あの後音響室にいた女の子に
動画の撮影と音響を頼み、
奏達は再び講堂の前に戻ってきた。
どうやら中に入って聞くのではなく、
この入り口前で聞くらしい。
中の状況を分かったうえで、
企みとしてこういうことをするのだから、
とんだ悪魔である。
奏がふと時計を見ると、
もうライブが始まる時間になっていた。
絵里もそれに気づき、奏と絵里は講堂の中を見た。
ちなみに未だに観客はいない。
それを確認するのと同時に開演のブザーがなり、
幕がだんだん上に上がっていった。
その光景を奏はにやにやしながら見ている。
絵里はドン引きである。
そして幕が完全に上がったとき、
三人の少女が笑顔で目を開いた。
するとそこには絶望の光景。
観客一人いないがらんとした講堂。
呆然としている三人のもとに、
さらに三人の少女がやってきた。
どうやらこの三人を手伝っていたらしい。
その三人から告げられたのは、
頑張ったけど誰も来なかったという残酷なお知らせ。
三人のスクールアイドルは
それでこれが現実なんだと現実を知らされた。
絶望し呆然としてる三人の少女の目には
涙がたまっていた。
朝早く起きては階段を何度も駆け上り、
放課後は屋上で優しい先輩のアドバイスのもと
ダンスの練習を頑張り、衣装を作ったり、
歌詞を作ったり、作曲を必死に頼み込み、
チラシも沢山配ってポスターも貼った。
これだけの努力をしてきたのに、
その努力は一切報われていない。
この日のために必死に頑張ってきた。
それが一気にバリンッと割れた気がした。
絶望する三人の少女の内の一人が
バッと下を向いていた顔を上に向けた。
「そりゃそうだっ!世の中そんなに甘くないっ!!」
必死に笑顔を作り、涙を流さんとするその少女は
誰から見ても痛々しかった。
「穂乃果………」
「穂乃果ちゃん………」
そんな三人の様子を見る絵里の胸がチクッと痛んだ。
思い出す幼少の頃。
あの頃は必死にバレエに全力を注ぎ込み、
誰よりも努力をしてきた。
しかし少なからず大会やコンクールなどで、
その努力が報われないときがあった。
悔しくて溢れる涙を必死に抑えてた。
自分がとてつもなく惨めに思えた。
心が押し潰されそうだった。
そんな時の自分と少し重なったのだ。
絵里の無表情だった表情の中に
悲しみの感情が表れた。
一方奏はもうにやにやなどふざけた様子を見せず、
ただ真剣に目線を向けるだけだった。
今ここで講堂の中に駆け込み、
ライブを見にきたと伝えてやれば、
あの三人は少しでも希望を持てただろう。
今でも間に合うのだ。
しかし奏はそんなことはしなかった。
あの時言った覚悟が嘘か本当か確かめるために、
少し悪く言えば彼女たちを試すために、
そんなことをするわけにはいかなかった。
それにそんなことをすれば、
彼女達は成長できない。
一度絶望を知り、その後希望を知り、
それでもって輝くべきなのだ。
今は絶望を知るときである。
しかし奏はもう少ししたら入ろうとは思っていた。
何故なら彼女たちは確かに絶望はしていたが、
心はまだ完全に折れてはいなかったからだ。
ならば彼女たちに少し希望を与えて、
それで彼女達はライブをするのかどうかを
確める必要がある。
もしもするならば、
彼女たちの覚悟を認めよう。
もしもしないならば、
彼女たちには覚悟はなかったと判断する。
さて、そろそろ入ろうか。
奏がそう思ったとき、
一人の少女が講堂に駆け込んできた。
必死に走ってきたのだろうか。
入り口辺りにいた奏たちには気づいていなかった。
「っはぁ、っはぁ。えっ?あ、あれ?
ら、ライブは?あ、あれ?」
「……花陽ちゃん」
三人のスクールアイドルの瞳から
一筋の希望が入る。
_____________「やろうっ!」
「えっ?」
「歌おうっ!全力でっ!!」
「穂乃果………」
「だってそのために今日まで
頑張ってきたんだからっ!!!」
その言葉に二人の少女はハッとする。
三人の顔が引き締まり、
覚悟が決まったと言わんばかりの顔になる。
その顔を見て奏は笑った。
やっぱり思い違いじゃなかったと。
そしてその笑顔で歩みを進める。
絵里は目を見開いた。
講堂の中に入るのかと。
今さっき入らないといっていたのに……
そこで絵里はふと思った。
もう一人入ってしまったではないか。
つまりもうここで見ている意味がない。
だったら入ってしまおうということか。
絵里は納得した。
しかし絵里はまだ入らなかった。
自分はまだ入るときではないと判断したからだ。
「おっ!やっと始まるのかな~?」
わざとらしく言いながら奏が講堂へ入ってきた。
「せ、先輩っ!!?」
「そ、それにやっとって、まさか…」
三人少女の目が見開かれる。
「ごめんねっ☆講堂の前にいましたっ☆」
てへぺろっと舌を出してる奏。
「えぇえええええっ!!!?」
「な、なら何故入らなかったのですかっ!!」
驚きの声をあげる三人。
「ん~?き、ぶ、ん、かなっ☆」
本来の目的を隠して気分と言う奏。
「~~~~っっ!!先輩のばかっ!」
「あはは~。ごめんごめんっ」
「まったく、試しましたね?」
海未がジトーッとした目で奏をみる。
「ありゃ、バレちゃったか~。鋭いね~」
問い詰められた奏はあっさりと白状した。
「試してたのっ!!?」
「ごめんね~☆」
「でも先輩が来てくれて良かったですっ!
色々と協力してくれもらったから
その成果が見せたかったんですよーっ!」
へらへらとしてる奏に笑顔を向ける穂乃果。
「先輩。私たちの成果を見てください」
キリッと真面目な顔のなかに密かに笑みを見せる海未。
「楽しんでいってくださいね、先輩っ♪」
癒されるような笑顔を浮かべることり。
「そこまで言うなら楽しませてもらおうかな~。
可愛い子ちゃんに言われたら断れないしね~」
奏はそんな三人に対してウィンクをチャラく決めた。
そしてライブが始まった。
キラキラと輝きながら、
本当に楽しそうな笑顔をして踊る。
それぞれの想いを乗せた歌を歌う。
多少のミスはあろうとも、
その姿は立派なスクールアイドルだった。
思わず惹き込まれてしまう。
そしてそんなライブの中、
一人の元気な少女が入ってきて、
もう一人素直になれない少女が入ってきて、
そしてアイドルが大好きな少女が入ってきた。
楽しい時間はあっという間という言葉通り、
そんな楽しい時間もすぐに終わってしまう。
三人のスクールアイドルが最後の決めポーズを決めると少ない人の拍手ではあったが、その拍手は今までのどんな拍手よりも大きな拍手に思えた。
「いやぁ、良いものを見せてもらったね~。
可愛いかったよ~。
思わず惚れそうになっちゃった☆」
「先輩………っ!」
奏に誉められて嬉しそうな微笑みを見せる穂乃果。
そんな暖かい雰囲気の中、絵里が歩みを進めてきた。
「どうするつもり?」
絵里は淡々と質問をぶつけた。
そしてそれに対して穂乃果は………
「続けますっ!」
真っ直ぐと覚悟をぶつけた。
「何故?これ以上続けても意味があるとは思えないけど」
絵里は冷たく現実を告げた。
しかし穂乃果はそれがなんだと言わんばかりに、
現実を跳ね返すような目を向けた。
「やりたいからですっ!!
今私はもっともっと歌いたいっ!
踊りたいって思ってます!
それはきっとことりちゃんや海未ちゃんも。
やって良かったって本気で思えたんですっ!!」
みんなの視線が穂乃果に向かう。
穂乃果の覚悟をみんなが見た。
真っ直ぐなその想いを……
「今はただその気持ちを信じたいっ!!
このまま見向きもされないかもしれない。
応援なんて全然されないかもしれない」
みんなが見惚れる。
高坂穂乃果という輝きに溢れた少女を。
これが穂乃果の長所。
周りを惹き付けるカリスマ性。
「でもっ!とにかく一生懸命頑張って!
私たちが頑張って!!伝えたいっ!!!」
穂乃果は熱い情熱を放った。
その情熱はどんなものよりも燃え盛る。
穂乃果の瞳の奥に輝く炎のように。
「今私たちがここにいるこの想いをっ!」
奏は微笑んだ。
これこそが王者の器だと。
この子達はいつか絶対に化ける。
奏は確信した。
「いつか必ずここを満員にして見せますっ!!!」
______________これが高坂穂乃果。
「あはは~。良いね~、μ's」
にこにこしながら奏は言った。
「なっ!?奏っ!!?」
絵里が目を見開く。
奏がまさか穂乃果達を誉めるとは
思っていなかったのだ。
「奏。貴方はやっぱりその子達の味方をするの……?」
「ん~。半分正解、半分不正解かな~」
「半分正解、半分不正解っ?」
訝しげに苛立たしそうに絵里は奏をみる。
「そうだよ。それにさぁ、いつも言ってるじゃん?
絵里ちゃんの味方だって。つまり答えはそれだよ」
「っっ!!意味がわからないわっ!
何なのっ!?奏はっ!!ねぇっ!?」
意味のわからないことをずっと言い続ける奏に
絵里のもどかしさと怒りが頂点に達し、
絵里が声を張り上げる。
奏以外の人がビクッとする。
いつもクールで冷たい生徒会長が
あんなに乱れるなんて思いもしなかったのだ。
そんな絵里を見ても奏は飄々としていて、
さらににこにことしていた。
「何なのって、絵里ちゃんの味方だよ?」
「~~~~っっ!!そうじゃなくてっ!!」
「そうじゃなくない。そうなんだよ」
今度は奏も真面目な顔になり、告げた。
「………………奏。どうしてわかってくれないの…?」
絵里の怒りはどうやら一周回って
通り越してしまったらしい。
「わかってるよ。
わかったうえでそうしてるんだから」
「…………わかってない…」
「わかってるさ」
「っっ!!!私はっ!貴方のそういうところが……っ!!」
「嫌い……?」
「っつ!!」
絵里は講堂を飛び出した。
奏はそれを悲しそうに見て、
穂乃果たちのいるステージに上がった。
目の前で修羅場というものを
初めてみた穂乃果達はそれをただ呆然と見てた。
「……………絵里ちゃん…もう少しだから……」
奏が悲しげにそう呟いた。
しかし次の瞬間、この重苦しい空気を無くすためか
奏はニコッと笑った。
周りは「はっ?」という感情を全面に出していた。
実際に声に出しなくてもわかるほど、
分かりやすすぎるまでに顔に出ていた。
「μ'sのライブもいい感じに終わったけど
まだ確か時間空いてるよね?」
「えっ?あっ!は、はいっ!」
奏の問いに穂乃果が慌てて答えた。
「そっか~。なら、特別に私のライブを開こうかっ!」
「「「はっ?」」」
いきなり突拍子もないことを言う奏に
次は確実に声に出して回りが反応する。
「い、いやいやいやっ!!
生徒会長を追いかけなくていいんですかっ!!?」
穂乃果が慌てて突っ込む。
それに対し奏が不思議そうに首をかしげた。
「?なんで?」
「いやっ!普通追いかけるところでしょうっ!!?」
穂乃果がまた同じように突っ込む。
「その心配はないよ」
「えっ?」
「私の
「はいっ?」
奏はにこっと笑って言った。
そして肩に下げていたギターケースから、
自分の
ステージの奥から置いてあったアンプと
スタンドマイクを持ってきた。
そしてチューニングを始めた。
周りの人たちが呆然とそれを見ている。
そして準備を終えた奏がギターを構えて、
「そんじゃ、私の
っと、一言そう切り出すと奏はギターを弾き始めた。
それはオリジナル曲で、ギターのテクニックは
素人でもわかるぐらい高度だった。
そして前奏が終わると奏は口を開いて、
自分の音を奏で始めた。