海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Little Helper_2

頭が痛い。

ぐらぐらと揺れる頭を抱えながらなんとかアネッサは廊下を歩く。

本当はすぐに倒れてしまいたいくらいだった。しかしここで倒れたら、気付かれてしまうかもしれない。

ちらっと廊下に設置されたカメラを見る。アネッサは見られている。管理人と、あのアンジェラという女に。

だからできるだけ正常を演じなければアネッサはならなかった。悟られてはいけない。決して。

管理人室でアンジェラは言った。『ここで見た事は忘れなさい。』真っ直ぐとアネッサの瞳を見て。

頭が痛くなったのはその時から。ポケットにしまった借り物の眼鏡を布越しに触れる。

 

……これがなかったら、きっと本当に忘れていた…。

 

会社を信じるなというダニーさんの言葉が引っかかって、会社のことを少し調べた。

しかし普通に調べても何も出てこない。当たり前だ。そんな簡単に出てくるものならとっくに問題になってるだろう。

けれど会社の機密情報をハッキングしてアクセスするほど、私の肝はすわってなかった。

そんなことまず出来るかもわからないし、やってみて失敗したらクビどころでは済まない。警察沙汰だろう。

だから、目をつけた。ダニーさんに。

ダニーさんは会社を疑っていた。その疑いの根拠が知りたくて、ダニーさんの携帯のデータを盗んだ。

 

そこで私は会社の闇を目の当たりにする。

 

『洗脳システムって……どういうこと……。』

 

〝特殊光線による洗脳〟

〝常識変換〟

〝一時的な感情コントロール〟

〝恐怖に立ち向かい、未来をつくる。〟

 

『……っ!?』

 

〝やっと見てくれましたね。アネッサさん。〟

 

文面最後のその一言は、全てを予想していたような。

ダニーさんは、なにをしようとしてるのだろう。

その情報のおかげで、特殊光線が防げたのは助かった。借りた度の強すぎる眼鏡を指の腹でなぞる。

管理人室で見たことを、ダニーさんに知らせるべきだろうか。

 

……わからない。

 

わからない。どうすればいいかわからない。この会社で何が起こってるのか、ダニーさんがなにをしてるのか。なにもわからない。

混乱する頭の片隅で、ユリさんの顔を思い出した。

彼女を見る度に、私は守りたくなる。

誰を?

ユリさんの、あの笑顔が。頼りない背中が。何も知らない目が。私の心をぐらつかせる。

彼女を見ると、声が喉から零れそうになる。ごめんなさい。守れなくて、ごめんなさいと。

そう。私は何度もユリさんのような子達を見捨ててきた。

仕方ないと言ってしまえばそれだけの事になる。そう思わないと私は手首を切ってしまいそうだった。

でも本当に仕方ないことだったの?

もし、会社で働くことが洗脳だったのなら。

未来のため会社のためと血を流した私の仲間達は……私の後輩たちは……。

彼らに頑張ってと背中を押した、私は。

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない!!!

激しくなる動悸が苦しくて、急いでポケットの薬を飲んだ。

少しでも早く効果が出るように噛み砕いて飲み込む。胸元を抑える。冷静にならなければ。

息を深く吸って、吐いて。次第に心臓は落ち着いていく。

 

……言おう。ダニーさんに。

 

まともに動くようになった頭は、そう答えた。

誰が正しいかなんてわからない。

それでも、会社を信じることはもう出来ない。

なら選択肢なんて残っていないだろう。このまま何もしないのだけは絶対に嫌だ。

これは自分の首を締めることになるのかもしれない。

それならそれで、もういいと。

自嘲した。とっくに死んでいてもおかしくない命なのだ。自分の首に手をかけることくらい、なんとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……うらぎりもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時ユリは、あるアブノーマリティと真剣な表情で向かい合っていた。

緊張で強ばる体を落ち着かせるよう、ふぅ、と一息つく。

そして茶色の安っぽい紙袋に手を入れて、あるものを取り出した。

柔らかい感触のそれ。独特の匂いが鼻をかすめる。

この行動を起こすのは、きっと自身が初めてだろうと。未知は少しの恐怖と期待になり、ユリの瞳は揺らいだ。

 

「……どうぞ。」

 

目の前のアブノーマリティが、それに顔を近づける。

鋭く尖った口であろうその部分が、柔らかいそれに埋まった。

 

「……これが、例の……。」

「はい……。ハンバーガーです……!!」

 

ユリはすこし自慢げに、にやっと笑ってアブノーマリティにそう言った。

そう、彼女は今人類で初めて、アブノーマリティ・ペスト医師にハンバーガーを食べさせたのである。

 

「どうですか??美味しいでしょう??」

 

片手でペスト医師にハンバーガーを向けながら、空いてる手でポテトを摘んだ。

揚げたての熱は逃げてしまったものの、塩気の強いそれは香ばしく美味しい。

ポテトを味わいながらユリはペスト医師の反応を伺う。

というか、ペストさんのマスクのくちばし部分が本物の口だったことには驚きだ。

てっきりマスクの下に口があるものだと思っていたのだけれど。鳥みたいにハンバーガーをつつくペストさんがなんだか可愛くて笑ってしまう。

ペストさんは一口食べた後から黙ってしまった。

もしかして口に合わなかっただろうか。不安になって首を傾げると、今度は反対の手のポテトを奪われた。

 

「わっ。」

 

その時指までつつかれたものだから驚いて手を引っ込めてしまう。

ペストさんは失礼、となんとも紳士的に謝ってきた。

 

「すみません、指をつついてしまいましたね。」

「大丈夫です。ちょっと驚いただけで……。それよりハンバーガー、どうですか?」

 

いい反応を期待してコメントを強請る。しかし返ってきたのは予想を反するものだった。

 

「……このハンバーガー、というのは食べ物なんですか?」

「え?そ、そうですよ?なんでですか?」

「些か……いえ、かなり化学物質が多く含まれてるようですが。」

「化学物質……?化学調味料とかのこと……?」

「なんだか薬品を食べているような感覚です……。お嬢さん……これは、あまり口にしない方が……。」

「私もいつも食べてるわけじゃないですよ!?たまに食べるくらいです!!」

「そうですか。ならいいのですが……。」

「……あっ、そうだっ。」

 

微妙な空気を変えるために、用意していたもうひとつの物を取り出す。

それを見せるとペストさんは不思議そうに首を傾げた。

 

「これは……。」

「〝花火〟です。さすがに本物は持って来れなくて、写真なんですけど……。」

 

初めてあった日に見てみたいと言っていたのを思い出して、ネットで面白いものを買ってきた。

角度によって絵柄の変わる3Dポストカードだ。夜空の映るそれは傾けると花火の写真に変わって本当に打ち上がってるように見える。

本物には足元にも及ばないが、綺麗でペストさんに見せてあげたかったのだ。

 

「本物はもっと豪華で、大きくて綺麗なんですけどね。」

「……十分です。キラキラ、してます。」

 

ペストさんは左右の羽を器用に動かして写真を受け取る。

あまりにも大事そうに持つものだから、私も嬉しくなってしまった。

ハンバーガーのおまけのつもりで用意したのだが、お気に召してもらえたようで何よりだ。

 

「人は不思議な生き物ですね。」

「え?」

「食べ物も、キラキラも作ってしまうとは。理想を求めて探すだけでなく、自らの手で作ってしまうなんて。」

 

そう言うペストさんは、なんだか楽しそうだった。

私と話しながらもペストさんは花火の写真に夢中で傾けては戻してを繰り返している。

まるで子どものようなその仕草を微笑ましく思いながら、私はこっそり自分のハンバーガーに口をつけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 






更新遅れて申し訳ございません。
これ以上書かないでいたら失踪すると思いかなり急いで書きました。
スランプと病み期重なって逃げてました。言い訳しませんまじで逃げてた。
でも続けたいという気持ちはあるのでまた更新再開出来たらと思ってます。

それからコメント返信なのですが、申し訳ないのですが2019/08/14以前のもののお返事ができないと思います。
ちょっと余裕なくて申し訳ございません……。
質問あったものなどは返していくつもりです。
ただ15日以降のものはお返事していきます!というかさせてくださいお願いします(土下座)

コメントと評価ほんとに力になってます。これ言うの何回目だって感じだけどここまで続けられたの本当にそのおかげです。
というわけでこんな私ですがまだ付き合ってやんよ!という方はこれからもよろしくお願いします。
もう付き合ってらんねぇよ!というかたは……今までありがとうございました作者はこれからもあなたが好きです(恐)






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