせ、苦い表情を露わにする。天峯の気持ちも、彼には痛いほど理解出来る。しかしそうであるからこそ、通すわけには行かないのだ。

 

「……いいか坊主、よく聞け。マルコシアン隊は全滅したんだ、あの街にはもう生存者は居ない。俺も現場を見たが……あそこにはもう、誰なのかも分からない黒焦げ死体しか残っちゃいないんだ」

「嘘だ……! そんなの嘘です、あの人達が死ぬわけない! その黒焦げがあの人達だと決まったわけじゃないはずだ! 私が確かめに行きますッ!」

「いい加減にしろ! あのマルコシアン隊が全滅したなんて……認めたくないのがお前独りだと思ってるのか!? 俺達だって信じたくなかったさ! だが、陸軍の発表を聞いただろう!? 現場の惨状は、あそこから生き延びたお前にだって分かるだろう! 『奇跡』にだって限度はあるんだよッ!」

 

 どれほど言い聞かせても聞く耳を持たない天峯に、歩哨達も悲しげに声を荒げて行く。マルコシアン隊の全滅など、到底信じられない。受け入れられない。そんな悲しみは、彼らも同じなのだ。しかし、その慟哭を耳にしてもなお――天峯は譲らない。

 

「そんなことッ……勝手に、決めるなぁあぁあッ!」

「うおッ……!?」

 

 一体、これほど傷付いた身体のどこに「力」が残っていたのか。天峯は歩哨の襟を掴むと、力任せな背負い投げで地面に叩き付けてしまう。そして矢継ぎ早に関節を極め、取り押さえてしまうのだった。

 

「私はエンデバーランドに行きます……! 誰がなんと言おうとッ……!」

「うぐ、ぁっ……!」

 

 投げられた歩哨も、負傷兵相手だからと油断していたのだろう。しかしその点を差し引いても、天峯の技はあまりにも鮮やかであった。彼が近接戦闘の天才であることは、この背負い投げが証明している。

 

「あうっ!?」

「……もういい、そこまでだ」

 

 だが、そんな天峯の優勢も長くは続かない。この場に現れた1人の青年士官が天峯の腕を掴むと、そのまま力任せに歩哨から引き離してしまうのだった。端正に軍服を着こなしている美男子だが、外見とは裏腹にかなりの豪腕であるようだ。

 

「がぁっ、はぁっ……! ちゅ、中尉殿……!」

「……コイツの面倒は俺が見る、お前達はもう下がってろ」

 

 ようやく拘束から解放された兵士は息を荒げ、助けに入った青年士官を「中尉殿」と呼ぶ。青年士官はそんな部下を一瞥した後、自身を睨み付けている天峯をじろりと見下ろしていた。青年士官の手を力任せに振り解いた天峯は、少し距離を取りつつ拳を構え、臨戦体勢に入ろうとしている。相手が自分達の窮地を救った、「命の恩人」であるとも知らずに。

 

「その身体で、随分と威勢が良いな。……そんなに現実を認めるのが嫌か?」

「この目で確かめるまでは……あの人達が死んだなんて、認めるわけには行かないんですっ! あの人達に救われた、兵士の1人としてッ!」

 

 冷静な佇まいで問い掛けてくる青年士官に対し、天峯はけたたましく吼えながら飛び掛かって行く。しかしその拳は、いとも簡単にいなされていた。

 

「……奇遇だな、俺も(・・)だよ」

「ぐはぁああッ!?」

 

 次の瞬間、今度は天峯が倒されてしまう。満身創痍である天峯の身体で唯一、包帯が巻かれていない箇所。青年士官はその一点のみに狙いを定め、正確無比に掌底を打ち込んでいた。まるで、獲物を射抜く矢のように。

 

「生憎……これでも『加減』はしてる方でな」

 

 天峯達と同じように、エンデバーランドの戦地でマルコシアン隊に救われていた兵士達。その1人だった青年士官としても、天峯の慟哭には思うところがあったのだろう。相応に「手加減」しているのは明らかだった。

 

「あが、はぁあッ……!」

「天峯ッ!」

「おい天峯、しっかりしろッ!」

 

 それでも傷だらけな天峯にとってはかなりの痛打だったらしく、彼は地面に倒れたままのたうち回っている。そこへようやく辿り着いた蛮児と禍継が、懸命に助け起こそうとしていた。

 

「……俺はあの戦いの後、マルコシアン隊が集結していた孤児院跡地の惨状をこの眼で見た。ありゃあ……人間同士の戦争で作れる地獄じゃねぇ。人の身を超えた、超人達の殺し合いでなければあり得ない光景だったよ」

「……!?」

「あんな景色を突き付けられちゃあ、希望なんか見えなくもなる。いいか小僧共、よく覚えておけ」

 

 3人の様子を暫し静観していた青年士官は、やがてゆっくりと歩み寄り――尻餅を着いていた天峯の胸ぐらを掴み上げる。そして、彼が見に行こうとした光景(モノ)を先に見てしまった者の立場から、非情な真理を告げるのだった。

 

「いちいち死に急がなくなって……死に場所なんざ向こうからやって来るんだよ。呆れちまうくらいにな」

「……ッ!」

「だからせめて……自分が納得出来る生き方を選べ。いつ死神が迎えに来ても、悔いだけは残さないように」

 

 それは彼なりに精一杯、天峯の今後を気遣っての言葉だったのだろう。その「重み」を肌で実感した天峯は、彼の言葉が嘘偽りのない真理であることを悟る。そして、この先のエンデバーランドに理想の光景など無いのだと、改めて思い知らされてしまうのだった。

 

「うっ……ふぐっ、うう、ううぅっ……!」

「……お前ら、コイツのことをしっかり見張っておけよ。せめて傷が治るまでは、変な気を起こせないようにな」

 

 打ちひしがれ、力無く泣き崩れて行く天峯。そんな彼の涙を見ぬようにと踵を返した青年士官は、蛮児と禍継に「命令」を下しながらその場を後にする。

 

「蛮児……禍継ッ……! 私は必ず……なって見せるよ……! アレクシス中尉達のような……弱き人々を決して見捨てない、本当のヒーローに……!」

「天峯……!」

「……あぁ、そうだな。必ずなるんだ、俺達で……!」

 

 そして。去り行く青年士官の背中を見送った天峯は、歯を食いしばり新たな決意を固めるのだった。虐げられている弱者を守るためならば、如何なる相手にも立ち向かう。そんなマルコシアン隊のような、ヒーローになって見せると。その「夢」に同調する蛮児と禍継は力強い表情で頷き、両脇から天峯に肩を貸していた。

 

 一方。病院を離れ、青空を仰ぐ青年士官――マウンス・シーバード中尉は独り、煙草を燻らせていた。その懐に忍ばせていた1枚の写真には、かつての「同期」だったアレクシスやガルス達の姿が写されている。

 

「……泣けるぜ」

 

 泣きたいのは、自分も同じだ。その悲痛な思いを軽口として吐き出す彼の声色は、本心の片鱗を僅かに覗かせていた――。

 

 ◆

 

 辛うじて戦火を逃れていた、首都エンデバーランド郊外の戦没者慰霊施設――「モロニビト国立墓地」。その広大な草原に建ち並ぶ無数の墓標は青空に見守られ、今日も静かに眠っていた。

 

「……許せ、などと身勝手なことを言うつもりはない。俺は、お前達よりもさらに深い地獄に堕ちねばならん男だからな」

 

 そこに足を運んだ1人の大男は、鎮魂の祈りを込めた花束を新たな墓標に捧げている。黒の眼帯を装備している彼の右眼はすでに失われているはずなのだが、彼はそこから迸る痛みに眉を顰めていた。それはまるで、失った四肢から痛みが走る幻肢痛(ファントムペイン)のように。

 

「……」

 

 彼の心に刻まれた傷が、右眼の痛みとなって深く顕れているのだろう。彼は涙を枯らした左眼で墓標を見下ろし、最後の敬礼を捧げていた。

 

 彼がその身に纏っている灰色の野戦服には、階級章も徽章も部隊章も無い。帰属する先が何処にも無い、「はぐれ者」の野戦服であった。そして彼は自身のトレードマークだった黒のマフラーさえも脱ぎ去り、墓標の前に投げ捨ててしまう。

 

 北欧某国陸軍のジークフリート・マルコシアンという男。その存在を証明し得るもの全てを捨て去ることが、彼なりの「決意表明」でもあったのだろう。行く当ても帰る場所も失い、何者でもなくなった男は、それでもなお雄々しく両足で地を踏み締めている。

 

「いつになるかは分からない……。だが、俺はもはや祖国に捨てられた男だ。いつかは必ず、会いに逝くことになる。それまで暫しの別れだ」

 

 あの戦いの後、軍の上層部や政府との対立を経て「退役」が確定したジークフリート・マルコシアン。事実上の「追放」を言い渡された彼は今日に至るまで、幾度となく暗殺の危機に見舞われていた。

 

「アイアンザック中将は……スパルタンシリーズを『新時代の仮面ライダー』だと言っていた。だが……お前達を護ってくれなかったスパルタンを、俺は『仮面ライダー』などとは認めない。そして、この国に現れなかった『仮面ライダー』を……俺は救世主などとは思わない。俺達は仮面ライダーとしてではなく、ただ1人の軍人としてこの祖国を守り抜いたのだ」

 

 政府や軍部からの刺客を退ける日々の中、旅立つ前の「手向け」として彼が最後に用意した花束は、「かけがえのない戦友達」の前で穏やかに揺らめいている。その様子を見つめながら敬礼の手を下ろしたジークフリートは、踵を返してこの場を後にして行く。全ての未練を、断ち切らんとするかのように。

 

「……ありがとう、友よ。お前達こそが……真の救世主だ」

 

 その言葉を最後に、マルコシアン隊を率いていた男は今度こそ死んだ(・・・)。そこに居たのはもう、彼であって彼ではない。人間を愛する心を捨て、戦う道にのみ己の存在を見出した羅刹。禍々しい左眼で空を睨む、1人の「怪人」であった。

 

 ◆

 

 かくして。ジークフリート・マルコシアンはこの祖国を去り、流浪の傭兵となった。全ての栄光と地位を捨て、ただ独りの「怪人」となったのだ。

 

 しかし彼は、終ぞ気付かなかった。

 

 墓地から去り行く、自分の背を。人間としての誇りさえ見失った、敗者の背を。半死半生の身でありながら、負傷を押して見送っていた者達が居たことを。

 

 その存在は現実のものだったのか、儚い幻に過ぎなかったのか。全てに背を向けてしまった彼にはもはや、知る由もない。

 墓地から立ち去って行く「怪人」の背を見送った後。深緑のボディを持つ無数のアメリカンバイクは幻影達を乗せ、爆音を上げて遥か彼方に走り去って行く――。

 

 ◆

 

 ――ドゥルジめ。「面白いモノ」を見つけて来たというから、どんなものかと思えば……No.5の劣化コピーだと? しかも、オリジナルとは似ても似つかぬ代物ではないか。何が「手土産」だ、話にならん。

 

 ――いいや、そいつは早計だぜ羽柴(はしば)。このベルト型のエネルギータンク……スパルタンドライバーとか言ったか? こいつは使える。俺達シェードで上手く有効活用すれば、優秀な兵器になるぜ。

 

 ――人間共が半年程度で急造していたという、この鉄屑がか?

 

 ――その鉄屑が、パワーだけなら始祖怪人(おれたち)すら凌ぐブリアレオスを倒したんだ。生物学の権威にして、屈指の「偏屈者」……割戸神博志(わりとがみひろし)博士。奴の研究データから製造された「傑作」が人間風情に敗れるなんて、あんたでも予測出来なかったことだろう? しかも奴らの隊長(ボス)と戦ったドゥルジは、かなり消耗していた。幹部級怪人の中でも上位の戦闘力を持っているドゥルジが……だぜ? 人間達の科学力は、すでにその領域に達しているということだ。

 

 ――奴らが造る「紛い物」が、いつか「改造人間(ホンモノ)」を超える……とでも?

 

 ――さぁな、そいつはこの先の研究次第さ。だが、「検証」する価値はあると俺は思うね。今はまだ拙いこの鉄屑同然の玩具(スパルタンドライバー)を、俺達の科学力でイカす兵器にブラッシュアップしてやろうってんだ。立派な善行だと思わないか? 間柴(ましば)の奴もNo.5に殺られちまったことだし、戦力の増強はいずれ必要になるだろう?

 

 ――ふっ、物は言いようだな。面白い……ならば試してみろ、戦馬(せんば)。他の始祖怪人達には俺から話を通しておいてやる。予算の心配は無用だ。

 

 ――さっすが、話が分かる奴だぜあんたは。それじゃあ、計画の草案はこれから練って行くとして……まずは名前を考えておかねぇとな。

 

 ――名前なぞどうでも良かろう。「コードG型強化外骨格量産化計画」で十分だ。

 

 ――長ぇしカタいし覚えにくいにも程があんだろ。そうだなぁ……じゃあ、ひとまず仮名ってことで。そこの棚にある酒の名前でも付けとこうぜ。

 

 ――「食前酒(アペリティフ)」、か。

 





 今話も本章の戦いの後日談となりました。「マルコシアン隊のように、虐げられている弱者を守りたい」という明智天峯の信念。これを実現し得る「力」を本人が手にした10年後には、人外という理由だけで改造被験者達が迫害されている暗黒時代となっており……(ノД`)
 そんな天峯達の未来は外伝「ライダーマンG&ニュージェネレーションGライダーズ(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)」で描かれておりますので、機会がありましたらこちらもどうぞよしなに。いよいよ次回の最終話で本章もようやく完結となりますので、最後までどうぞお楽しみに〜!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。さらに今話に登場したマウンス・シーバードもハンサムなイケおじとして活躍しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


Ps
 年長者として登場していたキャラの若かりし日の姿が、後々の作品で描かれる……みたいなのすごい好き。SWEP1のオビワンとか、MGS3のオセロットとか(*^ω^*)
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