【改正前】海外移住したら人外に好かれる件について   作:宮野花

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Mountain of Smiling Bodies_7

yuri kuroi

 

お前が大嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チーム本部に戻ると、私たちを見てそこに集まった皆武器を構えた。

 

「まっ!待ってください!!アイ……じゃなくて、憎しみの女王も、蝶男さんも、安全なアブノーマリティですから!!」

 

私の言葉にエージェントさん達は顔を見合わせる。ザワザワ、と。

所々聞こえる、「本当か?」「信じていいのか?」「だがシックスだぞ?」

……シックスって。

そのあだ名まだ使われてるの……?

 

「……信じていい。こいつらは助けてくれた。」

 

ザワつく中、ダニーさんが淡々と言い放った。

ダニーさんがそう言ったことで、皆躊躇いながらも武器を降ろしていく。

さすが、信頼が違う。

安堵しながらも、自分の言葉との差に少し悲しく思った。

 

「待て!!俺は、その蝶男が同僚を襲ったのを見たぞ!!」

 

が、銃を降ろさない一人のエージェントが叫んだ。

その声にまたざわつき始める。

視線は葬儀屋さんに集まった。確かに、私もその噂の真相は聞いていない。

葬儀屋さん本人はというと、いくつもある腕のひとつをふむ、と顔に持ってきて思い当たる節を探しているようだった。

 

「……私は、見ての通り葬儀屋です。」

「はぁ!?」

「見てください、この背格好。葬儀屋らしいでしょう?」

 

改めて見ると、確かに葬儀屋さんの服装は葬儀の歳に業者が来ているものと似ている。

スーツなんだろうけど、よく体を動かすのか関節のところにシワが多い。

……元々人間だったって、事実なんだろうか。

それなら葬儀屋さんの見た目が、人に近いことも理解出来る。

近い、と言うより。身体だけならもう人だ。

人間の身体に、頭だけ蝶の被り物を被った様な感じ。

腕は千手観音のように多く伸びているが……。それ以外は私たちと同じだ。

 

……待って。

 

腕が、多いのって。

少しずつ人間から離れてる証拠とかなのだろうか。

 

「っ……!」

 

そう考えた瞬間に鳥肌が立った。

もしそうなら……すごいホラーだ……。

いやいや、と。考えを振り払うように頭を振る。憶測で怖がってたらキリがない。

 

「葬儀屋!?だからなんだ!!」

「あの人々は、元々近く死ぬ未来にあった。」

「はぁ!?」

「……一人で死ぬのは寂しいから。……迎えに来たんです。」

「………だから、だから、殺したのか!!仲間を!!」

 

エージェントさんは今にも銃を打ちそうだった。

緊張した空気。しかし葬儀屋さんは全く動じることなく、彼に言った。

 

「……人は死んだらどこに行く?」

 

噂通りの質問を、葬儀屋さんはした。

 

「………否。誰かは死の向こうに何かがあると考えていたが、実際は、何もなかった。」

 

そして、その答えを葬儀屋さんは続けたのだった。

 

「……天国なんてないのなら。最もよい瞬間に、綺麗な姿で死んだほうがいいでしょう。苦しみなんて、ないまま。眠るように。安らかに。」

 

──パンッ!!

 

葬儀屋さんの言葉に、エージェントさんはこれ以上ないほど顔を歪めた。

そして、一発の銃声。

驚いて思わず私は耳を塞いだ。エージェントさんの周りの人が、彼を取り押さえる。

 

「ふざけるな!ふざけるな!勝手に決めるな!!俺たちは、一瞬でも長く生きていたいと思ってるんだ!!他人が、お前みたいなやつが!!俺達の思いを決めつけるな!!」

 

エージェントさんはもう泣いていて。

ひしひしと悲しみが伝わってくる。胸が、痛い。

彼の言うことは、その通りだ。

私は葬儀屋さんに、何とか考えを改めて貰えないか話そうとした。

しかしその時、葬儀屋さんは既に彼に頭を下げたのだ。

 

「……申し訳なかった。」

「……へ、」

「……善意でやったとはいえ、君の言う通りです。……罪は背負います。……もう、しません。」

 

葬儀屋さんの言葉に、エージェントさん達はポカンと口を開けて動かなくなる。

私も戸惑ったが、やはり葬儀屋さんはいいアブノーマリティなのだ。

よかった、と息を着く。これで蝶男の被害は無くなるだろう。

 

「ほ、本当に言ってるのか……!」

「嘘はつきません。」

「し、信じられるか!!お前の言うことなんて──(ピピッ)」

 

その時、そこにいたエージェント達のタブレットが一斉になった。

作業指示のメッセージだろう。それにしても、一斉にくるとは。

みんなそれぞれ、内容を確認する。私もタブレットを開いて、メッセージを見た。

 

「……え、?」

 

そして皆、今度は一斉に廊下に繋がる扉を見る。

扉向こうから。遠くに音が聞こえる。

 

────、

 

なんだ。この音は。

音……というより、これは……声のような。

 

────!!

 

近付いている。

みんな武器を構えた。

そのうち数人は逃げようとしたのか、走る足音が聞こえる。

このチーム本部は廊下と廊下の間にあるので、反対側の扉に向かったのだろう。

しかしドアの開く音が聞こえなくて、不思議に思ってそちらを見る。

逃げようとしたエージェントは扉を叩いて泣いている。

……開かなくなってる!?

それはきっと、アブノーマリティのせいでは無い。

ダニーさんが舌打ちをした。私は震える手を必死に抑えて、武器の杖を握る。

タブレットに書かれていた指示にあった説明はとてもシンプルだった。

 

【正体不明のアブノーマリティが現地点に向かっている。】

【東扉方面からそちらに進行中。】

【その場に集まったエージェントで協力し、鎮圧せよ。】

 

正体不明の、アブノーマリティ。

東扉から。

……先程私達が対面した、アブノーマリティの可能性が高い。

隣のダニーさんが口を開いた。

 

「皆、相手はもしかしたら、匂いとかでも攻撃してくるかもしれない。……さっき廊下を通った時、変な匂いがしたんだ。確証はないが、構えておいた方がいい。」

 

ダニーさんもやっぱりそう思ってるのだろう。

あのアブノーマリティであると確証はないから、下手なことは言えないけど……。

それに先程のアブノーマリティなら、この音は……なんなんだろう。さっきはこんな音しなかった。

 

「……大丈夫。私が守るわ。」

「アイ、」

 

アイもまた、真っ直ぐと扉を見ている。

 

「犠牲者がいなければ、このままビームを撃つから。もし誰かいたら救出を最優先にするわ。」

「ありがとう……!アイがいるだけで、すごい安心するよ、」

 

アイの優しさが嬉しくて、こんな緊張する場面なのに笑ってしまう。

けど、アイがいるだけで安全さは段違いだろう。おかげで震えていた手も少し落ち着いて、さっきよりもしっかり杖を持つことが出来る。

 

「……正直私は、ユリが無事ならなんでもいいんだけど。」

「え?」

「なんでもないわ。……その杖、私と一緒なのね。嬉しい。でも魔法の杖は扱いが複雑だから、気をつけてね。」

「う、うん。あの……アイ、今なんて……、」

「くるわよ!!構えて!!」

 

アイが大きく叫ぶと、同時にがんっ!と扉が叩かれた。

がんっ!がんっ!

大きな打撃が何度も。扉は揺れて、今少し穴が空いた。

 

「っ……!」

 

隙間から匂いが漏れる。気持ち悪い。

やはりあのアブノーマリティだ。怖い……、でも、人数がいるし、アイだっている。

 

──ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛っ!!

 

「ぅ……!?」

 

大きな叫び声が、鼓膜を揺らした。

その声の、おぞましさと言ったら。

脳まで響いて、頭が……痛いっ……!!

それでも、まだ扉が機能していたのか。何とか体制は崩さずに済んだ。

がぎっ!と、音がして。遂に扉は完全に敗れる。

現れたその黒い塊に、皆目を見開いた。

当たり前だ。あんな恐ろしい見た目のアブノーマリティがいたら、驚きと恐怖で目を見開くだろう。

しかし、私と、ダニーさんと、アイと、葬儀屋さんが驚いたのはきっと違う理由だ。

 

「な……に。」

 

思わず、声が出た。

姿が、変わっている。増えている。

一つの、黒い塊に。もう一つ、同じような黒い塊がくっついている。

 

「アルカナビートッ!!」

「っ!」

 

大きな声と共に、アイがビームを放った。

それはいつも通り、強い魔法なのだろう。黒い塊に確かに直撃して、当たり所もちょうど中心くらいだった。

 

「え……!?」

「……嘘、」

 

それなのに、その黒い塊は変わらずしっかりと立っている。

 

──ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛っ!!

 

「ぁ……!」

 

先程よりも叫び声が近く、大きく聞こえて。体に走る痛みに強く目をつぶった。

 

「私の攻撃が……効かない……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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