ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

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智花二回目のお泊り1

                ―交換日記(SNS)―

 

まほまほ『あしたもっかんは、あたしたちをおいてまたいっぽオトナにちかづいてしまうのか』

湊 智花『ふぇぇ!? い、いきなり何を言ってるの!?』

紗 季 『前は残念だったけど、今度こそ長谷川さんの家にお泊りするんでしょ。二回目の』

あ い り『に……二回目……やっぱり前に長谷川さんの家に泊まった時に……』

ひ な た『おーともかいいなぁーまたおにーちゃんにおとなにしてもらえるんだー』

湊 智花『みんないったい何を想像してるの!? 本当にただ泊めて頂くだけだよぉ……』

まほまほ『でも、こんかいはまえのもっパパのぶんもしっかりオワビすんだろ?』

紗 季 『私達はトモから聞いた話しか知らないけど、結構大変だったらしいわね。まぁ結果的に

     丸く収まったみたいで良かったけど』

あ い り『私もちょっとビックリしちゃった。前にお兄ちゃんも長谷川さんに思わず手を出してし

    まったことがあるって言ってたけど…』

ひ な た『ぶーみんななかよしがいちばんなのに。ケンカしちゃ、めっーなのー』

湊 智花『うん。でも昴さんにも七夕さんにも許して頂けて本当に良かった。お父さんもあの後、

     私にすごく謝ってくれたよ』

まほまほ『で、今回はそのオワビにすばるんにおっぱいもませんだろ』

あ い り『え!?』

紗 季 『あ、いいわね。それ、しかもお詫びついでに自分の胸を大きくしようなんて、なかなか

    いい手だと思うわよ』

湊 智花『ふぇぇ!? そ、そんなことするわけないでしょ!!』

ひ な た『おーいいなーひなもおっぱいもみたいー』

紗 季 『ま、何にせよしっかり楽しんできなよー。あ、ちゃんと報告は待ってるからね』

湊 智花『だからそんなことしないってばーーー!!』

 

                      *

 

 まだ早朝とも言える時間に長谷川家のインターホンが鳴る。

 この時間帯にこの音を鳴らす人物はたった一人しか心当たりがいない。

 

「おはようございますっ昴さんっ!」

「おはよう、智花。今日も早いね」

 ドアを開けると予想通り、来訪を心待ちにしていた少女が元気よく挨拶をしてくれた。

 はにかみながら見せてくれる笑顔がいつもより嬉しそうなのはきっと気のせいではないだろう。

 

――と思っていたら一転。表情を引き締め、こちらをしっかりと見つめると深々と頭を下げる。

 

「先日はお父さ……父が昴さんに大変なご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした!」

「あぁ。そういえば。それより大丈夫だと思うけど、帰った後でちゃんと仲直りできた?」

 智花に頭を下げられるまで本気で忘れてたな。

 確かに驚いたけど、あれくらいで済んだならマシな方だと思うし、むしろ俺としては智花と忍さんのわだかまりがしっかり解消されたかの方が心配だ。

 

「はい。昴さんのおかげで私と父もあの後、家でしっかりとお互いの気持ちを伝え合うことができました」

「それは良かった。蒸し返す様で悪いけど、智花にあんなこと言われて忍さんすごく傷ついてたと思うしさ」

「うぅ……あの時はすごく悲しかったんですけど、昴さんに叱って頂けて本当に良かったと思います。じゃないと……きっとお父さ……父に謝ることができなかったかもしれないです……」

「はは。俺に謝ってる時だからって、別にそんな畏まった言い方しないで、俺の前でなら普段通りお父さんって呼んであげなよ」

 忍さんだってその方がきっと嬉しいに決まってる。俺が忍さんをお父さんと呼ぶのは論外だが。

 

「ありがとうございます……私だけでなく、お父さんのことまで気に掛けて頂けて……やっぱり昴さんは優しいですっ」

「そこまで大したことはしてないよ。俺はただ智花にはいつも通り笑顔でいて欲しいだけだからさ」

 良かった。ちょっとずつ、智花もいつもの柔らかい表情に戻ってきてくれた。

 

「そ、それで……その。今回の事もですが、日頃から昴さんと七夕さんにお世話になっていますので、どうか受け取って下さいっ!」

 智花が抱えていた時点で察していたが、丁寧に風呂敷に包まれている、いかにもなお土産を差し出されてしまったが、中々対応に困る。

 

「わざわざそんな……俺も母さんも別に――」

「あら? わざわざありがとう智花ちゃん。あとで花織さんにもお礼の電話をしなくちゃ」

「――って、そんなあっさり受け取るのかよ!」

「え~だって、ありがたく受け取らせて頂いた方が、お互い気持ちいいでしょ?」

「わ、私もそうして頂けると嬉しい……です」

 まぁ確かに変に遠慮し合って、押し合い引き合いをするよりは、この方がすっきりするか。

 俺も智花とよく謝罪合戦をしてしまうが、どちらかが早めに引いた方がお互いもっと気持ちよく終われるのかもしれないし。

 母さんも意外と考えてるのか? 多分天然だと思うけど。

 

「それじゃ、昴くん受け取って」

「俺がかよ?」

「だって、せっかくの智花ちゃんからのプレゼントよ。私が受け取るより昴くんが受け取った方がいいでしょ」

「ふぇぇ!? あ、あの……その……今回はお店の物ですが、本番の時は……て、手作りの物をお渡しさせて頂ければと思います……」

 本番ってなんのだ? さすがに何度も頂くわけにはいかないぞ。

 そんなことを考えている間に智花が丁寧に風呂敷からお土産を取り出す――洋菓子の詰め合わせかな?

 てっきり智花の家のイメージだとお茶とか和菓子かと思ったけど、意外だな。

 もしかしたら、花織さん辺りが気を利かせてくれたのかな?

 俺も智花に倣って思いつく限り――と言っても全然そんな礼節なんて知らないから、俺の想像の限りで丁寧だと思う動きでお土産を受け取る。

 

「昴くんは幸せ者ね~」

「はぅぅ……」

 母さんはどこか楽しそうなのに対して、智花は少し慌てているような恥ずかしがっている……

 それでも二人の間では何らかの意思疎通がされていたみたいだし……本当になんだ?

 不思議そうに感じながらも、受け取ったお土産のその後を母さんに託したところで、俺はさっそく彼女を部屋に連れ込むとしよう。

 

 

「ドキドキします……またここに泊めて頂けるんですね」

「いや、別に俺の部屋じゃなくていいんだよ?」

「え!?」

「え!?」

 なんでそんな心なしか寂しそうな目を……

 実際は皆無だろうけど、俺の出来の悪い脳みそをひっくり返して考え抜いた末に引っかかった幽かな可能性を口に出してみる。さすがにないだろうとは思うけどね。

 

「……もしかして、また一緒の部屋で寝るつもりだった?」

「はい……てっきりまた昴さんのお部屋に泊めて頂けるのかと……ご迷惑でした……?」

 だからどうして智花はそんなに寂しそうに瞳を潤ませているんだ!?

 彼女の甘え癖を引き出しちゃったのは俺が原因なんだけど、もう少し異性に対して抵抗感を持ってもらわないと将来がすごく心配になってしまうぞ。

 智花みたいにかわいい子に甘えられたら、絶対に勘違いする輩が続出するだろうし。

 もっとも智花を甘えさせることができる権利を誰かに譲る気はさらさらないが――俺が一番智花を甘えさせられるんだ!

 

「迷惑というか……智花は俺と一緒に寝るの平気なの?」

「その……昴さんにぎゅってして頂きながら一緒に寝て頂くのも、とても魅力的ではあるんですが……多分ドキドキして寝れなくなってしまいそうなので、わがままを言ってしまいますが、またお布団をお借りしてもいいでしょうか?」

 うん。ちょっと説明を省いてしまったせいで、変な勘違いをさせてしまったが、寝る部屋が同じなだけで断じて一緒のベッドで寝るわけではない。

 さすがに夜寝るときに抱きしめるのは完全に意味合いが変わってくるのは俺でもわかる。

 もちろんそんなこと智花にするわけにいかないし、彼女が俺に望んでいることでもないだろう。

 まぁ、初めてのお泊り以外にも、同じテントの中で寝たことだってある仲なんだし、今回も後の彼女にとってちょっぴり嬉し恥ずかしの甘酸っぱい思い出くらいになればいい。

 

「それなら前みたいに布団には俺が寝るから、智花はベッドを使ってね」

「うぅ……今回も私が昴さんのベッドをお借りしないとダメなんですか?」

「やっぱ智花が下なのは俺としてもあまりいい感じがしないからね……頼むから智花が上になって欲しい」

「わかりました……今回も昴さんのベッドを使わせて頂きますので、くれぐれも粗相がないよう気をつけますっ」

 智花が下で俺が上という構図はどう贔屓目に想像しても、あまりよろしくない気がする。

 誰も見てないから気にする必要はない。と言われてしまえば、それまでだけど智花はお客さんだしねっ。

 

「さて、お互いの寝床が決まったところで、さっそく朝練始めよっか。先に庭で待ってるから、ゆっくり準備してきてね」

「はいっ。今日もよろしくお願いしますっ! ――えへへ……昴さんとずっと一緒にいられるんですよね」

 やる気に満ちた表情で目を輝かせているのは嬉しいけど、ハリキリ過ぎて無理しないように気をつけないとな。

 ちゃんと一回一回を大切にして、休むときはしっかり休まないと、無駄に体力を浪費するだけで不完全燃焼のまま終わってしまうかもしれない。

 せっかく俺も智花もお互いに全てを曝け出しあえる、楽しい時間を過ごしたいと思ってるのに、どちらかが満足できないで終わるようなことはしたくないし、させたくない。

 まぁ、最近は智花も俺の想いに気づいてくれてるから、それほど心配はしてないけどね。

 

 案の定、今日もお互いが気持ち良く楽しめる、とても充実した時間を過ごすことができた。

 俺が抜かれないよう抵抗してると、負けず嫌いの彼女が息を乱れさせ、顔を赤くしながらも、手や足、腰だけでなく、視線や幽かな仕草すらも利用して俺を抜こうとしてくれる様子を堪能できるのは、まさに最上級の贅沢と言ってもいいだろう。

 まだまだ抜かれるわけにはいかないけど、いつか彼女が俺を抜いてくれたら、お互いにとって最高の瞬間になることは間違いない。

 

――でも智花に抜かれたら悔しさのあまり、俺も思いっきり智花を抜いちゃうと思うけど。

 

 我ながらオトナゲナイとは思うけど、お互いに昇り詰めていく最高のパートナーとは言っても、俺だっていつまでも智花の目標であり続けたいからな。

 みんなの成長速度を間近で見させてもらってる立場からすると、本当に小学生の成長速度を羨ましく思えてしまうな。

 俺だってその時期があったし、同じくらい成長できたと思うんだけど、今の俺にどんどん肉薄してくる智花を始め、

 チーム全体のムードメイカーであり、持ち前の身体能力や飲み込みの速さで今も急成長中の真帆。

 状況判断に徹して常に最適解を選択できる冷静さ。かと思えば、みんなの気持ちを汲みしっかりとチームをまとめあげてくれる紗季。

 引っ込み思案だった自分を守ってくれた友達の役に立つためという優しい理由で真剣にコンプレックスに向き合い、遂に克服したかと思えば、すぐにその生まれついての才能を開花させ、常に新たな成長を続ける愛莉。

 自分を待ってくれているみんなと足並みを揃えるために、どこまでもひたむきな努力を続ける姿と、その独特な感性や個性で見る人を魅了する小さな天使、ひなたちゃん。

 これからもできる限りみんなの成長を見守りたいな。みんながどこまで成長していくかが本当に楽しみだし。

 

 

「昴さんっお待たせしましたっ」

 先にお風呂に送り出した智花が、お風呂上りの僅かばかり頬が紅潮している顔で俺を呼びに来てくれた。

 髪が生乾きみたいだし、急いであがってきたのかな?

 

「あぁ、ありがとう、智花。俺のために早く上がってきてくれたみたいだけど、ちゃんと髪を乾かさないとダメだよ」

 濡れた髪を優しく撫でると恥ずかしそうに俯きながら「すみません」と申し訳なさそうに呟く。

 さっきまではあれだけ激しく動いて俺を喜ばせてくれてたのに、まるで別人のように大人しくなってしまったな。

 

「俺を気遣ってくれてるんだから、怒ってるわけじゃないんだけどさ、もしこれが原因で智花が風邪を引いたりでもしたら、せっかくの楽しい時間を過ごせなくなっちゃうよ? そうなったら俺も残念だしさ」

「わ、私もです……昴さんと一緒にいられる時間が減ってしまうの……しっかり乾かしてきますねっ」

 紅潮した頬と生乾きの髪にどこか色っぽさを感じてしまったのは事実だが、そんなことよりも彼女の健康管理の方が大事に決まっている。

 智花に髪をしっかり乾かしてもらってる間に俺は自分の部屋に着替えを取りに行く。

 部屋の隅に置かれた、以前智花の誕生日に二つ名と共に贈らせてもらったスポーツバッグが普段よりも大きく膨らんでいる。

 それを見て、改めて智花が俺の部屋に泊まりに来たという実感が湧いてくる。

 

 あの時は全然心に余裕なかったし、智花にも窮屈な思いさせちゃったしな。

 俺を信じて智花を送り出してくれた花織さんや忍さんの信頼に応えるためにも、智花には思いっきり楽しんでもらわないとな。

 そんなことを考えながら、着替えの準備を揃え、俺は風呂場へと向かっていった。


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