【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
廊下ですれ違う他のエージェントさんの視線を感じる。
というのも無理はない。私の周りにキラキラと舞うこの妖精のアブノーマリティがとても目立っているからだ。
根っからの日本人気質な私は注目されるのがあまり好きでないけれど、この楽しそうな妖精を見ていると癒されるのも事実。
ずっとこのままということでもないだろうし、何を出来るわけでもないのであまり気にしないようにして次の作業指示に従った。
次の対象アブノーマリティは〝静かなオーケストラ〟。
オーケストラさんへの作業はほぼ毎日行っているので、特に身構えなくてもいいだろう。
いつもと違うのは私に付いてきている妖精達の存在。
……他のアブノーマリティの収容室に入っても大丈夫なのだろうか。
一つの部屋に二つのアブノーマリティなんて聞いたことないけれど。
けれど離れてくれないのだから仕方ない。モニターで見られているのにXさんから別の指示がないということは、このまま作業しろということだろう。
そんなことを考えていると、あっという間に静かなオーケストラさんの収容室に着いてしまった。
いつも通り、電子パネルを操作して扉を開ける。収容室の中に入ろうとした時だった。
妖精に、服の襟を掴まれた。
ケーシーは廊下を急ぎ足で歩いていた。
先程からタブレットの通知がうるさい。インカムも怒鳴り声が煩くて外してしまった。
指示に従えなど、ケーシーは今それどころではないというのに。
ようやく目的の〝妖精の祭典〟の収容室についたケーシーは慣れた手つきで扉を開ける。
そして中に入って、その光景に叫び声を上げた。
「どうして戻ってないの……!?」
そこには一番大きな身体をした妖精はいても、小さな妖精はいなかった。
先程まで自身と行動していた妖精達。それなのに突然飛んでいってしまったから、収容室で何かあったのかと思ったのに。
「ねぇ!何があったの!?」
大きな妖精に問いかけても、妖精は不思議そうに首を傾げるだけであった。
可愛らしくも頼りにならないその姿にケーシーは眉を下げる。
こみ上げてくる悲しみ。あの自分を慕ってくれた小さな子達が何か大変な目にあってると思うと苦しくなる。
俯いていると、キュ、キュ、と鳴き声が聞こえた。
その声に顔を上げると、ケーシーの目の前には妖精がいてニコリと笑う。
そうしてケーシーの頬を擽るように舐めた。そしてまた鈴のような声でキュ、キュ、と。
その純真な笑顔に、ケーシーの胸はきゅっと締め付けられる。
自分を選んでくれたアブノーマリティ。自分の頑張りを、認めてもらえたように思えた、その美しいアブノーマリティを見てケーシーは決意する。
「妖精さん。私小さい子達を探してくるわ!あの子達が私から離れるなんて、何かあったよのね?私が力になる!そうしたらまた一緒でしょ?」
妖精はまた不思議そうに首を傾げたが、ケーシーには関係なかった。
そうしてケーシーは収容室を後にする。まずは妖精達を探さなければいけない。
ケーシーは知っている。自分が特別なこと。自分だけが特別なこと。だからケーシーは妖精達を探して助けなければいけない。
たとえ相手が誰であろうと。
妖精に襟を掴まれたまま前に踏み出したユリは、ぐえっと可愛くない声を出した。
驚いて振り返ると、襟を掴んだであろう妖精は小さな頬をプクッと膨らませていた。
よく見ると他の妖精も服の裾や袖を掴んで引っ張っている。頬は膨らませて。
まるで私が中に入るのを拒んでいるようだ。やはり他のアブノーマリティがいる部屋に入りたくないのだろうか。
「……ごめんね、お仕事で中に入らなきゃいけないの。離してもらえないかな。」
そう言うと妖精はキュウ、キュ、と鳴いて、首を振る。言っていることはわからないが嫌なのだろう。
「どうしても中に入らなきゃいけないの。……嫌なら外で待っててもいいから。ね、お願い。」
小さな頭の負担にならないように、指の腹で頭を撫でる。
すると妖精はパッと手を離して、離れる……かと思いきや今度は腕にガッシリと掴まってきた。
動けはするのでいいのだが、意外と力があるようで腕が少し痛い。
妖精達の頬はまだ膨らんでいて納得していないようだった。なんだか子どもが拗ねたような姿に失礼だが可愛いと思ってしまう。
仕方なくそのまま中に入ると、オーケストラさんが出迎えにこう言った。
―――不思議な妖精の運び方ですね?
その言葉に笑ってしまったのは仕方ないと思う。
みじかくなってすいません。
流石に新年初投稿が番外編のみだとまずいと思い急いで書きました。