海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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ようやく私の顔の熱も収まったくらいの頃、オーケストラさんの手が頭から離れた。

それを少し名残惜しくも思いながら、引き止めるわけにもいかずにただ目で追う。

どうしてもオーケストラさんには甘えたになってしまって恥ずかしい。

ただ、頭を撫でられることなど、幼い頃も滅多になかった私にその優しさはとても心地いいものだった。

 

───新しい服、似合ってますよ。

 

「えっ、あ、ありがとうございます……。」

 

そういえば新しい制服になったことなど、頭からすっかり抜けていた。

オーケストラさんに言われて、反射的にお礼を言ってしまった。

しかし先程までの浮かれた気分はもうなくて。むしろ部屋に入った時の、オーケストラさんに一回転して見せた行動がなんとも恥ずかしい記憶になり、私は肩をすくめるのだった。

 

「これ、アブノーマリティの皆のエネルギーから作ってるんですって。だから特殊な素材で出来てるみたいです。」

 

私が着ている、一見ただの紺のスーツとチョッキに見えるそれも触ってみると普段の服とは違う、不思議な感触であった。

成分を細かく分析したら何が出てくるのか興味があるが、それは私の中で一生興味止まりなのだろう。

 

───あぁ、だから他の者の気配があるんですね。

 

「わかるんですか?」

 

───はい。それは私のとは違う者が元になってるんでしょう。

 

自身の制服を見ると、確かに色合い的にオーケストラさんの物ではないように思える。

リナリアさんの制服が憎しみの女王のものであるのなら、制服のデザインはエネルギーの元となったアブノーマリティに大きく関わってくるのだろうか。

それなら、オーケストラさんのエネルギーから作られた制服はどんなデザインになるのだろう。

 

「オーケストラさんので作られた制服、着てみたいなぁ。」

 

それは素直な気持ちだった。しかし言った後で気が付いたが、結構恥ずかしい事を言ってしまったかもしれない。

 

───ユリさんが着て下さる時を待ってますね。

 

「は、はい……。」

 

頭の中に、オーケストラさんのクスクスと上品な笑い声が聞こえる。

それにまた私の顔は熱くなってしまった。

全てのアブノーマリティから制服が造れるなどと言われていないのに、随分先走った希望を口にしたものである。

それに仮にオーケストラさんから制服が造られたとして、それを着れるのが私とは限らないのに。

 

「あ……。」

 

そうだ。

それを着れるのが、私とは限らないんだ。

 

───ユリさん?

 

私はオーケストラさんの担当だけど。担当だから制服もオーケストラさんの、とはいかないだろう。

憎しみの女王の制服を着ていたリナリアさんは、別に憎しみの女王の担当エージェントというわけではない。

それに私が今着てる制服だって、どのアブノーマリティのかわからない。けれど心当たりがない見た目という時点で、普段関わるようなアブノーマリティでは無いはずだ。

 

もしかしたら。

もしかしたら、オーケストラさんの制服は、もう他の人が着ているのかもしれない。

 

───ユリさん、どうしました?

 

様子の変わった私にオーケストラさんが声をかけてくれる。

心配してくれてるのだ。それに気がついた私はオーケストラさんを安心させるために、笑顔を作った。

笑顔の裏、胸の内に黒いモヤが生まれる。それはとても汚い感情。

仕方ないことだ。仕事なのだから。選べる立場ではないのだから。

けれど私の頭に生まれた〝オーケストラさんの制服を着ている私ではない誰か〟が、私はとても羨ましくて。

羨ましくて、羨ましくて……。少し、恨んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

あの後、少し無理矢理別れを告げてオーケストラさんの収容室を出た。

オーケストラさんは鋭い人なので、私は落ちた気分を隠し通す自信がなかったのだ。

次の指示をタブレットで確認する。メッセージをひらいてみると、数分前に次の指示がきていたようだった。

 

〝対象:レティシア(O-01-67-H)作業内容:交信(特別任務有)〟

 

知らないアブノーマリティだ。別に新しいアブノーマリティの作業をすることは特別なことではない。

けれど、作業内容の後ろにある〝特別任務有〟とは……?

その時、インカムが繋がる音がした。

 

『黒井さん、聞こえる?』

「あっ、はい!聞こえます、Xさん!」

『作業指示見てもらえたかな?』

「はい。この特別任務ってなんですか?」

『実はね、黒井さんに探って欲しいことがあるんだ。』

「探って欲しいこと?」

『そう。そのままでいいから聞いて。まずこのアブノーマリティを担当したエージェントの話になるんだけど。』

 

廊下の端によって、Xさんの話を聞く。

Xさんが話したのは、昨日このレティシアというアブノーマリティを担当した男性エージェントの話だった。

レティシアは、昨日来たばかりのアブノーマリティらしい。

なので情報はあまりわかっていないが、レティシアに作業した男性エージェントは順調に仕事をこなせていたそうだ。

このレティシアというアブノーマリティは、憎しみの女王のようにエージェントに好意的であった。

特に問題も見受けられないため、昨日一日、男性エージェントは様子見も兼ねてレティシアの担当として数度作業を行っていたらしい。

そこまでは良かった。

男性エージェントが廊下を移動している時、彼は死亡したのだ。

死と隣合わせのこの研究所で危険な目に合うことは不思議なことではない。けれど、おかしな事が一つあったのだという。

 

「アブノーマリティが、増えた……?」

『そう。彼の死亡理由は〝アブノーマリティによる殺害〟。けど、そのアブノーマリティはこの研究所で収容している覚えのないものだった。』

 

それは一体、どういうことだろう。

管理画面を見ていたXさんによると、突然そのアブノーマリティが男性がいる場所に現れ、襲ったのだという。

近くのエージェントが駆けつけて鎮圧は無事に行われたが、男性エージェントは既に死亡。

更に、鎮圧後、そのアブノーマリティの身体は消えてしまったのだという。

 

『何が原因か全くわかってないんだ。ただその日彼はレティシア以外のアブノーマリティと関わりはなかった。関わる前に、その事件は起こってしまったからね。だからユリさんにそれを何とか突き止めてくれないかと思って。』

「……どうして私なんですか?」

『他のエージェントにも同じ任務で何度か作業させてるんだけど、今のところ特に変化がないんだ。レティシアは会話ができるアブノーマリティだから、アブノーマリティに好かれるユリさんなら何かわかるかと思って。』

 

じゃあ、よろしくね。Xさんのその言葉で、インカムは一方的に切られてしまった。

あまりいい気分のしない話を聞いてしまったものだ。しかも今からそのアブノーマリティの作業にいかなければいけないなんて。

エンサイクロペディアを開いてみるがやはり情報はない。

仕方なく収容室に向かおうと、ウェジットのマップを確認する。

すると表示されてる経路には、この先のエレベーターで下の階に向かうようになっていた。

それはつまり。

 

「下層……。」

 

下層部に、レティシアの収容室がある。

それで私は、レティシアの事件が何故周りの話題になってないかを理解した。

この研究所は地下にあるが、地下にも上の階と下の階がある。

その階の上の部分を纏めて上層、下の部分を纏めて下層。その間になる階が中層と呼ばれている。

私のいる中央本部チームは、中層。

経験を積めば積むほど下の階に異動になることが多いらしい。

下の階は、上の階よりも危ないアブノーマリティが比較的多いらしく、それに対応できるエージェントの配置となっている。

と言っても。実は私はこのことをよく知らないのだ。

というのも、下の階の話を上の階のエージェントはあまり知ることが出来ない。

意図的に秘密にされているのか、場所が離れているからかわからないが、情報があまり入ってこないのだ。

ダニーさんいわく、「そりゃあ異動になる先が嫌な話ばかりだと皆異動拒否するからでしょう。」彼は本当に会社が嫌いなんだと実感する。

私が知る情報は全てダニーさんから教えてもらったことで、彼は下層に知り合いが数人いるらしく、教えてもらってるとの事。

自分より下の階の方が危険、ということはエージェント皆何となく察してはいるようだが……、具体的なことはわかっていないのだ。

レティシアの事件が下の階で起こったのなら、上の階である中層の私が知らなくても納得がいく。

エレベーターを待っている間、私の心臓は少しずつ煩く、早くなっていく。

到着したエレベーターにのって、下の階のボタンを押した。下がっていく。ここから先は、私の知らない下層。

扉が開いて、廊下に一歩踏み出した。

 

「え……。」

 

べチャ、と。何かを踏んだ。

不思議に思って、足元を見る。これは、なんだろう。

よく見るためにしゃがんでみた。しかしそれを直ぐに後悔することになる。

これは。

 

「うっ……!」

 

これはなんだ。

吐き気が込み上げる。すぐ様にそれから視線を外した。

なんと表現したらいいかわからない。これは本当になんなのだろう。理解してはいけない。きっと理解してしまえば、その時私の精神が崩壊してしまいそうな気がする。

立ち上がらなければ。ここから離れなければ。わかっているのに動けない。

もう喉そこまできている吐瀉物を抑えるのに必死で。

 

「……大丈夫?」

 

上から、声が聞こえた。

顔を上げることは出来なくて、視線をできるだけ前にすると、手が差し伸べられていることに気がつく。

吐かないように片方の手で自身の口を抑えながら、もう片方でその手を取った。

ゆっくりと引き上げられて、立ち上がる。

何とか呼吸を整えて、落ち着つかせて。

ありがとうございますと、その人にお礼を言おうとした。

 

「ヴッ……!?うぇぇぇっ!!」

「うっわ!ちょ、大丈夫!?」

 

しかし盛大に吐いた。

ただこれは、仕方ないと思う。

顔を上げたら、目の前の男性の顔に、床に落ちているそれと同じ物がくっついていたのだから。

その見た目の強烈さといったら。もしも日本のテレビだったら規制マークが入ったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 







予想より長くなったので切りました。
レティちゃん次出てくる予定。すいません。
というか更新速度が崩壊してますね……。不定期にもほどがある。ためておけばいいとわかっておきながらついつい書けたら直ぐに投稿してしまうの……。
安定した速度で投稿するために書き溜めするべきですよなぁ。ちょっと気をつけます。



あとアンケートの回答ありがとうございます。
ずっと悩んでいたことだったので、皆さんの意見が頂けるのすごい助かってます!

念の為最新話の方に移行しておきます。









一つアンケートです。(前話に載せていた文と全く同じです。)
活動報告にのせておきます。


ずっと前にアブノーマリティの詳細があると嬉しいと頂いたのですが、やはり載せた方がいいでしょうか。

※載せると言っても、参考にしているwikiページ(各アブノーマリティ)のURLを載せる形になると思うのですが……。

もし原作を知らない方が読まれる場合、ユリちゃんと同じ立場(何も知らない、わからない)の目線で読んで頂けたらいいなーと思って載せてなかったんですけど。
もし載せた方が読みやすいという声が多ければそうしようと思います。

その場合そのアブノーマリティの回の一話目に載せるか、最後に載せるかも迷っていて。そこら辺の意見も頂きたいです。

あとゲームを元々知っている方か、知らない方かも教えていただきたいです。
活動報告をアンケートとしてのせておきますのでご協力いただけると助かります。

理由もいただければうれしいですが、載せて欲しい載せて欲しくないの一言でも大丈夫なので。

もし本編のコメントを頂ける場合であれば、ついでに答えて頂いても大丈夫です。ただアンケートの回答のみでしたら、御手数ですが活動報告の方にお願いします。



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