海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Singing Machine_3

ハンバーガーはチーズに限る。

ちょうどお昼時でハンバーガーショップは混んでいたが、わりと早く買うことが出来た。

日本のものに比べるとボリュームもカロリーも違うこちらのハンバーガー。しかしこのジャンキーな感じが時折すごく恋しくなるのだ。

でもポテトにつけるケチャップは日本の方が好き。こちらで買うケチャップは私が食べていたものよりも酸味が強くて、料理に使う時に量を間違えると味が壊れて困る。

ぐぅ、とお腹が鳴ってしまった。最近出社時間ギリギリまで寝てしまうことが多く、朝ごはんを満足に食べれてないのが原因だろう。

紙袋に入ったハンバーガーを想像して、早足で研究所に戻る。ガサガサとビニール袋の擦れる音が私を急かしている。温かいうちにかぶりつきたい。

研究所でのお昼は休憩室か待機所でとることになっている。お茶とコーヒーのドリンクバーはどちらにも用意されているのだが、休憩室の方が広くて電子レンジと水道と冷蔵庫があることが特徴。ただし冷蔵庫のアイスは名前を書いていても気がついたら誰かに食べられている。酷い。

どちらで食べてもいいのだが、私は休憩室でとることのほうが多かった。待機所は休憩じゃなくて作業指示を待つ人がいるので、話しながら食べる人が多い。人と話すのは嫌いではないけれど、休憩室の静かでゆっくりした空間が好きだった。

休憩室に向かっていると、後ろから肩を叩かれた。

 

「っ!?」

 

振り返って、私は驚きにびくっと肩を揺らしてしまう。

黄色。黄色の目。

私の肩を叩いたのは、男性エージェントだった。姿を見たことはあるが話したことは無い。別の部署のエージェントだろう。

それだけならいいのだが、様子がおかしい。目が、黄色い。ただの黄色の瞳なら綺麗だが、瞳孔が開いていて、その瞳は元々の色と言うよりも人工的な、クレヨンで塗りつぶされたようなものだった。

真っ黄色な虹彩に、真ん中に黒色の瞳孔。しかも動向の中心が何か、濁っている。

……待って、これ私どこかで見たことがある気がする、

 

「うっわ!?」

 

驚きに固まっている私を、あろう事か男性は担ぎあげた。

俵持ちにされて流石に抵抗するも異様に力が強い。身体がしっかり固定されてバタつく手足は無力だった。

男性はそのまま歩き始める。しかもすごい速さで。

 

「ちょっと!どこに行くの!!降ろして!!」

 

そう抗議するも男性は全く聞き入れてくれない。

途中すれ違う他のエージェントに助けを求めるも、男性の足の速さにかなわず皆の助けの手はからぶってばかりだ。

焦りと不安の中何も出来ないでいると、男性はある場所で止まった。

顔を上げてみるとどこかの収容室前。男性は私を担いだまま中に入る。

 

「えっ 」

 

そこは〝歌う機械〟の収容室だった。

蓋の空いた機械がそこにまちかまえている。まさか。

男性は私をそこに近付ける。先程見た内部が、いくつもの金属の刃が私を待ち受けている。

 

「ひっ……」

 

想像した未来に強く目つぶる。

反射的に頭を庇った両腕、その時するりと腕から重さが抜け落ちるのを感じた。

 

「……?」

 

しかし痛みはこない。

恐る恐る目を開けると、やはり目の前には機械。そしてその中に見た事のあるビニール袋が入っていた。

先程まで私が持っていたハンバーガーの袋だ。腕を動かした時に落としたのだろう。それが偶然機械の中に入ったと。

 

「っ痛!?」

 

突然男性は私を床に下ろした。というより投げ捨てた。

咄嗟に受け身をとるも上手くいかず、腰を打ってとても痛い。

しかし機械から離れられたことに安堵し、顔を上げると男性が機械の蓋を閉じようとしている所だった。

バタン、と閉じた機械。しかし床には私のハンバーガーはない。つまり男性はそのまま機械を閉めたのだ。

ピーッと、電子音。空気の混ざる、機会が動く音。そして。

 

「あぁ……これ……これだ……この音……。」

「音、楽……。」

 

機械から流れる音に男性は恍惚の表情を浮かべる。その表情のまま音楽に合わせてぎこちなく腕を上下に動かした。ロボットダンスのようだけど、リズムが全然とれてない。

 

「ちょっ、大丈夫ですか!?」

 

しかもそのまま倒れた。

駆け寄ると意識は失っていないようだった。ただ幸せそうな顔のまま、倒れて動かない。

不気味だ。これは明らかに異常だろうと、私は助けを呼ぶため収容室を出ようとする。

 

「うわっ!?」

 

が、それはかなわず転んだ。何かに足をとられたのだ。

足元を見ると、男性が私の足を掴んでいる。何とか離してもらおうと足を動かすも力がより強くなるだけ。

最終手段として掴まれてない足で男性の頭を強く蹴るも、表情すら変えずに掴んだままだった。

流石に男性に恐怖を感じて背筋が凍る。

 

「助けて!誰か!!」

 

叫んでみても外には届いていないのか反応がない。こうなったらXさんに助けを求めようとインカムの呼び出しボタンを押した。

 

「Xさん、Xさん聞こえますか?」

『もしもし、黒井さん?』

「よかった……!あの、今私〝歌う機械〟の収容室に閉じ込められてて。」

『うん。モニターで見てたよ。助けが間に合ってなくてごめんね。今ダニーさんがそっちに向かってるから。』

「本当ですか!ありがとうございます!」

『ダニーさん一度中央本部の方に戻ってからこっち来るんだ。もうすぐ到着するよ。』

 

インカム越しのXさんの声に安心する。ダニーさんが来てくれるのなら、きっと大丈夫だ。

……けれど、何か、違和感を感じる。

Xさんの話し方が、いつもと少し違うのだ。何が、とは言えないけれどちょっとしたアクセントとか、強弱とか。以前と少し違って聞こえる。

いや、気にし過ぎだろう。管理人であるXさんとそんな話す機会もないし、恐らく私の記憶違いだ。きっとそう。

……あれ?

Xさんって、ダニーさんのことさん付けで呼んでたっけ……?

 

「ユリさん怪我はないですか!」

 

浮かんだ疑問は収容室の扉が開いたことで上書きされた。

ダニーさんの声に救助の希望を持ってそちらを見る。しかし感謝の言葉は彼の持つそれが視界に入ったせいで喉に詰まってしまった。

 

「もう大丈夫ですよ。直ぐに助けますね。」

「え……あの、ダニーさん、助けるって……。」

「おい、ユリさんの足を離せ。……ダメか。やはり歌う機械の魅了を解かないと……。」

「ダ、ダニーさん。あの。」

「何ですかユリさん?すいませんとりあえず機械の方をなんとかしないと足の解放は出来ないみたいです。」

「いや、それは大丈夫なんですけど、その、持ってるのって。」

「え?あぁ。ユリさんの抱き枕シリーズ第2弾です。」

「嘘だろダニーさん!!」

 

ダニーさんが抱えていたのは大きな抱き枕。そう。私の写真がプリントされた等身大抱き枕。

以前無名の胎児の鎮圧に使ったのとは別の写真が使われている。いつ作ったんだこれ。

百歩譲って。いや一万歩くらい譲ってこの抱き枕を歌う機械に使うのはいいとする。

けどダニーさん、私を助けるまでの時間、もっと言えば中央本部からここの収容室までのあの長い距離の廊下とエレベーターをこの抱き枕を抱えて来たのか。むき出しの状態で。

せめて……せめて何かに包んでほしかった……。このいつ撮ったのかわからないすごい満面の笑みの私の写真。こんな顔だと自分から抱き枕の撮影を望んだみたいじゃないか……。

 

「ダニーさん……あの、肖像権とか……。」

「えっすいません今度はサンプルちゃんと送りますね。」

「いらない!!絶対いらない!!」

 

お願いだからダニーさんもロボトミーコーポレーションも私に羞恥心があることを忘れないで欲しい。

 

「でもダニーさん、抱き枕どうやって使うんですか?」

「Xから聞いたんですけど、今回の事は歌う機械がユリさんに会いたくてこの男性エージェントを使ったと考えられてます。」

「私に会いたくて!?機械ですよ!?」

「歌う機械は意思があると観測で確定しています。」

「意思が!?」

「なのでこの抱き枕で解決するかと。」

 

機械に意思があるなんて。

いや、〝赤い靴〟も普通の靴ではなかったし、ありえないことではないのだろうか。

……〝赤い靴〟以上に〝大鳥〟とか〝無名の胎児〟とか存在している時点で、この世界にありえないことなんてないのかもしれない。

 

「つまりこの抱き枕を収容室に置いておくっていうことですか?」

「それでもいいのですが、もう少し安全を確保しておこうと思いまして。」

「安全を?それは……確保出来ることに越したことはないでしょうけど。」

「このアブノーマリティですが、音楽を使ってエージェントを魅了し、そのエージェントで食料の調達をするという厄介なアブノーマリティなんです。その食料が〝人間〟。だからこの機械が動いている時は接近を禁止されているんですよ。」

「食料が人間!?で、でもエンサイクロペディアにはそんな事書いてませんでしたよ!」

「あれにはエージェントが恐怖したり、逃げないように記載されてない事実もあります。古株のエージェントの内では歌う機械によっての事件は有名ですよ。」

「全部載ってないことですか?」

「……逃げられても困るってことでしょう。」

「そう、なんですか……。で、その抱き枕どうするんですか?」

「歌う機械は肉挽き機です。中に肉を入れることで動き、音が鳴ります。この音が問題なんです。」

 

ダニーさんはそう言うと機械に近づいて蓋を開けた。

そう言えばいつの間にか機械は停止している。まぁ、一食分のハンバーガーなら直ぐに粉々になってしまうだろう。

 

「この抱き枕をこうします。」

 

そして、抱き枕をその中に頭から突っ込んだ。

 

「えええええええええ!?」

「よし、これで動きたくても動けないだろ。」

「ダニーさん!ダニーさんこれすごく嫌なんですけど!!」

「え、足側から突っ込みます?」

「そう言う問題ではなくてですね!?」

 

よし、じゃないよダニーさん!!

自分の抱き枕と言うだけでも嫌なのに、それが頭から肉食の機械に突っ込まれているなんて冗談じゃない。

 

「大丈夫ですよ。歌う機械はユリさんに好意を持っているので、抱き枕は無事です。じゃないとユリさんエージェントに連れてこられた時点で機械の中に投げ入れられてますよ。」

「抱き枕の安否を心配している訳では無くてですね!!……まさかこの抱き枕ずっとこのままですか!?」

「?場合によっては取り除きますが、このままの予定です。」

 

つまり、だ。この状態のまま他のエージェントが作業することになると。

この、私の抱き枕が突っ込まれたまま、しかも機会の中から覗く顔の表情が笑顔の私という状態のまま。

もうなんか、ロボトミーコーポレーションは社会的に私を殺すつもりなのではないだろうか。

泣きたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って……ことがあって、なんかもう胸が辛いですペストさん……。」

 

その後ペストさんへの作業指示があったので、部屋の掃除をしながら今日あったことについて愚痴っていた。

 

「お嬢さんの枕……それはいい睡眠がとれそうですね。」

「いや絶対にそんなことはないです。」

「そうですか?良質な睡眠は健康の基本です。一度試して見ては?」

「嫌です。絶対。」

 

その時ぐぅ、と私のお腹がなった。

 

「あっ……す、すいません。お昼食べ損ねて……。」

「おや、大丈夫ですか?」

「はい。休憩時間がずれただけなので、後で食べます。またハンバーガー買ってこなきゃですけど。」

 

そう、あんなことがあったので仕方ないがお昼休憩がずれて、後になってしまったのだ。

しかも買ってきたハンバーガーは歌う機械によって挽肉に退化されたので、もう一度買いに行かなければならない。昼食にありつけるのはもう少し後になってしまった。

 

「ハンバーガー……?それは、食べ物ですか?」

「知りませんか?ハンバーグと野菜をパンで挟んだ料理です。美味しいですよ。」

「野菜もとれるんですか?健康に良さそうですね。」

「いや健康にいいかは……。」

「今度食べさせていただけませんか?」

「えっ。」

 

私達の食事をアブノーマリティに。そんなことしていいのだろうか。いや、絶対に許されないだろう。

しかしペストさんは仮面越しに真っ黒な瞳をこちらに向けてくる。無言の圧力。

 

「……ちょっと、確認してみますね。」

 

許可されないだろうが、タブレットを開いてXさんにメッセージを送る。

すると直ぐに返事がかえってきた。

 

「えっ、ええっ、い、いいの!?」

 

そしてなんと、許可がおりたのである。

 

「……えっと、ペストさん、許可がおりたので今度持ってきますね……?」

「!ありがとうございます!」

 

本当にいいのだろうか。Xさんって意外に大胆な行動するんだなぁ。

 

「楽しみにしてますね。」

 

そういったペストさんの声は弾んでいて、その嬉しそうな様子にちょっと笑ってしまった。

普段はすごく紳士な態度なのに、子どもみたいだ。

 

「あれ……そう言えばペストさん、なんだか……雰囲気が変わりましたよね?」

「そうですか?」

「はい。なんか……こう……ふんわりしたというか……あ!羽、羽根増えました?」

 

よく見るとペストさんの背中から生えている羽が、四枚に増えている。以前は二枚だった筈だ。

 

「あぁ……これは、そうですね。私が成長した証でしょうか。」

「え、羽って成長すると生えてくるんですか?」

「そうですよ。……また、増えるかもしれません。」

「成長期なんですか?」

「ふふ、そうですね。……より成長したいと疼いているんです。心も、身体も。」

 

ペストさんはそう言って、笑った。仮面で顔が見えないけれど、笑った気がした。

 

 

 

Plague Docto□

 

 

 

 

 

 





Singing Machine_その歌は誰を呼ぶため




歌う機械
参考:https://lobotomy-corporation.fandom.com/ja/wiki/Singing_Machine


【ユリちゃんのアブノーマリティメモ】
肉挽き機?中に食べ物入れたら音楽がなった。
そのまま抱き枕も挽いて欲しい……。頼む……。



【ダニーさんのひと言】
脱走しない。肉挽き機。
稼働中音がなって、それによりエージェントを魅了する。魅了されたエージェントはまた音楽を聞くために材料として人間を突っ込む。んで最高にハイになる。
俺が知ってる限りなんか勇気あるやつと、我慢苦手なやつが犠牲になりがち。
前犠牲になったエージェントの趣味はバンジージャンプとスカイダイビングだった。

まぁもう大丈夫だろ(抱き枕で勝利を確信)





更新停滞してたので、お詫びにと思い一気に書きあげました。

さて次のアブノーマリティですが決まってます。

さぁ!皆さん!お待ちかね!皆の永遠のアイドル!その笑顔と可愛さと狂気に何人のプレイヤーを恋の沼に落としたか!
登場してもらいましょう!魔法少女、憎しみの女王!!

とか一度言ってみたかっただけですん。
次は魔法少女ちゃんです。言っておかないと逃げそうなので言っておく。絶対書く。

あと最後の名前スペルは誤字じゃないです。

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