海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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The Queen of Hatred_3

アイの作業をした日から数日。私は相変わらず色んなアブノーマリティと接する日々を過ごしていたが、アイの作業を指示されることはなかった。

たった一度しか会っていないけれど、私は彼女のことが気になっていた。特にこうして指示を待機する時間は、自然と彼女のことを考えてしまう。

でも心配する必要も無いかもしれない。

アイはとても友好的だし、アブノーマリティだけどちゃんと人としての知能と常識を持っている。

彼女なら私以外にも友人なんていくらでも出来そうだ。

場所が場所なので、今までは担当したエージェントとたまたま相性が悪かったか、もしくは相手が完全に仕事と割り切っていただけだろう。

もしかしたらもう既に他の友人ができているかもしれない。それは喜ぶべきことだが、少し寂しいと思ってしまった。

これから先、ずっと会えないままで彼女は私を覚えていてくれるだろうか。……それは無理な話だろう。いままで、そしてこれから先何千何万という人に会う彼女が、たった一瞬話しただけのエージェントを覚えているなんて変な話だ。

ずっと昔、液晶越しに憧れていた存在である彼女。そんな彼女と会えたこと。更に一瞬でも私は彼女の友達だったこと。それは変わらない事実だ。それでいいじゃないか。

そう自分に言い聞かせても、やはり寂しさが消えることは無く。

こっそりと私はエンサイクロペディアを開く。随時更新されるそれならきっとアイの現状がわかるはずだ。元気にしてるといいのだけれど。

 

「……え?」

 

エンサイクロペディアは予想通り更新されていた。この前から記載されていた文字を読み進めていくと、新たな文章が。

 

【自分の行なうことそれ自体が正義であると】

 

 

 

 

 

 

 

【警戒を緩めてはいけない】

 

【今日は少し落ち込んでるようだった】

 

【アブノーマリティは不安と脅迫的な症状を示した。】

 

【実のところ、憎しみの女王が望んでいるのは「平和」ではない】

 

【「まだ、大丈夫。」】

 

【警戒を緩めてはいけない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、これ……。」

 

以前とは雰囲気の違う文章。

その続きを求めるもスクロールバーは進んでくれない。

〝警戒をゆるめない〟のはわかる。彼女だってアブノーマリティだ。私達の想像のつかない大きな力に警戒するのは仕方ない。

けれど〝憎しみの女王が望んでいるのは「平和」ではない〟とは、なにか。

彼女は魔法少女だ。皆を守るヒーロー。私に今までの功績と名誉を嬉しそうに話してくれた。それは嘘には見えなかった。

そんな彼女が〝望んでいるのは平和ではない〟?

じゃあなんだと言うのだろう。何を持ってそう判断されたのだろう。

文章からして様子もおかしい様だ。

今すぐに会いに行きたい衝動に駆られる。けれどそれは叶わない。私はただのエージェントであって、勝手な行動は出来ないのだ。

自分の無力さに唇を噛む。歯がゆい。何も出来ない自分が、情けない。

 

「ユリさん。」

「ダニーさん……、お疲れ様です。」

 

待機室にダニーさんが入ってきた。私は軽く会釈をして、再びエンサイクロペディアに目を戻す。何度見ても内容は変わらないけど。

しかしそれはダニーさんの声によって止められてしまった。

 

「ちょっと、来てくれませんか。」

「……なんですか?」

「……私達の新しい上司が貴女を呼んでいるんです。」

「新しい上司?」

 

新しい上司、ってなんだ。

 

「え……新しく就任された方ってことですか?そんな話し聞いてないんですけど……。」

「私も昨日初めて知りました。予定では明日、正式にチーム全体に挨拶をするそうです。けれどユリさんには先に会っておきたいと。」

「私に?どうして?」

 

何故私個人に会いたいのかわからない。

私は別に普通のエージェントだ。

確かに他のエージェントと比べるとアブノーマリティから好意を持たれやすいため、作業効率はいい。

けれどやっていることは他のエージェントと変わりないし、仕事量だって同じ。報告書などに文としてまとめれば大したことないものばかりだ。

それなのに何故だろう。

 

とりあえず言うとおりにダニーさんについて行く。たどり着いたのは応接室だった。ここに来るのは会社説明を受けた日以来だ。

なんだか懐かしい気持ちで中に入ると、そこには男女の小さな子供がいた。よく似ている。兄妹だろうか。

私は首を傾げた。この二人は誰だろう。間違えて入ってきてしまったのだろうか。

 

「ユリさん、明日から私たちの上司となるティファレトさんです。」

「え?」

「貴女がユリ?ティファレトよ。よろしくね。」

「ティファレトです。よろしく。」

「えっ、えっ!?」

 

それは何かのジョークだろうか。

目の前のふたりは明らかに成人していない子どもだ。見た目からして小学生くらいだろうか。

 

この二人が会社で働いていることすら驚きなのに、さらに私達の上司。一体何者なんだろう。

というよりそれは法律上大丈夫なのだろうか。

 

「あの、失礼ですがお二人のご年齢は……?」

「……さぁ。忘れちゃったわ。そんなのどうでもいいでしょう。私達は貴方達の上司で、貴方達は私達の部下。上と下。動く側と動かす側。それだけわかっていれば充分よ。」

 

私の質問に女の子が冷たく応えた。

 

「今回貴女を呼んだのは挨拶をするためだけだから、もう行っていいわ。」

「え、エージェント一人一人にご挨拶されてるですか?」

「そんなわけないでしょう……。自分の担当するチームの中でALEPHクラスを担当しているエージェントにだけよ。だから貴女とエージェントダニーにだけ。」

「あとの人達には明日挨拶するよ。さすがに一人一人は僕達もつかれちゃうからね。」

 

ALEPHクラスというのはオーケストラさんのことだろうか。

それを聞いて納得する。一応私も〝一番危険なアブノーマリティの担当〟。だから個々に呼ばれたのか。

……つまりダニーさんもALEPHクラス担当?

 

「そう言えばティファレトさん達のファーストネームはなんなんですか?」

「ファーストネーム?」

「はい。同じファミリーネームですと呼ぶ時にややこしいかもしれないので……念の為教えていただけると。」

「僕達はティファレトだよ?」

「えっと……お二人共同じだと、わかりにくいので……。」

「だから、私達はティファレト。それ以外の名前なんてないわ。」

「……??」

 

訳が分からなくてダニーさんに視線で助けを求める。するとダニーさんはため息をついて、ジトっとした目でティファレトさん達を見た。

 

「二人ともティファレトさんです。区別の必要がないかららしいですよ。」

「区別の必要が無いことなんてあります!?」

 

なんだその理由は。

というよりティファレトさんはそれでいいのだろうか。

 

「むしろ区別の必要がわからないわ。私達は貴方達の上司。それ以外の区別なんている?」

「いやいりますよね!?いいんですかそのままだとどちらかお1人を呼ぶ時に「ティファレトさーん、あ、女の方!」とか言われますよ!?仕舞いには呼ばれたから行ったのに「あ、そっちじゃない方呼んだごめんごめん」とか言われますよ!?」

「ユリさんそれご自身の経験談ですよね?」

「私は数学教師の田代を絶対に許さない。」

 

高校時代に同じ苗字の男子がいたのだけどそれが本当に面倒くさかった。名前で呼んでくれればそれで解決するのに意地でも呼ばなかった数学の田代。最終的に黒井女子とか廊下で呼ばれて皆から注目されるようになったのは嫌な思い出だ。

 

「……とりあえず、もう行っていいわ。明日からよろしく。」

「えっ、でも……。」

「私達は、二人でひとつなの。それでいいの。どうしても区別をつけたいなら好きに呼んでいいわ。」

 

私達の会話を聞いて女の子のティファレトさんはため息をついて、虫でも避けるように手を振るわれてしまった。

ダニーさんはその様子に眉を顰めた後、私の手を軽く引いて部屋を出ようとした。

私はその時はっと、一つ思いつきをしてティファレトさんに話を続けた。

 

「あのっ、私達の上司になられるんですよね!」

「そうだけど……何?」

「お願いがあるんです!!」

「お願い……?」

「あの、アイ……じゃなくて、アブノーマリティ憎しみの女王の作業をしたいんです!」

 

彼女達が私の上司になるのなら、私に作業命令をすることも出来るかもしれない。

出来なかったとしても、私よりはXさんに意見できるはずだ。

 

「憎しみの女王……、あのWAWクラスのアブノーマリティね。どうして?」

「エンサイクロペディアに、最近様子がおかしいってあったので……、心配、で。」

「何故貴女が心配する必要があるの?それをするのは管理人の役目だわ。」

「だって……彼女は私を……。」

 

ティファレトさんの言っていることは最もだ。しかしやはり心配なものは心配で。それを何故かと言われたら理由は〝友達〟という言葉が出てくるのだけど。

それを言ったらきっとティファレトさんにも、ダニーさんにもいい顔はされないだろう。

 

「……ユリさんなら、何とかできそう?」

「ちょっと!ティファレト!」

 

男の子のティファレトさんが私にそう聞いてきた。

 

「何とか出来るかは……わからないけど。でも、話をすることは出来るかもしれません。」

「わかった。管理人に掛け合ってみるよ。」

「ティファレト! 」

「ありがとうございます!」

 

男の子のティファレトさんは笑って、私に手を振ってくれた。

私はそれに深くお辞儀をして応接室を出る。

出た時にティファレトさん達が何か言い合っているのが聞こえたけれど、気にしないようにした。

 

仕事に戻るために早足で廊下を歩く。

歩いている途中、ダニーさんが私のインカムを上から取った。

突然のことに驚いた私が顔を上げると、ダニーさんは人差し指を唇に立てながら話しかけてきた。

静かに。ということか。

 

「……ティファレトさん達をあまり信用しない方がいい。いや、ティファレトだけじゃあない。」

 

ダニーさんのその言葉に、私は既視感を感じた。

前にも彼に似たようなことを言われた。その時はアンジェラさんのことを言っていたけれど。

 

「……どうしてですか?」

「彼らは確実にアンジェラ側です。貴女を利用するつもりだ。」

 

わたしはずっと、ダニーさんに聞きたいことがあった。

 

「ダニーさんは、私を信じているんですか?」

 

私の言葉にダニーさんは足を止めた。少し前を歩いていた彼が急に止まったものだから、彼の背に鼻をぶつけてしまう。

鈍い痛みに鼻を抑えると、ダニーさんが息を呑むのを感じた。

背の高い彼を見上げると、やはりダニーさんは珍しく驚いた顔をしていて。

場に似合わずしてやったりと思ってしまう。

 

何となくだけれど、ダニーさんは誰も信じていないのだろう。

彼が何を背負っているのか私にはわからない。きっと彼はわからせるつもりがない。彼は一人で戦うつもりだ。

私はダニーさんの手からインカムを取り返して、マイク部分を覆うように握る。

 

「いつか信じてくれたら、一緒にご飯でも食べましょうね。」

 

そうして私はインカムをつける。

ダニーさんが私をエージェントしてでは無く、私として信じてくれる日はいつだろう。もしかしたら一生、来ないかもしれない。

 

 

 

 

 





番外編ものせたのですが、もししおり機能使って頂いてる方、番外編の方に飛んでしまってたらすいません。

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