海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Der Freischütz_4

『ユリちゃん、もう、頑張らなくていいわ。』

 

そうだね。だって。

頑張ったって、「無駄だから。」

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

心臓が大きく跳ねて、私は思い切り飛び起きた。

やけにうるさく騒ぐ胸を手で抑えて落ち着かせる。呼吸が、荒い。

何とか息の仕方を思い出して辺りを見回す。私の家。部屋のベッド。

あぁ、夢かと気がついて私は頭を抱えた。昔の夢は最近見なくなったのに。またこれかと憂鬱な気分だ。

水を求めてキッチンに向かう。スリッパがやけに冷たくて、足が動かしにくい。

壁の時計を見るとまだ夜の三時だった。それなのにはっきりと目が冴えてしまって嫌になる。

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して、コップを探すも面倒くさくなってそのままペットボトルに口をつけた。

冷たい。

口端から上手く飲めなかった水が零れて、首を伝う。それが今度は胸まで降りてくるから体を冷やす。

飲んでも飲んでも、喉は乾いてるように思う。しかし息が苦しくなって口を離す。溺れているような気分だ。ここは陸なのに馬鹿みたいだけど。

 

嫌な夢だったとぼんやり考える。

昔に囚われているのは相変わらず。当たり前だ。事実はなにも変わってない。

最近アブノーマリティの皆に慰められて、随分気が紛れていたけれど。思い出してしまえばそこまでの話。

しかし今回はまた、懐かしいもので記憶を見たものだ。

母の言葉。私が無力だと認められた瞬間の言葉。

言われた幼い私は、振り返って言った。はっきりと〝無駄〟だと。あの時の私は、どんな表情をしていた?確かそう。にっこりと笑って言ったの。そうして今度は目がえぐれて、口は溶けて。ドロドロとした、黒く汚い何かになって。

そうして手を伸ばしてくる。私のことをあやす様に頭を撫でて、何度も囁かれる。無駄ね、無駄だよ。

気がつけばあたりは真っ暗になってる。黒いそれと私だけが存在して、崩れた顔はいつも目の前で、白い歯を輝かせて笑ってる。

そこで、夢は終わる。

私は結局なにも言えない。言い返せない。……頭が、痛い。

 

最近見なくなった夢がまた表れたのはなぜか。

心当たりはあった。というか、ひとつしか無かった。

 

ペットボトルを持つ手がじんわりと固い痛みを訴える。

手のひらを見ると硬い豆が出来ていて、そこがプラスチックに当たっていたのだ。

結局、銃の練習は上手くいかないまま。

私はその場に蹲る。開けっ放しの冷蔵庫の冷気が体に当たって、冷たくて仕方ない。

それがなぜだかとてもとても痛く感じて。そして妙に悲しく思えて。

私は泣いてしまった。泣くのはスッキリするけれど、嫌いだ。私は弱いから泣くのだ。弱い自分を、見せつけているような気分になる。

それなのにとまらない。泣いたって、どうしようもないのに。〝無駄〟なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───夜、ちゃんと眠れていますか?

 

「え……。」

 

久しぶりのオーケストラさんのお部屋の掃除。その途中、オーケストラさんの指が、優しく私の目の下をなぞる。

カーブを書いてなぞられて、私は朝鏡で睨めっこしたクマを思い出した。

慌てて手で顔を抑える。

 

「す、すみません。酷い顔でした?」

 

コンシーラーで厚塗りしてきたのだが、やはり作業していると崩れてきてしまう。

後で化粧室に行かなければ。俯いて顔を隠すと、オーケストラさんの心配した声が降ってくる。

 

───疲れのとれない顔です。大丈夫ですか?何か、ありました?

 

「大丈夫です。すみません、心配かけちゃって。寝不足なのは、あるんですけど……。」

 

昨日寝れなかったのは本当だ。結局あの後一睡も出来なかった。

目をつぶるとごちゃごちゃとした思考が、頭で形になって再生される。それが耐えられなくて目を閉じては開けての繰り返しだった。

睡眠薬を飲んでもよかったのだが、時間があまりにも中途半端で。寝坊する可能性を考えて我慢したのだ。

薬には助けて貰ってる。気絶するように寝れるから。

頬に添えられたオーケストラさんの手に、自分のを重ねる。

人形の手に体温なんてないのに、どうしてこんなに優しく感じるのだろう。

 

「本当に。大丈夫。」

 

声に出したら、言い聞かせるようになってしまった。

そう。大丈夫。大丈夫だ。いつもの事だ。そのうち慣れて、なんでも無くなる。

 

───貴方は、無茶をするから心配です。

 

オーケストラさんに言われて、私は曖昧に笑うしかなかった。

こんな優しくしてくれる彼に、「私みたいのは無茶しないといけないんですよ」なんてひねくれたこと、言えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エド先生の都合もあって、今日は午後からの練習だった。

全然上手くはならないが、最近少しは進歩も見られた。かするくらいには弾丸が的に当たるようになったし、目もあまりつむらなくなった。

他人から見たら、大したことないのだろう。けれどこうした進展をかき集めないと、嫌になってしまうから。

 

「……本当に、珍しいですね。」

「ええ。まぁ、元々戦いに向いてはいないんでしょう。」

「ユリさん、頑張ってるんですけどね。」

 

練習場のドアを少し開けたところで、聞きなれた声が。

ダニーさんと、エド先生だ。

普通に入ればいいとわかっているのに、私の名前に足が止まってしまう。

 

「君が紹介する子だから、どんな問題児かと構えていたのですが……。とってもいい子で驚きましたよ。」

「なんですか、そんな俺が問題児みたいな。成績優秀だったでしょう?」

「成績はね。君は自分を過信しすぎなんですよいつも。一人で自己判断して突っ走るんですから……。何度肝を冷やしたことか。」

「最後に判断するのは自分なんですから信じて当然ですよ。」

「あのですね、そんな自分勝手ばかりしてると恋人も出来ませんよ?」

「独身の先生に言われたくないですね。」

「君は本当に可愛くない生徒だなぁ!?」

 

二人のやり取りが面白くて、私はクスッと笑ってしまった。慌てて口を抑える。

というか、なんで隠れているのだろう。別に出ていってもいいのに。

 

「正直ユリさんに教えるのは辛いものがあります。とても大切に育てられてきたんでしょう。それなのにあんなこと教えて……。」

「でもここはそういう場所ですし、仕方ないじゃあないですか。」

「そうだとしても……、可哀想になります。ユリさん、きっと銃も初めて持ったんですよ。」

「どんなに才能がなくても、弱いままじゃ困りますので。」

「こら、言い方悪いよ。君の言いたいことはわかりますけど、そういうこと言わない。」

「……別にいいじゃないですか。本人が聞いてるわけでもありませんし。」

「ダニー。」

「……すみません、でした。」

「よろしい。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

どんなに才能がなくても。か。

 

私は自分の手を見つめる。豆は固く、ところどころ血も滲んでいる。

何かが触れる度に嘲笑うように痛みは走る。こんなに頑張ってるのにね?ねぇ?

魔弾の射手の言葉が蘇る。意地の悪い言葉。嫌な態度でニヤニヤと笑いながら、彼は言った。「力が欲しいか?」と。

 

……そんなの。

欲しいに、決まってる。

 

 

 




本当はもう少し間を開けるはずだったんですが、
知る人は知ってる突然のやばい番外編投稿事件で詐欺更新されてたと思うので急ぎました。

本当にすみません。

あと、ハーメルン更新通知メールで来るのかな?ハーメルンってアプリないから通知ないし、Twitterとか使って更新した方が見やすいんでしょうか。
少しでもその方がいいって方いたらそうしようと思います。どうでもいいからおうどん食べたい人はうどん屋さんに行きましょう。宮野はおあげののった出しの美味しいキツネにします。


追記

えっ、アンケートどうしよう。
必要な方が一桁のままうどん派さんが100人超えたらやらないつもりでした。
希望少ないのはあからさまに分かってたから、流石に一桁ならやめよーって。50人ほど必要な方いたらやろーって。それくらいだったんですが。
ううん、もう少し様子見ます……。

あ、うどん嫌いな方は心の中でそっとラーメンにボタンを押してください。ジェノベーゼでも可能。

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