海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Singing Machine_1

本日のスタートは罰鳥への栄養作業から。

手のひらで餌を上げながら木に止まっている罰鳥を撫でる。もふもふ。

本当、こうしているとただの鳥にしかみえない。いやこんなに愛嬌のある時点でただの鳥ではないのだろうが。

その手触りの良さに思わず頬擦りすると、罰鳥は嫌がるどころか積極的に自身の体を擦りつけてくる。かわいいいいいい。

罰鳥はよく収容違反をすると聞くが、私はまだあの初めてあった時以外、罰鳥がこの部屋を出ている姿を見たことがない。

しかし聞いたところによると、私が研究所を休みの日はすぐ様に収容違反するらしい。Xさんいわく「黒井さんを探して収容違反してしまう」と。それが本当なら不謹慎ながらかなりかわいいのだが。

なので、次の日がお休みの日は必ず罰鳥に挨拶に行くことにしている。そして休みを報告した時の罰鳥の反応が、また堪らんくらいかわいい。

 

「罰鳥さん、私明日お休みだからいないの。また明後日ね。」

 

そう言うと罰鳥は首を傾げて、そのガラスみたいな瞳で私を見つめる。

とぼけたようなその態度もかわいいのだが、言葉を理解した途端に小さなくちばしが私の制服を咥えて離れまいとしてくる。

これが休み前の度に繰り返される。私の癒し。

 

「また明後日は研究所にいるから。いい子でお留守番してて。ね?」

 

そう言うと、渋々離してくれるのだ。可愛すぎか。この鳥は毎回私のことを喜ばせてくれる。

これで本日一体目のアブノーマリティへの作業は終了。軽く手を振って、収容室を後にした。

 

この後はオーケストラさんにも挨拶に行く。恐らく後で作業指示が来るだろう。

といっても、オーケストラさんの作業担当になっているため、休み前以外も必ず一日一回作業するのだが。

オーケストラさんに教えてもらったのだが、〝成人した人間に近い知能を持つ〟アブノーマリティは、研究所内に私がいるかいないか位ならわかるらしい。

なので前〝無名の胎児〟に与えた抱き枕作戦も、対するアブノーマリティによっては効果がないそうだ。

試しに私が休みの日、オーケストラさんに抱き枕を渡したことがあるのだが、オーケストラはそれを完全にただの人形と理解し、更にその後『 あの抱き枕、ユリさんが近くにいるみたいでいいですけど、実際のユリさんの方が可愛いと思いますよ。』と感想をいただいた。

ちょっと怖かった。

ちなみに抱き枕返そうとしないので『この抱き枕あったらここに来ませんからね!!』と脅した。そして無事に返してもらったのだ。

さすがに自分の人形のある部屋で掃除とかしたくないので良かったのだが、その後一連の流れをモニターで見ていたXさんに危険な言動だとすこぶる怒られた。反省。

オーケストラさん同様、罰鳥にも抱き枕は効果がないらしい。

置いておいたら止まり木の代わりに止まったりするが収容違反はする。

 

つまり罰鳥は〝成人した人間に近い知能を持つ〟ということだ。

 

それを考えると、……あの、かわいい鳥を警戒してしまう。

今はいいけれど、この先、何か起こるのではないのだろうか。

更に気になるのは、〝大鳥〟。

罰鳥と同じ鳥類のアブノーマリティの大鳥は、どうなのだろう。

抱き枕の実験は実はまだ行われていない……というより行う事ができない。

大鳥はもう、脱走しなくなってしまったのだ。

私がいてもいなくても、大人しく収容室でじっとしている。

たまに私が大鳥の収容室に行っても、ちょっと喜んだように体を揺らすだけ。

 

『これからは見守ってくれてると、嬉しい。』

 

あの時、初めて大鳥にあった日私はそう言った。その言葉を、大鳥は守っている。

それは嬉しいし、助かるのだけれど。

大鳥は脱走しないだけで、脱走出来ないわけではない。

もし大鳥が罰鳥と同じく〝成人した人間と同じくらいの知能を持つアブノーマリティ〟であったとしたら──、いや、そうでなくても人の言葉を理解するようなアブノーマリティである大鳥が。

滅多なことで脱走しなくなった今の状態でも、脱走してしまう程のなにかが起こってしまったら。

 

私達は大鳥を、その何かを止めることが出来るのだろうか。

 

何故かとても嫌な予感がするのだ。

アブノーマリティは皆危険なのに、あの鳥達だけは、とても嫌な予感がする。

これがただの予感であればいい。私の気のせいであればいい。

実際その確率の方が高いだろう。私には予知の力などないのだから。

……でも、不安になってしまう。

あの大きな目を見る度に。たまに香る、森の匂いが鼻をかすめる度に。

 

その時、ピピピッと音が。

 

「っ、び、びっくりした……。」

 

急にタブレットから通知音がしたので、考えにふけっていた私は驚いてしまった。

確認すると作業指示だ。

 

〝対象:歌う機械(O-05-30-H) 作業内容:栄養〟

 

初めて聞く名前のアブノーマリティだ。歌う、機械?しかも作業内容は栄養?

機械と名前がついているが、生き物なのだろうか。

エンサイクロペディアで調べてみる。と、なんかすごいのがでてきた。

ペスト医師の時とは違い〝歌う機械〟の情報は出てきた。出てきたのだが名前と一緒にでてきた写真が怖い。

グレーの背景に2つの黄色い目。いや、目ではないのだろうか。黄色い丸の中央に白い点があって、その白い点の中が音符になってる。しかもグレーの背景には返り血のような赤がついていて……。

不安に思いながらその画像をタップして、詳細を確認する。

そこには〝作業を行う場合の注意点〟が記載されていた。

 

【作業を行う上での注意点】

①エージェントはアブノーマリティの本体(機械)が作動していないことを確認する。作動している場合作業は中止し、速やかに収容室から退室すること。

②管理人から作業指示がない限りアブノーマリティへの作業を行っては決していけない。他エージェントから作業を指示された場合、必ず管理人に報告すること。

 

その内容を頭に入れて、私はタブレットをしまった。

さて、収容室前についた。扉近くの機械にパスワードをいれる。ロック、解除。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃どこかの収容室では。

 

彼はそのアブノーマリティを前に、戸惑いを感じていた。

アブノーマリティの中に、比較的安全なものもあることを彼は知っている。彼は割と長くこの研究所に勤めていて、経験をつんでいた。

けれどかつて、こんなアブノーマリティはいなかった。

 

「どうして、貴方は私を救うのですか。」

 

恐くなって彼はアブノーマリティに問いかける。そう、彼は怖かったのだ。そのぬるま湯のような心地いい言葉で、甘やかしで、火傷するのが恐かった。

だって何人が今まで彼の前で死んだ?何人が殺された?何人が、苦しんだ。

そんな地獄のような場所で今更こんな、救いの手を差し伸べられて。信じられるか?

 

「そうやって、私を騙すつもりでしょう。わかっている。ここはそんなものばかりだ。力になる、助ける、そして裏切る……。私は違う。騙されない。」

 

彼は強く、アブノーマリティを睨んだ。殺意と嫌悪を真っ直ぐに構えてアブノーマリティの言葉を待った。

 

「……私が、貴方を救う理由なんて。救いに、理由など必要でしょうか。」

「は……。」

「目の前に苦しむものがいれば、私は救いたいと思う。そうですね、強いて理由言うなら、私がそうしたいから。」

「……意味が、わからない。」

「ふむ……難しいですね。」

「そんな!聖人みたいな、神様みたいな理由!!嘘だ!裏があるんだろ!!お前らはみんな危険で、危なくて、そうやって油断を誘って私達を殺す!!だから、だから私は仕方なかった!!私は……私は……。」

 

彼は頭を抱えて、その場にしゃがみこんでしまった。立ってなどいられなかった。

彼にとってここは危険で危ない職場だった。いつ死ぬかわからない、崖っぷちに立たされてるような職場だった。

だから仕方がなかったと彼は言い聞かせる。ここはそんな汚く、恐ろしいものばかりだから。だから、彼は今まで何度も誰かに『力になる』『助ける』と笑って、裏切ってきた。

自分は悪くない。誰だって死にたくなんてない。私がしてきたことは仕方の無いことであって、罪悪感を感じる必要なんてない。

それなのに、何故毎晩夢に彼等が現れるのだろう。

 

やめてくれ。

あの時みたいに「助けて」なんて、そんな血塗れの顔で言わないでくれ。

「許さない」なんて、頭のないお前は誰だ?

 

「私は……、悪くない。悪くないんだ……。でも……でも……すまない……本当に……すまない。許してくれ……頼むから……。」

「……誰が貴方を恨んでも、私が貴方を許しましょう。」

「貴方が……?」

「はい。だから、ほら。」

 

アブノーマリティは自身の持つ大きな翼を広げて、彼を待った。

彼は縋るようにアブノーマリティに近づく。翼の腕の中に、彼は吸い込まれていく。

 

「ペスト、医師さん。」

 

彼はその翼の中でアブノーマリティの名前を呼んだ。暖かい。とても心地がいい。

彼は泣いた。今までずっと溜まっていたものを、出してしまっていいと許されたような気がしてただひたすらに泣いた。

彼はこんなアブノーマリティを知らない。こんな、優しいアブノーマリティを知らなかった。

 

 

 

 

 

 

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