海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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※引き続き似非百合
※少しヤンデレ要素あり






The Queen of Hatred_9

光が、私の目に入ってくる。

眩しくて顔を顰めた。避けるように首を動かすと、少し揺れた私の身体、腰部分が痛くて驚いた。

その光になれるため数度瞬きをする。背中に感じるマットの感覚。ここはベットの上か。

白い天井。腕を動かすと引っかかる違和感。見ると左腕に点滴の針が刺してあった。

この状況を理解するために、最後の記憶を辿る。ダニーさんと廊下を歩いていたことは覚えている。そして警報音。憎しみの女王が、収容違反しましたと。

 

「アイ、は。」

 

そうだ。アイはどうなったのだろう。

すごくぼんやりしているが、確かアイは姿を変えていて、アイの鎮圧が命令されていて。

記憶が曖昧だ。よく、わからない。

とりあえず起き上がろうとするけれど、腰が痛くて動かせない。何故だろう。慎重にそこに触れると柔らかな布の感覚があった。

手探りすると、布はウエストあたりを一周している。包帯だろうか。

そうしているとノックする音が聞こえた。その音に返事をしようとしたが、腰の痛みに邪魔をされ上手くできない。

しかし返事をしなくても、扉の開く音がした。入ってきた人は私を見ると少し驚いたようで、しかし安心もしたような笑顔を見せてくれた。

 

「……目が、覚めたんですね。良かった。」

「ダニーさん……。」

 

そう。入ってきたのはダニーさんだった。

体を起こしたかったがそれは叶わず。寝た状態で対応することには抵抗があるが、やむを得ない。

 

「具合はどうですか?」

「腰が、っ、痛くて……。」

 

出来るだけ小さな声で話すもやはり痛みが走る。

ダニーさんはそんな私に何かを差し出してきた。

 

「飲んでください。これでだいぶ楽になるはずです。」

 

それは液体の入った哺乳瓶だった。瓶の中の液体は澄んだ紫色をしていて、揺れる度に気泡が下から上へ移動して破裂する。

炭酸飲料だろうか。それを哺乳瓶で飲むのは何だか飲みにくそうだ。

けれどストローを吸う力も腰の痛みで出ないだろう。大人しく口を開けるとダニーさんは哺乳瓶の先端を突っ込んでくる。もう少し優しくして欲しい。

 

「ぐっ……。」

 

哺乳瓶を吸うと上下するお腹の振動にやはり腰が悲鳴をあげる。しかしその痛みよりも炭酸がいきなり喉奥に入ってくるのが苦しい。

むせるのをなんとか我慢する。しかし少し鼻奥に入ってしまってツンとした痛みを感じた。

ゆっくりと飲んでいく。薄まった人工甘味料のぶどう味。

味はいいのだが、気になっているのはダニーさんが一向に哺乳瓶を離してくれないこと。

そろそろ一度口を離したいと目で訴えるも伝わらない。考えてもみてほしい。炭酸を一気飲みする苦しさを。しかも強制的に。

 

「ぐっ……んぐっ……ぅ……。」

 

もうやけになって哺乳瓶の中身を飲み干す。お腹の中で炭酸の空気が膨らむのがわかる。苦しい。

やっと飲み終えて離してくれた。その時私のお腹も喉も限界で、ゲェッと汚いげっぷをしてしまったのは私のせいじゃない。私せいじゃない……。

 

「よく飲めましたね。具合はどうですか?」

「いや飲めたと言うより飲まされた……あ、あれ?」

 

そこで驚いたのは、身体の回復であった。

話しても腰が痛くない。そう言えばげっぷをした時も特に痛みを感じることは無かった。

上半身をゆっくり起こす。やはりそれには痛みを伴うが、先程とは段違いに楽だ。

 

「すごい……楽に、なってる。」

「良かったです。やはりこれは効きますね。」

「それなんなんですか?」

「これは……まぁ、回復薬と言ったところでしょうか。」

「回復薬?原材料とかは……?」

「うーん……私もよくわかってないんですよね。これ、どうやって作ってんだろうなぁ……。材料の用意もなしに……。」

「……ダニーさんこれどこで入手したんです?」

「これは自販機で貰えるんですよ。」

「自販機で!?こんな回復効果があるのに!?」

「まぁここでしか貰えないんですけどね。」

 

驚いている私を特に気にすることなく、ダニーさんは哺乳瓶を片付けた。その飲料について聞きたい事はまだあったが、それ以上聞くのも怖いような気がする。

 

「何があったか覚えていますか?」

 

ダニーさんは私にそう聞いた。私は素直に頭を横に振る。

私の頭の位置に合わせてダニーさんは屈んでくれた。そしてゆっくりと話し始める。

憎しみの女王の収容違反、その現場でレナードさんと私達が合流したこと。

憎しみの女王を止めるために、レナードさんが、私を撃ったこと。

 

「で、でも間違って撃ってしまったんじゃ……。」

「いいえ。レナードは、意図的に貴女を撃ったんです。」

誤射を指摘しても、ダニーさんはそれを否定する。

どうしてそんなに決めつけるのだろう。その物言いに、私は少しムッとしてしまった。

私は誤射であってほしいと思っている。それはレナードさんを信じているとかではなく、ただ今後レナードさんと顔を合わせにくくなるのが嫌だからだ。

たとえ真実がどうであっても、誤射ということで丸く収まるなら、それでいいじゃあないか。

私は腰のあたりに目線をやる。あて布がされているのは腰の外側辺り。ここが撃たれた場所だろう。

撃たれたと言われても、全然自覚がわかない。

すごい熱さと痛みは感じたけれど、言われなければ撃たれたなんて気が付かなった。レナードさんが撃った姿を見ていないからだろう。

 

「でも、信じて欲しい。レナードは貴女を殺すつもりではなかった。」

「え?」

「彼は憎しみの女王の頭を狙って撃ったんです。もしその頭を狙ったまま撃ったのなら、それこそユリさんの脳天に弾は直撃して死んでいた。けれど実際に撃たれたのはそこから大きく離れた腰だ。彼はちゃんと貴女のことを考えて撃ったんです。」

 

ダニーさんは下を向いてしまった。そのせいで表情が見えない。

けれどその肩は震えている。その様子は彼にしては珍しく、とても弱々しいものだった。

 

「どうか、恨まないで欲しい。レナードを。」

 

ダニーさんの言葉に戸惑ってしまう。

恨むなんて、撃たれた自覚のない私は別に恨んでなんかない。

ダニーさんはレナードさんを恨むなと言う。それなのにダニーさんの言っていることはまるでレナードさんを恨むべきであるようなものばかりだ。本当に恨まないで欲しいなら、誤射とでも事故とでも言えただろうに。

 

「レナードは、本当は人を撃つような人間じゃないんだ。温厚ではないが、馬鹿みたいに真面目なやつだった。不器用で、でも一生懸命で。あんな奴がここに来るべきじゃあなかったんだ。」

「ダニーさん……?」

「俺みたいになりたいってあいつは言った。だからか。だからエージェントなんて希望したのか。俺が異動を希望してるって、言ったから……。」

 

ダニーさんはもう私とは会話をしていなかった。

彼の言っていること全ては理解できない。けれどダニーさんは、ダニーさん自身を責めているのだろう。

 

「……ダニーさんとレナードさんは、仲がいいんですね。」

 

そう言うと、ダニーさんは顔を上げた。

見開いた目に私を映す。その少し間抜けな表情に笑ってしまう。

私が笑うのを見て、ダニーさん笑ったようだった。それは少し苦しげではあったけれど。

 

「仲良くは……なかったかもしれません。でも、今ならもっと、仲良くなれるのかもしれない。」

 

そしてまた下を向いてしまった。

ポツポツと、ダニーさんは話し始める。

 

「……貴女をこの会社に連れていたこと、ここで働いていること。俺は間違ってないと思ってる。そのおかげでこの研究所は以前よりもとても安全になった。」

「そ、そんな。私何も……。」

「いいや、充分だ。充分してもらってる。貴女がいてくれて良かったと思ってる。」

 

「……けど、貴女がレナードに撃たれた時。俺は後悔した。」

 

「ここに連れてきてしまったこと、巻き込んでしまったこと。貴女が恨むべきは俺だ。本当に、本当に……申し訳ない。」

 

ダニーさんの声が震えている。

その下がった頭をぼんやりと見つめた。そして場違いにこんなことを思ってしまう。〝やっと仲直りできる〟。喧嘩なんて、してないのに。

 

「……もう、いいです。」

 

私がそう言うと、ダニーさんは顔を上げる。

本当に今日の彼は彼らしくない。なんだろう、その泣きそうな、情けない顔は。

 

「謝ってくれたから、許します。」

 

別に誰のことも恨んでなんてなかった。だって最終的にここで働くと決めたのは私だ。

けれど彼は謝ってくれた。これでようやく、私は彼を許すことが出来るのだ。

きっと、この〝許す〟の言葉は、ダニーさんと私の関係の改善になる。なって欲しいと思う。

彼が私にしてきたことで、悪いと思っていたこと。きっと背負っていたこと。私が許すことで終わるのなら、私はいくらだって彼を許そう。

その弱さを見せてくれたのが、私は少し嬉しかった。ずっと隔ててあった壁が、ちょっとだけ崩れたような。

 

「レナードさんにも、謝らなきゃですね。」

 

彼に撃たれたのが事実だったとして。足でまといだったのは確かだ。

以前からの私への態度を思い返して苦笑いする。やはりあまり会いたくはない。けれど今回のことで、少しでも状況が良くなるといいのだけど。

 

「……もう、無理なんだ。」

「え?」

 

ダニーさんは、そう言った。

無理って、どうしてだろう。

 

「……レナードは、死んでしまった。」

 

その言葉に、私は言葉を失う。

レナードさんが、死んだ。

もう、いない?

現実味のない言葉はその場に重い空気を作る。

私はダニーさんの丸まった背中を見て、何か言わなければいけないとわかりながら言葉が出てこない。

ダニーさんは、置いていかれたのか。

彼の背中にレナードさんが立っていたらいいのに。そんな馬鹿で不謹慎なことを考える。

けど、幽霊でも幻でもよかった。ダニーさんに必要な言葉をかけられる人がいるのなら、どうか彼のそばにいてあげて欲しかった。

それを今できるのは、きっとレナードさんしかいない。

私ではいけない。他の誰でもいけない。死んだ、彼しか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日は点滴と病院食の生活になった。

私が入院することになったのはlobotomy corporationに備えられている医療施設だったようで、ダニーさんは毎日、他のエージェントさん達もたまに顔を見せてくれた。

ダニーさんが毎日持ってきてくれるブドウ味のソーダを飲む度に、身体は異様な速度の回復を見せた。退院前のラスト二日はもう健康体そのもので、暇で仕方なかったほど。

本当にあのソーダは一体何なのだろう。その正体は怖くて聞けていない。

 

 

 

退院してすぐ、アイへの作業を命じられた。

あんなことがあって直ぐで申し訳ないけど、と男の子のティファレトさんは眉を下げる。

どうやらアイの様子が少しおかしいらしい。いや、おかしくはない。むしろ快調過ぎるらしいのだ。

私としてもアイのことは気になっていたので、むしろ彼女に会えるのはありがたい。

アイの収容室前には、もう待機エージェントの配置はなかった。

収容室の扉を開けて、そっとのぞき込む。そこには私の知る少女の姿をしたアイが立っていた。

 

「アイ……?」

 

名前を呼ぶと、アイはこちらに気が付いて振り向いた。

そのキラキラした宝石の瞳に私の姿が映る。そして、歪んで、その目から涙が落ちた。

 

「えっ、ア、アイ!?」

 

慌ててアイに駆け寄ると、彼女は泣いたまま私に飛びついてきた。

反動によろけるもなんとかバランスをとる。強く抱きしめられて少し痛い。

 

「ユリ……よかった。よかった……。」

「アイ……ごめん、心配かけちゃったんだね。」

 

少しだけ距離を離すと彼女の泣き顔がよく分かる。

泣いていても綺麗な顔。こぼれ落ちる粒を指で拭ってあげると、擽ったそうにアイは笑った。

……やはり信じられない。

アイが、レナードさんを殺したなんて。

それは私が都合よく彼女を捉えているだけだろう。それはわかっているのだ。分かっているけれど、信じたくない自分もいる。

 

「ねぇ……アイ。」

「なぁに?」

 

どうして、人を殺したの。

なんて……聞いてもいいのだろうか。

それがわからなくて私は口を噤んだ。私はアイの手を掴む。細くて白くて綺麗な手。この手が人を殺めたなんて。

 

「アイは、正義の魔女なんだよね?」

「そうよ?どうして?」

「……なんでもない。」

「変なユリ。どうしたの?もしかして……、」

 

また、何かあった?

 

アイの言葉に、私は息を飲んだ。

彼女の顔を見る。笑っている。反射的に手を離そうとしたら逆に強く掴まれた。

 

「私ね、わかったのユリ。」

「ア、アイ……?手、痛い……。」

「私わかったの。貴女を苦しめるものは、悪なのよ!貴女は美しい、私の正義。貴女を護ることが私の存在意義なのだわ!」

「悪って……。」

「この間は護りきれなかったけど……もう大丈夫。」

 

アイのもう片方の手が私の唇なぞった。

その美しすぎる笑顔に、背筋が凍る。

 

「どこにいても、貴女の声だけは聞き逃さない。」

 

私は怖くなって、アイの身体を強く押した。

反動で身体が後ろに倒れる。無様に尻もちをついた。

その時上手くファスナーが閉まっていなかったのか、ウエストバッグの中身が床に散らばってしまう。

アイはそれを見て、ある一点で視線を止める。綺麗な顔を顰めた。

 

「なに、その人形。」

 

アイが拾ったのは、スマホケースについた魔法少女のキーホルダー。

それを私は彼女に見せたことがあった。小さい頃の思い出として、憧れとして、私の魔法少女として。

 

「いらないでしょ?ユリは私が守るもの。こんなの、いらない。」

 

アイの手の中でそれはミシミシと音を立てる。プラスチックの顔が、空気に押されて歪に膨らんでいく。

 

「私だけでいい。」

 

そして、砕けた。

 

「あ……。」

 

アイが私を抱きしめる。いい匂いがする。

耳元で囁かれる彼女の声は美しい。けれど頭にそれは入らない。恐怖が私を支配して、全身に冷たい汗が流れる。

 

「もう忘れない。見失わない。私が護るべき、大切な子。」

 

 

 

 

 







The Queen of Hatred_彼女の正義は愛とも読める



憎しみの女王
参考:https://lobotomy-corporation.fandom.com/ja/wiki/The_Queen_of_Hatred

【ユリちゃんのアブノーマリティメモ】
アイ。かわいい魔法少女。
私の友達。
でも、ちょっと恐い。



【ダニーさんのひと言】
は?え?なんでキスした?え??
多分何らかの条件で蛇に変身する女。普段は良い奴。
ユリさんにキスした。は?なんで?


後日追記:
えーと、色々情報整理した後わかったこと。
情緒不安定な女。自分の存在意義とかよく見失う。それで気分悪くなって変身する……多分。
それで自我を失って職員を殺す。普段はアブノーマリティの鎮圧とか手伝ってくれる。
でもなんでユリさんにキスした?












はい満足( ^ω^)

いや実はラストが一番最初に思い浮かんでてここを書きたくて色々構想を練りました。
予想以上に長くなって驚き。でもまぁロボトミーでメインキャラの憎しみの女王だし仕方ない。
正直11月中にかき終わるとは思わなんだ。
いえ、更新停止してたのでこの回だけでもスピードを上げようとは思ってたのですが予想以上。
それもこれも皆さんの励ましのおかげです。
いやマジでコメントありがとうございます。コメントのおかげで走ってます。
馬の目の前に人参をぶら下げて永遠に走らせてる感じ。ヒヒーン!

レナードさんへのコメントありがとうございます。設定はちゃんとあったキャラなので嬉しかったです。

あと憎しみの女王のキスの場所について。
額とかほっぺでもよくない?と指摘がありましたが、実はキスする場所の意味になぞらえたりしてます。
唇は愛情。ちなみにオーケストラさんの加護がついてる首筋は執着。スリスリしてくる罰鳥さんの頬は親愛。
額は残しておきたかったんや……。使いたい子がいてね……。
いや決して憎しみの女王とのキッスが見たかったとかそんなんではry


憎しみの女王回が終わったのでもしかしたらまた更新速度落ちるかもしれません……すいません。
けれどマイペースながら書いていきますので、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。よろしくお願い致します。


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