忍さんは心配性1
「昴さん……見て下さい。大きくなっても私のここ、ちゃんと通るようになりましたよっ!」
頬を赤らめ恥らいながらも足を大きく広げ、自分の成長をしっかり確認し褒めて欲しそうな上目づかいで俺を見つめてくる小柄な少女。
「あぁ、すごいよ。正直この短期間でここまで上達するなんて……くっ……やっぱ智花は最高だっ」
「はぅ……そ、そこまで褒めて頂けるなんて……で、でも……まだこれからですよ……このまましっかり見てて下さいねっ」
そのまま智花は前後運動を開始し、その動きに少しずつ体を馴染ませながら、徐々に速度を上げていく。
初めてした時は、俺をがっかりさせないようにと慎重すぎるくらいに、おっかなびっくりだったのに、今となっては、そんなことがあったのが嘘だと思うくらい、積極的に俺とのプレイを楽しんでくれている。
そして、わずか短期間で智花は遂にここまで来た。
ならばあとは俺もこの最高のパートナーと共に二人の高みまでどんどん上り詰めていくだけだ。
そうと決まれば――
「あ……す、昴さんそんないきなりズルいです!」
「はは。油断大敵……だっ」
俺から褒められ、すっかり自分の行為に夢中になっていた智花の隙を突き、主導権を奪うことに成功。
そのまま一気に智花の領域深くまで侵入する。
油断していたところを俺に攻められ、反応が遅れた智花が慌てて俺を受ける。
「あ……だ、ダメ……んっ……くぅ」
「智花もなかなか反応が良くなってきたね」
すでに半ばまで俺の侵入を許してしまっている状況だが、どうやらそれ以上深くまで進むのは難しいかもしれない。
「む~嘘です。昴さんだったら、絶対に今のもっと深くまで入れてましたよね。」
「ちょっと無理をすればできたかもしれないけど、正直今の智花相手だと、いきなりそこまで入るのはきついかなって思ってね」
「でも……ズルいのはダメですっ!」
おっと、どうやら智花の闘争心に火を付けちまったようだな。これはちょっと失敗だったか? と思ったが、すぐに考えを改める。
いや、この際だ俺も智花と最後の一瞬までしっかりと楽しませてもらうぜ。
――智花と滅茶苦茶バスケを楽しんだ。
「うん。レッグスルーもしっかりできるようになってたし、この調子ならすぐに今までのテクニックだって中学生になっても使えるんじゃないかな?」
「それならいいんですけど……初めて六号玉を使った時に昴さんの前で、お恥ずかしい姿を見せしてしまって……」
初めて六号玉を使ってレッグスルーを繰り返して決めようとしていた際に、何度か内腿にボールを擦らせてしまい細く白い肌を赤く腫らしてしまっていたことを思い出す。
その度に智花は羞恥心と悔しさで顔まで赤くしながら、必死に自分のテクニックを再現しようと頑張っていたっけなぁ~
普段から繊細な動きを得意としてるだけあって、少し玉の大きさが変わったという、誤差のせいでコントロールがぶれてしまっていたんだろう。
その幽かな差でも小柄な智花には影響が出てしまった。ただそれだけだ。
「それで、明日本当によろしんですか?」
「あぁ、智花の都合さえ良ければ家はいつでもOKだよ。母さんだって喜ぶし」
まだお互いに解放感の余韻に浸っている状態で、智花が少し不安そうに俺に確認を求めてくる。
十中八九、真帆と紗季の差し金だろうけど、朝練の前に智花が休みの日にまた俺の家に泊まりたいと言ってきたのだ。
智花を一日中独り占めできる権利なんて、俺としてはもちろん大歓迎だ。
智花がもう少しだけ大人だったら、今夜は寝かさないぜ。みたいな感じで、朝までコースでずっとバスケの試合映像みたり、バスケで熱く語り合いたいくらいだ。
「お母さんはご迷惑でなければ是非に。と言ってくれてるんですが、お父さんが……今日の夕飯の時にお母さんが一緒に説得を手伝ってくれるみたいです」
「そっか。まぁ、忍さんとしては大切な娘を男の家に泊めるのは気が気でないだろうからね」
「むー昴さんすごく優しいのに。前だって泊まるのを許してくれたんだから、今回だって……」
珍しく智花が膨れっ面をしているが、小さな頬をぷっくり膨らませていて、すごくかわいいらしい。
俺の視線に気づいたのか、慌てて顔を戻すがもう遅い。俺の脳内に、しっかりと君のレア顔を記憶させてもらったよ。
「す、すみません、昴さんの前で変な顔を見せしてしまいました」
「はは。智花のそういう顔、久しぶりに見せてもらったよ。失礼かもしれないけど、すごくかわいいって思っちゃった」
「ふぇぇ!? か、かわ……かわいい……」
いかん真っ赤な顔を両手で抑えながら震えている。もしかして怒らせてしまったか?
いや、怒ってるのにかわいい。とか言うなんて、失礼かも。じゃなくて間違いなく失礼に分類される発言だろ。
「ご、ごめん智花。またデリカシーないこと言っちゃって……」
「い、いえ……す、昴さんのおっしゃりたいことは伝わってますから……お、お願いですから、それ以上言わない下さい!!」
年上の俺相手に本当に怒ってしまいそうなのを必死に我慢してるんだな。
下手に声を掛けるよりは、智花の言うとおり、自分で気を静めてもらうまで大人しくした方が良さそうだ。
口に出せないなら、せめて心の中ではしっかり謝らないと。
ようやく落ち着いたのか、体の震えがおさまると、ゆっくりと智花が顔を上げる。
「え、えへへ」
あれ? 笑顔?
あの心優しい智花が怒りを通り越すレベルにまでなってしまう程のことを俺は言ってしまったのか!?
恐れ戦く俺に智花が優しく声を掛けてくる。
「もう~ダメですよ、昴さん。あんまり私が恥ずかしくなることばかり言わないでください。私、単純だから調子に乗ってしまうんですからっ」
「あはは……ごめん……ね?」
もしかして本当に怒ってない? むしろ喜んでくれてる?
万に一つどころか億に一つも怪しいレベルの可能性かもしれないが、その一縷の望みに掛けることにして、そろそろ話を戻そう。
「どうやら今回も忍さんを説得できれば、家に泊まれるってことみたいだね」
「はい……さすがに二度は難しいかもしれませんが、絶対諦めたくありませんっ」
「そっか。本音言うとさ、もし智花が乗り気じゃなかったら、俺も忍さんの考えに賛成するつもりだったんだけど、智花がそこまでお泊りを楽しみにしてくれてるんだったら、俺からは何もできないけど、せめて応援だけはさせてもらうよ!」
「!! ありがとうございます!! 私がんばっちゃいますよーーっ!!」
やる気に満ちた表情で智花が気合を込めている――やっぱ智花はこうじゃないとな。
「はぅ!? す、すみません……うぅ…また昴さんの前で、はしたない姿を……」
――俺はそのはしたない姿も大好きなんだけどな。
なんて言ったら、本気で怒らせてしまいそうだから、口が裂けても言えないが。
智花の名誉のために言っておこう。
この直後の発言は、はしたない自分のイメージを俺から拭い去るために、彼女なりに必死に自分の知識を総動員して考え抜いた末に思い付いた提案なのだろう。と。
「そうだ。紗季から教えてもらったんですけど、私、すごい床上手なんですよっ!」
「ぶっ!?」
思わず智花を見る。
え、智花さん、まさか……
戸惑う俺に気づかず智花は自信満々に話を続ける。
「私、前々からずっと思ってたんですよ。いつも昴さんや七夕さんにご迷惑をお掛けしてばかりなので、何かお手伝いできないかな? って」
いやだからってそのお手伝いはちょっと……智花にそんなことさせちゃったら俺、間違いなく忍さんにやられちゃうぞ? ――タマ的な意味で。
「もしよろしければ、私に昴さんのお布団のシーツ整えさせて頂けませんか?」
「……あ、あぁ。そういうことか……びっくりした……」
「?」
自分の発言に気づかずに、慌てている俺の様子を不思議そうに見ている智花。
わざわざこのタイミングでこの間違いを正す必要――というか、勇気はないな。
「あぁ! いやなんでもないよ! そうだね。智花が敷いてくれたシーツなら、きっとすごく寝心地が良さそうだね。うん」
「はい。お任せくださいっ――と、言ってもまずはちゃんとお父さんから許可を頂かないといけないんですが」
「しっかり説明すれば忍さんだってわかってくれると思うよ」
「はいっ昴さん、ありがとうございます!」
普段通りシャワーを浴び終えて一息ついたところで、最後の特大の誤爆弾発言に一抹の不安を拭いきれないまま、俺は家へと帰る智花の背中を見送るのだった。
前回の話に続き、ミニバスから中学用ボールへの変更ネタ。
ボールのサイズ表記が作中では最初のミニバス用の五号玉以外の表記がなかったと思う、というやや強引な屁理屈と独自解釈前提になっています。
実際はオールグリーンでの須賀戦で、すでに経験済みの可能性が高いと思いますが。