ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

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この小さき花々に活力を1

 智花の小学生最後の夏休みを俺との思い出でいっぱいにするため、今日も二人の大切な思い出作りに励んでいた。

 

「はぁ……はぁ……ダメっ…もっと、がんばらないとっ……」

「くっ……と、智花、これ以上はもう無理だ……」

 激しい雨音の中、幽かに聞こえる少女の乱れた呼吸。

 俺も同じく相当息を荒くしてしまっているが、自分以上に辛そうな表情をしている少女の方が心配だった。

 やはり小柄な少女には、まだ早すぎたのだ。

 これ以上彼女に辛い思いをさせないためにも、今すぐ中断しなくては――

 

「わ、私はまだ大丈夫ですっ……お願いします……も、もう少しだけ続けさせてくださいっ――昴さんと最後まで一緒にがんばりたいんです!!」

 俺の思考の変化に気づいたのか、慌てたように必死に行為の継続を懇願する智花に俺の中で葛藤が生まれる。

 俺だって、欲を言えばこのまま智花と最後までしたいけど、彼女の体に相当な負担を掛けてしまっているのは明らかだ。

 だからといって途中で止めてしまえば、彼女の性格からして俺の期待に応えられなかったと、ひどく落ち込んでしまうだろう。

 

――仕方ない。本当はあまり良くないんだけど……

 このまま余計に時間を掛けて智花の苦痛を長引かせるくらいなら、一気に終わらせてしまおう。

 

「わかった。智花、ラストスパート行くから、最後まで一緒に頑張るぞ!」

「は、はいっ! 最後まで昴さんにお付き合いします!!」

 一気に速度を上げた俺の上下運動に呼応するように智花も動きを合わせる。

 

「っ!! これで、一緒にゴールだっ!」

「はぅ!! す、昴さん!! わ、私も昴さんと…い、いっしょ…一緒に~~~!!」

 二人で絶頂を迎え、体を大きく仰け反らせながら、達することでのみ味わえる解放感を体中で噛み締めていた。

 

「ふぅ……お疲れ様、智花。よく頑張って俺についてきてくれたよ」

「はぁ……はぁ……え、えへへ。本当はすごく大変でしたけど、最後までがんばれて良かったです」

「だけど成長期なんだから、身体に負担掛けすぎるのも良くないし、あんまり無理しちゃダメだよ――ふぅ……いっぱい汗かいちゃったし、先にシャワー浴びておいで」

「はい。ご心配をお掛けしてしまってすみませんでした……えへへ、昴さんと最後までできて嬉しかったのですっ」

 俺の苦笑に申し訳なさそうだけど、どこか嬉しそうな笑顔を見せながら、タンスから取り出した着替えを抱え浴室へ向かっていく智花を送り出す。

 

――今の様子だと、また次も俺に合わせて、最後まで頑張っちゃいそうだな……

 

 智花の身体能力の高さは身を以て味わっているけど、さすがに女子小学生の彼女に男子高校生の俺のメニューをそのままやらせるわけにはいかないし。

 実際、今やっていた腕立てやスクワットの回数とペースを少しだけ普段より緩めに調整していたりする――と言っても、智花が本当にそれをこなしてしまうのは十分驚愕に値するのだが。

 やっぱり、筋トレもそれぞれの能力に合わせたメニューを組み直してあげないといけないな。

 彼女達のコーチとして、もっとよく彼女達の成長の具合をしっかり把握できるよう、常に良く観察することも怠らないようにしなくては。

 

 そういう意味では、今日の筋トレは良かったのかもしれない。

 本来ならいつも通り庭で智花とバスケをするつもりだったのだが、俺がロードワークを終わる頃に急に雨が降り出し、残念ながら今朝のバスケはお預けとなってしまった。

 せっかく来てくれた智花のためにも何かできることはないかと考えたが、これくらいしか思い浮かばなかった。

 最初は俺一人でするつもりだったが、二人っきりの部屋で一人息を荒く『はぁはぁ』してる様子を智花に見られるのはなかなか恥ずかしかったし、

 彼女も俺が一人で必死に頑張ってる姿を見て体が疼いてしまったのだろう。

 結局、二人でそのままいつもとは違う朝練に励むこととなった。まぁ、バスケをする上でも足腰の鍛錬は大事だし。

 

 ふと、タンスの近くを見ると、床に一枚の小さな布切れが落ちていた。

 疲労した足腰に鞭を打ちながら立ち上がり、一歩踏み出し確認し、気づいてしまったことに心底後悔した。

 

――クマさんお久しぶりです。どうやら今日もオフの日だったようですね。

 もしかしたら、さっき着替えを取り出す時に、うっかり落としてしまったことに気づずにそのまま行ってしまったのだろう。

 

 クマさんはタンスの中に戻りたそうに寂しそうな目をして、こちらを見ている(気がする)

 クマさんをタンスに戻してあげますか?

 

 →はい。

  いいえ。

 

 クマさんは嬉しそうにタンスの中へ戻っていった。

 

 智花は俺を信じて色んな私物をここに入れてくれてるのに……本当にごめんな。

 せめてもの謝罪代わりに丁寧に畳んで、クマさんを戻してあげた。

 

 シャワーを終えて俺を呼びに戻ってきてくれた智花が、頬をほんのりと染めて、内股をすり合せるようにしていた――まさか……な。

 深く考えずに、こちらの動揺を悟らせない様できる限り自然体のまま風呂場へ向かって行く。

 廊下に出た時に、ドア越しに智花の恥ずかしさを堪えるような唸り声や「パン…」とか「忘れちゃうなんて」と言った声が聞こえたような気がするが、多分気のせいだ。絶対気のせいに決まっている。

 

 

 俺もシャワーを浴びてリビングに入ると、母さんと智花が朝食の用意をして待っていてくれた。

 

「はぅぅ……雨、なかなか止みませんね……」

「午後からは止むみたいだし、それに学校の部活は体育館でやるから……残念だけどそれまでバスケはお預けだね」

「智花ちゃん、せっかくだから学校行くまでは、家で雨宿りしていったらどうかしら?」

 雨で気が滅入ってる俺と智花を気遣ってか、母さんがそんな提案をする。

 俺としても智花の都合さえ良ければ大歓迎だが……

 

「そ、そんな悪いですよ。いつも図々しく朝ごはんまで頂いてしまっているのに……」

「別に気にしなくていいって。母さんも人数が増えた方が飯の作り甲斐もあるって喜んでるんだし。もちろん智花にこの後、用事があるっていうなら、無理強いはできないけど」

「いえ……今日は、日舞も茶道のお稽古もないので、だけど部活前にお花のお世話をしないといけないので、少しだけ早く学校へ行かないといけませんが」

 そういえば智花は学校でお花係だったんだっけ。

 綺麗な花に囲まれながら、花の一つ一つに優しく微笑みかけながら、水やりをしている姿もなかなか似合いそうだよな。

 

「良かったら俺も一緒に行ってもいいかな?」

「ふぇ? いいんですか? 部活の時間に間に合わせないといけないので、いつもより少し早く行かないといけないですし……きっと退屈な思いをさせてしまいますよ?」

「智花と一緒なら絶対に退屈なんてしないって。あんまり役立てないかもしれないから、ジャマにならないようにだけは気をつけるけどさ」

「そ、そんなおジャマなんて!! えへへ、それではよろしくお願いしますね。昴さんっ」

 よし。智花をこのまま家に引き止めることに成功した。

 

「あらあら。二人とも仲好くて羨ましいわね」

「当たり前だろ。智花は俺の最高のパートナーなんだから。それに智花をこんな雨の中、外を歩かせるわけにいかないだろ」

「はぅぅ!? そ、そんな……ぁ、ありがとうございます……」

 あれ? なんで智花は両手を顔を抑えて俯いているんだ? 母さんまでなんかニヤニヤ笑いだしてるし。

 う~ん、なんか気まずさを感じる……

 

「と、智花。食べ終わったら良かったら俺の部屋に行こう。色々見せたいものもあるからさ」

「……は、はいっ。……あ、でも、お片付けしないと」

「あらあら。いいわよ~二人でごゆっくりね~」

「で、ですが……」

「智花はお客さんなんだから。母さんも言ってるんだし、気にしなくていいって」

 実際のところ見せたいものなんて、多分ほとんど出し尽くしてしまった気がするが、

 母さんから逃げるように、まだ気まずそうにしている智花の手を引き俺の部屋に連れ込んだ。

 

「うぅ……良かったんでしょうか? 私、昴さんのお母さんに礼儀知らずと思われてしまったのでは……」

「別にそんなこと思うわけないって。智花だって母さんの性格のこと、そろそろわかってきたろ?」

「ですが……」

「せめて俺の家くらいでは、もっと遠慮しないでくつろいで欲しいんだけどな。俺だって智花にいっぱい感謝してるんだしさっ」

 本当に小学生とは思えないくらい、礼儀正しくて慎み深い良い子だよなぁ。

 花織さんと忍さんの教育が良く行き届いている。というか、届きすぎだよな。

 もう少しくらい、年相応の可愛らしい隙を見せてくれてもいいのに。

 

「その……すでに昴さんのお家では、自分でも驚くくらいくつろがせて頂いてます。はしたないことだって思ってても、気づいたら気が緩んでしまっていたり……今日だってお部屋の中なのに、あんなに激しく体を動かしてしまって……」

「それだと俺は毎日家で、はしたないことをたくさんしてしまっているんだけどな」

「はぅ! す、すみませんっ! そういう意味で言ったわけでは……」

「ははっ。わかってるって」

 優しく髪を撫でると、少女がはにかみながら笑顔を向けてくれた。

 真帆達はもっとたくさん智花の笑顔を知っているんだろうな。

 智花も真帆達の色んな表情を知っているんだろうし、俺ももっとみんなの色んな顔を知りたいけど……あんまり踏み込み過ぎるわけにもいかないか。

 もしかしたら、俺の方はみんなが知らない彼女達の顔を知っているのかも知れないし、これからきっとそんなことがあるのかもしれない。

 

――なんて、さすがに考えすぎか。小学生の期間なんてあっという間なんだし、みんな卒業しちゃったら、これっきりになってしまう可能性のが高いだろう。

 

「あの……昴さん……撫でて頂けるのは嬉しいのですが……そんなに見つめられてしまうと恥ずかしいです……」

 ちょっとした感傷に浸りながら、撫でるのに夢中になっていて気づかなかったが、智花は笑顔から一転して恥ずかしそうに俯いてしまっていた。

 

「ごめんな智花。ちょっと考え事してたら、智花の髪、すごく撫で心地良かったから、つい夢中になっちゃってたよ」

「ふぇぇ!?」

 驚いたように顔を上げ、上目使いでこちらを見上げてくれるのはかわいいけど、多分、これはきっとやっちゃダメなやつだ。真っ赤になって本気で恥ずかしそうにしちゃってるし。

 年頃の女の子をベタベタ触りまわるなんて、普通じゃ絶対にできない……というかしちゃいけないことだよな。どう考えても。

 それで智花に恥ずかしい思いをさせちゃってるし……

 俺の方がもっと智花に慎み深く接するべきかもしれないと反省するべきだな。

 

 このまま俺が頭を下げても、また謝罪合戦が開催されてしまうだけだろうし、この際、さっさと話題を変えてしまおう。

 よし、せっかくだし、たまにはバスケ以外のことを話題にしてみようかな?

 


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