海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Der Freischütz_7

どうして当たらないのだろう。

おかしい。銃の性能は素晴らしいものなのに。どうしてアイには当たらないの。

 

あなたが出来損ないだからでしょ?

 

アイの向こうに、小さな女の子が立っている。それは幼い頃の私だ。

その私はただ作った笑いをして立っている。私を、じっと見つめている。

 

役立たずのユリちゃん。なんの力もないユリちゃん。

 

貴女は一体なんなんだろう。

首が熱い。けれど貴女の目を見ると、少しだけ引いてくれるのだ。だから私はまだ撃つことが出来る。まだ私の力である。

 

ユリちゃんユリちゃん可哀想。

いらないって笑われて。

おうちに帰っても一人ぼっち。

可哀想可哀想。でも本当に可哀想なのは?

 

『ユリは いいなぁ』

 

こんな子のせいで壊れちゃった、お姉ちゃん!!

 

あーあ、あーあ。

可哀想ね、可哀想。

 

お前が 悪いんだよ。

 

『死ね』

 

頭が、痛い。

だから私は撃たなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

躊躇なくユリに近づいていく憎しみの女王に、リナリアとダニーは驚くばかりであった。

その間何発か銃弾は撃たれている。しかし憎しみの女王は向かってくる全てを簡単に杖で弾いていった。

ユリの持つ銃は何発分の弾が入るのかわからないが、そろそろ弾切れになってもいいはずだ。

勝機が見えてきた。

このままユリは憎しみの女王に任せて大丈夫だろう。しかし万が一もある。いつでも腰の銃弾と警棒を出せるように、ダニーは構えを忘れない。

それがいけなかったのか警棒の先が床に擦れてしまった。ずず、と小さな音がする。

 

「……ダニーさん?」

 

しまった、と思った頃には遅い。ユリの視線が憎しみの女王からダニーに向かう。

ユリはまたにっこりと満面の笑みをうかべた。そうしてダニーに銃口を見せるように、銃を動かす。

それはかなりずれている焦点ではあった。このまま引き金を引いたとして、当たってもダニーの足をかする程度だろう。

それは誰が見ても一目瞭然だったが、ユリは特に気にすることもなくダニーに言葉を続ける。

その様子に憎しみの女王は焦り、ユリの元へ走る。距離はそう遠くない。遠くないのだが。

 

「見てください。すごい銃でしょう?」

「ユリ!ダメ!!」

 

ユリが引き金を引く方がはやかった。

 

────パンッ!

 

「ぐぁっ……、」

 

ダニーの身体が、倒れる。ゆっくり、スローモーションのように。

 

受け身を取らないせいで、床に思い切り叩きつけられる。ダァンッ、と。衝撃で少しだけ身体が浮き、跳ねた。

腹の辺りが信じられないくらい熱い。やけているみたいだ。それが痛みにもなって、痛すぎてもう、よくわからない。

苦しい。呼吸が、できない。酸素を求めて息をすると、伴って腹が悲鳴をあげる。

不規則に咳き込むダニーにリナリアは駆け寄った。するとユリは、リナリアさんとまた笑った。

 

「リナリアさんも、見てくれる?」

 

ユリの言葉にリナリアは顔が真っ青になった。

憎しみの女王は慌ててユリの前に立ちはだかる。

 

「ユリ!やめて!!彼はお友達でしょう!?女の子だって恐がってる!!」

「そうだよ、私は見て欲しいの。見て、ねぇ、私強くなったよ?」

「どうして人を殺すの!!ユリはそんな子じゃないわ!!」

「殺す?何言ってるの?」

 

ユリは銃を下ろして首を傾げる。憎しみの女王の言葉が全く分からないようだった。

 

「殺してないよ?私はただ、撃ったの。」

 

あれ?とユリは顔を歪めた。

 

「殺してない。うん。殺して、ないよ?あれ?あれ?あ……首が熱い……。うん?え?何?何が?殺して、うん??」

「ユリ、目を覚まして。お願いだから……っ。」

「アイ、何言ってるの?」

「……床に、倒れている人達は、なに?」

 

「…………え?」

 

 

 

 

 

 

 

あーあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

床を見ると、真っ赤に濡れていた。

気が付かなかったが私の靴はもうびしょ濡れで、きっとソックスすらも濡れてしまったのだろう。

この赤は、何?

 

「っ……ぅ……。」

 

首が熱い。さっきからくる熱さだ。

私の力を阻む熱。一体何なのだろう。せっかく強くなれたのに邪魔しないで欲しい。

もっと撃って、力を見せなきゃ。そうしたら皆安心してくれる。ユリさんも戦えるんだねって、仲間に入れてもらえる。

もう家に帰って一人じゃない。

アイの言葉が煩いなぁ。さっきから何なんだろう、殺すなんて物騒な言葉はアイに似合わないのに。

私が殺すなんて、そんなわけない。私はただ撃つだけ。それでいいの。

あれ?

でも、撃ったら死んじゃう?

あれ……?

え?わからない。あれ?え?なんで?なんでみんな倒れてるの?あ、私が撃ったから。でも別に私みんなを傷つけたかった訳じゃなくて。

なんで。

 

「あっつ……!?」

 

その時、先程とは比にならないほどの熱が首に走った。

咄嗟に首を抑える。するとアイに持つ片手を強く叩かれた。

力が抜けた手からは簡単に銃が離れた。それを追いかけて、手を伸ばす。私の、力。

しかしその前に手は止まる。私は身体から汗が吹き出す。先程までぼんやりとしていた意識が、妙にはっきりして。

 

一気に記憶が、鮮明になった。

 

「……あ。」

 

銃を向けて、私は引き金を引いた。エージェントの皆の悲鳴が聞こえる。

背中を向けて逃げる人。立ち向かってくる人。

 

「あ……。」

 

撃って撃って。倒れる人を見ていた。

床にできる赤い水溜まりを何も思わず見ていた。

別になにも考えずに、私は。

 

私は、人を殺した。

 

体温が、引いた。

私は、なんてことを。

恐怖が押し寄せて後ずさる。すると何かに足を取られて倒れてしまった。

しかし痛みはない。後ろにクッションがある。

振り返ってみる。

人の、身体。

 

「ひっ……!」

 

濁った目が私を見ている。立ち上がろうと手をつくと、またぐにっと感触。今度は、人の腕。

周りを見ると、沢山の人がいる。皆同じ目で私を見ている。

責めているのか。いや、そんなことは出来ないのだ。考えることも、何も。

私のせいで。

辺りが静かなせいで、私の心臓の音がやけにハッキリしていて。

アイが私に何か言っている。でもわからない。何もわからない。

 

『あーあ。』

 

その中に、形を為した声を見つける。

顔を上げると、目の前のアイの背中に誰かが立っている。

 

「ぁ……。」

 

この場に似合わない小さな姿。私を、真っ直ぐと見ている。

息が荒くなる。肺が苦しい。呼吸が上手くできない。

 

『みんな可哀想。』

 

夢の、幼い私。

小さな口が、大きな動きをする。ゆっくりと。

それを見たくないのに、私は見なければいけない。逸らしてはいけない。そんな気がしてならない。

だってそれは罰だ。許すな。

 

『みんなみんな、もっと生きたかったって泣いてる。可哀想可哀想。』

「あ……あ……。」

『皆、不幸になる。貴女のせいで。可哀想可哀想。』

「わ、わたし。」

『力もないくせに、なに迷惑かけてるの?』

「ぁ……。」

 

それは、形を変える。

ぐちゃりと歪んで、長く伸びて。

 

『ユリ、どうしてあんなこと言ったの。』

「ぁ、ぁ、お姉、ちゃ……、」

『守ってあげたのに?あなたは弱いから、私が代わりに。代わりになってあげたのに?ね……結局弱いくせに人を殺したいの?』

 

お姉ちゃん。

声が床からも聞こえる。

 

『どうして殺した』

『なんで撃ったの』

『死にたくないよ』

『やめて』

『やめてやめて』『生きたい』『殺さないで』『助けてやめて』『どうしてやめて』『殺さないで助けて!!』『足が動かないよ』『声が出ないよ』『死にたくないよ』『何も見えない』『なんで撃った』『撃たないで!!』

 

『お前が、死ね。』

 

『あの時殺してあげれば良かったね?』

 

「ぅ……ぁ、ああああ。」

 

『みんな死んじゃった。ダニーさんも、撃っちゃった。可哀想。彼は貴女を護ってくれてたのに。お姉ちゃんだって、ねぇ。』

 

「やめて……お願い、やだ……あぁ、ごめんなさい……やだ……。」

 

『ユリ酷いよ』

『酷い酷い』

『助けて!!』

 

『ユリさん』

 

「あ……。」

 

『どうして、俺を撃ったんだ?』

 

 

 

「ああああああああぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

目の前が真っ暗になる。何も見えない。闇の中には太陽も月もない。

ただ私が、私だけが。私の首を締めて、腹を蹴って、目を抉って、頭を殴って。いるだけ。そうそれだけ。

私は私を殺さなければいけない。そのために貴女は生まれた。何度も夢に現れては、私を苦しめるために、罰を与えるために。忘れない為に。そう許してはいけないの。許すな、許すな。決して許すな。

許されてはいけない。許すな。

 

許すな許すな許すな許すな許すな許すな。

 

殺せ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






さすがにこれを一話としてあげるのは……と考えて連続投稿です。
作者の表現力の限界。
というか皆さんユリちゃんの絶望期待してくださってて嬉しい作者でした。暫くはずっと可哀想です。




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