海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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The Silent Orchestra_3

扉の向こうに立っているその姿は、マネキン…、人形であった。

白い身体に白い顔。黒の瞳。顔にヘ音記号の模様がある。

白黒のタキシードを羽織っている。そこから伸びる長い足は一本。白い一つの棒が胴体を支えている。

芸術品だ、と思った。美術館に飾られるべきである、芸術品。その形といい、模様といい、全てが洗練された、素晴らしいものなのだろう。

そう思ってはいるのに、私はこの人形が私を呼んでいたと考えたのである。

そんなわけあるはずがない。人形は人形だ。人の形をした無機物。人を呼ぶなど、そんなこと有り得ない。

 

「……貴方が、私を呼んだの……?」

 

だというのに私は人形に話しかける。何故か、何故か私はこの人形が応えることを信じていた。

それは確信に近い―――、言うならばそれが〝当たり前〟のような感覚。

傍から見たらなんて馬鹿なのだろう。

それでも私は、思ったのだ。

 

生きている、と。

この人形は、生きている。

そう、思った。

 

 

――――やっと。

――――やっとお会い出来ました。

 

 

頭に言葉が響く。それは確かに人形の方から送られている。

 

「どうして、私を呼んだの?」

 

私は人形に問いかける。それが聞きたかったのだ。

私を呼んだ理由。どうしてもわからなかった。私はここに来たばかりで、この人形のことなど知らない。見たことも聞いたこともない。

何か感情を持たれることなど、ましてやそれが〝会いたい〟なんて訳が分からない。

 

―――扉越しに貴方の存在を感じた瞬間

―――ぜひお会いしたいと思ったのです。

 

「その理由がわからない。私は貴方のような存在に嫌われやすいのに。」

 

そう。見えないし感じないけど、特別な力を持つ両親がそう教えてくれたのだから、それは事実なのだろう。

私はこの人形のような〝人ならざるもの〟には嫌われる質であるというのに、どうしてこの人形は私に好意を持っているのか。

なにか企んでいるのではと人形を睨む。すると哀しそうな言葉が頭に流れてきた。

 

―――辛い思いをされてきたのですね。

―――では、私が貴女を守りましょう。

―――その心が壊れないように。

 

「!」

 

人形の周りにキラキラと輝きが立ち込めたかと思えば、白い手が空中に現れた。

それはタクトを持っていて、一振すると淡い色の音符が幾つも宙を舞う。

その内の一つが私の首筋に吸い込まれていった。反射的にその辺りを手で抑えるけれど、特に痛みもなく変わったこともない。

なんだったのかと首を傾げているとまた人形の言葉が流れてきた。

 

―――これでいいでしょう。

―――さぁ、コンサートをはじめましょうか。

 

「コンサート?」

 

―――そうです。

―――貴女の歓迎コンサートですよ。

 

タクトが振られる。音符が宙を舞う。

その音符は集まって形になり、やがてもう一体の人形となった。

ただ出来上がった人形は身体こそ人の形をしているが、頭は音符そのものである。

身体がぐねぐねと動いて、楽器など持っていないのに動きに合わせて音が聞こえる。まるで人形そのものが楽器のようだ。人形は一体出来上がり、また一体出来上がり。そしてまた一体が作られようとしている。

音は重なり合い旋律を紡ぐ。耳に響く美しい音に私は思わず聞き入った。

 

「……すごい綺麗なメロディー……。」

「っ、貴女は!この音を聞いてもなんともないのか?!」

「え?……っ?!」

 

後ろにいたダニーさんの声。

周りを見てみると人形を取り囲んでいた社員さん達の様子がおかしい。

先程まで怖い顔で人形を睨んでいたのに、皆穏やかな表情でじっと人形を見つめている。その瞳は光がなく、虚ろであった。

ただダニーさんと数名の社員さんは正気のようで、耳を抑えて苦しがっている。

 

「音楽を、止め……っ!」

「えっ、あっ、お、音楽やめてください!」

 

どうしてこんな苦しんでいるかわからないけれど、どうやらこの人形の奏でる音楽はあまり良くないらしい。

ダニーさんに言われた通り、人形に止めるように伝える。するとまた人形は私の頭に直接応えてきた。

 

―――どうしてですか?

―――お気に召さなかったでしょうか。

 

「あっ……えっと、ま、また今度!今度、私だけにコンサートひらいてほしいなー…って。」

 

あからさまに哀しそうな声に、私は慌ててフォローする。

せっかく私のためにと言ってくれたのに申し訳なかったし、先程の廊下で聞かされた高音はもうごめんだった。

人形の様子を伺う。といってもその表情が変わることはないので、言葉を待つしかないのだけれど。

 

―――わかりました。

人形はそう言うと、タクトを大きく振った。

作り出された人形はまた元の音符に戻り、散らばる。それらは暫く空中で踊ると空気の中へと溶け込んでいった。

そしてタクトを持つ手も同様に、形を光のつぶに変えキラキラと反射した後に消えた。

 

―――また今度。

―――次は貴女だけの、特別なステージを用意いたしましょう。

 

人形も、煙のように消える。

フロアはしんと静まり返って、我に返った社員さん達は呆然としていた。

肩を叩かれて振り返ると、まだ具合の悪そうなダニーさんが私を睨むように見ている。いや、苦しそうな顔で見つめられてるからそう見えてるだけかもしれないけれど。

 

「ユリさん、少し、責任者と話していただいてもよろしいですか。」

「……また後日じゃダメですか?」

「申し訳ありませんが、この状況で何もなしに帰すわけにはいかないもので。勝手かと思われるかもしれませんが……。」

 

口調こそ優しいが、私にはこう言ってるように聞こえる。〝逃がさない〟と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




The silent orchestra_〝歓迎の歌〟





静かなオーケストラ
参考:http://ja.lobotomy-corporation.wikia.com/wiki/The_Silent_Orchestra


【ユリちゃんのアブノーマリティメモ】
指揮者の格好をしたマネキンさん。
すごい綺麗な音楽を聞かせてくれた。

──気に入っていただけたなら良かったです。

……脳に直接語りかけてくる!?



【ダニーさんのひと言】
最高にハイでも最低な気分でもどっちでも演奏をはじめる面倒臭い人形。
音楽で全体攻撃してくる。ちなみに最後まで聞くと冗談抜きで脳ミソがパーンする。くっそ強い。



この回めっちゃ難しかったです。書き直し繰り返し。でもこの出来なのでまた直すかもしれません…、

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