ぼくのかんがえたわるいかんりきょくをヘイトする話 作:NonaIn
ご都合主義? 知らんな。
N.D.64.2
FRONTIAR Planet"Garland" ;Slum area
遠く"遺物"達と"人でなし"達、そして"人でなし"達に加勢する"パイロット"と"タイタン"達が撃ちあう音が響く。
いや、遠くなどはない。それは窓から少し見れば、飛び交う弾(BULLET)や弾(AMMO)が肉眼でも見えるほどだ。それ故に既にスラムに住まう危険に敏感な存在は動けないか動かないほんの少数を見捨てて、今日の食事をたかるためにも既に"人でなし"達の本陣に押し寄せていた。
フロンティアの惑星には、いくつもの先史文明が存在する。その多くは自滅あるいは滅亡の徒を辿っており、そしてここ"ガーランド"にはその文明が遺した"遺産"が幾つも遺っていた。
もっとも、人々は先史文明のせいで過酷となったガーランドの環境を生き伸びるため、あるいは単に楽をするため、そう言った遺産の中でも比較的に理解できる――安全でもなければ制御可能でもない――ものの周囲に集落を作って生活している。
そして多くの理解不能な遺産の周囲にも、スラム街は形成される。
そう言った理解不能な――それ故に猶更危険で予測もつかない――遺産には、"グレイヴヤード"が調査に入る事も多々あった。そしてここ最近はフロンティア全域で協働している、パイロットやタイタン達もだ。
そのせいで激しい戦闘があちこちで起こり、スラムの住民は往々にしてその努力で作り上げたみすぼらしくも立派な住処を追われる事となる。
"遺物"はただ祈る事だけに特化した、血と肉と精神を辞め瀝青と鉄と石に成り果てたモノと言われている。
対して、"人でなし"はまるで対となるような、人の形を保ったまま命を7つに切り分け、死を遠ざけた存在とも。
両者に共通するのは何れも己の持つ概念的な引力によって惹かれ集った"微かな存在"を操り、飛べるはずも無く飛び、持ち運べるべくもない量の弾(BULLET)を撃ち、そうして争い合う事である。
もっとも。
そんな事はこのスラム産まれの両親を知らぬ黒髪黒瞳の、襤褸を纏った少女には一切関係無かった。
ただ、少女はぬくもりが欲しかった。それは他者から与えられる物でも良く、あるいは自身から流れ出る血でも良い。そう感じてしまっていたからこそ、激戦区と化したスラムのド真ん中で、いつ崩れるかも知れないあばら家の中でただ空を見上げていた。
空を飛ぶ者たちが放つ"微かな存在"の残滓は、彼等の魂に染まる。その染まった輝きは、きらきらと空を彩り、ただ見るだけでも不思議と見るモノの心に与えるモノがあったからだ。
そして与えられるモノは、少女の場合はぬくもりであった。故に、逃げようとも思わず、ただただ空を見上げている。
ロクに食事も得られず、既に9つの齢を数えようとしていたのにあからさまに小柄でやせ細っていて、それでいて不思議と身体能力の低くない――高く無ければ死んでいた、スラムはそういう場所だ――彼女は、ただただ、見入っていたのだ。
ふと、空の輝きが幾つかこちらに向かってきている事に少女は気づいた。惹かれるように手を伸ばす。もうすぐ。もう少しで、届く。
そう思って笑った瞬間"遺物"は弾(BULLET)と弾(AMMO)を撃ち、しかしそれでも逃げようとしなかった彼女を護るように、すぐ近くの物陰からタイタンが滑り込む。
――"微かな存在"を操るモノたちは言う。引力とは、運命の力であると。そしてこれも恐らく、運命だったのだ。
そのタイタン、イオン級の扱う防御装備であるヴォーテックスシールドは、エネルギー弾であればかき消し、物理弾であれば捕らえて跳ね返す事もできるものだ。しかし弾(BULLET)を構築するモノ――"微かな存在"はどちらでもあって、どちらでも無い。
それゆえ一瞬でオーバーロードを引き起こし、それだけでなく高活性化したそれは乗り手の魂をも汚染してしまっていた。"遺物"はそのまま暫し浮遊していたが、タイタンが動かなくなった事を認めるとどこかへ行ってしまった。
ただ少女は茫然と見ているしかなかった。美しく温かいと感じていた存在が、如何に危険であったかを理解してしまったからだ。そしてタイタンに人が乗っているとも知っていたから、そう、ただほんの少しだけ見返りを期待して、助けようと打算を働かせた。
窓枠をヒョイと跳び越えて、タイタンによじ登る。どこにコクピットがあるかはわからなかったが、どこかに開けられる場所はあるはずだ。
『警告。タイタンへよじ登る事は危険です。 ――現パイロットが発狂、自我を永久喪失と認定。再起不能。緊急手順I-014に従い、直近の人間を精査。臨時パイロットに任命します』
「……」
『付近にパイロット及びライフルマン無し、未成年の民間人1を検知。 ……民間人、申し訳ありませんが手伝っていただけませんか』
「……なにを、すれば?」
タイタンと言うのは重機である。子供の手を借りる事など、そう無いと思うのだが。
少女はそう考えていた。しかし、それは違っている。すくなくともこの場では違う。
『元パイロットが発狂による脳死となり、降ろさなければ動く事もできません。 作戦行動中に深度の発狂、あるいは事実死となったパイロットはプロトコル3・パイロットを保護の対象からは外されます。 コクピットを開くので、元パイロットを下ろすのを手伝ってください』
本来、タイタンと言うのはパイロットを何よりも大切にする物である。しかし今ここではそれは例外となっていた。
偶然にもイオンに乗っていたパイロットは魂の容量が小さく、オーバーロードを引き起こした。それにより自我が喪われ、パイロットとしての機能を失った事で、タイタンはサブルーチンとして組み込まれていた緊急手順に移行。
直近のライフルマン、あるいはそれに近い人間に避難を手伝って貰おうとして――誰もいなかったために少女にそれを頼む事となったのだ。タイタン単機でも移動自体はできるが、より確実性を増すためには臨時であってもパイロットが必要なのだ。
そして何より、発狂などをする事があれば直近の人間を臨時パイロットに任命しろ、とふざけ半分で前パイロットがイオンに話していた事もあった。
そういった理由で、少女はタイタンのコクピット内部でコンソールに指が食い込むほどにしがみついたまま死んでいる前パイロットを引きずり出し、AIからの指示を上手く出せないイオンにニューラル・リンクを行い、臨時パイロットとなる事になったのだ。
その後、幾度も彼女らは"遺物"に襲われる事となる。
イオンはその度に逃げる事を推奨し、しかし全機能を少女に預けなければならなかったため、少女はそれらを直感的に迎撃してしまった。――大型に分類される"遺物"すらだ。
そう言った経歴があり、前パイロットよりも戦闘効率評価が上がってしまった少女はイオンにパイロットとして指名され、前パイロットが所属していた6-4で"傭兵番号745"と言う名を与えられる事となった。
元々身体能力も高く頭も悪い訳では無かった彼女は、わずか1年と言う"狂気に呑まれた"かのような驚異的な速度で正式なパイロットとなる事になる。その理由は――タイタンとのつながりに、あたたかさを感じてしまっていたからに他ならない。
かくして少女は745となった。そしてイオンはレイとなった。
――まるで全てが予定調和、初めからそうなる事が定められていたかのように。
実際、後付だから深く考えてはいけない。
世の魔法少女が何で魔法少女になれるのか、淫夢ネタはなぜ不意にやってくるのか、ってくらい触れちゃあならないんだ。