ぼくのかんがえたわるいかんりきょくをヘイトする話 作:NonaIn
N.D.75.9.16 1944
MID-CHILDA UNDER THE GROUND ;UNKNOWN AREA
地下水路を抜けて暫くは、どこへ続くとも知れぬ下り坂だった。既に作戦開始からだいぶん時間も経過していたが、篝と蓑亀を見送って後も3人と3機は黙々と降り続けたのだ。
地上では陸戦魔導士たちがPRAYER相手に奮戦していたところへ何処からともなく湧きだしたガジェットドローンが防衛線を勝手に構築して匿い、更には金の使い先が無くなっては困るとエイペックス・プレデターズ達が協働して加わり、そこへコーパスのワープ技術によって仏鉄塊が乱入し、それらを食い止めんがために篝と蓑亀が地上へ戻った所へ超々長距離ワープフォールによって森羅が参戦。という混沌と混乱をコンクリートミキサーにかけてブチまけたような有様だ。
一部無線からは『BGMが何か違うぅ!』だの『踊りよる……』だのとすら聞こえてくる。一体どういう状況の、いや
しかしかと言って、地下への進攻を行うデッドライアーとティアナ、そしてナナの前に立ちふさがるPRAYERたちが決して少なかったり弱かったりと言う事はない。
剣状のオブジェクトを護るかのような双子のPRAYERを排した頃には、既にティアナは魔力欠乏の所を、リミットカットした蓑亀の置き土産であるモナーク級にタイタンデサントして、危篤状態のローニンを乗り捨てもせず先を行くデッドライアーに辛うじてついて行くばかりであった。
なおナナとレイはと言えば、後ろを警戒している。つまり意図せずティアナが守られているカタチになり、ティアナがそれで余計奮起してガス欠になっていたのだが。
「ちょっと、ちょっと待ちなさいって。一体どういうペースで……」
「こう言うペースだろう。無理なら戻ればいい」
ナナは応えすらせず、デッドライアーは全く取り付く島もない。魔力という
まずティアナだが、戦闘で何をするにも――それこそ移動にすら魔力が必要であるにも関わらず、魔力は有限で決して多くもない。今でこそタイタンに便乗すると言う手を使っているが、そこまでは意地でも自力で付いて来ようとしていたのだから。更には攻撃もしていたし、防御は一度試して
しかし一方のデッドライアーはとにかく前に進む事だけを考えていた。逆に一発も撃たず、強いて言えばローニンの装甲とソードガード、あるいはフェーズダッシュ等でとにかく進んでいるのだ。
それゆえ的を撃ち落とすのは今では専らオート状態のモナークと、時折レイの役目となっている。
魔力があれば何でもできる、などと言うのは幻想だ。無論、"幽か"も、タイタンもだ。
結局使うのはヒトであり、そこには限界がある。機械などにもそれはある。
ともあれ、彼等は何とか、それこそ何とか――延々と続く螺旋道を時に跳び下りながら下り切り、塔の基底部に当たる高度まで降りて来ていた。計器によれば実にそれは2000メートルもの深さを示していた。
そこで目にしたのは、中空に非接触で固定された金色に輝く小石と、それを取り囲む
「……人柱にされているとは思ったが、こんな形とはな」
「ひと、ばしら? 生贄って事よね、……じゃあ、あのリング、が」
「恐らくだが、最高評議会と呼ばれていた存在だろうな」
「それより、
『パイロット、時間がありません。停止手順を探るためスキャンを実施します』
レイが無造作に一歩近づいた途端、リングの回転速度が上昇した。そして声が発せられる。
声は老齢の男たちの、併し少々を通り越した疲れと憂い、そして希望を悲観を持ったものだった。
――全く。矢張り
――然り。我等の墓標に立ち入り、
――故に。下がるがよい墓盗人、我等は悲願を成就せん。
その場にいる内、タイタンではない3人にのみそれは聞こえていた。
何故ならばそれは空気や魔力ではなく、"幽か"を伝う思念の声だったからだ。ティアナだけは念話だと思っていたようだったが。
「"幽かな存在"は幻を見せる蟲、か。 ……745、レイ、結果はどうだ?」
『スキャン完了。タイタンの攻撃や通常の
「
戦力外通知。
それはティアナにとって、それは酷く、惨い言葉だ。
確かに彼女は自身を凡人であると気に病み、それを抱え込むような性質の人間ではある。しかしそれはその裏に――自分を認めたいと望んでいるからであり、同時に特別になりたいと望んでいるからでもあり、それ以上に
ランスターの弾丸は全てを貫く。そう想い、磨き上げて来た全てがこの土壇場で役に立たない。
ティアナはただただ胸の奥のリンカーコアに、奇妙な疼きを感じた。魔力素を変換しているのではなく、まるで想いが蟲となって這いずり回っているような。
ナナは着実に、"石"の放つ弾幕を堅実に捌いて行く。ローニン・ロードアウトを用いれば少なからずダメージは負うものの、その後ろにいるデッドライアーを守る事はできていた。
黒白二色の弾幕に、篝を地上に行かせなければよかった、とも思わなくもなかったが、無いものは無い。
そしてその立ち回りを、必要以上には退かない在り方を、ティアナに見せてしまう。
退かず、媚びず、顧みず。さりとて願い、想い、不器用ながら仲間を護る。
だからこそ凡人は、疼きの強くなった胸を掻き毟る。どうして自分は護られる側なのだ、と。自分もそちら側のはずなのだ、と。
そんな風に思わせているなどと微塵にも考えないナナはと言えば、実に気楽なものであったが。
「レイ、次のシャーシは何がいい?」
『トーンを。私の分析によれば、パイロットの精神状況を鑑みるに、前線から一時離れて休養を取る事を推奨します』
「確かに、疲れた。……データアップロードを」
『了解』
ソードブロックはダメージを完全に抑え込む事はできない。機械故の高速さ・精密さでいなして、軽減するだけである。
そんなもので弾幕を避けもせず受け止めればどうなるかは、例えフェーズダッシュによって時折シールドの回復を挟んだとしても明白だ。
残り5秒。ドゥーム状態となったレイが、おもむろに前進を始める。ダッシュ、フェーズダッシュ、ダッシュ。
残り4秒。ドゥーム状態でありながら、更にそのうえで完全損壊の寸前まで追い込まれつつも、レイとナナは"石"に到達する。
残り3秒。レイが唐突に光りはじめる。過剰なエネルギーによって弾幕がかき消され、破損が進む事はない。レイ、己の頭部にあたるシアキットをもぎ取り、投げ上げる。
残り2秒。ナナがレイの上部から排出され天井ギリギリまで打ち上げられる。先に投げ上げられたシアキット――そこにはデータコアが含まれる――をキャッチ。
残り1秒。レイのリアクターが臨界を超え、大爆発を起こす。白い光に包まれた彼女に、ナナが謝罪の言葉を呟いた。リング第一層目が悲鳴を上げつつ粉砕される。
残り0秒。デッドライアーのローニンが中から二つに割れ、巨大な斬撃が飛ぶ。リングの第二層を真っ二つに切り裂き、第三層を半ば程まで割った。
「おい、どうした貴様。切り捨てるつもりだったのだろう」
「思ったより硬かっただけだ。しかし参ったな、三つ目は斬撃耐性か……」
デッドライアーの懐からトバリが抜け出し、それでもって今のデッドライアーが"EXECUTOR"であることを証明して見せる。
だがそれ故に、物故となった
これは、まだ生きた意思。それを死人が如何にかするのは道理に反する。来訪者がどうにかするのは義に反する。
そんななど知った事ではない。まだ死にたくないだけだ。
ナナは背負っていた対タイタン武器のチャージライフルを手にすると、チャージするが早いか射ち放った。しかし120mmの弾丸すら止める鉄鋼を穿つ閃光ですら、微かな穴を開けるに過ぎなかった。それだけでなく、二射目の穴は一射目の穴を上書きしてしまったかのように――ダメージを与える事ができなかった。
「条件付きの再生……?」
「だろうな。十分な威力で同じ場所を二度三度穿てと言うのだろう。また60秒待つのも難しいし、狙撃がコイツにできるとは思ってないが、できるか、745」
「無理。リングの回転が不安定で、……くそっ」
トバリの問いに、歯噛みし悪態を吐きながら応えるナナ。
ここに蓑亀が居たならば、もしかしたらその埋め尽くす勢いの攻撃で何とかしたかもしれない。ここに篝が居たならば、機体崩壊覚悟の"力の解放"で何とか出来たかもしれない。
あるいはここにテンノが居たならば、もしかしたらテンノ・パワーが何かしらの解決を見出したかも知れない。
だがいずれも無い。ナナは大抵の事を熟すが超一流には少し遠く、デッドライアーはできなくもないが時間がかかりすぎてリングの自己再生が間に合ってしまうだろう。
――だが。不幸と幸運は紙一重であり、しかしその幸運がまた見舞われた本人の希望に適うとは限らないものだ。
突然、デッドライアーとそれに少し遅れてナナは"幽かな存在"が急速に収束し高まるのを感じた。背後から、
「ティアナ。それは」
「わかってるわよ、もう魔法は使えなくなる。でしょ?」
よほどリンカーコアが痛痒いのか、掻き毟りながらも収束を止めようとはしない。
"幽かな存在"を扱う存在がそれなりに居るフロンティアで、魔力素質保有者が存在しない理由の一つがこれだ。"幽かな存在"はリンカーコアを
魔力をほぼ全て放出しきって、一歩間違えれば萎縮しかねないティアナのリンカーコアに、デッドライアーが収束し使った後の"幽かな存在"が僅かに入り込んだ。そしてそのわずかな量によって書き替えが発生し、それをティアナはどうやってか――恐らく元から素養はあったのだろう――知覚し、使おうとしている。
「たしかに管理局には居られなくなるし、ましてや執務官なんてなれなくなるわ。でも、それでもね!」
さらに収束する。練り上げる。
そして、叫ぶのだ。彼女の掲げ得る、得た尊厳と共に。
「今はまだ護る側で! 自分の住んでる世界の事を、他の世界の誰かに任せて"はいそうですかお願いします"って言えるほど、面の皮厚くないのよッッ!!」
最早デバイスとしては使えぬクロスミラージュだった物から放たれた弾は1発。
それは
その超超高速の1発の着弾点に瞬間的に数発の弾が重なり、寸分狂い無く同時に複数が着弾する。
それこそが今求められる攻撃であった。
それこそが凡人が超人に追いつくための秘訣であった。
――超人が1で事足りるならば、凡人はその1に10を詰め込めばよい。足りない分は、想いの力で補えばいい。
リングが音を立てて割れ、物故としての機能を喪う。石の欠片が――輝きを
3人の表情が思わずこわばる。手遅れだったのか、あるいはリングが抑え込んでいたのか、それは分からない。
だが欠片だけでも惑星一つをリセットするには十分な代物だと言う想像は容易にできる。
もはやここまでか。
そう、思った。思ってしまった、のだが。
何かが
目をそちらに向ければ、立っていたのは
そしてその輝きを、まるで無造作に、本当に石ころでも投げるようにティアナの前へと放り投げる。
「あ、ああああああ!!!」
こういう時、異能を持った存在は不思議と何をすべきかが解ると言う事が稀にある。今がそれだったのだろう。
ティアナは体内に残っていた
未だ"人でなし"としては不完全なティアナの、しかしそれ故に生きている者特有の熱を持った
その一瞬。全ての人々の脳裏にある意思が
ある者には全く理解できず、しかし一部の者たちには福音としか思えない、遥か上位の存在の
――それは抗う人々の姿。それは意思を貫く人々の姿。それは遺志を貴ぶ人々の姿。
――生きた人間の、生きている特権。死せる存在の、死してなお残るモノ。人の証明。
――生と死を踏み越えてまで成し遂げる、心の在り方の陰と陽。
――あらゆる存在の在り方への願い、祈り。そして、無数にそれらを繰り返した末の
『