【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について 作:宮野花
静かなオーケストラは、腕の中のその人の頭を撫でる。
自身とは違う、生命の息吹を感じる暖かな身体のなんとか弱いことか。
全てから貴女を護れればいいと静かなオーケストラは本気で考えている。
世界はあまりにも広すぎて、その人を傷つける物は愚かにも存在するのだ。
──そんなもの、私が全て消してみせる。
美しい女性を花に例えるのなら。
花は庭を彩るために生まれたのか?
否、花の為に庭は存在するのだ。
その人が美しく咲き誇れるように、なんの不安もなくそこに在れるように。
静かなオーケストラは世界という彼女の器を調整しなければいけない。
大丈夫、と静かなオーケストラはその人の顔を見つめる。
目を覚ました時、彼女の記憶は消えている。
血の匂いも目の前で起こった死も、銃の感覚も。全て全て、忘れるのではなく消えてしまう。
本当は、彼女を苦しめた根本を壊してしまいたい。
けれど賢いアブノーマリティの彼はわかっていた。
彼女に存在を消されることの絶望を。
──私だったら……。
──発狂してしまうかもしれないですね。
静かなオーケストラは笑う。意地の悪い心の底からの笑み。
眠るその人の唇を指でなぞる。
多々ある愛情表現の中で、意志を伝えるそこ同士を重ねるのは、生物の中では上等な愛の伝え方だ。
しかし静かなオーケストラは、唇を寄せられる身体を持っていない。
その人の身体を持ち上げてしまえばいいとしても、目を閉じる彼女の静寂を奪うことは出来ない。
だから指で唇をなぞる。甘く蕩けた口付けの代わりに、たっぷりの優しさを塗るように指を動かす。
記憶を消すということは、彼女の過去を消すということ。
彼女の手に残るのはマメだらけの手。がんばって練習した時間は失う。
そして、彼女に奪われた命達も忘れられてしまうのだ。
それが正しいか正しくないかの結論を人間は導き出せるのだろうか。
出せるのだろう。だって貴方が正しくないと叫んだら。
静かなオーケストラは、貴方を殺す。
それだけの話。
そうして地獄はようやく終わりを迎える。
……この曲、知ってる。
オーケストラさんの音楽だ。
穏やかなメロディーが私の耳に入ってくる。
一音一音がとても繊細で、丁寧な音楽。
これはよく私がリクエストする曲。なんていう名前かは知らない。教えて貰ってもそれは私にはわからない言葉で。
あぁでも確か……これは小夜曲だ。セレナーデって言うんだっけ?前に、オーケストラさんが言ってた……。
前?前って、いつだっけ……?頭が、なんか、ぼんやりして……。まだ眠い……。
ん?
あれ……今、何時……?
「っ!!」
一気に目が覚めた。待って、今何時だ。
「って、ええええ!?オーケストラさんっ!?えっ、ここ収容室じゃないですよね!?えっ、どこここ!?……医務室!?なんで!?オーケストラさんまでなんで!?」
時間を確認しようとしたが、目の前にいるオーケストラさんの姿に驚いてしまった。
辺りを見渡すと、どこか見た事ある景色。消毒液の匂いで思い出す。ここは医務室だ。
あとなんでオーケストラさん収容室の外にいるの!?
「オーケストラさん!どうしてここに!?」
私も私でなんでここにいるのだろう。寝ていた?運ばれてきたの?
身体を確認するも特に痛いところもない。気を失ってただけなのだろうか。
支給された腕時計をみる。まだ業務中だ。早く仕事に戻らなければ。
慌ててベットを降りると、じゃり、と何か踏み潰してしまった。
足をどけると、白い粉が床に散らばった。
元は固形だったのを、私が潰してしまったのだろう。
辺りをみると白くて丸い粒がそこらに落ちている。
薬?
なんで、薬が?
「まぁ、いいか……。」
身だしなみを整えて。ベットのサイドテーブルにあるタブレットを手に取る。
よくみると他のベットも使用中で、その人達はわかりやすく怪我をしていた。
巻かれた包帯に赤黒いシミ。か
なにか、とんでもない事が起こったのかもしれない。
「って、なんかすごい脱走してるー!?」
タブレットの履歴を確認すると、いくつもの収容違反報告が。
アイも罰鳥も大鳥もオーケストラさんもなんかよく知らないやつも収容違反してるらしい。
一体何が起こっているのか。とりあえず私に出来ることがあれば、動かなければ。
まずXさんの指示を待って……いや。その前に。
「……オーケストラさん、とりあえずお部屋、戻ってもらえません……?」
──もう、大丈夫そうですね。
「?なにがですか?」
──ユリさん、ひとつ約束です。今度は必ず、私を呼ぶこと。
「今度?え?なにが?」
──貴方が辛くなった時、危ない時。
──必ず私を呼んでください。
「え……あ、はい……?なんでそんな、急に?なにか、あったんですか?」
──ふふ、なんでもありません。
──何も無かったんですよ。何もね。
「はぁ……?」
──また、部屋でお待ちしてます。
──必ず来てくださいね。
「はい、約束します。またセレナーデ聞かせてくださいね。」
──え。
「あれ?セレナーデ、ですよね?今の曲。違いましたっけ?」
──あ、いえ……そうです。
「……?オーケストラさんどうしたんですか?さっきから何だか変ですよ……?」
──いえ、その。
──恥ずかしいことを覚えられてしまいましたね。
「恥ずかしい……?」
──我ながら、少しキザでした。
「??」
ぎぃぎぃ。音が聞こえる。
真っ暗な廊下で、新人エージェントのルックは震えて立っていた。
本当なら直ぐにそこを立ち去りたいのに、足が根をはったように動かない。
彼は今日とても運が悪かった。
朝目覚まし時計の電池は切れていて、慌てて家を出たら道で転んだ。
擦りむいた膝を我慢しながら出社したところで、社員証を忘れたことに気がつく。
しかし時刻はギリギリ。なんとか入れないかと入口で確認してもらい、いくつもの面倒くさい手順を踏んでやっと通してもらって。
そうして、業務中。いくつもの警報が彼の鼓膜と心臓を揺らした。
新人である彼すらも鎮圧に駆り出された。比較的危険が少ない罰鳥の相手ではあるものの、彼はまだ鎮圧に慣れていない。
最悪だと泣きそうになりながら向かう途中。
廊下の電気が切れた。
音が聞こえた。ぎぃぎぃと、木が軋むような音。
その音は彼を魅了し、誘う。ぼんやりとした意識の中、ただ、ただそこに向かわなければという使命感に襲われる。
だって呼ばれているのだから。
そこで今日一番ともいえる不幸が彼を襲った。
この自体にパニックに陥った他の同僚が、ルックの背中を押しのけたのだ。
壁にぶつかったルック。だが痛みはどこか遠く、実感がなかった。
しかし其れはある衝撃と共にやってくる。
ルックを押しのけた同僚の首が、目の前で引きちぎられた。
その画はルックの脳に冷水を浴びせる。
人の皮がちぎれる音が、骨の砕ける音が頭に響いた。
ぴちゃっ、と数滴の血がルックの肌を汚す。
その一雫が垂れて、伝って、口に口に口に。
口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に口に、
「ぁ、」
目の前に、黄色いいくつもの目。
黒い塊が、大きな何かが。化け物が!
ルックに鋭いくちばしを向けて!
逃げられない!死んでしまう!
あぁ可哀想なルック!もしも今日朝目覚まし時計が壊れたまま、とんでもない寝坊をしていたら!
転んだ時もう少し大きな怪我をして、歩く速度がおそくなっていたら!
社員証を取りに戻っていたら!
そうしたら遅刻した君は怒られて、昼休みがもっと遅く、ちょうど今くらいの時間になっていたかもしれないのに!
最高な展開として、クビにでもなっていたかもしれないのに!
または罰鳥の鎮圧に違うルートを選んでいたら、敢えて遠回りをして、ノロノロと現場に向かわなければ。
そうしたらルックは、大鳥なんかに会うことはなかったかもしれないのに!
でも全て手遅れだ。ほら目の前。暗闇の中にいくつもの黄色い光。
腕にぶら下げたカンテラをゆらゆらさせながら、大鳥は動けないルックに口を開けた。
活動報告にも書きましたが診断メーカーで、小説っぽくなるやつ作りました。
「小説風::エージェントである貴方のある一日」
https://t.co/FA2RfdakUd
これはじつは本当に読んでくれてる皆さんをかんがえて作ったんです。
本当は一人一人にお礼したいけどそれは難しいから、せめて皆さんが主人公の小説を簡単に作れないかなって思って。
だからツイッター向けじゃないです。長いし。
でも気になったらやって見てください。パターン多くなるよう作ったけど、あの確率は大半アブノーマリティです笑
多分パターンあっても1億くらい。でも多分1億はいってます!もうひとつ別の同じくらいで作って確認済みです。
だから、貴方だけの物語を見てみてください!
今回も読んでくださってありがとうございました。
魔弾の射手。ラストスパートです!