ぼくのかんがえたわるいかんりきょくをヘイトする話   作:NonaIn

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長さがすーぐ変わる。たまげたなぁ。


Segment:+- Trial

N.D.0066 Winter

New superintend world "TYPHON"; Fall prediction point

 

 

 新規管理宙域惑星群"フロンティア"。

 そこは幾つかの希少資源が存在する事と言い訳のような魔法文明の存在によって管理局による管理を強要され、接収された幾つかの惑星によって構築される宙域である。

 

 そして当然、そこにはもとよりあった政府があった。しかしそれらは強制的に解体をされ、今やその求心力と残党が集い合い、フロンティアを防衛する巨大集合体"レジスタンス"として活動をしている。

 無論、彼等にも後援者、そして技術提供を行う存在も幾らかいる。

 

 そうして身を寄せ合った彼等の要求は単純であり、それでいて管理局には認め難いもの。

 

 ――非魔力素質者の護身用武器の携行許可、そしてフロンティア内での自治権。

 

 認め難いからこそ、正攻法では全く相手にもされない。逆に弾圧すら行われた。

 そうなればこそ、もはや抵抗するしか手段はなく。

 

 次元空間に浮かべられた偵察プローブから、管理局の航行船、それも巡洋艦あるいは軽空母クラスが複数迫っている事を彼らは既に知っていた。

 そして航行速度、惑星の自転・公転周期などなどを計算し、降下予測地点に戦力を集結させている。プローブからは既に転進と不干渉宣言を行うよう何度も要求をしているにも拘わらず、戦力を伴っての航行が確認されている――即ち、テロリストとして武力による強制鎮圧を行う為であろう事は想像に難くない、それゆえだ。

 

 多惑星へのタイタン供与を行う"虎大"、そして新機軸の機械文明による多世界商業集団"コーパス"。他幾つもの後援企業によって、"レジスタンス"の戦力は少なからず、非魔導士であっても魔導士に対し拮抗、あるいは封殺しうるものとなっている。

 

 ――もっとも、それらも名目上は"工具"や"事故対策装具"であるのだが。

 

 しかしそれでも、彼等は諦めはしない。諦めるくらいなら立ち上がりはしなかっただろうから。手には武器、頭には冷静さ、心には熱。そしてただ――その尊厳と共に。

 

 そして今現在、"レジスタンス"の武力偵察および機動戦力として編成された斑鳩艦隊、その司令官であり歴戦の猛者にして自身も特型バンガード級タイタン"斑鳩"のパイロットである青年、"森羅"の口下手故に虚勢の無く率直な言葉が集結した兵士達を奮起させていた。

 兵の数は巡洋艦にして4、戦艦1、軽空母が1に相当し、ここ"タイフォン"を落とされればレジスタンスの司令部が存在する惑星"ハーモニー"への直通航路が開いてしまう事から、ほぼ本土防衛に匹敵すると認識されている。

 それゆえ当然、"ジャンプキット"とタイタンを用いて高度な空間戦闘行動が可能なエリートである"パイロット"も、10を超える数が投入されている。これは現状で防衛力を集中させ過ぎず、かつ1度の高速航行で集結できるほぼ全ての数であった。

 

 森羅は口下手である。それゆえ長くかからず、レジスタンスの合言葉である"KEEP YOUR DIGNITY"を口にし、演説は終わってしまった。イオン型とはまた異なる姿のバンガード級のハッチを開き、搭乗する森羅を見送りながら、兵士達は行動を開始する。ただ、それと同時にウワサ話も始めてしまう。

 

「今回は厳しい戦いになりそうだな」

 

「何でだ? この程度の戦力だったら、幾らでも退けて来たじゃないか」

 

「それが、今回は管理局の大型新人の実戦も兼ねてるんだってウワサだぜ。まだ10歳前後にも関わらず、収束型のブレイカーをぶん回す恐ろしい奴だって」

 

「もし本当だとしたら陸戦じゃないな、だからこんなにイージスシステムを強く構築してたのか……」

 

「奴ら、形振り構ってられなくなったのかもな。ま、俺達は俺達の仕事をするだけだ、大物はパイロットに任せるしかない」

 

「ああ、タイタンが居るしな。何とかしてくれるだろ、俺達が生き伸びれるかは知らないけどな!」

 

「全くだ! ハッハッハ!」

 

 そして遅れながらも到着した一人のパイロットは、そのウワサを聞きつけて思わず苦い顔をせざるを得なかった。

 黒髪のその少女はミッドチルダでの出稼ぎから先週戻って、丁度タイタンを再調整させている所だったからだ。――つまり間も無く終わるとは言えタイタン抜きで、パイロットとして戦闘を行わなければならないと言う意味。

 

 ともあれ、戦闘に招集された事は間違いない。

 彼女の作業衣とは異なるフルコンバット用パイロットスーツの肩と片胸には『6-4 PM-745』と刺繍されていた。独自の正義感を持つ傭兵集団6-4(Six Four)からの出向であり、パイロットであり、その745番目。

 

 激戦の予感に身を震わせ、パイロット独特のフルフェイスヘルメットに頭を押し込んだその少女は――先日ナナと名乗った彼女であった。

 

「レイ」

 

『聞こえています、パイロット。戦闘開始予定時刻まで残り15分、私のリビルド完了は恐らく戦闘直前になるでしょう。 ……どうかご武運を』

 

「そっちこそ。会えるのを、待ってるね」

 

 ナナは不安げに、小さな体に不釣り合いな、強いて現代兵器に例えるならばPDWのP90に似たエネルギー・ライトマシンガンを手の感覚だけで確かめる。エネルギーセルよし、ヒートシンクよし、磁場形成ライフリングよし。

 腰の後ろに着けたジャンプキットも、サブアームのネイルガンも、対障壁用チャージレーザーも、空間探査音響パルスブレードシステムも正常。ヘルメット内無線も、戦術ネットワークへの接続も問題無し。

 

 ナナは時間が来るまで、戦場となる事が予測されるこの廃墟群の壁の崩れたビルの片隅に座り込み、繰り返し、繰り返し武器となる"工具"の点検をしながら体を休める。

 ヘルメット内に視界左下に表示され、遅遅としてしか進まないタイタンビルド進行率ゲージに、早く100%になってくれ、と祈りながら。

 

 しかしそれはかなわない祈りであったらしい。まだ予測時刻までのカウントダウンが5分以上残っているにも関わらず、全体へのバースト通信が入ったからだ。

 

『――こちらEcoh-Five-Five防衛部隊! 敵襲!! LTP(Long TransPortation、長距離転送)による奇襲を、ぐわあああ!!』

 

 長距離転送による奇襲。

 それだけを聞いて、ナナは咄嗟に割れた窓越しにパルスブレードを投擲した。緩い放物線を描いて向かいの壁に突き刺さったブレードは探査パルスソナーを三度発信し、既にこの建物が囲まれている事実を示した。

 戦術ネットワークを介して、"レジスタンス"はその位置情報を共有している。囲まれているならば、打って出るだけだ。下階に隠れていたライフルマン――パイロットではない多くの兵士――が飛び出し、めいめいが手にした工具を陸戦魔導士たちに浴びせてゆく。

 

 むろん、工具に非殺傷設定など、無い。エネルギー弾によって体を沸騰させ爆発する者、実体弾によって身体を欠損する者。地上の地獄とは、この事だろう。

 悠長に降伏勧告などしようとしていた管理局の魔導士は、攻撃を受けた時点で防御し反撃する。しかし非殺傷設定かつ魔力量の少ない生温い魔力弾は、須らく"コーパス"の供与した個人用シールド装置によって防がれてしまっていた。

 かと言って殺傷設定にする事は、彼等はするまい。しかしシールド装置にも限度はあり、出力が下がりきってしまえば普通に通用はするのだが、そんな事に気づく筈も無い。

 

 だが、一方で防御魔法は工具をしっかりと受け止める事が出来ていた。フィールドやバリアは然して効果を発揮しないものの、シールド、つまり一方向への防御であればしっかりと受け止め切ってしまう。

 最初こそ一方的な虐殺であったが、30秒もたたない内に膠着してしまった。

 

 とは言え、この狭い範囲だけの事しかナナには解らない。解らないなら、探れば良い。

 パイロットスーツの左の胸ポケットから、ブースト――そうそう乱発できないものの特定の支援を受けるための単機能発信装置――を取り出し、側面のスイッチを押し込む。

 

「レイヴン、探って」

 

 ガァ、と鳴き声がどこからかして、オーグメントの埋め込まれたワタリカラスが広域を高速で飛ぶ。彼に埋め込まれた機械は、短時間ではあるが広域の探査を可能としていた。

 そしてその探査結果は、もちろん戦術ネットワークに共有される。"虎大"の技術は非常に先進的であり、それでいて――能力の高い存在による個人戦をよしとする管理局の方針とは真逆。

 

 ミニオンが潜伏地点を取り囲み、未だ高反応な存在(パイロットや高ランク魔導士)は付近には無し。しかし少し離れた地点で、3体ほど大暴れはしている。間も無くこちらにも来るだろう。

 そうなれば、それより早くこちらが殲滅せざるを得まい。

 

 そう判断したナナは、いや、傭兵PM-745は武器を手にビルの窓から跳び出した。

 ジャンプキットが跳躍と同時に点火、マイクロジェットによる推進力によってひと跳びで2メートル近くの高さを稼ぐそれを使い、対面のビルの壁面を目指す。

 しかし距離が足りない。

 そこでもう一度空中で足を、ジャンプするように動かす。マイクロジェットにエネルギーが再度サージ供給され、まるで空中ジャンプでもしたかのように――いや文字通り空中ジャンプを行って飛距離を稼いだ。

 

 壁面に激突するかと思ったが、空中で姿勢制御を行い、片手と両足を壁面に付ける。姿勢判断からマイクロジェットに継続的なエネルギー供給が行われ、ナナはパイロットの基本動作、ウォールランを行い始める。

 ウォールランは文字通り、短い時間だが壁に張り付いて走る事のできる技術だ。ただ地上を走るよりも速く、更にその状態からマイクロジェットにサージ供給しつつ壁を蹴ってジャンプする事も、また更にそこから空中ジャンプを行う事も可能。

 ウォールランとジャンプ、そしてマイクロジェットを駆動させつつの膝スライディングはパイロットの基本的な機動戦術と言えるだろう。

 

 ウォールランからのジャンプ中に、ナナはスーツのジョイントに取り付けられた害獣駆除用の電気スモークグレネードを、器用にも片手でピンを引き抜いて地上の魔導士に投げつける。

 パンッと乾いた破裂音がすると同時に薄灰色の煙が広がった。それは荷電させられた金属の粉の煙。目の前の敵に集中していた陸戦魔導士たちは急に襲い掛かった電撃を防御する事すら敵わず――バリアジャケットや騎士甲冑の防御も数秒もたない――、痺れながら気絶、あるいは火傷によって戦闘不能に陥った。

 戦術ネットワーク経由で戦闘不能となった敵は、パイロットのヘルメットに戦果(スコア)として計上される。ビルの四方の、その出入り口の敵群を一掃した事により、中から抗戦していた自軍ミニオンも打って出る事ができる。雪崩出た味方を上から見下ろしつつ、ナナは更に上方から敵にエネルギー弾を浴びせて掃討していった。

 

 地上と空中から同時に襲われれば、どちらかはシールド魔法で防ぐ事はできなくなる。そうでなくともより高度を取った方がアドバンテージを得るのは、近代戦闘における常識と言える。

 こう言った理由もあり、航空魔導士を封じる意味でも一定以上の高度はイージスシステムによってIFF識別しながらも封鎖されるのが"レジスタンス"の戦場での常だ。

 

 そのため、平均的な空戦魔導士と平均的なパイロットの戦力比は限定条件下で3対2――つまり計算上で戦力的つり合いが取れるのは空戦2人に対してパイロット3人――と言われている。余談だがタイタンとパイロットであれば5対4となる。

 非限定条件下であれば比べるべくも無い。もっとも、"レジスタンス"は防衛を専らとしているのだから考える必要はあるまいが。

 

「こちらPapa-Mike-Seven-Four-Five(PM-745)。支援の継続は必要か」

 

 バランスは崩れた、と判断する。ゆえにナナは通信越しに地上部隊に問いかけた。

 

『大丈夫だパイロット、ここは何とかする!』

 

「了解。高反応の対応に急行する」

 

『おう! ひと泡吹かせてやってくれ!』

 

「負けたりはしないよ」

 

 会話そのものは短いし、発砲音は魔力弾の飛翔音が紛れ込むが、しかし管理局局員とは異なりそこに怖気や畏怖は存在しない。あるのはただ、勝利を掴もうという強い意志だけだ。

 それはある意味、非殺傷設定と言う甘えが生み出す士気の差でもある。

 

 いつの間にかもうすぐ満タンになるタイタンビルドゲージをちらりと見ると、ナナは最短距離を走り始めた。

 時に壁面を、時に窓を突き破って屋内を、時に地上をちょろちょろする陸戦魔導士にエネルギー弾を浴びせつつ。時に地上へ魔力弾を撃ちおろす低ランクな空戦魔導士を跳躍からの蹴り一発で容赦なく叩き落としつつ。

 一瞬一瞬では止まる事があっても、少しでも早く。一瞬でも早く。たった一つの高反応によって味方が減っている事を戦術ネットワークを介して理解していたから、焦りを抑えながら走る。

 

 ちらりと視界左上のレーダーを見れば、タイタンに乗ったパイロットが別方向から接近していた。

 好都合だ、と思わず笑む。そしてビルの壁から跳んだ一瞬で、わずかに見えた壁の隙間を縫うようにリチャージの完了したパルスブレードを投擲。偶然にもそれはミニオンに当たったらしく、スコアが加算される。

 

 しかし、ソナーの反応がおかしい。

 高反応が1つ、そして疎らなミニオン反応。明らかに数的有利はこちらにあるのに、もうすぐ殲滅されそうな。

 

 つまり、それだけ高反応体は強力と言う事だろう。まさか10も20も同時に誘導弾を精密操作して、カバーを回避して撃ち抜くと言う事はあるまいが。そんな事ができたら、それは人間ではない。

 

 そう推測を建て、戦術をチョイスする。

 少なくとも、カバー主体の歩兵的戦術は無意味。

 広域サーチを使えるなら、今は戦闘に集中していると仮定しても思考の1枠くらいは割いている可能性がある。不意打ちも成功しないものと見て良いだろう。

 防御力も高い。対タイタン用にも用いられる、工具という言い訳すら捨て去った対装甲兵器も辛うじてだが防ぎ切っているようだ。

 しかし高機動を行えるワケでは無さそうだ、少なくとも見ている限りでは地上を走るミニオンよりわずかに早いか、同等程度の機動性。

 

 ならば結論は、ウォールランなどのパルクールを継続して機動戦を仕掛けつつ、電気スモークで視界を遮り、ありったけのエネルギー弾を浴びせる。そしてタイタンの"全出力"を一点集中させ、撃墜。

 

「レイ」

 

『状況を確認しました。ニュークリアイジェクト・キットを選択。準備完了まであとわずかです』

 

「ごめんね」

 

『謝罪する必要はありません、パイロット』

 

 短く、恐らく他の誰かが聞いても解る事の無い会話。しかしそこには確たる勝利への執心と、確信。そして互いへの信頼があった。

 壁越しに位置を認識しつつ、走る。まだ間には壁がある、流石に撃たれる事は――

 

『警告! 高エネルギー反応!』

 

 しかし、それを軽く上回るのが"それ"である。

 

 纏う白いバリアジャケットは、百合の花の如く。

 手に持った杖は、砲の如く。

 撒き散らす桃色の光は、死の如く。

 堂々たる佇まいは、魔王の如く。

 

「ディバイン……バスターっっ!」

 

「ッ!」

 

 警告に反応したのか、それとも詠唱に反応したのか。ナナが壁を蹴り跳んだ直後、そこを一条のと言うには太い、桃色の光線が貫いた。

 間一髪、とはこの事だろう。どこかで聞いた声のような気もしたが、その疑問をナナは息を一つ吐くだけで棄て去る。

 

 現状認識。ただ、タイタンではなく自分が囮になっただけだ、と。

 

 接近してくるタイタンの機影も確認できた。ツートンカラーのローニン級タイタンだ。ペイントされたエンブレムからすると独立調査隊"グレイヴヤード"所属。

 

「デッドライアー、か。心強い」

 

 きっと自分がダメでも、彼ならやってくれる。後詰めがあるのは心強い。

 そう自身を振り絞り、数度のウォールジャンプを挟んでナナは跳び出した。

 

 相対する二人、などと言うドラマチックな光景にはならない。撃破すべき敵の位置が確信出来ている以上、ナナは、パイロットはただ弾丸を浴びせるのみだ。

 一方で魔導士は、なのはは困惑していた。何故躊躇いもなく武器を、殺せる凶器を人に向けられるのか理解できなかったからだ。その一瞬の動揺、気持ちの差が彼女らの初動を大きく分ける事になる。

 

 人間が見てからシールドを貼る、などと言うぬるい弾速ではない。レイジングハートが咄嗟に、それこそ条件反射的に自動でプロテクションを発動しなければ、腕の一本、足の一本では済まなかっただろう。

 本物の殺意、などと言うモノにたかが小学五年生が慣れている事がおかしいのだ。それを戦場に送り出した管理局はもっとおかしいが。

 そのせいで数十発の速射されるエネルギー弾によってなのははプロテクションの維持のために足止めを余儀なくされ、電気スモークを展開する事を許してしまう。

 

 これ以上高度を取れば更なる弾丸の暴風に晒される。ゆえに慌てて高度を下げれば、今度はローニンが機体の高さと同じほどの長さのブロードソードを携え、ショットガンを乱射し威嚇牽制した。

 狙いが甘い訳ではないが、これはプロテクションで防ぎ切りバスターを放つ。

 桃色の光をローニンの貧弱そうな機体を貫くかと思われた瞬間、もはや予見していたとしか思えない速度でブロードソードを横に構え、その腹によって防がれる。

 

 そしてその間隙にナナがミニオンを狩りつくす。ここまでが、ほんの二十数秒のやりとり。

 だがそのミニオン狩りが、それこそが魔王の逆鱗に触れる行為であった。

 

 目の前で、ここにやってくるまでの短い間とは言え言葉を交わした人間が沸騰し破裂する。並の精神であれば吐いてしまいそうなその光景を目の当たりにした魔王は、逆に怒りを感じた。

 それはもっと以前より命をかけるような、それでいてどこか生温い戦いを経験し続けて来たからこその反応。死ねば返らぬ事を心の底から知っているからこその憤怒、怒号。

 

「どうして……どうしてそんな酷い事を簡単にできるの!?」

 

 だが傭兵たちは答えない。応える義理も無い。

 言葉の代わりに向けられるのは、触れれば熱く沸き上がり命を奪う弾丸と、人一人を容易に挽肉に変えてしまうブロードソード。――殺気などと言う無駄なものは表出しない、それすら内に押し込める異様なまでの戦闘慣れ。

 

「全力全開で倒して……お話聞かせて貰うんだからッ!」

 

 更に怒りのボルテージを引き上げたなのはは、先ず大きな障害を取り除こうと決める。大きさの差はそれだけで危険につながり、危険対処を自ずから自然に学んでいた彼女にとって優先順位を決める目安になったからだ。

 デバイスを突きつける。それだけで射線から逃れるためにスラスターを吹かし、横スライドで遮蔽物へ入るローニン。

 

 防御の大部分をレイジングハートに任せ、なのは自身は攻撃に集中する。

 そう言った割り振りを、一瞬で決めたらしい。シューターによる曲芸染みた猛攻撃の最中にちょっかいを出したナナの攻撃は、一瞬だけ展開されたプロテクションによって防がれる事となる。

 

 しかしローニンを駆るデッドライアーは、古強者だ。

 

 そのわずかな硬直で、戦闘用に調整されたタイタンの奥の手――コアを発動させる。

 

『ソードコア、オンライン』

 

 既に保護層が半ば以上削り取られ、機体の背後にある冷却口から火を噴くローニンの、渋く凛々しいAIボイスが響く。

 機体の限界を超えた駆動を開始し、機体全体に過剰なエネルギーが供給され、暴発防止のためにショットガンは使用不能となるもののブロードソードが常時放電現象を起こす程に帯電する。

 

 ソードブロックの精度が上がり、殆どの攻撃は防がれる。それでも攻撃の手は止まらない。

 優しさと生温さで生きて来た魔法少女が、憤怒を知ってしまえば、その瞬間の力と言う物は大きくなる。

 

 それが理不尽に人の命を奪う事に何ら躊躇の無い『悪党』相手ならば、猶更。

 

 一歩も動かないまま、魔力の残量を考えもせず、レイジングハートに全ての攻撃を防がせつつシューターとバスターによって削り取ってゆく。

 タイタン相手に人が真正面から殴り合いを挑む、異様な光景がそこにはあった。

 

 だがそれが戦う上でどんな関係があると言うのか。

 

『済まない、このままでは抑えきれそうにない』

 

 デッドライアーの、古強者と表現できるにも拘らずいつまでも若い姿を現すような、疲れ切った青年の声がナナの耳朶を打つ。

 恐らく彼の専属オペレーターであるトバリに怒られているのだろうな、などと考えつつ、100%になったタイタンビルドゲージを見た瞬間に座標を指定する。

 

「タイタンフォール、申請」

 

 なのはの居る座標に軸を合わせ、上空から線が一本引かれる。

 いや、それが見えるのはパイロットだけだ。ヘルメットの内側に表示される光景に、ARで重ねられているだけ。カウントダウンは5秒から。

 

 ローニンは――デッドライアーは素早く退いてゆく。もう保護層も剥がれきり全身炎上し、シャーシそのものの強度で何とか壊れずに済んでいるだけという危篤状態だったからだ。彼が『死をすら偽る』と呼ばれるのは、ひとえにその引き際の見極めが上手いからに過ぎない。

 それ以前に、フルコンバット許可を持つパイロットと言うのは異様なまでに生存率が低いものでもあるのだが。――免許を取るまでで80%が、一度戦場に立てば90%が"死亡"すると言われている。そう言う意味では、彼のように生き残る嗅覚を持たなければ古強者とはなれないのだろう。

 

 カウントダウンが進行する。残り2秒、という所でレイジングハートが鋭く警告を発した。

 

『Warn! TITAN fall detected!』

 

 警告に弾き飛ばされたかのようになのはが高速移動魔法を使った直後、先まで居た場所に『巨人が空から降ってくる(タイタンフォール)』。

 フォール直後のタイタンは、すぐに行動を開始はしない。いや、一部はさせるパイロットも存在するが、多くは粒子ドームフィールドを展開し、攻撃から保護する。しかし、可視ではあるのだ。

 

『……Enemy TITAN chassis IDNO RD-5013.』

 

「RD-5013、って……えっ!?」

 

 彼女は友達想いであるが、その判断基準は割とわからない。名前を互いに呼べば友達、などとも言う程に友達を欲しがる面もあるのだが。

 

 だがそもそも、ナナもレイもただ"魔導士"としてしか認識していなかった。

 それこそ路傍の石、あるいは花壇の花。いや、それより酷いかも知れない。なぜなら、いずれ敵対する事は解っていたのだから。

 

 動揺するなのはを油断なく監視しつつ、ナナはレイ――イオン高機能モデルタイタンに乗り込む。ドームシールドがある故にその隙を攻撃されても防げただろうが、無くても攻撃されなかっただろう。

 

『無事でよかった、パイロット』

 

「レイ、また会えて嬉しい」

 

 短くも相棒との再会を喜び、しかし今は戦闘中だとスラスターでの前方へのステップイン。何か呼びかけようとするなのはに対して、その40トン超の全重量を叩きつけるようなテレフォンパンチを繰り出した。

 

 ごぎゃん、と重厚な金属同士がぶつかり砕けるような音。それは攻撃失敗を意味する。

 例えベルカの騎士であっても、それが生身の人間である以上タイタンの全重量など受けてしまえば赤い染みになるのが道理と言うモノだ。

 

 なのはの命は事実、風前の灯火と言えなくもなかった。レイジングハートが衝撃を"弱める"ためのプロテクションを貼り、それの破砕された衝撃でなのは自身を突き飛ばしていなければミンチより酷い事にはなっていただろう。

 そしてそのダメージによって、更に覚悟を固める事となった。今目の前に居るのは話の通じる友達ではない、ただ"魔導士"を排除しようとしている"敵"なのだと。

 

 白い魔導士は高度を取る。しかしそれもまた悪手。イオンのサブアームには、超長距離電送用のレーザーショットが一門装備されている。それはチャージに時間を要せず、即時に着弾する代物。

 直感に従って身を翻したすぐ隣を大人の腕ほどの太さの濃い橙色の光線が一瞬だけ通り抜け、空気がオゾン臭を伴った事に冷や汗を禁じ得ない魔導士。

 

 人間の対タイタン戦におけるセオリーは、障害物を最大限利用した"Cat and Mouse"――猫とネズミ、つまり次々に違う場所から顔を出しては一撃当てて逃げるおちょくり戦法。

 しかしそれを知らず、そうでなくてもしようとしないで真正面から当たる魔導士。パイロットは眉一つ動かさず、ただ淡々と追い詰めてゆく。

 レーザーショットと、手持ちのスプリッターライフル。そして地面に設置するトリップワイヤートラップ。たまに放たれる被害の大きそうなダメージは、左手から生じるヴォーテックスシールドでかき消して。

 

 それでも無被弾とはいかない。小さなダメージの蓄積は、気付けば自動回復するシールドと保護層の半分を削り取っていた。

 遠距離戦であれば確実に撃ち勝てると言うのに、なぜ中近距離戦を仕掛けていたのか。パイロットは自省した。故に距離を取る――それは魔導士にとっても願っても無いチャンス。

 

 二人の兵が取った行動は、奇しくも、いや必然として同じであった。

 手札の内での最大火力での、勝利。

 逃げ場はない、隠れる場所も無い。そう言った開けた場所にいつの間にか移っていたが故の必然の選択。

 

 タイタンはあちこちを炎上させつつも、コアに取り付けられた余剰エネルギーの蓄積回路を全段直結。装甲前面そのものを発振器として、"レーザーコア"の発動にかかる。

 それよりわずかに早く、しかしわずかに発動にかかる時間がかかるのは、魔導士の"収束砲"。詠唱を破棄し、威力よりも速度を重視しての発動となる。

 

『レーザーコア、オンライン』

 

「スターライト・ブレイカー!!」

 

 魔力"粒子"の奔流が、レーザー"光線"の束とぶつかる。

 それらは相互に干渉する要素だ。ただし膨れ上がるのではなく、喰らいあい潰し合う類の。

 

 タイタンの腕ほどもあるレーザーが魔力砲を過熱し、その術式を無意味として霧散させる。

 しかしタイタンを丸ごと飲み込むほどの魔力砲は、それを打ち破らんと怒涛の如く押し寄せる。

 

 だが。機械による一定の出力を持ったレーザーと、魔術師のメンタルによって出力の変動する砲撃では、砲撃に軍配が上がった。

 

 せめぎあう間になんとか回復しきった自動回復シールドと、50%を切っていた保護層。そしてシャーシそのものの強度のほぼすべてを、非殺傷設定にも関わらず魔砲は消し飛ばしていた。

 その対価は、継戦によって減少していた体内魔力のほぼ全て。辛うじて浮いている事が限界のなのはは、もはや立っているばかりで全身炎上しているタイタンへとふらふら近づいてゆく。――これでやっと、お話聞いて貰える。と

 

 しかし、そのせいで己を危機へと晒す事となった。タイタンの巨腕が、無駄の多い咄嗟でのシールドもフィールドも貼るほどの余裕が無いなのはを捕らえる。

 

『プロトコル2、プロトコル3を実行』

 

 ピン、ピン、ピン。

 

 微かな電子音が三度。その直後、レイは異様な音を発し始めた。まるで機械が暴走しているかのような。

 その機体が、動力源である"コア"のある内側から光り輝く。清廉で、穢される事の無い白の光。

 

「ッッ、プロテクションパワードっ!」

 

 それを遮るは撃発の音、桃色の星光。それ故に細かい部分は見えない――見る事をしなくなり。

 

 一呼吸の後、ニュークリアキットの名に恥じぬ大爆発へ巻き込まれるのであった。

 




もうちょっとだけ続くんじゃよ。

TITANFALLカウントがうろ覚えでガバかったのでこっそり修正。他色々。
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