ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

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棺よさらば2(完)

「ねぇねぇ昴。最近は色んな器具や道具を使ってやってみるのもいいみたいよ。すごく盛り上がるって聞くし」

「うーん。俺はやっぱりあまり不必要に道具は使いたくないかな」

「そうかなぁ? 私は結構面白そうだと思うんだけど……」

「確かに新しい刺激や興奮を得られるだろうけど、そればっかりに頼り過ぎちゃうと本来の楽しみ方が疎かになっちゃうんじゃないか?」

 この二人の会話は相変わらずというか、なんというか……すごく反応に困る。

 困惑する俺を無視して二人はなおも続けて行く。

 

「そこは昴の腕の見せどころじゃない? ……それとも自信ない?」

「なっ!? ふざけんなよ。確かに興味を引いたり、一人でする時にもちょっとくらいなら寂しさを紛らわせる事もできるだろうけど、一番いいのは相性抜群の相手がいる事に決まってんだろっ!」

「それはそうだけど……あーあ。ちょっとくらい新しい刺激を求めてみるのもいいかなぁって思ったんだけどなぁ」

「そこら辺はせめて軽く調べてからだな。興味本位で持ち出して思わぬ失敗をして恥かきたくないだろ」

 ……なぁ、いつもどおりバスケの話だよな?

 いや、決して他の意味になんて聞こえないし考えもつかないんだが。

 普段は疎ましく思うあの二人の存在が今この場においては非常にいて欲しいと思えてしまう。

 好き勝手に場を乱すが、それでもこういった類の会話のストッパーとしては、かなり重要な存在なのだと認識させられる。

 いない時になって初めてわかるそいつらの価値ってやつか……

 

「万里はどう思う? お前が一番色んな道具使ってるし、そういう経験も豊富だろ?」

「ごめんね。いつも私と昴だけで白熱しちゃって……万里君も遠慮なく混ざってくれて構わないんだよ?」

「俺に聞くなっ!? 経験豊富なんかじゃねぇよ!! ……ってか、お前らの会話に混ざれるかーっ!!」

 予想外の不意打ちに、思わず声を荒げてしまうと元凶の二人が勝手に驚きやがった。

 なかなか納得いかないが、なんとかこれで会話の軌道修正はできたことだろう。

 変な想像をさせられてすごい恥ずかしい思いをさせられたが……

 

 ……ったく、一成の奴がいる時は暗黙の了解みたいに話題選びにも慎重になってる癖に、いないとすぐこれだ。

 まぁ俺もあいつの前で妹達の話をするのは、なんとなく危険というか時期尚早な気もするから、それに関しては同意だが。

 

「でも、お前ん家ジムだし、いつも器具使って筋トレしてんだろ?」

「あぁ、それはしてるけど、あくまで筋トレだけで、バスケの練習では特に活用してねぇよ」

「まぁそうだよな。下手に愛莉が万里の真似をして無理な負荷掛けちゃって体壊しちゃ元も子もないか」

「あーそっか。私達ならともかくみんなまだまだ成長期だもんね。私と昴が実演して興味持たせちゃっても、まだみんなには早いからやっちゃダメなんて言ったらかわいそうか」

 道具を使って小学生達の前で何を実演する気なんだよこいつらは。

 

「……頼むから愛莉に変な事を教えないでくれよな」

 二人にそんな気がないのはわかってるが、どうしても心配になり、ついそんな言葉が出てしまったのは仕方ない事だ。

 

「変な事ってなんだよ。愛莉に関してはもうお前が専門だろ。お前がしっかり愛莉に体の使い方を教えてやれよ」

「私も最近は五年生の子達の方に付きっ切りになってるし、それに純粋に愛莉ちゃんに求められる技術なら私よりも、万里君の方がしっかり相手もできるもんね」

 珍しく昴が悔しそうな表情で、愛莉に関しては俺が一番だと言ってくれたのは嬉しい――嬉しいが……

 俺達のバスケの話なら問題なく会話ができるはずなのに、なんで愛莉達のバスケの話になると、この二人はこうも……

 

「――でも、昴。あの子達を変な目で見るのは絶対に許さないからね」

「葵まで何言ってんだよ? 俺はただみんなが、すくすくと成長している様子を眺める事ができるのがすごく嬉しいだけだ。まぁ、そこにほんのちょっとだけでも俺の手が加わっていると思うと喜びもひとしおだが」

「なに言ってんだか……それよりあんまり変な事言わないでよね。いらない誤解受けても知らないんだから」

 思わず「お前が言うな」という言葉が出そうになったが必死にそれを飲みこむ。

 

 ……というか、やっぱり荻山も一応は警戒してるんだな?

 その割には毎朝こいつの家に湊さんが朝練にいくのは容認してるのは少し不思議な気もするが。

 俺も確かに休部騒動のせいで心配ではあるが、俺よりも付き合いの長い荻山が大丈夫だと判断してんだったら、わざわざ俺が蒸し返す事でもないか。

 まさか愛莉から聞いた俺の方だけが知っていて、実は荻山は知らないなんてことは――

――さすがに……ないよな?

 

 結局何度か変な想像を駆り立てられそうな単語が飛び交いつつも、二人の間で今後の練習方針がまとまり始めたようだ。

 どうやら明日の部活に備えて更に煮詰めて行くつもりらしいが、愛莉の件もあるため俺は放課後になると同時に、昴と荻山に別れを告げて早々と帰路を急ぐ。

 いつでも愛莉が帰ってきて、俺に相談を持ちかける事ができるように心の準備を整えておかなくてはな。

 日課の筋トレに行く時間までまだまだたっぷりとあるし、それが終わってからでも一緒に来るか誘ってみるのもいいだろう。

 

 

――自宅に着くのとほぼ同じタイミングで家のすぐ近くに慧心学園のスクールバスも停車し、愛莉も降りてきた。

 

「お。おかえり愛莉。早かったな」

「えへへ。ただいま。お兄ちゃんもおかえりなさい」

「いいのか? 友達とゆっくり話してからでも良かったんだぞ?」

「う、うん。みんなからも早い方がいいって言ってもらえて」

 色々積もる話もあるのだろうが、いつまでも妹を外で立たせるわけにもいかないな。

 

「んじゃ、俺の部屋で話すか。ジムに行くのもどうせ営業時間が終わってからなんだし、着替えたらいつでも来ていいぞ」

「うんっ。ありがとうお兄ちゃん」

 ……妹と自然に話せるこの幸せ。

 すごく当たり前のはずなのに、どうして俺はこんな身近な幸せを手にする事を恐れてしまっていたのだろうか。

 絶対に手離さないためにも、しっかりと頼れるお兄ちゃんぶりをアピールしなくては!!

 

「お兄ちゃん、失礼しますね」

「おう。いつでもいいぞ」

 控えめなノックと遠慮気味な妹の声に気楽に入れるように声をかけたつもりだったが……少し乱暴な言葉過ぎたか?

 おずおずとだが、ゆっくりと開くドアにその心配が杞憂だったと安堵する。

 

「えへへ、お兄ちゃんのお部屋入るの、すごく久しぶりだなぁ」

「空いてる場所ならどこでもてきとうに掛けていいぞ」

 ……別に何もないよな?

 周囲を見渡す妹の姿にやましいものなんてないのに思わず自分も部屋を確認してしまう。

 俺の部屋にも自分と同じくバスケットボールが置いてある事に喜びを感じてくれたのはすごく嬉しかった。

 

「……男の人の部屋もやっぱり色々違うんだなぁ……は、長谷川さんの部屋とは少し違う雰囲気」

「あいつの部屋に入ったことがあるのか!?」

「う、うん。みんなで遊びに行かせて頂いた時とかに少しだけ……」

「まぁ。そりゃそうだよな……愛莉達のコーチだもんな……」

 愛莉がすでに他の男の部屋を知っているなんて……

 なんでだろうな……なんかお兄ちゃんすごく悲しい気持ちになってきたよ。

 

「お兄ちゃん?」

「あ……あぁ、いや。なんでもないんだっ。そ、そうだ。それより相談事ってなんだ?」

「その、背の事なんだけど……わ、私って……やっぱり大きいよね」

「……あぁ。愛莉を傷つけてしまうのは心苦しいけど、今のお前にならはっきり言える。確かに大きい方だ。俺も人の事は言えないけどな」

 兄妹揃ってバスケ選手として見ても十分に通用するくらいにな。

 

「そうだよね。うん。はっきり言ってくれてありがとう」

「悪いな。気にしてる事なのに……」

「そんな事ないよ。ちょっと前の私なら、すごく気にしてたし、すぐに泣いちゃってたと思う」

 それは間違いなく俺が原因だ。

 自分の罪悪感を誤魔化すために心無い事を言ってしまったのは今だって後悔している。

 

「――でも、泣いてる私を守ってくれたみんなや、同じ悩みを持ってる人がいる事や、大きい事を誇りに思ってる人もいるって知ることができた」

「そうか。本当に強くなったな」

「強くなんかないよ。ただ私を温かく見守ってくれたみんなのために役立ちたい。弱虫だった私から変わりたいって思ったから」

「その友達のために怖い俺にも勇気を持って話しかけてくれたんだろ。十分立派だよ」

 腫れ物に触れないようにと避け続けてしまってた俺なんかと比べて、友達のためや俺と仲直りをするためにバスケを始めようって決意して。

 その勇気のおかげで俺もお前と数年振りに仲が良かった頃の兄妹に戻れたんだ。

 

「もぅ。またそんな事言って。お兄ちゃんは本当は優しいんだってわかってからは全然怖くないよ……たまにちょっとびっくりしちゃうけど」

「はは。悪いな」

 こうやって妹と本心を気兼ねなく打ち明けられ、時に冗談交じりの会話を続けられる素晴らしい日々。

 あぁ。こんなにも幸せな日常がほんの少し手を伸ばすだけで届くところにあったなんて……

 

「それで、お兄ちゃんに聞きたいんだけど……やっぱり身長ってあればあるだけ……お、大きくなれるなら、もっと大きくなった方が……いいのかな?」

「俺だったら、そうだな。身長なんていくらあっても足りないくらいだし……ただ上背があるだけのひょろい奴じゃ話になんねーけどな。どんな相手にも力負けせずに思いっきりぶつかりあうためにもしっかり鍛えねぇとな」

 バカな俺はバスケくらいしか自分の特徴を活かせる手段を知らなかったし、競技は違うが親父に負けたくないと張り合ってたら、こういうプレイスタイルになった。ただそれだけの話だ。

 高校でバスケ部が休部になった時にバレー部の奴らからスカウトを受けてやってみたが、もしかしたらこういう出会いもあったのかもしれないと浮気しちまった事もあるけどな。

 

「そっか……そうだよね」

「でも、それは俺の考えであって、愛莉に押し付けるつもりはない」

「え?」

「俺の場合はバスケを第一に考えてるからだけど、愛莉はそういうわけじゃないだろ? バスケから離れた時すら自分の背を注目されるのはあんまり好きじゃないだろう?」

 今は友達とのバスケがあるからいい。だけど、もしバスケやスポーツから離れた時に、背の高い自分を少し考えて欲しい。そんな想いを込めて伝える。

 

「う、うん。やっぱりあんまり目立つのは苦手かな……でも、私もみんなとのバスケが大好きだし、みんなの役に立てるなら、無理に背を縮めようとしたり、大きくならないようにする必要はないのかな? って思うようになってきたんだ」

「愛莉はそれでいいのか?」

「うんっ。かげつちゃんや、硯谷の久美ちゃんに綾ちゃん。それにもしかしたら、私よりも大きい子だっているかもしれないから、そんな人達に負けないためにも、お兄ちゃんやみんなを見習わないとな。って思いましたっ」

 でも、やっぱりちょっと恥ずかしいから自分からは伸ばしたいとは思えないんだけどね。と照れ笑いをしながら続ける。

 

「俺もだけど親父達も聞いたら喜ぶぞ。やっぱり愛莉も俺達の家系だなってさ」

「えへへ。それで……その、もし私が、自分の背の事で心細くなっちゃった時とか……ほんのちょっとでいいんだけど……お兄ちゃんに甘えさせてもらっちゃってもいいかな?」

 

――!? 愛莉が……愛莉が…………俺を……俺に甘えてくれるだとっ!?

 

「ご、ごめんなさいっ! やっぱりご迷惑かな? み、みんなからは私達に泣きつくくらいならお兄ちゃんに行った方がきっと喜ぶって言ってくれてたんだけど……」

「そんな事ないぞっ! いつだって……今すぐでもいいぞっ! さぁ来い!! いくらでも思いっきり来いっ!! 俺が全力でしっかり受け止めてやる!!」

 愛莉の友達ナイスだ!! 本当はみんなだって愛莉の事をいくらでも慰めてやりたいはずなのに、その役目を俺に譲ってくれるなんてっ!!

 うぅ……本当に優しい良い子達に恵まれやがって。お兄ちゃんすごく嬉しいぞ。

 

「ひっ!? あ、え……えーと……それで、その……相談の事もあって少しお兄ちゃんにお願いしたい事があるんだけど」

「おうっ! なんでも言ってくれて構わないぞっ!」

 なんか一瞬愛莉が顔を引き攣らせたような気がしたが……気のせいだよな?

 

「自分が頑張って決めたことを少しずつでも始めようと思って……それで、お父さんにお願いして私のベッドを元に戻してもらおうかなって。なんかすごく渋ってる感じだったのに、私が無理にお願いして作ってもらったから、今更元に戻してってお願いするの一人だと心苦しくて……」

「あぁ。あれか。なんだったら、さっそく戻しちまうか?」

「え? あ、あれってお父さんが作ってくれたんじゃ……」

「実は俺も無理矢理付き合わされたんだ。でも、あの頃だと下手に俺がお前の物関わったと知れたら色々とマズい気がして黙ってたんだ」

 当然俺は関わることを断固拒否してたが、親父が「なんで父親の俺が娘の棺桶なんて縁起の悪い物作らなけりゃいけないんだ。お前も兄貴なら妹のために一緒に俺と同じ思いを味わえ」なんて無理矢理付き合わせやがって。

 まぁ、棺なんかと考えなければ、俺が作った物で愛莉を囲ってやれて、側にいられない俺の代わりに愛莉の事を守ってやれてる気はしたがな。

 

「そ、そうだったんだ……お兄ちゃんにも私の面倒な事やらせちゃってたんだね。ごめんなさい」

「気にすんなって。親父には後で話しておけばいいだろう。きっと親父だって喜ぶぜ」

「う、うん……ごめんね。せっかく作ってくれた物だったのに、どっちも私のわがままで……」

「だから気にすんなって。あんな狭いところに大切な妹が押し込められてる方が、兄貴としてはよっぽど辛かったんだ」

 愛莉が気弱なまま育ってしまったのだって、ほとんど俺のせいだと自覚してる。

 だからせめて自分の部屋や友達と過ごしてる間くらいは、そんなに体を縮こまらせる事なく、もっと自由にのびのびと過ごして欲しい。

 

「ありがとう。お兄ちゃんっ……私、少しずつだけど、きっと、もっともっとバスケが上手くなるから、だから私にいっぱい教えてくださいっ!」

「おうっ。任せとけ。なんなら、女バスの中でも愛莉にしかできないとっておきを教えてやるぜ」

「私だけ? ……智花ちゃんでも?」

「あぁ。湊さんでも無理だ。間違いなく愛莉にしかできないし、めちゃくちゃ注目されるぜ?」

 自信満々に、にやりと不敵に笑いかけてやる。

 俺にはそう言い切れるだけの確信――というよりも絶対的な事実がある。慧心学園初等部において少なくともバスケをやる者の中では、絶対に愛莉にしかできないことがある。

 

「うぅ……ちゅ、注目されるのはちょっと……で、でも、私に意識が集めるなら、その分きっとみんなが動きやすくなるんだよね?」

「あぁ。いいぞ。センターとしての在り方がわかってきてるな。初めの内は緊張するかもしれないけど、慣れてくればどんどん快感に変わってくるぜ」

 できることなら、愛莉にもその快感を味わってもらいたい。きっと残り僅かな今しか味わうことができない体験だが、それでも絶対に愛莉の自信にだって繋がると信じている。

 

「でも……そうだな。仮に試合中にいきなりやって注目集めちまっても、その後ガチガチになっちまったら、試合どころじゃなくなっちまうか。せめて後半の最後辺りに狙えそうな機会があったらやってみるくらいで、少しずつ慣らしてく程度の気持ちでいいと思うぞ」

「そ、それくらいなら……う、うんっ。お兄ちゃんのとっておき私に教えてくださいっ」

 強い決意を宿した瞳で俺を見つめてくれる妹に、ますますの成長を期待せずにはいられない。

 いつまでもずっと大切な妹の成長を見届けながら、一緒に同じ道を歩んでいきたい。

 

「うしっ。まずはベッドから始めるか」

「うん……あ、私も、お手伝いさせてもらってもいいかな? お別れは寂しいけど、今まで私の事を守ってくれた気がするから。ちゃんと今までありがとう。って伝えたいんだけど……いい?」

「そ、そうか……おうっ。それじゃ、一緒にやるか。手伝ってくれ」

 俺の独り善がりかもしれないと思っていたけど、ほんの少しでもお兄ちゃんとして、愛莉の事、守ってやれてたんだな……

 俺は二度と求めるように伸ばされた手を突き放すような事は絶対にしないと心に誓うのだった。

 

 

「ちくしょーっ! なに兄妹だけでせっかくの一大イベントを終わらせやがってんだよっ!! 俺も混ぜろよな!!」

 そして、全てが終わり、二人でジムから帰ってきた時に親父に報告すると、心底悔しそうな親父の声が帰ってきた。

 日々力関係をはっきりさせてやると挑まれては辛酸を味あわされ続けていた相手である親父を俺が初めて出し抜けた瞬間だった。

 最高のイベントに完全に出遅れてしまった事にめちゃくちゃ悔しそうにしてるのがすごい痛快だったぜ。




今後も多少時系列が不明瞭な話が続くかと思いますが、できるだけ前後の話で関連性を付けずに単体で読める物にしていきたいと思います。
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