ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

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長谷川さん充な夏休みの日々~
智花とかき氷。


「やっぱり智花は最高だぜっ」

「はぁ……はぁ………お役に立てたのなら…嬉しいです………私も……すごく楽しかったです………はぅぅぅ」

 俺との激しい運動で、智花はすっかり疲れ切ってしまった様子だ。

 思うように動かない体を横たわらせて、紅潮した頬と小さな胸を大きく上下させながら息を整えている。

 極限まで高まっていた緊張状態から一気に解き放たれ、解放感とその余韻に浸っている、といった感じのとても満ち足りた表情をしていた。

 

「ごめんな。智花のかわいい顔をこんなにしちゃって」

 ベトベトに汚れてしまった智花の顔を丁寧に拭いてあげていると、「自分でできますからっ」と慌てて起き上がろうとしていたが、上半身を少し起こしただけでそこから動くことができないようだった。

 やはり小学生の体力で毎回俺に付き合わせてしまうのは相当の負担になってしまっているのだろう。

 

「無理しなくていいよ。いっぱい俺に付き合ってくれたんだから、せめてこれくらいはさせてほしいな」

 初めては智花から誘われたことであり、俺自身も確かに智花ととことこやりたい。という欲求はあったが、理性が邪魔をしてしまい乗り気にはなれなかった。

 

――だけど俺の心を救い、本当に大切なものを教えてくれた智花に。

 

 小さな自分では俺を受け止め切れないとわかっていながらも、それでも少しでも深く俺を受け止められるようにと覚悟を決めている智花に。

 悩んだ末ではあったが、どこまでも真摯に求めてくれた智花に俺も自分の気持ちに正直になろうと決めた。

 

「ふぇぇぇぇぇぇ!? こ、こんなに早いんですかっ!?」

――ちなみにこれが初体験直後の智花の感想だった。

 

 そりゃ、若さで言えば全盛期の高校生だ。まして智花がお相手をしてくれてるんだから、これ以上にもっと早くなれることは確定的に明らかだ。

 初体験から以降数回は、俺も絶妙な加減を模索するべく智花が頑張りすぎて無理しないようにと気遣う余裕もできていたと思う。

 もちろんまだ簡単には抜かれるつもりはないし、抜かせないどころか逆に一瞬の隙をついて攻守を入れ替えて、子供の智花に大人の実力を思い知らせてやる。くらいの意気込みを持っている。

 

「ごめん、智花。またちょっと夢中になりすぎて負担掛けすぎちゃったみたいだね」

「い、いえ。私もどうしても昴さんを抜きたい。ってムキになってしまって」

 俺にいいように攻め続けられていることに対抗心を燃やしてしまっていた自分の姿を思い出し、照れたように笑っている。

 どんどん上達していく彼女につい手加減を忘れ、激しくなってしまうことが最近増えてきたような気がする。

 今となってはお互いに相手の弱点や得意なタイミングも熟知できたせいで、こうして互いの弱点を突きあった激しい攻め合いになってしまうことも――そして気づいたら智花を限界まで付き合わせてしまうことも増えてきてしまった。

 

「でも、本当に大丈夫? 朝からこんなに頑張らせちゃってごめんな」

「えへへ。ちょっと大変でしたけど、毎日とてもいい経験をさせて頂いて………あれだけ激しく攻め合ったのに昴さんが全然余裕そうなのが少し悔しいですけれど」

 智花が少しだけ羨ましそうな表情で俺を見上げている。

 こればっかりは高校生と小学生の純粋な体力の差だから仕方ないけどね。と言っても、彼女の性格では納得しきれないだろう。

 

「でも智花くらいの年齢で、ここまで動けてテクニックもある子なんて、そうそういないと思うよ。毎回、どんどん上手くなってて驚かされてばかりだ」

 自分が今までに溜めこんでいた物をすぐに吸い取られてしまうのでは。と錯覚する程の飲み込みの早さ。

 そして、それでもまだ足りない。と言わんばかりに、どこまでも純粋に俺に求めてくる。

 そのうち俺が一方的に抜かれてしまう展開もあるのではないかと内心冷や冷やしているのが本音だ。

 

「でも、まだまだ足りませんっ。もっともっと上手くなって昴さんにたくさんご満足して頂けるようになりたいですからっ」

 そして、いつか絶対に勝ってみせます。と小声ながらも彼女のささやかな野望がポロッとこぼれでてしまっていた。

 慌てて俺へのフォローをしている彼女の髪をそっと撫でながら、楽しみにしているよ。と伝えたが、それでも自分が大変な失言をしてしまった。と感じているのか顔を真っ赤にしながら俯いてしまっていた。

 

 本当にどこまで成長していくかが楽しみな存在だ。

 成り行きで始めることになったコーチとしてではなく、長谷川昴個人として、湊智花の成長をいつまでも見続けていたい。

 無限の可能性をその小さな体に秘めているんだから、まったく、智花は最高だぜ!!

 

 

「それじゃ、少し休んだことだし身体が冷えない内にしっかりクールダウンしようか」

「はい。今日も朝から練習にお付き合い頂いてありがとうございましたっ! 本気の昴さんにはまだまだ全然かないませんけど、絶対に追いついて見せますからねっ」

「いっぱい汗かいちゃったろうし、先にシャワー浴びてきなよ。俺のためにいっぱい頑張ってくれたんだから、本当はお礼の意味も込めて俺が智花を隅々まで洗ってあげたいくらいなんだけどさ」

「そんなっいつも私からなん…………………ふぇぇぇぇぇぇ!? す、昴さんが……わ、私を……す、隅々まで!? ……はぅぅぅぅぅ!?」

 しまった。智花に付き合ってくれたことへの感謝をしっかり伝えたくて思ったことそのまま言ってしまったが、明らかにこれはやらかしちまった。

 

「ごめん智花! さすがにデリカシーなかったよな。前に智花に背中流してもらって嬉しかったけど、智花が俺に洗われるのは嫌だよね」

「い、ぃぇ……その…嫌というわけでは……むしろ……いぇ……き、今日はその……は、恥ずかしいので……い、いつか心の準備ができた時にお願いしますねっ」

 俺の発言を責めるどころかフォローまでしてくれるなんて。本当はすごく嫌だったんだろうに悪いことをしてしまった。

 いちいち自分の失言を蒸し返してギクシャクするより、ここは彼女の優しい好意に甘えさせてもらうことにした方がいいよな。

 

「あぁ。遠慮せず、いつでも構わないよ」

 あれ? なんか嫌がってる智花に強引に迫ってるような感じに取られちゃうんじゃ……………………反省。

 

「……やっぱり今してもらおうかな…………あ、いえ! …な、なんでもないですっ。それではお風呂先に頂いてきますねっ」

 恥ずかしそうな顔を隠しながら、パタパタと風呂場へ駆けていった。

 

 あぁ、こんなつもりじゃなかったのにな……そりゃ、ちょっと考えれば女の子が男に身体を洗われるのなんて嫌なことくらいわかるのに。

 最近、どんどん智花を身近に感じることが多くなってきたせいか、俺の方が無意識に過剰なスキンシップを求めてしまっているのかもしれない……

 もしかしたら、気づかない内に智花を不快にしてしまう行動が増えていたとしたら本当に申し訳がないな。

 彼女に対しての自分の行動で少しでも変な行動はなかったか振り返っていると、いつの間にかだいぶ時間も過ぎてしまったようで、頬を上気させ恥ずかしそうにしている智花が律儀に俺にシャワーが終わったことを伝えに来てくれていた。

 

――俺がシャワーを浴び終わり自室に戻ると、何故か俺のワイシャツを羽織り、恍惚とした表情で物思いに耽っている智花がいた。

 

 智花にしては珍しく慌てた様子で粗相をしてしまったと俺に何度も謝罪の言葉を口にして許しを求めていたのが少し不思議だったが。

 ちなみに俺に気づく直前までの智花は大きすぎるワイシャツに包まれながら幸せそうな笑顔を浮かべていて、その姿が本当にかわいらしく天使のようにさえ見えた。

 もし写真の一枚でも撮れたなら携帯の待ち受けなり俺の部屋に飾っておきたかったのに。残念ながら本人から撮影はNGとのお達しだった。

 

 

 俺と智花の関係が良好状態で維持されていることにお互い安堵したところで、長谷川家のおやつの時間を迎えていた。

 それぞれ透明な器に粉々に粉砕された氷の山が盛られ、山の頂上付近には俺のは緑色で智花のは赤色の液体がかけられている。

 夏の風物詩ではあるが、小学生にかき氷はどうだろうか?

 

「なんか安っぽいおやつになっちゃってごめんね。ちょっと期待ハズレだったろ?」

「いえ、そんなことありませんよ。この時期じゃないと食べれないですし、とても冷たくておいしいですっ」

 その笑顔に偽りはないようで純粋に喜んでもらえてるのが幸いだった。

 おいしそうに氷の山を口に運んでいる智花の姿を見て、ふと幼少期に親父に言われたことを思い出す。

 

「そういえば かき氷のシロップって実は色が違うだけで味は同じって聞いたことあるんだけど、智花知ってた?」

「ふぇ!? そ、そうなんですか!? 昴さんに教えて頂いて初めて知りましたっ」

「なんか色で味覚の錯覚を引き起こさせて、赤色はイチゴで緑はメロンの味だと思わせてるらしいんだけど」

「へぇ……昴さんって物知りなんですねっ」

 智花の視線が俺の手元――正確には俺が持ってるかき氷(通称メロン味)に釘付けになっていた。

 

「……一口食べてみる?」

「ふぇ!? あ、あの……その……」

 さくっと氷を掬ったスプーンを智花に差し出したところで――智花の反応を見て気づく。朝にこれからは気をつけようと誓ったばかりなのにまたやらかした自分につくづく学習能力のなさを痛感した。

 

「ご、ごめん。さすがに俺が使ってたスプーンは嫌だよね。智花が興味津々で見てたから、つい無意識でやっちゃっただけだから――」

「い、いただきますね……はむっ」

 無理に食べなくてもいいよ。と言い終わる前に智花が俺のスプーンを咥えてしまった。

 

 俺が使ってたスプーンで智花にあーんをしてしまうなんて……本当は嫌なのを我慢して俺の好意に気を使って、本当にごめんな。

 深い罪悪感に打ちひしがれてる間に、智花はスプーンに乗っていた氷の塊をしっかり口の中に受け取るとゆっくりとスプーンから口を離す。

 しばらく味を確かめる様に小さく口を動かしてから、こくんと嚥下させる。

 

「す、すみません……は、恥ずかしくて……よくわかりませんでした……私からお願いしたのにごめんなさいですっ」

「もともとは俺が始めちゃったことだし、智花が謝る必要はないよ。俺の方こそ変なことさせちゃってごめん」

 赤くした顔を俯かせながらも、律儀に正直な感想を伝えてくれる智花に胸が痛くなる。とにかくこれ以上お互いの傷を広げないためにも、この話はこれで終わらせてしまおう。

 

「あの……よろしければ、私のも一口食べていただけますか? 昴さんのを頂いてしまいましたので……」

 智花さんそのお返しはさすがに恥ずかしすぎると思うんですが――そんなことを考えている間にすでに智花は先ほどの俺を真似て一口分の氷の山を自分のスプーンに盛っている。

 そして、俺の前にどうぞと言わんばかりにスプーンを差し出してくれた。

 

――シロップが一切かかってない真っ白な雪山を。

 

 こんなことにも気づいてないくらい緊張しているのは、今にも泣きそうなくらいビクビクと怯えた表情でもわかるし、そんな智花に無粋な突っ込みはするべきではないことくらいもわかってる。

 自分が取るべき行動を決め兼ねて、いつまでも受け取らないままだと智花を不安がらせてしまうだけだし、彼女を傷つけてしまうくらいなら、俺が罪悪感を背負い込めばいいだけだよな。

 

「あぁ、そ、それじゃ一口だけもらうね……ずずっ」

 内心でごめんな。と一言だけ付け加えながら、できるだけ智花のスプーンに口が触れない様にして氷の山を吸い込んだ。

 音を立てて食べるのは食事の基本マナー違反だったかな? と罪悪感から気を紛らわせるための自衛か、場違いな考えを思い浮かべてしまったが、智花も気づいていないし、別に気にしないでおこう。

 

「昴さんはどうでしたか? 違いというか、味がわかりました?」

「う~ん、なんか上手く言えないんだけど、智花の方がちょっとだけ甘いかな?って気がしたかな。多分気のせいなんだけどね」

 俺が食べたのは氷の山だし――とは口が裂けても言えないが、口の中に含んだ氷からは、なぜかほんの少しだけ淡い甘みを感じた。

 

「あ、あの、差し出がましいお願いなのですが……も、もう一口だけ昴さんのをいただけないでしょうか?」

 ここにきて、自分のよくわからないコメントが更なる失言となってしまっていたことを悟った。

 

――いかん。俺の変な感想に智花さんが余計興味津々になってしまわれた。かと言って、これ以上はダメなんて言うわけにもいかないし、今更一回も二回も同じだよな。

 あとで智花に深く懺悔することを心の中で誓いながらの二口目を差し出す。

 

「別にそんなこと構わないよ。はいどーぞ」

「こ、今度はしっかり味あわせて頂きますっ……はむっ」

 言葉に偽りはないと言わんばかりに智花は先ほど以上にしっかりと俺のスプーンを咥えながら、味を確かめているようだ。

 

「……っ……んっ……んっ……はふぅ」

 智花の様子を見てるだけでこちらも気恥しくなってくる。

 俺のスプーンをしゃぶるように咥えていた智花は途中で何かに気づいたのか一瞬恍惚とした表情を浮かべ、口の中の液体をじっくり味わうように飲み干すと、ようやく口を離してくれた。

 

「ど……どうだった?」

「ちょっとだけ昴さんが言ってたことがわかったかもしれません――ほんのり温かくて優しい味がしました」

「昴さんもどうぞ」

「ん……言われてみると、ちょっと不思議な感じがするよ……ね?……………っ!!」

 再び差し出された氷の山――今度はちゃんと赤いシロップがかかっている。を反射的に自分も受け取ってしまった。

 何がとは言わないけど、これで二回ずつなんだよな。と考えていたところで、智花が言わんとしていたことに気づく。

 味は確かに同じなんだけど、本当に気のせいと思うくらい幽かにだけど温かいな。食べてるのは氷なの………に?

 かき氷食べてて温かさ感じるってそれってスプーンに残ってる俺と智花のたいお……いや、これ以上考えてはダメだ。

 進行中だった思考プロセスを強制的に終了させ、智花には全てが伝わらないだろうけど、色々な思いを込めた謝罪を伝える。

 

「智花ごめん。俺が変なこと言い出したせいで」

「い、いえ、貴重な体験をさせて頂いたので嬉しかったです……」

 

 図らずしもお互いの温かさを味わうことになってしまった、そんなひと夏の思い出。

 

 

――食べ終わった後に、台所にいた母さんに確認したところシロップは自家製だったということが発覚し、頬を真っ赤に染めて俯いてしまっていた智花に何度も土下座しながら謝った。


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