海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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今更ですがネタバレタグ付けました。罰鳥はまだ、まだ大丈夫な筈……。
申し訳ありませんでした…。






The Silent Orchestra_1

「何でオーケストラが……。常に中立を保つよう厳重な管理をしていたはずなのに……。」

 

ダニーさんはブツブツと何かを言っている。何が起こっているのか分からない。けれどその表情から何か大変なことが起こっていることは確かだ。

 

「あの、一体何が。」

「申し訳ありません。少し待ってください。」

 

私の声を無視して、ダニーさんは耳に付けた通信機で誰かと話しはじめる。

〝脱走〟先程のアナウンスで確かにそう言っていた。彼らのいう研究対象が逃げ出したのだろうか。そしてそれはもしかしたらとんでもなく危険なものなのではないだろうか。そうだとしたらダニーさんのこの慌てぶりも納得がいく。

一人取り残された私は不安に駆られながらもダニーさんの行動を待つしかなかった。

 

「はい。はい。……え?!私達が部屋の前を通った途端にですか?特にオーケストラを刺激することは何も……。」

 

 

――――メインルームへ。

 

 

「……?」

「……まだ第一楽章もはじまってないんですか?どういうことだ……?鎮圧作業は……不調。エージェントが精神異常、ですか。了解。」

 

――――メインルームへ。

 

「何……?」

「え……、こっちに向かってるんですか?はい。はい……。わかりました。鎮圧を試みます。」

 

――――はやく。

 

何か、聞こえる。

音になってない言葉が、頭に流れてくる。

 

―――早く来てください。

―――――待っています。

――みんな待っていますよ。

――――仲間も。

――――――私も。

――待っています。

 

―――最高のステージをお約束しましょう―――

 

コツコツと廊下に音が響く。私達のではない。振り返ると先程小鳥の籠を渡した女性が立っていた。

けれど様子がおかしい。目は虚ろで、足取りもフラフラと不安定だ。女性は私達の前で足を止める。身体は小さく揺れていて、しっかりと立てていないようだった。

 

「リナリア……。」

 

ダニーさんは眉間にシワをよせ、呟いた。恐らく女性の名前だ。

女性は腕をゆっくりとした動作で上げていく。その腕は私達の方に向かって何かしようとしてるようだった。

舌打ちが聞こえて、ダニーさんが腰から警棒を取り出した。女性を睨む。狙いを定めて。

ダニーさんの次の行動が読めて、私は慌てて彼の腕を掴んだ。

 

「ま、待って!」

「ユリさん、離してください。」

「本当に、待ってください!た、多分大丈夫ですから!」

 

私は女性に向き直る。この人がどうしてしまったのか分からないけれど、何故か何となく、彼女が何をしたいのかわかるのだ。

 

「……メインルームへ向かえば、いいんですよね?」

 

そう言うと女性は頷く。動きが不自然すぎて首を動かしただけに見えるけれど、確かに頷いたのだと思った。

彼女は迎えに来たのだ。私を。だからここに来た。だから私の手を引こうと腕を伸ばした。

ついて行く意思を見せたからか、女性は腕を下ろして私達に背を向けた。そして元来た道を歩き出す。

 

「行きましょう。ダニーさん。」

「待ってください。このまま動くのは危険です。今上に指示を仰ぎます。」

 

そう言ってダニーさんはまた通信機で話し始める。

前を歩いていた女性が足を止めて私達を見た。光のない瞳で見つめられるのはなかなか気まずい。

 

―――どうしたのですか?

――はやく来てください。

―――――貴女が来ないとはじまりません。

――どうして来てくれないのですか?

――――待ってるのに、貴女は来てくれない。

――待ってるのに、

 

 

 

「っ……いっ……た……。」

「うっ……頭が……割れる……。」

 

突然、耳を劈くような高音が廊下に響いた。

脳味噌が揺さぶられる感覚。頭痛がする。痛い。とても痛い。

ああ、哀しんでいる。私を呼んでいる誰かが。

音に乗せて哀しみが私の中に流れ込んでくる。

苦しい。なんだか、とても。

 

「行く……すぐ行くから、待ってて。」

 

そう言うと、安心したように音は止んだ。

 

「っ……どうなってるんだ……。」

「……ダニーさん。私行きます。」

「行くって……」

「メインルームってところです。場所わからないけど、あの人について行けば大丈夫でしょう。」

「だから、それは危険だと!」

「だけど、行かないと。」

 

「行かないと、なにか大変なことが起きる気がするんです。」

 

私の言葉にダニーさんは何も言えないみたいだった。

私の言ってることはあながち的外れでもないのだろう。私が何かできるかなんてわからないけれど、恐らく私を呼んでいる何かは今の状況を作り出している原因だ。

不思議と恐怖は引いている。何故か大丈夫な気がする。私を呼ぶ声が、とても優しかったからだろうか。

 

 

 

 

 




ご試読、お気に入り登録、コメント本当にありがとうございます。
作品情報見てはニヤニヤしているやつです。夜投稿してるので基本朝にコメントとか見るんですけど朝の電車でニヤニヤしてる不審者がいたら私かも知れません。通報しないでください。
これからも頑張ります。よろしくお願いします。

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