海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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2019/09/20

本編と同時に番外編を更新致しました。間違えて飛んでしまった方申し訳ございません。







Der Freischütz_5

銃を持つ手が震える。

それは最初にあった恐怖とは別の震えだった。銃を握るとちょうど豆の部分にフィットして、痛いのだ。

絆創膏を貼るも、関節部分に当たるためすぐに剥がれてしまう。ぐちゃぐちゃに丸まった絆創膏には血が滲んでとても汚い。

それを見る度に、私はため息をついていた。もう、嫌になってくる。

 

「ユリさん、頑張ってるみたいだね?」

「ユージーンさん……。」

 

後ろからの声に振り返ると、ユージーンさんが手を振って扉前に立っていた。

そのまま近づいて、私の手をじっとみてくる。ユージーンさんは少し眉を下げて、私の手を掴んだ。

 

「うわー、酷いね。大丈夫?大丈夫じゃあないか。」

「えっと、ちょっと痛いくらいです。」

「いやいやこれちょっとじゃすまないでしょ。アネッサに聞いて薬もってきたんだ。」

 

ユージーンさんはポケットから小さなチューブを取り出した。赤いプラスチックの蓋を開けて、中身を出してくれる。

それを手のひらに乗せられた。言われるままに伸ばすと、じわじわとした痛みが広がる。

 

「ぅ、痛い……。これ、結構染みます……。」

「そんな染みる薬じゃないから、怪我がそれだけ酷いってこと。」

「……。」

「ユリさん、ちょっと頑張りすぎだよ。」

「そんなこと、」

「じゃあ言い方を変える。焦りすぎ。」

 

ユージーンさんははっきりとそう言った。

私を見つめる瞳が居心地悪くて逸らす。けれど視線はずっと感じた。

 

「あのさ、こんなんだと逆に上達しないよ。わかるよね?」

「……でも、練習しか、私出来ません。」

「やろうとする気持ちはいいけど、空回りしてる。そんな急ぐものでもないし、とりあえず怪我が良くなるまでは撃つ練習は中止した方がいい。」

「そんな!」

「このまま慣れたとして、軸は多分ぶれるよ。ぶれた軸を身体が覚えるからね。」

「……。」

 

言い返せなくて私は俯いた。ふぅ、とユージーンさんのため息が頭にかかる。

 

「先生に言っておくから。暫くはお休みするって。確か、エド先生だっけ?」

「……お願いです。やらせてください。」

「ユリさん、」

「じゃないと私っ、私……っ。」

 

不安で、少しでもなにかしていたいのだ。

ただ止まっているだけは、変わらない無力な自分を直視することになって、辛いから。

 

「……ユリさん。もう頑張らなくていいんだよ。」

 

十分頑張ってるんだから、とユージーンさんは続けた。しかしそれが頭に入ってこない。

 

もう『もう』頑張らなくて『頑張らなくて』いいんだよ『いいわ』。『。』

 

声が重なる。幼い頃の記憶。悲しそうな、とびきり優しい母の声。

もう頑張らなくていいと母は言った。それは私の今までとこれからを否定する言葉だった。

でも母は悪くない。それは事実を言っただけなのだ。練習なんて必要ない。何もしなくていい。

 

「だって無駄だから。」

「え、ユリさん?」

「……なんでも、ない。」

 

私は笑う。とても上手に笑えている気がする。

顔の筋肉が動くのがやけにはっきりとわかった。

人って、心が痛すぎると身体と離れてしまうのだろうか。ここに立っていながら、私はずっと遠くから今を見ているような気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がついたら、私は魔弾の射手の収容室にいた。

目の前に当たり前だが魔弾の射手がいる。そうだ、今は作業中だ。でも、何をすればいいんだっけ。

 

「心ここにあらずだな?」

「あ、ごめん、なさい。」

 

魔弾の射手に言われて、慌てて記憶を辿る。なんの作業指示を受けていたか。

しかし頭がぐわんぐわんと揺れる。痛い。酷く辛い。

それなのに、自分が意識から遠い。変な感覚だ。地面に足がついていないような。

ねぇ私、今頭が痛いんだって。そんなことを思う、どこか離れたところにもう一人私がいる。

掴みどころがないのに、痛いのだけは分かる。気分が悪い。

 

「……一種の現実逃避か?」

「……え?」

「反応が遅れている。ふむ。なにかあったか?話してみろ。」

 

話すって、何を。

 

「話すって、何を?」

「……今なにを考えているか。」

 

今なにを考えているか?

 

「……強いって、どんな感じ?」

「は……。」

 

口は自然と動いている。

私はそれがずっと知りたかった。強いなんて言葉は私には似合わないもので、どんなものか想像がつかない。

それが手に出来たら、どんな幸福感を得られるのだろう。私の家族は、同僚のみんなは、どんな気持ちなのだろう。

魔弾の射手は少し驚いた反応に見えたが、すぐに口元に手を当てて話し始める。

 

「そうだな、気持ちのいいものだぞ?」

「きもちいい?」

「あぁ。優越感と、自己肯定感があって────、いや。」

 

しかし魔弾の射手はすぐに話をとめた。そうして首を振って、私をまた見つめる。

 

「お前にはこんな言葉ではダメだな。」

「え?」

「……強いっていうのはな、別になんとも思わない、大したことないものだよ。」

「……どういうこと?」

「別に特別だなんて感じないってことだ。」

「え……?」

 

魔弾の射手の言うことに頭が混乱する。

どういうこと?何も、感じない?意味がわからない。

私はわかりやすいのだろう。魔弾の射手は馬鹿にするように笑った。

 

「ユリ、お前は呼吸をしてるってどういう感覚だ?」

「え。」

「心臓を動かしてる感覚は?細胞を分裂させてる感覚は?」

「そ、そんなのわかんないよ。」

「そうだな、わからないな。だから私も強いというのがどういう感覚かわからない。」

 

その言葉に、嫌な予感がする。

耳を、塞ぎたくなった。聞いてはいけない。これ以上は。

きっと、この先は、聞いたら私は。壊れてしまう。

 

「……強いなんて当たり前にしか思っていないぞ?」

 

冷水を浴びせられたようだった。

その言葉は。私を絶望に落とすのに十分で。

身体の体温が一気に下がるのを感じる。目眩が、する。

色んな人の背中が頭によぎる。父、母、姉、兄、ダニーさん、リナリアさん、アイ、オーケストラさん。

みんなただ前を真っ直ぐ向いている。すぐに自分の手を見下ろす私とは違って。

 

遠い。とても遠い。

手を伸ばす。……届かない!!

届かない、よ。

 

なぁユリ、と声をかけられる。私は顔を上げることが出来ない。

 

「力が、欲しいか。」

 

そんなの。

……そん、なの。

 

答えようと、顔を上げた。否定しなければ。だって、魔弾の射手はきっとろくな質問をしていないから。

目の前に差し出された銃。

それがやけに眩しく見える。私の手は自然に伸びる。だめだ。これは、誘惑だ。

でも、欲しい。心が動く。渇望する。

銃の持ち手に触れる。それは不自然に手にフィットして、とても持ちやすい。どうしてだろう。手の豆も全然痛くないのだ。

それが嬉しくて、泣きそうになる。私は漸く。と銃を大切に抱えた。頬擦りすらしてしまう。

冷たくて硬いはずなのに、とても暖かく思えた。

力。強さ。今私の手元にある。

これは、私のもの。私の、力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔弾の射手が笑っていることに、私は気が付かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔弾の射手の収容室からでる。手元の銃は魔法のように消える───こともなく。

それはやはり私の手の中にある。触ってると妙に安心感があって、同時にドキドキと興奮もしている。

これはもしかして、ユージーンさんが言っていたギフトというものだろうか。

だとしたら、もしかしたらこれにはすごい力があるのかもしれない。期待に胸は膨らんだ。自然に笑みがこぼれてしまう。

私は中央本部に向かった。扉を開けるとそこにはチームのみんながいる。

あまりエージェント同士関心のないチームだ。扉が開いたくらいでは振り返らない。

しかし私はみんなにこの銃をみて欲しくて、珍しく声をかけた。あの、と言うとみんな振り返る。

振り返った皆は、私の銃を見て驚いてるようだった。

目を見開く人、口を開ける人。皆の反応が大袈裟で、私は笑ってしまう。まぁ確かに、こんな立派な銃珍しいだろう。

そうして私は。

 

みんなに向けた銃の引き金を、ひいた。

 

 

 

 

 

 

 







お礼小説載せたくて予定より早く更新致しました。次回はもう少し間あくと思います。すみません。

次回はユリちゃんが大変な目に合います。ふぁいとー。

あとアンケートありがとうございます。まだ迷ってます。すみません……。


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