ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

8 / 51
イメージとしてはアニメ版一期最終話の硯谷との交流戦後です。
多少原作やアニメ版と一部展開が変わっている部分があるかと思います。


シュートからゴールへ

 初めての他校(硯谷女学院)との交流戦。結果は惜しくも負けてしまった。

 以前、男バスとの部の存続を賭けた女バス初めての試合や球技大会でも勝つことができていたのだから、心の中ではきっとまた今回も勝てるだろうと思ってしまっていたんだと思う。

 終了を告げるブザーが鳴り響く中、紗季から放たれたシュートがゴールから弾かれてしまった瞬間、体が震えあがっていた。

 立ち尽くしていた私に真帆がすぐに駆け寄って「惜しかったな、もっかん」と優しく声を掛けてくれたおかげで、すぐにただの勘違いに怯えていたことに気づけた。

 あの時の私は試合に負けたら、私達の部活が――バスケが終わってしまう。そんな恐怖に身を引き裂かれそうになってしまっていた。

 

 もちろんあの時と違ってみんなと一緒にいられるし、大好きなバスケだって続けられる。という安心感にどこかホッとしてしまったけど、やっぱり負けてしまったのは悔しいし、もっともっと頑張らないとっていう気持ちだってある。

 何より、これまで私達を信じてたくさんご指導して頂いた昴さんの気持ちに応える結果を出せなかったことに申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。

 試合が終わった後も、昴さんは決して私達を責めずに、労いの言葉をかけて下さったり、自分の指導力不足だったと、まるで責任を昴さん自身が全て背負おい込もうとしていらっしゃるようにみえた。

 

 

 あれからも朝練には付き合って頂いているけど、どこか落ち込んでしまっているような辛そう表情をしているようにみえてしまう。

 いつもより口数は少なかったけど、それでも私の事を気遣い優しい言葉をかけて下さる昴さん。

 これ以上昴さんの元気のない顔を見るのが辛かった。

 

「それじゃ、午後からそっちに行くからよろしくね」

「はい。部活でもご指導よろしくお願いします」

 結局今日も、何一つ気の利いた言葉を掛けることができなかった自分が不甲斐ない。

 ずっと昴さんのお側に居たい気もするけど、多分、隣に居るだけで余計な気苦労をかけてしまいそうな気もしてしまう。

 どうするべきか迷っていたところに真帆から、みんなでお気に入りの公園に集まることになった。という呼び出しを貰えたのは幸いだったのかもしれない。

 そして私は元気のない昴さんを見続けることから逃げてしまう罪悪感を拭い切れないまま昴さんのご自宅を後にした。

 

 

 集合場所だった公園に到着するとベンチに並んで腰を下ろしている真帆達が四人で何かを話しているようだった。

 私がこの学校に転校してくる前から、すでに四人は友達だったのだから当たり前だけど、みんな笑いながらとても楽しそうに話している。

 

「こらーっもっかーん!! なんでそんな離れてるとこで見てんだよーーっ!!」

 私に気づいた真帆が大きな声で私を呼ぶ。

 そういえば、真帆がいつも私のことを気にかけてくれていたから、みんなとも友達になれたんだよね。

 

「よし! そんじゃさっそくはじめっかっ」

「はーいっみんな揃ったし、緊急会議始めるわよー」

 みんなに挨拶をしながら、同じベンチに腰を下ろすとすぐに真帆と紗季が高らかに宣言する。

 

――テーマは昴さん抜きの私達五人だけの秘密の反省会。

 

 真帆の謝罪を皮切りに――

「まずは……みんなごめんっ!! すばるんがせっかく立ててくれてた作戦をダイナシにしちゃって、ホントごめん!! うぅ……ホントはすばるんにもあやまりてーんだけど、ゼッテーすばるんはあたしを甘やかしちまうから今はダメだって、サキに口止めされてんだよなー」

 

――続いて紗季。

「最後のラストシュート。あれを決められなかったのが本当に悔しい。みんなが……トモが最後に私を信じて託してくれたのに、長谷川さんや美星先生は運が悪かっただけで最高のシュートだったって、おっしゃって下さったけど、それでも決めることができなければ意味がない。だから絶対に今度こそ決めてみせる!」

 

 紗季の反省と強い決意に続き愛莉が口を開――こうとして、真帆がそれを遮る。

「アイリーンとひなは別に今回わりぃとこなかったし別にいいんじゃね?」

「そっそんなことないよ!! 私だっていっぱい反省しないといけないって思ったことたくさんあるんだよっ」

「ぶーひなもみんなとはんせーかいしたい」

「ちゃんとみんな思うところあるだろうから、話させてやりなさいって」

 

 紗季が真帆を窘めたところで、改めて愛莉が想いを告げる。

「みんなからも、長谷川さんにも私にいっぱい負担掛けちゃったけど、よく頑張ってくれたって褒めて貰えたのは嬉しかった。でも、やっぱり私は勇気が足りなかったと思う。本当はもっとしっかり足を踏ん張って止めないといけなかった場面だってたくさんあったと思う――ううん。絶対にあった。怖い気持ちはあるけどもっともっと勇気を出さないと。って思いましたっ」

 

 初めて愛莉と出会った時には、無配慮な言葉で愛莉を傷つけてしまったけど、そんなことがあったことが信じられないくらい、今の愛莉はとても堂々としている。

 きっと愛莉はこれからも、もっともっとセンターとしての力を成長させていくことを確信すると同時にその才能に羨ましさを感じた。

 

「おー今度はひなのばんー。ひなはおにーちゃんとのヒミツトックンでおぼえたカッコイーシュートを決めることができてうれしかったです。でもでも、もっともっとみんなのお役に立てるよーにがんばりたいです。みんなよりもヘタッピなひなは、みんなのゴキタイに応えるためにもがんばらざるをえないっ」

「なー。別にアイリーンもヒナもハンセーするとこなんてねーじゃんかっ! これからもあたしやもっかんを見習ってマジメにレンシューすればどんどんうまくなって今度こそチビリボンチームをやっつけれるんだしさっ」

「まてっ聞き捨てならないわね。トモや愛莉はともかく、あんたとひなはたまに余計なこと仕出かして長谷川さんを困らせてんでしょーが!」

 昴さんとの秘密特訓で新しいシュートを教えてもらっていたことを改めて羨ましく感じながら、ひなたの反省を聞いていたら、やっぱり真帆が二人の話に水を差して紗季を怒らせている。

 

「あたしとヒナはみんなとのチームワークコージョーのためにやってんだぞー」

「おーそうだそうだー!」

「はぁ……もういいわよ。でもあんまりハメを外しすぎて迷惑だけはかけないようにね」

 真帆とひなたの抗議に諦めたように返す紗季。実際この二人のおかげでみんなが仲良くなっているのは事実だから仕方ないと割り切っているのかもしれない。

 

「じゃ、さいごはもっかんだな」

 真帆の一言に自然と私への注目が集まったように感じた。

 

「わ、私は……その……初めの頃と比べてみんなどんどん上手くなってきてるんだし、信じて付いてきてくれたみんなのためにも私自身がもっともっと頑張らないと。って思いましたっ」

――そして、みんなや昴さんの悲しい顔を二度と見なくて済むように。

 

「それだけ?」

「ふぇ!? ……え、えっと……」

 紗季の本当はもっと言いたいことがあるんでしょ。とでも言いたげな視線に思わず言葉を詰まらせてしまった。

 

「この際だからはっきり言うけど、トモはせめてバスケの時くらいは私達に遠慮しなくてもいいんじゃない? 真面目にバスケを始めてわかったんだけど、今まで私達に遠慮してほとんど本気を出せなくて、とても窮屈な思いをさせてしまっていたんだと気づいた」

「もっかん。私達とバスケするのはすっげー楽しそうだけど、たまに物足りなそうな顔してんぜ」

 紗季と真帆の二人に詰め寄られてしまい、返すべき言葉を必死に探す。

 今まではみんなと楽しむバスケをするだけですごく充実した日々を過ごせていたけど、その幸せな日々を脅かす出来事があった。

 そんな中、出会ったその人は今の自分が持てる全ての実力を出し切っても未だに遠く及ばない尊い存在。

 

 あの日を境に少しでも昴さんに追いつけることを目標に再び燃え上がらせることができたバスケへの情熱に力を入れているのは本当だ。

 

「で…でもみんなとのバスケが大切だし、本当に大好きなんだよ!!」

 それも胸を張ってはっきりと言える。

 

「私達だってトモのこともバスケのことも大好きだよ。最初の頃はトモと私達の間で楽しむバスケと勝つためのバスケで考え方にずれがあったのかもしれないけどさ。もう私達だって、そろそろトモが本当にやりたかった勝つためのバスケに参加させてくれてもいいんじゃない?」

「で、でも……」

「だいじょーぶだってもっかんっ。もっかんのおかげでみんなバスケ大好きになったんだしさっ」

「うん。今まで智花ちゃんがいっぱい私達を引っ張ってきてくれたんだから、私だってもっともっと智花ちゃんの役に立てるバスケができるようになりたいっ」

「おー楽しむバスケもまだまだいっぱいやるけど、勝つためのバスケもいっぱいやって上達せざるを得ないっ」

 

 本当にいいの? 私きっとまた失敗しちゃうんじゃ……みんなを失ってしまったら、もう私立ち直れなくなっちゃうよ……

 きっと自分でも泣きたくなるくらい、すごく情けない顔をしていたんだと思う。そんな顔を見られてしまったのは恥ずかしいけど、真帆が――

 

「そんなしんぱいそーな顔すんなって、もしもっかんがあたしたちにムリなことをキョーヨーしようとしたらすばるんが止めてくれるからさっ」

 

――たった一言で私の不安を全てかき消してしまった。

 

「まったくここぞって時にもっていくわね」

「にししーだって、このサイッコーのメンバーをそろえたのはあたしなんだぜ!!」

 バスケから離れるために転校した私に、バスケのために声を掛けてくれた。

 そしてあっという間に紗季、愛莉、ひなたをチームに入れてしまい、私を再びバスケへと導いてくれた。

 

「まぁ、そこら辺の功績は認めてあげるわよ。トモも知ってると思うけど、やり口がほんと強引だったけどね。誘ってもらってバスケを知ることができたのは感謝してる」

「えへへ。そうだよね。私とひなたちゃんは真帆ちゃんに助けられてた同士で仲良くなったけど、紗季ちゃんや智花ちゃんとも、友達になれたのはバスケを始めたおかげなんだよっ」

「おー! ひなもまほやあいりだけじゃなくて、さきやともかとも仲良しになれたのすっごくうれしーよー」

「な、なんだよーみんなして、そーゆーのは、かゆくなるんだからやめろよー」

 恥ずかしがってる真帆に素直な感謝を述べながらも、みんなが今にも泣きそうな私のことを温かく見守ってくれている。

 

「うん……うんっ……ひっく……」

 怖くて泣きそうだったのは必死に我慢できたのに、嬉しくなったとたん全然我慢できないよ。みんなの前で泣くのなんて恥ずかしいのに……

 泣き出してしまった私をみんなが優しく抱きしめてくれた。

 

――後ろから抱きしめてくれている紗季が優しく語りかけてくれる。

 真帆のおかげで私達と友達になれたと思ってるから真帆に一番心開いてるかもしれないけどさ、それはみんな同じなんだよ。

 たまたま同じクラスの四人が知り合いだった所に最後に智花が来てくれた。

 それまではみんなバスケ一つでここまで仲良くなれるなんて思わなかった。

 最初は私が真帆に引っ張り回された者同士って感じで、みんなを誘導して上手く仲良くなれるようにって張り切ってたつもりなんだけどね。

 でも、そんな必要はなかった。だってみんなすぐに打ち解けられたんだし、私もつい夢中で楽しくなっちゃったんだから。

 トモが私達にバスケを教えてくれたおかげで、こんなに仲良くなれたんだからトモが私達に遠慮する必要なんかない。

 トモが私達に感謝してるくらい私達だってトモに感謝してるんだよ。

 

 

――みんなを温かく包み込みながら私の頭を優しく撫でてくれる愛莉が続く。

 正直言うと、初めて智花ちゃんのバスケを見た時はすごく迫力があって少し怖かった。

 でも、普段は私みたいにおとなしい子がこんなに強くかっこよくなれるなんて。っていうのがとても羨ましかった。

 智花ちゃんと一緒にバスケができたら、私もこんな風に自分に自信を持って堂々とできるのかな?って思ったんだ。

 だから迷惑じゃなかったら、これからもたくさんバスケを教えてね。

 初めて言われた時はびっくりしちゃったけど、これからは智花ちゃんや長谷川さんと葵さんが私に自信を持って勧めてくれたセンターとして頑張るからっ。

 

 

――私よりも小柄なひなたが全身でしがみ付くように抱きしめてくれている。

 ともかーうれしーときは泣いちゃだめだよ。

 ともかが泣いてるとひなもかなしくなっちゃうよ。

 それでね。今度はひながお話する番だよね。

 初めてともかのバスケを見た時、ともかすっごくかっこよかった。

 まほのおさそいでバスケをはじめた時もひなは足おそいし、運動できなくてダメダメでした。

 それでも、ぜんぜん怒らないで、ひなのことも仲間に入れてくれたことにすっごく感謝です。

 だからひなはみんなのこと大好きだよ。

 

 

――泣き出してしまった私を真っ先に正面から抱きしめて、照れたような眩しい笑顔の真帆。

 もー! なんでみんなしてあたしが照れてる間にすきほーだい言ってくれてんだよー

 おかげであたしはなに言えばいーかわかんなくなっちゃったじゃんかっ。

 あー! もぅー! いいや!! こーしきせんなんてかんけーねぇ!!

 これからもあたしたちのバスケをずっとずっとやり続けるぞ!!

 だからもっかんもあたしらにエンリョなんかしねーで、どんどんすっげぇプレーをやってみんなをビックリさせちゃえ!!

 

 

「みんな……ありがとう。私……みんなと知り合えて、友達になれて本当にうれしいよっ!!」

 どれだけ絞り出したって自分にはこれ以外の言葉は見つからなかった。

 絶対にみんなのことを離したくない。

 みんなとの中に入っていきたい。もっともっと絆を深めたい。

 だから少しでも自分の想いがみんなに伝わるようにせいいっぱいみんなのことを抱き返した。

 

 

「ふふっ。それじゃ一番の案件が片付いたところで次の議題に移りましょうか」

「うし、もっかん。さっそく期待してるからがんばれよ」

「おーともかがんばれー」

「えっと……智花ちゃん、さっそくで悪いんだけどごめんね。多分智花ちゃんが一番向いてる役割だと思うから……」

「ふぇっ!?」

 

――二つ目のテーマは落ち込んでいる昴さんを元気づける(最重要案件)だった。

 

 昴さんのことが最重要だったんなら、私の事より先に話すべきだったんじゃ? と真帆に聞いてみたら、「もっかんのことはチョージューヨーだから当たり前だろ」と即答で返ってきた。

 そして、すでに昴さんを元気づけるための具体的方法も挙がっていて、その方法が――

 

――私がメイド服で昴さんの言うことを何でも聞く。だった。

 

「あートモ? 本当に嫌だったら断っていいんだからね?」

「ううん。大丈夫だよっ。私だって昴さんの悲しそうなお顔なんか見たくないし、みんなが私ならできるって信じてくれてるんなら、それに応えたいっ!」

 これくらいなら初めて昴さんをお出迎えした時にみんなでやったことだし。

 少し恥ずかしいけど、これで昴さんも元気になって下さるなら――

 

「すばるんのことだから、もしかしたらもっかんの初めてをヨーキューされるかもしんねーけどいいのか?」

「長谷川さんならそこまではしないでしょ……でも、まぁ、キスくらいは覚悟した方がいいかもね。その方が私としても楽しみだけど」

「智花ちゃんと長谷川さんが……き、キス……はぅっ」

「おーともかいいなーひなもおにーちゃんとちゅーしてみたーい」

「ふぇぇ!? す、昴さんはそんなことしないよぉ!」

 もしかして私、とんでもないこと引き受けちゃったんじゃ……

 羞恥心に震えている私に真帆と紗季が笑いながら話しかけてくる。

 

「だいじょーぶだって、もっかんがほんとーに怖がってんなら、すばるんだってそんなことしねーだろーし、あたしらだってもっかんを守ってやるからさっ」

「私達とトモとの絆が深まったことを確認できたんだし、こんな感じで今まで以上にトモと長谷川さんの仲が進展するように少し無茶振りするかもしれないけど、そこはよろしくねっ」

「ほ、本当に恥ずかしいことは絶対にやらないからねっ」

 そして昴さんを元気づけるための作戦を決行するためにみんなで準備を始めることとなった。




アニメ版の一期と二期のOPの五人の表情の変化を見たのがきっかけだったりします。
一期の智花の表情が笑顔だけど、どこか儚さを感じて、みんなと仲良く輪の中にいるはずなんだけど、遠くでそれを眺めているような。という風に思った個人解釈が多分に含まれていたり。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。