海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Little Helper_5

機械はその赤い目でじっとこちらを見てきた。

動く気配もなく、どうしたらいいかわからない私は助けを求めてユージーンさんを見る。

するとユージーンさんは楽しげにこう言ったのだ。

 

「へぇ、面白い。じゃあコーヒーでも煎れてよ。」

「ちょっと!ユージーンさん!?」

 

軽率に言うユージーンさんを慌てて制する。

だがやはり機械は動かないままで、私は安堵した。

 

「うーん反応無しか……。ユリさんも命令してみてよ。」

「嫌ですよ!?なに起こるかわからないし……!」

「でもさ、さっきだってユリさんの〝やめて〟に反応したんだし、もしかしたらユリさんの言うことなら聞くんじゃあない?」

「そ、そうなんですか……?」

 

確かに機械を目の前にした時、『やめて』と言った。

止まってくれたのはそのおかげなのだろうか。

 

<ぼくになにか出来ることはない?>

 

機械の目は無機質なのに、何故か私を見ているように見える。

戸惑っていると、アイに手を握られた。彼女を見ると優しく笑っている。

 

「何かあったら助けるから、お願いしてみたらどう?敵意は感じられないわ。」

「そうかな……そ、それじゃあ……コーヒーを煎れてくれる?」

 

ユージーンさんのお願いを真似したのだが、すぐにここにはコーヒー豆もお湯もカップもないことに気がついた。

訂正しようとしたが、その前に機械が反応する。

 

<クッキングプロセスを開始します。コーヒー抽出中……。3……2……1……。コーヒーが抽出されました。>

「ええっ!?」

 

球体からまたなにか出てくる。しかし今度は鎌ではなく、アームのようだった。

アーム先に握られてるのは紙のコップ。白い湯気がたっている。

コーヒーのいい香りが辺りに漂い、アイはすんすんと鼻を動かした。

 

「いい匂い!」

<美味しいコーヒーをどうぞ!>

 

差し出されたコップを受け取る。中には黒い液体。

本当に、コーヒーだ。けれど流石に飲むのを躊躇ってしまう。

アブノーマリティが煎れた、どこから出したかわからない飲み物。

持ったまま硬直してると、ユージーンさんにコップが奪われた。

ユージーンさんはなんの躊躇もなくコーヒーに口をつける。

 

「えっすごい旨い。」

「嘘!?」

「本当。ユリさんも飲んでみなよ。というか、もう一杯煎れて欲しい。」

<他に何か出来ることはある?>

「えっと、じゃあもう一杯コーヒーを煎れてくれるかな?」

 

先程と同じように機械が動き、すぐにコーヒーを出してくれた。

私も飲んでみる。

美味しい。すごく美味しい。今まで飲んだコーヒーの中で一番美味しいかもしれない。

苦味と酸味がちょうどいいバランスで、飲みやすいうえに、飲んだあともコーヒーの香りを強く感じる。

温度もちょうどいいのでごくごくと飲んでいると、アイが私の袖を軽く引っ張った。

 

「ユリ……、私も……。」

 

ねだる姿は、計算されたように完璧な可愛らしさだった。

思わず笑ってしまう。自然と手は彼女に紙コップを差し出していた。

 

「飲んでみる?」

 

そう聞くと嬉しそうに頷いたので、アイに紙コップを渡した。

よく考えるとアイにも新しいものを渡してあげればよかった。紙コップにはわたしのリップの赤がくっきりとついている。

しかしアイは特に気にすることも無く、コーヒーに口をつけた。赤に重なる彼女のリップは子供っぽさを残すピンクで。女の子同士だというのに私は少し恥ずかしくなってしまう。

 

「っ!?に、にがーい!!何これ!!」

「ああっ!コーヒー苦手だった!?」

 

アイは顔を顰めてぺっぺっとコーヒーを吐き出す。

飲んだこと無かったのか。気がついてあげればよかった。

慌ててティッシュで汚れた口を拭いてあげる。瞳は涙で揺れていて、まゆは情けなく垂れていた。

 

「ごめんね!?せめてミルクと砂糖いれてあげれば……、」

<ミルクとお砂糖を用意しますか?>

「そんなことも出来るの君!?」

 

私の言葉にいち早く動いた機械が、アームでシュガースティックとポーションミルクを渡してきた。

ポンと私の手のひらに乗せられたそれらに唖然とする。本当にこの機械の中はどうなってるんだろう。

 

「あ、ありがとう……。でも多分コーヒー苦手な子には砂糖とミルクひとつずつじゃ足りないかな……。あ……。」

 

もし、ここまでできるなら。

 

「ねぇ、砂糖多めのカフェオレって作れる?無理ならいいんだけど……。」

 

ダメもとで言ってみたが、機械は動き出した。

まさかとは思う。だが、期待もしてしまう。

ミルクも砂糖もいえば用意してくれたのだ。最初から入れてもらうことくらいなら出来るかもしれない。

そしてまたすぐに差し出されたコップ。しかし今度は柔らかいブラウンの液体が入ってる。

味見で少し飲んでみると、まろやかで味もジュースのように甘い。

これならアイも飲めるかもしれない。

期待通りに仕上がったそれに感動を覚える。アブノーマリティと言えど、これは機械なのだ。機械がここまで出来るなんて。

 

「アイ、これなら飲めるかも。どうかな?」

 

ブラックをカフェオレと交換する。

先程のこともあってかアイは飲むことを躊躇った。

私が安心させるように笑うと、恐る恐るながらも素直に口をつけるアイ。しかし嫌そうな顔は直ぐに笑顔になった。

 

「甘くて美味しい!これなら飲めるわ!」

 

気に入ったらしく、先程の苦味を消すようにごくごくと飲むアイ。

唇にブラウンが薄らとのって、それすら小さな舌でペロリと拭うものだから笑ってしまう。

 

「よかった。機械の君、ありがとう。えっと……名前は……。」

<あなたのお供、ヘルパーロボットだよ!>

「ヘルパー君、ね。コーヒー美味しい。ありがとう。」

「機械にお礼言うなんて珍しいね、ユリさん。」

「え……あ……そうですよね……。」

 

ユージーンさんに笑われて恥ずかしくなってしまう。

そうだ。どんなに有能で、流暢に話していてもヘルパー君は機械で。感情なんてないはずなのだ。

犬や猫に同じように話しかけることがあるので、その癖が出てしまったんだろう。まるで子どもだ。

 

「こっ、この子って、アブノーマリティなんですか?」

 

恥ずかしさを隠すために慌てて話題を変えた。

 

「そうだよ。さっき話したよね?〝リトルヘルパー〟。父さんが執着してたロボットだよ。」

「えっ!?この子が!?」

「そう。収容違反してるって聞いて急いで駆けつけたんだ。ユリさんに紹介出来たのはタイミング良かったなぁ。」

「無理矢理連れてこられただけですけど……って!!そうだ!!仕事!!」

 

タブレットを確認すると、何度も作業指示がきている。

内容はオーケストラさんへの作業だ。こんな所で油を売ってる場合ではない。

 

「私、オーケストラさんのとこ行かなきゃっ!!ユージーンさん後のこと任せますね!!」

「待って待って。俺もレティシアのとこ行かなきゃなんだよ。作業指示でていてさ。」

「でも、リトルヘルパーの鎮圧の仕事中なんですよね……? 」

「ちがうよ?勝手に来ただけ。」

「嘘ですよね!?」

 

呆気からんと言うユージーンさん。信じられない。

この人はこのアブノーマリティの為に、指示された仕事を放って下層からわざわざ来たのか。

 

「ヘルパー、ユリさんの言うことしか聞かないみたいだからさ。収容室に戻るように指示してよ。」

「いやいや!無理ですよ!」

「やってみなきゃわからないよ?ほら、物は試しって。」

「ええー……。じゃあ、えーと、ヘルパー君。元のお部屋に戻ってくれる?」

 

なんて言っても、聞いてくれないだろう。

そう思っていたのに。

 

<クッキングプロセスを終了。スタンバイに入ります。また用があればよんでね!ヘルパーロボットはいつでも君の力になるよ!>

 

「本当に戻った!?」

 

ヘルパー君はアームと足を伸ばして、そのままクルクルと車輪のように元の方向へ戻っていってしまった。

それはすごいスピードで、あっという間に見えなくなる姿に私は信じられないような気持ちになる。

 

「よかったー。ユリさんありがとう。じゃあ、またね。」

 

驚いてる私を構わずに、ユージーンさんは手を振って去っていってしまう。

それを黙って見ていると、隣のアイが「なんだか自由な人ね。」と呟いた。全く同感だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり使えるな。あの体質。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ!わからないわからないわからない!!

どう考えても、機械の構造がわからない!!!

機械を触らせて貰えると言っても、表面的な部分だけだ。内部だって、あのコードの山で見ただけではどうなってるか詳しく分からない!!

もっと、深部を知らなければ。

……そのためには、触るしかない。

実際に触るしか、ないのだ。

 

しかし機械は完全に音声認識による取り扱いになっている。

内部を見るにしろ、シャットダウンして外部を開けなければならない。

繋ぎ目ひとつ見えないあのボディを開けるには……?

 

『君は特別な存在だ、彼らに特別なプレゼントを贈る事ができる』

 

彼は言っていた。なら、あの特別を触るには。

 

 

 

 

────製品説明書2ページ〝注意書き〟上の落書きより

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは次の日のこと。

いつも通りの業務開始。しかし研究所内に二人の女性の叫び声が響き渡った。

 

 

〝対象:リトルヘルパー(T-05-41-H)作業内容:特別作業(対象の解体と観測)〟

 

〝今回の作業は三人体制で行うこと。〟

〝メンバーは以下三名〟

 

〝コントロールチーム:アネッサ〟

〝中央本部チーム2:ユリ〟

〝抽出チーム:ユージーン〟

 

〝随時送られてくる指示に従い速やかに作業を行うように。〟

 

「は……」

「はぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




更新再開したくせにあまりにアブノーマリティを出てないので急いで仕上げました。

なので後ほど文章の編集入れるかもです。内容は一切変わりませんのでご安心を。
(2019/08/21 文章の編集を入れました。)


次回は捏造てんこ盛り。リトルヘルパーの解体作業ヒュードンドンパフパフ!!
実はこれを書きたくてユージーンは生まれました。


ちなみに。ヘルパーちゃんがコーヒーいれるの上手いのは公式です。情報読んだ時は????ってなったよね。可愛すぎぃ……。

あとわかりにくいと思ったので、レティシアからここまでの時系列です。
なんか長くなったので別にわかるよ気にしないよって方はスルーしてください。

【1日目】
①ユリちゃんレティシアの作業命じられる
②ユリちゃん行く途中にユージーンに会う
③ユリちゃん作業する何もわからず。というか鬱になる。
④ペストさんに慰められる
⑤回\\\ ٩( 'ω' )و ////復

【2日目】
①ユリちゃんレティシアの作業に行く。仲直り。
②プレゼント()受け取る
③ユリちゃんイェソドにプレゼント渡す
④何故かプレゼントがユリちゃん追っかける
⑤プレゼントがパーン!ユリちゃんピンチ。
⑥憎しみの女王が助けてくれる。そして別れる。
⑦ユージーンに会ってヘルパーの話聞く。アネッサとも会う。
⑧ユリちゃんハンバーガー買う。
⑧アネッサ管理人室へ。リリーと会う。
⑨ユリちゃんとペストさんがハンバーガーを食べる
⑨アネッサとダニーが会社外へ。二人で話す。
⑩ユリちゃんとユージーンがヘルパーに会う。別れる。
⑪ユージーンがレティシアの作業へ。そこでプレゼントもらってプレゼントボコボコ事件。

【3日目】
⑫ヘルパー解体作業指示←今ココ


長くなってすみません。

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