ぼくのかんがえたわるいかんりきょくをヘイトする話 作:NonaIn
それは次元世界において、次元管理局法にて質量兵器が禁止となった事を記念する、画期的な記号である。
――しかしそれは"魔法資質保有者という生来資質的な特権階級"にとって、に過ぎない。
では、その比率はどのくらいだろうか。
主星であるミッドチルダであれば、それは90%を超えているとされる。
だが数ある世界全体で見れば、魔法資質保有者などは10%にも満たない。と、一説には言われる。
――即ち其の意味する所は、90%の人々を社会不適合者と断ずる、いやそれ以上に恐るべき弾圧と強制、そして征服と洗脳が始まったのもまた、新暦元年であるという事に他ならない。
故に、我々は起つ。
故無く奪われ、封じられ、ただ柵の内にて飼い殺されよと命ずる声に、牙を剥く。
あなたの痛みも、あなたの苦しみも、私の物と嘯いて、果て無く勝ち目の無い繰り返しに身を投じる。
――ただ、その尊厳のままに!
Segment:- War Relics
N.D.0066 Autumn
MID-CHILDA ;Development Area
ミッドチルダの首都クラナガンよりやや外れた場所にある、開発地区。そこは様々な思惑によって人の居住区を増やすため、急速かつ集中的な建設が行われている区画である。
もっともそれにもグレードがある、高収入者のための一軒家を大量に並べた区画然り、あるいは低収入層のための団地のような集合建築物然り。
そしてその内の、集合建築物の建造エリア付近にて、二人の少女と"一機の重機"が肩を並べて"歩いて"いた。
少女のうち、茶髪の方は名を、高町なのは、と言う。未だ齢10を少し超えたに過ぎないが、その身に秘める才――即ち魔法資質によって、管理局局員となった才女だ。ここでは深くその身なりを描く事はしないが、既に冬の兆しの見え始めた秋の暮れと言う事もあり決してその衣服は薄着ではない。
しかしもう一人の黒髪ショートヘアの少女は、季節感を甚だしく欠いていた。いや、なのはと同年齢のはずなのに少女らしい感性と言うモノが全く感じられないいでたちである。半袖のシャツ、その上から羽織ったポケットの多い袖なしの作業用ジャケット、そして膝パッドの着いたコンバットパンツ。そして、腰の後ろにつけたウェストポーチ大の、"左右に噴射口のついた何かの機械"。
顔立ちも含め、隣に立つ茶髪の少女と比べると月とスッポン……とまでは行かずとも、やや不釣り合いなくらいであった。
だがそれよりも異様なのは、その後ろを大股かつゆっくりと、通行人を踏んだりしないよう細心の注意を払いながら歩く異形の鋼鉄の巨人である。
それは"タイタン(TITAN)"と呼ばれる全高7mほどの人型汎用作業重機であり、専属パイロットとなる人間とのニューラルリンクによって搭乗中のパイロットのほぼ考えた通りの動きができる他、高度な――インテリジェントデバイスに匹敵あるいは凌駕するほどの――人工知能により、単独でも各種判断及び作業を行う事のできる存在である。
人間と同じ四肢と、背部の二本の補助マニピュレーター。そして実質無尽蔵の動力。パイロットと絆を結ぶ事のできるAI。これらを搭載したタイタンは、未だミッドでは多く見る事は無いものの、新しく管理下に組み込まれ開発が大きく推進される地域においては非常によく見かけられるものだ。――なのはは知らなかったが。
そして彼女らが何をしているのかと言えば、仕事中にどこかにいってしまった黒髪の少女のペットを、休憩時間を使って探しているのである。
もっとも休憩時間でのペット探しは普段からよくしているし、そうでなくても迷惑だからと何度も黒髪の少女は断ったのだが、なのはは頑として手伝うと言って聞かなかったのだが。
そしてそれに付随するように、何故かタイタンが付いてきたのだ。
そんなわけであちこちから作業の音が聞こえて来て煩い中、少女二人と、黒髪の少女にリンクしているタイタン一機は通りを練り歩く事になったのである。
黒髪の少女はタイタンのセンサーを、そしてなのはは対象を絞り込んだワイドエリアサーチを頼ってのペット探しだ。だがどちらも会話をする程度の余裕はある。
「うーん、この辺りには居ないみたいなの。もうちょっと遠くなのかな」
サーチ結果を脳内で処理していたなのはは、一人と一機に先駆けてそう結論を出す。
黒髪の少女は一つ頷くと、つい、と視線を一方向に向けた。それだけで察したのかタイタンは転進し、そしてそれに一拍遅れて「待ってよー」と言いつつなのはも続く事になる。
黒髪の少女は、比較的無口であった。その代りしきりになのはの事をチラチラと見て、気にはかけているようだったが。
そしてタイタンもそれと同じくらいに、あまり話さなかった。その代り、胴体に――タイタンに首は無い――半ば埋め込まれた球状の視覚センサー兼データコアを瞬かせながらしきりに動かして、あちこちに注意を払っていた。
そしてなのはの首に提げられた赤い宝珠、"レイジングハート"も先ほどからちかちかと瞬いている。もっとも、なのはは情報の処理にそれなりに集中しながら、他の思考タスクではどうやって黒髪の少女と話をしようか考えていたし、もう一人はそんな事をわざわざ口に出そうともしなかったが。
「中々見つからないの。……オーグ処置済みのワタリガラス、だっけ? そう居るはずが無いからすぐ見つかると思ったのに」
「ここまで離れるのは珍しい」
『現時点で平均探索時間まで残り1分24秒、休憩時間終了まで13分ほどです、パイロット。徒歩での移動を前提とするなら、帰投を推奨』
「ん、多分夜にはかえってくるし、餌を持て余すだけ……」
「ダメなの! もしかしたらカラスさん迷子かも知れないの!」
何事か、と黒髪の少女はなのはを見つめた。そろそろ切り上げなければ仕事に戻れないし、黒髪少女は出稼ぎのために建築作業に従事している事だって既に知っているはずだろうに、まるでそれを無視するような。
それでいて、どこか必死なような。少なくとも、見ていないようで見ている事に気づかれたと気づかない程度に見ていた黒髪少女でもそう思える態度だった。
「RD-5013。……搭乗して走ると仮定したら、どのくらいの時間行ける?」
『安全基準を無視すると仮定しても2分程度です、パイロット』
「あと90秒だけ探そう」
『了解』
「え、と……?」
パイロットとタイタンのやり取りと言うのは、様々な要素によって省略されがちである。特に、長くリンクしているならば猶更。
そのせいでなのはは首を傾げるしかなかった。
「やるならあと80秒で見つけて見せて、"魔導士"。 ……レイ、乗せて」
『パイロット搭乗準備よし』
言う事は言った、とばかりにタイタンに向かい合う黒髪少女。わざわざ声を掛けずとも乗せるつもりはあったはずのタイタンも、あえて声に出して搭乗準備を整えた事を知らせる。
タイタンの胴体の前面装甲が上下に大きく割れるように開き、タイタンの手に持ち上げて貰って黒髪少女はその割れた装甲の内にある人一人分ギリギリのシートに身を滑り込ませた。
『操縦権をパイロットに移行』
無機質なようで、それでいて僅かに喜びを含んだAIボイス。機材を弄りつつ、黒髪少女は魔導士――なのはの"計測"をこっそり始めていた。
なのはもまた、残り時間が1分を切ろうかと言う事に気づき、少々色々な制限を無視しての広域サーチを行う。
その結果、探していたカラスはサーチ範囲外の地面ギリギリを飛んでいた事が判明した。鳥だからと上空ばかり気を使っていたため、見つける事が難しかったのだ。そしてついでに言えば、オーグ処置、つまり機械的拡張処置を行われていたため、場所さえ判れば指向性通信で呼び戻せると言う。
これにて一件落着、とため息をつくなのは。
「無事見つかってよかったの」
「助かった、"魔導士"」
「……魔導士、魔導士って、それはわたしの名前じゃないよ。なのは、って名前があるもの」
「そう」
「むぅ……。 ねえ、あなたの名前も聞いて良い?」
「7……」
そこまで口にしてから、ハッと少女は気づく。
今、こいつのペースに呑まれていなかっただろうか?
既に自分を表す記号の一部は口にしてしまっていた。すわ洗脳魔法か、とセルフスキャンをタイタンに行わせるも、ニューロリンクによって脳をスキャンさせた結果は否。
つまり、素の雰囲気で乗せられた、と言う事に他ならない。少女は戦慄した。しかしすぐに考え直す。
どうせ管理局局員様との関係なんて、すぐになかったことになるのだ、と。
「ナナ、って言うの?」
「……それでいい」
「良い名前だね! あ、それからこっちが相棒のレイジングハート!」
『We've got everything at a good start, let's keep it that way.』
ちかちかと明滅する宝珠、レイジングハート。
しかし少女、ナナはそれに対しても、そう、と答えただけである。が、それでは何となくしつこくくっついてきそうだ、と言う直感もあった。だから。
「……パイロット、ナナ。イオン高機能モデルタイタン、識別番号RD-5013、ペットネーム"レイ(RAY)"。 これでいい、なのは?」
「うん!」
そうこうやり取りをしているうち、イオンの上にカラスが舞い降りる。一見して普通のワタリガラスであるが、おかえりレイヴン、とナナが声をかけた事で彼が探していたカラスであると解った。
そして踵を返し、レイヴンを機体に降着させたまま走り去ってゆく。別れの挨拶も無い、慌てた様子だった。
もっとも、それは仕事の時間に間に合わなくなる可能性がある以上当たり前と言えば当たり前だったが。
「あ、またねって言い忘れたの……」
『Don't worry about it, master. Will be we can meet they again.』
「……そう、だね。ありがと、レイジングハート」
『It's okay.』
暫し彼女らの大きな後ろ姿を見送るなのは。
そしてふと、相棒にたずねる。
「そういえばレイジングハート、レイさんと話してたみたいだけど、何を話してたの?」
そう、この二機は探索中、頻りに瞬きあっていた。
何か重要な事でもあったのかもしれない、とは思わず訊ねてみるものの。
『It's secret.』
「秘密? ……そっか、仲良くなったんだね」
『Of course.』
「わたしもいつか、ナナちゃんと仲良くなれたらいいなぁ」
既に遥か遠く響く雷鳴のような足音に思いを馳せるも、既にそれは建業の喧噪に紛れて聞こえないのであった。
自称初投稿兄貴と化したライフルマン!
評価がつけば「6時の方向から増援!」とか叫びつつStS編とかも書くそうです。
レイのナンバーが5013ではなく8013になっていたのを修正