【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Der Freischütz_1

集中して。

目の前の的をしっかりと見て。

震えないように手を固定して。

指を少しだけ動かして、引く。

 

パンッ

 

「っ。」

「ほら、また目をつむってますよ。」

「あ……すみません……。」

 

どうやら弾は、的を外したようだった。

手に持つ馴染みのない銃を見てため息をつく。

衝撃音と反動にめをつむるのは、私の課題だ。

打った後に少し手が震えるのも悪いところ。

他にも沢山ある。それこそ私が把握してるだけでも多いのだから、他の人から見たらきっと数えきれない。

結構、練習してるのに。

数日前からはじまった戦闘訓練は、毎日業務時間の大半を占めている。

だと言うのに一向に進歩の兆しがない。

暗くなる考えに、自然と俯いてしまう。すると軽く肩を叩かれた。

 

「落ち込まない。仕方ないですよ、戦いどころか銃を撃つのすら初めてなんでしょう?」

「……はい。」

 

そう笑ったのはエド先生だ。その笑顔に私も少し肩の力が抜ける。

 

「もう一度。今度は私が手を支えるので撃ってみましょう。」

 

後ろから覆い被さるようにエド先生は私の手を支える。

がっちりとした手は頼もしく、もし私が振り払おうと動かしてもきっと叶わない。

男性だからというだけではないのだろう。ゴツゴツとした手のひらにはところどころ独特の固さがある。

最初にエド先生に支えてもらった時、彼は照れた素振りで「タコばかり出来ていて申し訳ない」と言っていた。

聞くと色々な武器を使い続けていたせいで皮膚が固くなってしまったらしい。

 

「目を閉じないで。銃の先を見るからいけないんです。的だけを見て、引き金を引いてください。」

 

言われた通りに引き金を引く。パンッ。

先程と打って変わって今度は的のど真ん中に穴を開けていた。当たり前だ。支えてもらっているのだから。

でもやっぱり、目はつむってしまうし。手は震えてしまう。

もう一度ため息をつきそうになるのを何とか抑える。

仕事中に、しかも練習を見ていただいてるのにため息なんて何度もつけない。

唇を噛み締めて、再び引き金を引く。どうか今の一発より良く撃てますように。

これではもはや神頼みだ。

 

 

 

練習はお昼休憩を挟み夕方まで続いた。

もうここまで来たら終業時間まで練習したかったのだが、どうしても会って欲しいアブノーマリティがいると指示を出された。

 

〝対象:魔弾の射手(F-01-69)〟

 

その文面に顔を顰める。また彼に会うのか……。

このアブノーマリティへ作業するのは数回目だった。

魔弾の射手はつい先日新しく来たばかりのアブノーマリティで、なんの情報もないまま指示をされたのだ。

そしてこのアブノーマリティ、なんと声で会話ができるのである。

ペストさんやアイの例もあるので、驚きはしたものの衝撃を受けるほどではなかった。

それはいい。それはいいのだが。

このアブノーマリティ。性格がとてつもなく悪いのだ。

性格なんて曖昧なもの見る人によって変わるだろうが、少なくとも私と相性がいいとは微塵にも思えない。

話していると怖いというよりは苛々してしまう。出来ることなら会いたくなかった。

しかしこれも仕事だ。好き嫌いで選べる訳では無い。

重い足を動かして収容室に向かった。

そうして直ぐに扉の目の前だ。

こういう時ほどスムーズに、早くついてしまうように思うのは私の体感の問題だろうか。

のろのろとした動作で扉を開ける。開いたその先に進むと、大きな影が私を覆った。

 

「また来たのか?懲りないな。」

「好きで来てるわけじゃあありません。」

 

随分楽しそうにしているその姿に私はやはり苛々した。

私の仏頂面に魔弾の射手はくつくつと笑う。彼の身体は真っ黒な影のように不明確で見つめていると吸い込まそうになる。

ユラユラと揺れるその身体はまるで炎だ。

真っ黒な炎なんて見たことがないのだけれど、このアブノーマリティなら私を燃やしてしまうことくらい簡単に出来そうだ。

 

「とりあえず、清掃しますから。」

「なんだ、今日は話を聞いていかないのか?」

「私が話さなくても貴方が勝手に話すでしょう?」

「はは、では期待通りに話してやろう。」

「期待なんてしてませんから!!」

 

初めて彼を見た時は圧倒された。

というのもその見た目は決して可愛いものではなく、どちらかと言うと格好良い分類に入るのだろう。

黒い大きな身体は人の形をしていて、かっちりとした黒い軍服を着ている。それにお揃いで大きなマントと大きく長い銃を持っているものだから、威圧感がすごい。

声を出せないでいると、魔弾の射手はこう言ったのだ。

 

『随分弱っちぃのが来たものだな。ママとはぐれたのか?』

 

は?と声が出た。あまりにも失礼な物言いに圧よりも苛立ちが勝った。一瞬で吹き飛んだ。

それだけならまだ我慢した。相手はアブノーマリティなのだから変に刺激してはいけないと、何とか交信作業を進めていたのだが。

このアブノーマリティ、私の事を妙におちょくってくる。

やれ『おしめは卒業したのか』だの、『ミルクは恋しくないのか』だの、『それで成長が止まってるなんて哀れだ』だの。

喧嘩売ってんのか。

日本人は確かに童顔で子どもっぽく見られることも多いが、さすがに乳幼児に間違えられたことなんてない。

最後のあたりは私も喧嘩腰に終わってしまった。

収容室を出た後に直ぐにインカムでXさんから連絡が来て、流石に怒られると覚悟したのだが。

 

『ユリさん何したの!?今までないくらいに魔弾の射手からエネルギー生成されてるんだけど!?』

『えっ。』

 

それからというもののほぼ毎日魔弾の射手の作業を行っている。

作業内容はその日によって違うのだが、何をやってもいい反応を示しているらしい。

そこで気がついた。このアブノーマリティ、私の反応を見て楽しんでるのだ。

 

サドだ。このアブノーマリティサドだ!!

ダニーさんと同じ分類だ!!

 

「今日はなんの話ししてやろうか。そうだなぁ、私が戦場で会った幽霊の話でもしてやろうか?」

「そういうのはいらないですって!!掃除しに来ただけですからっ!!」

「そいつはなんでも戦場で味方に殺されたらしくてなぁ。知ってるか?銃を突きつけられて撃たれると、銃口の火で火傷するんだ。そいつの場合打たれたのは右頬骨の上あたりで……。」

「だからそういう話は聞きたくないです!!」

 

思わず手で耳を塞ぐ。

それでも魔弾の射手が笑っていることくらいわかった。こいつやっぱり楽しんでる。

 

「ほんっとに……いい性格してますよね、魔弾の射手さん?」

「君に褒められるなんて光栄だな。可愛い可愛いベイビーちゃん?」

「黒いチャッカマンに言われたくないですねぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃管理人室では。

 

「すごい……低レベルの争いで高レベルのエネルギー生成されてる……。」

 

 

 

 

 

 

 

 






最近ネコともってゲームで合法的に人外と触れ合ってます。くっそかわええ。
ち、違うんです。本当はクマトモ買ってSCP-1048を育てる予定だったんです。でもネコの可愛さにやられました。くっそ。


【予告】

近々更新と同時に他の方から頂いた絵を頂き物として投稿する予定です。
その際お礼の小説とセットで載せる予定になってるので、一気に数話の投稿となると思います。
しおり挟んでくださってる方、お気に入り登録してくださってる方にはもしかしたら混乱を招いてしまうかもしれません。先にお詫びしておきます。
よろしくお願いします。



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