「もっかんだと思った? 残念まほまほでしたーっ!!」
清々しいまでの笑顔と両手にピースを決める真帆。
天真爛漫な彼女らしさが出ていてとても可愛らしいと感じたのだが、
「あー長谷川さん。いきなりこいつでウザかったらチェンジでいいですよ」
「おいこらっ」
どうやら彼女の幼馴染には少々不評だったようだ。
まぁ、人によっては『あざとい』と感じてしまうものかもしれないか。
柿園や御庄寺あたりならわかっててやりそうな気もする。
まぁ、その時ならばこちらも遠慮なく言える。チェンジ。
もちろん今回はノーチェンジ。一発勝負だ。
「最初は……真帆か」
「くふふ。あたしがトップバッターだよんっ。すばるんっ!」
対峙した少女はどこまでも楽しそうに笑っていた。
俺とオトナのゴールを使って、オトナの勝負をするのが楽しみで楽しみで仕方ないのだろう。
俺だって同じ気持ちだ。
さて、まずはじっくりと真帆の成長具合を確かめさせてもらうとしよう。
「真帆から攻めたいよな?」
「もちろんっ。あたしが攻めでっ! センテヒッショーだっ!!」
お互いのスタート位置に付くと、すぐに飛んできたボールを返し、試合開始。
手足を広げながら、軽く腰を落とし構える。
その場でドリブルをしながら隙を窺っている真帆をこちらからも俯瞰的に観察する。
やや落ち着きなくキョロキョロとした視線をこちらに送っているものの、ドリブルを継続している手元には全く乱れがない。
若干攻めに急ぎ過ぎている感じもする――だがそれがいい。
真帆の瞳がぎらりと輝き、気配が変わる。導火線に火が付いたようだ。
彼女の二つ名はファイヤー・ワークス――打ち上げ花火。
下手に足を止めて悩むよりも、一度打ち上げたのならあとはそのまま一気に咲き誇るだけ。
自分よりも大きな相手に怯むことなく果敢に攻めてくるその姿に、やはり真帆が最初の相手で良かったという自分の思いが確信に変わる。
弾け飛ぶような爆発的な加速力で一気に距離を詰めてくる。
彼女のテンションは今まさに最高潮まで上り詰めようとしている。
ベストコンディションで会心のドライブを繰り出してきたのだ。
どこまでも真っ直ぐで、思い切りの良い、彼女らしさがすごく良く出ている。
――故に。
「あ……」
「よっ……と。うん、なかなか速くて正確な動きだったよ」
その軌道が読みやすい……が、そんなのは些細なことだ。
あくまでも俺が日頃からコーチと言う立場で真帆の動きを傍からよく見させてもらっているから対応できるのであって、これを初見でやられる側からしたら中々辛い物があっただろう。
まぁ今回は癖や動きを良く知られてる俺が相手だったから、見切られてしまったわけだが。
何にしても、わずか一年足らずで、よくここまでの物を身につけられたよな。
小細工抜きで純粋に今の彼女の全力でぶつかってきてくれたことが、すごく嬉しかった。
これも真帆のひたむきな努力の賜物か。
「あ。じゃないでしょっ。あんなバレバレな動き、長谷川さんに通じるわけないでしょうがっ」
真帆にダメ出しをしつつも、興奮が抑えられないといった感じの紗季。
きっと自分だったら、ああする。こうするといくつもパターンをシミュレートして、早く試したくてうずうずしているんだろうな。
「あたしだって最初は色々考えたけどさ、もっかんみてーにキヨーじゃないし。それなら、ヘタなコザイクなんかしないで、おもっきしイっちゃえっ。って思ったんだ」
「真帆の動きもすっごく良かったよっ。とても早くて真っ直ぐなんだけど、もしここでフェイクが入ってきたら? って考えちゃったら、きっと追いつけなくなっちゃうと思うよっ」
「おー。まほ、とってもはやかったよー」
珍しく智花もやや興奮気味になっているが、俺と同じくらいかそれ以上に真帆の成長ぶりを目の当たりにできたのが嬉しいのだろう。
ひなたちゃんもびっくりした様子で彼女を賞賛している。
実際に対峙させてもらった俺としても、猪突猛進な感じが初めて相手をした智花とそっくりな感じがしていた。
「今回は俺に止められちゃったけどさ、今のを止められる相手なんてそうそういないぞ。もちろん色々工夫することも大切だけどね」
「わかってるってっ。今回はすばるんと1対1だったから、セーセードードーマッコーショーブだったけどさ、みんながいる時はいっぱいキョウリョクプレーするに決まってんじゃんっ!」
「だよなー」
見てるこちらも気持ち良くなるくらいの良い笑顔を見せてくれた少女の頭をぐりぐりと撫で回す。
俺の愛撫に目を細めている少女は、上背こそは平均以下かも知れないが、それを補う以上の身体能力と素質を兼ね備えている。
エースという立場は純粋な経験値や同等の身体能力を持っている智花に委ねているが、ある才能に置いては彼女は智花どころかこのチーム1のものを持っていると俺は確信していた。
それは『仲間への絶対的な信頼』だ。
もちろん自分の実力にも自信を持っているだろうけど、真帆はそれ以上に自分が仲間と決めた相手をとことん信じているのだ。
そんな彼女がいたからこそ、このチームは一人一人が自分の持ち味を最大限に発揮したチームプレイを可能にし、時にはそれが格上の相手すらをも凌駕し得るのだ。
さて、そんな彼女たち最大のアドバンテージを発揮できない状況。
加えてコートの広さもバスケの高さも普段のミニバスとは違う一般のバスケのものだ。
例え俺がディフェンスの時はジャンプを禁止にしても、それでも俺に有利な環境というのは変わらない。
だが、今回の勝負はガチンコを超えたガチガチンコ。
そう銘打ってしまった以上、俺も絶対に手を抜くようなことはしないと決めている。
「それじゃ、今度は俺の攻めだな」
「ねぇ、すばるん?」
「ん? なんかあったか?」
互いの立ち位置を入れ替えボールを求めるように手を前に出していると、真帆が何か聞きたそうな顔をしていた。
「すばるんが攻めの時ってさ、絶対にあたしら抜いてからじゃないとジャンプもシュートも禁止なんだよね?」
「そうしないと勝負が成立しないだろ」
「ほぇ?」
あ、わかってなかったのか。
きょとんとした表情の真帆からボールを受け取ると、その場でシュートを打つ動作を見せる。
それで彼女も理解したようだ。
今は3pラインより少し後ろ位の距離だが、そこから少し前に進むだけで俺は自分の射程距離からシュートを撃つことができてしまうのだ。
それ自体はそこまで大きな問題ではないのだが、愛莉はともかく俺と少女たちとの身長差が致命的すぎた。
30cm近い身長差ではいくら少女がシュートブロックしようと飛び回ったところでほぼノーマーク状態といっていい。
仮に彼女が俺に密着ディフェンスを試みたとしても、俺は後ろや横に避けてしまえばそれまでだ。
なにより小学生たちが必死に俺から離れないようにと密着してくれてる状況を俺の方から引き離すという行為自体、めちゃくちゃ心苦しすぎる。
そんな思いをするくらいなら、いっそ無しにした方がお互い気持ち良くプレイができるというものだ。
加えてシュート警戒に大きく意識を割きすぎてしまっていると、今度は注意力が散漫になっている正面からいくらでも抜き放題になってしまうのだ。
もはやガチンコどころかただのゴリ押しのパワープレイ。ただの一方的な蹂躙だ。
そんなものを俺は望んではいない。
「というわけだ。ま、本当は外からのシュートの駆け引きもあるんだけど、俺の攻めの時に関しては今回はそこは考えなくていい。その分、俺に抜かれないよう、中に入り込まれないよう集中して欲しい」
「わかった。くふふ、ぜったいすばるんを中に入れさせないかんねー」
言いながら手足を広げしっかりと俺を受けるための体勢になる。
隙あらばボールに飛び掛かってそうな気配に両手でしっかりとボールを構えつつ思案。
そして、ゆっくりとボールから手を離す。
こぼれ落ちるように落ちて行ったボールが地面にぶつかり上に跳ね上がる。
それを再び地面に軽く押し返す。
まるで子供が毬を突くような、かなりゆったりとしたドリブルを開始する。
パッと見、隙だらけの俺の姿に、すぐにでもボールに飛びつきたい衝動を必死に抑えながら、焦れったそうにしている真帆。
予想通りの彼女の性格的にも効果覿面だったようだ。
必死に俺の動きを見逃さないようにしているが、集中力が徐々に乱れ始めている。
俺との対峙直後はしっかり閉じられていたが、徐々に真帆のディフェンスの穴が見えてきた。
じわりじわりと彼女の意識が弱い部分が広がってきているのが手に取るようにわかる。
彼女の穴が十分に広がったのを確信し、俺は――
真帆の意識の外を縫うように一直線に彼女の穴へとするりと体を滑り込ませていく。
別に速さを意識して動く必要はない。
ただ一筋の風が吹き抜けただけのように、極々自然で当たり前のことが起きたように。
抵抗なく通り抜けることに成功し、そのままふわりと跳躍しレイアップを決め、試合終了。
よし。今のは多分かなり良かった。
内心で自分の攻めにかなりの手ごたえを感じている一方で、
「ぐぅぅぅ~。すばるんのそれ、なんかずりぃーぞっ!」
真帆が恨めしそうに唸り声を上げていた。
やはり今回も抵抗する間もなく、あっさりと抜かれたのが悔しいんだろうな。
まぁ、俺の方はそれが目的なのだから仕方ない。
「俺の動きどうだった?」
「見えてたのに、全然動けなかった。頭の中ではすばるんが動いてるから、ちゃんと受け止めなきゃ。って思ってたのに……うぅ~やっぱなんかすっげぇナットクいかないぞぉ~っ!!」
最初のディフェンスの時も、そして今も俺はしっかりと真帆の気配の変化を見極め、上手く誘導することができたのだろう。
まぁ、結果的に真帆にとってはかなり不完全燃焼な形で決着を付けられてしまったようだが。
「…………なんなら、もう一回するか?」
名目上はガチンコ勝負であり、何より他の子たちの順番を待たせてしまうのは申し訳ないとは思うものの。
物足りなさそうにむず痒い思いを感じているだろう真帆の表情を見て、思わず再戦を提案してしまった。
「んーん。あたしだけトクベツアツカイはダメだし。ルールは守んなきゃね。あとはすばるんの動きスミズミまでカンサツしてすばるんの弱いところゼッタイ見つけ出してやるかんねっ」
そう言い、あっさり二回戦のお誘いは断れれてしまった。
結果的には他の子たちに不平等を感じさせずに済んだのだが、フラれてしまって感じがして少し悲しい。
「そっか。いつだって勝負の受け付けはしてるから、遠慮しないでいつでも来てくれよ」
コートの外へと出て行く真帆の背中に期待の声を掛けながら見送る。
実際との所、純粋な小学生の目に全てを曝け出すというのは意外と危険な行為かもしれない。
その純粋無垢な視線に映る俺は、いったいどんな姿をしているのだろうか。
自分では自然体で振る舞っているつもりでも、身体の一部がひどく緊張してしまっている可能性だってある。
致命的な弱点を見抜かれ、そこから一気に崩されてしまうことだってあり得るのだ。
だが、それは見方を変えれば、小学生たちに早い段階で俺の弱点を教えてもらえるチャンスでもある。
まぁ、小学生に俺の至らない部分を見つけられるという羞恥プレイに怯える日々を過ごすことにもなるのだが。
もっと大事な局面で、そんな大ミスを仕出かしてしまうよりもマシだ。
小学生たちとの経験で目覚めることができた俺の静のバスケ。
まだまだ俺の技術として確立するにはあやふやな域を抜け切れてはいないのも事実。
身を持って教えてくれた彼女たちの期待や想いに応えるために、何より今後の俺自身の成長のためにももっともっと磨きを掛けなくてはならない。
そのためにも俺はもっともっと彼女たち小学生たちとの経験を重ねなくてはっ。
真帆との経験同様に、他の四人との実戦でも成果を得て、必ずみんなが胸を張って誇れるような男として大きく成長するんだ。
「次はひなたちゃんか。お手柔らかにね」
彼女と入れ替わるように両手を上げながら元気よくコートに入ってきた少女に優しく微笑みかける。
言っておくが決して油断しているわけでは断じてない。
かわいい天使の降臨に頬を緩ませてなんかいない。
「おー。まほのかたきうち、ひながするよー。おにーちゃん、おかくごー」
ひなたちゃんも俺に得難い経験を十分に積ませてくれるに違いない。
お返しに俺もたっぷりとひなたちゃんに、俺の知識を教えてあげるようにがんばらないとな。