ハイスクールD×D ~神殺しの王は赤き龍の帝王となりて王道を征く~ 作:ガーネイル
戦場のはずれにある木に少年がもたれかかっている。来ている服と顔には斬った者のり血がついている。だが、体のあちらこちらの刃傷がある。少年の傍らには刀がある。しばらくして少年が刀を握り杖のように扱いながら立ち上がろうとするが力が入らないのかそのまま前のめりに倒れこむ。
(まだだ……、ここで終わるわけにはいかない……)
それから少年が目を覚ますことがなかった。少年は死後、国に栄華と勝利をもたらした英雄と呼ばれるようになった。
少年は英雄になりたいわけではない。ただ、少年はただ平和な世界にしたかっただけなのだ。
******
少年は真っ白で何もない空間にいた。少年はそこで何か物語のようなものを映像として見た。
――――――
少女は王を決める選定の剣『
彼女が持つ剣の銘は『
そしていつしか王はこう言われた。『王は人の心が分からない』。そして王はカムランの丘という場所で円卓の騎士であり、息子であるモードレッド戦った。
戦いは終わり、その後少女はある七日間の夢を見た。それは正義の味方を目指す少年との出会い。その出会いは王の考えを変えた。目を覚ました時、円卓の騎士の一人に『約束された勝利の剣』を湖の貴婦人に返すように頼み、眠りに着いた。
少年はまた別のものを見る。それは正義の味方を夢見た男の子のお話し。
その男の子の始まりは黒い太陽が浮かび、周りは地獄のような光景が広がっているところだった。男の子は一人の男性に助けられる。
満月の夜、男性は正義の味方になりたかった、と男の子に言う。そして男の子は男性の夢である、正義の味方になることを決める。男の子は男性に憧れのようなものを持っていたのも一つの理由だろう。
男の子が成長し、少年とあまり変わらない年齢になった頃、彼女と出会う。全ての始まりは二人の男性が戦っているところを目撃したところからだ。それにより始まった時間は彼にとって、とても大切な時間になる。彼は王と呼ばれた少女を愛した。そして彼女も彼を愛していた。
それから青年になった頃、彼は夢を現実にするために世界を周った。紛争地域や土地が枯れているところを巡っていく。幼き頃、男性と交わした約束を果たすために。
その中で青年は言った。
「死んでいく人を見たくない。苦しんでいる人全てを助けることは出来ないのか」
――――――と。青年が全てを助けようと思っても助けられない人が存在した。当然である。人一人が救える数などたかが知れているのだから。だから少年はより多くの人を助ける手段を実行した。一を切り捨て、九を救うという最も単純で残酷な方法。だが、最も少ない被害で多くを救う方法でもある。
だが、やがて少年は化け物と言われるようになった。そして青年の最期は濡れ衣による死。彼の最期は絞首台の上だった。
そして彼のことを表す詩が出来た。
『
『
『
『
『
『
『
『
――――――
そこで少年が見ていた映像は途切れた。
少年の意識が再び薄れていく。再び意識を手放し、真っ暗な世界へと落ちて行った。
******
少年の魂は輪廻の輪に入り巡っていく。そして少年が新たな生を受けたのは天使・悪魔・堕天使の三つ巴の世界。そして神話が現実のものとなっている世界。そこで少年は
神の悪戯か何なのかは分からない。が、いわゆる前世と呼ばれるものの記憶と死後に見たものの記憶は残っていた。
少年は神話が好きになる。小学生の時から神話や伝記を読み漁った。ちょっと変わった少年として育つ。そして高校二年になった時、祖父のお願いで少年はサルデーニャ島に行く機会があり、単身でイタリアまで行く。全く出来ないイタリア語。少年は拙い英語を使いながら身振り手振りで行き先を伝える。その中で一人の女性と出会う。腰まである赤い髪と同色の服と白い帽子と羽織を身にまとっている。
「何かお困りですか?」
女性が発したのはイタリア語や英語ではなく、日本語。和希にとってここで日本語を話せる女性と出会えたのは僥倖だった。
「実は爺さんの知り合いにこれを返しに来たんですけど、知り合いの家が分からなくて」
そう言って和希が石板を取り出したとき、世界が変わる。あくまでそれは比喩である。が、現実ではありえないサイズの猪が港付近にいた。ヨットが宙を舞っている。そして暴れだし、近くにある建物の破壊を始める。
「あなたは逃げてください。私はあれを止めてきます」
女性は和希にそう告げた瞬間、走って行ってしまう。和希は遅れて女性を追いかける。建物が破壊され、道も荒れている。ちょっとした段差に躓き、倒れてしまう。その反動で石板を落とすが、それを拾った者がいる。それは十歳くらいの少年だが外套で顔から下を隠している。
「これはお主のか?」
使っている言葉は古い。だが、今の和希にはそこを気にするだけの余裕はない。和希は少年に逃げることを伝える。
「あ、あぁ。早く逃げたほうがいいぞ。なんかでかい化け物がいるし」
「ははっ、面白い」
面白い。そういう少年と一言交わして落ち着きを取り戻す。
「面白い? ってか、お前は? 若干日本語も少し古いし」
「我は勝者じゃ。最強にしてあらゆる敵を打ち破る者。敗北というのを味わうのも悪くないと思うてな。古き神々の王を甦らせ、立ち合うてみたが未だ敗北に至らぬ」
和希には何を言っているのかが分からなかった。正確には理解しきれなかった。勝者であり、あらゆる敵を打ち破る者。これを指し示す者がいる。だが、それは神であり、現実にはいないからである。だから頭が混乱する。今の状況も相まって余計思考が追い付かない。
その時、頭上を何かが通過した。和希が上を向くとさっきの女性が屋根伝いに跳んでいくところだった。
「すいません!」
和希の声は女性には届かず去ってしまう。
「お主、あの魔女を追ってここに?」
少年は女性が去った方向を見ている。
「魔女? いや、爺さんに頼まれてここに来たんだ」
「これを? フッ、フフッ。ハハハハ。よきかな、よきかな。どうやらお主、よき子よき戦士のようじゃ。この盗人がそう言っておる」
少年がそう言った瞬間、遠くから女性の悲鳴が上がった。おそらくさっきの女性だろう。和希が女性の声がした方へ走っていこうとすると少年が和希に話しかける。
「行くのか? 戦士よ」
「あぁ。だからそれを返してくれ」
少年は石版を眺める。そしてややあって和希の方へ差し出す。
「いいじゃろ。お主に預けよう」
「預ける? 預けようって、これは爺さんの……」
和希が少年から受け取ると後ろから光が発生する。そしてその中心には白馬がいる。
「なんだ!?」
そして、石版も白馬と同じように輝きを放つ。あまりの眩しさに和希は腕で目を庇う。光が収まると白馬もさっきまで目の前にいた少年もいなくなっていた。
「今のは…………」
そう呟いてから今度こそ、女性が向かった方へ走り出す。暫くすると女性が屋根の上にいるのを見つけ、近くの建物へ入り、階段で登っていく。そして女性が何かに吹き飛ばされる。和希はテラスから身を乗り出して、女性へと手を伸ばす。
「届け!」
和希の手はギリギリ女性に届き、手首を掴む。
「大丈夫ですか?」
「あなたはさっきの……」
女性を引き上げると巨大な猪が竜巻と思われる何かに包まれる。そしてそれは徐々に強くなる。あまりの強さに目を瞑る。目を開けると何も無かったかのようにいなくなっていた。
その後、和希は女性ととも一旦落ち着ける場所に移動する。到着したのは無人駅でそこにあるベンチで座って話をすることにした。
「えっと、さっきのは?」
「分かりません。私もあんな大きさの魔獣は見たことないので……。さっきは助けていただいてありがとうございます」
「いえ、あなたが無事でよかったです。……あの、俺は風峰和希って言います。名前を教えてもらってもいいですか?」
和希はまだ女性の名前を知らないことを思い出す。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はアティといいます。えっと和希くんは何でここに?」
「俺は爺さんの知り合いにこれを渡しに来たんです」
「その知り合いのお名前って分かりますか?」
アティに聞かれ、和希は祖父から預かったメモを見て確かめる。
「えっと、ルクレチア・ゾラって人」
「あぁ! ルクレチアさんですね。つい昨日までお世話になってましたので案内しますよ、あそこはなかなか変わったところなので」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「はい、それでは行きましょう」
和希はアティに案内され、ルクレチア・ゾラが住む家へと向かう。そこはなかなか辺鄙なところでお昼頃に出発したはずなのに到着したのは日が沈むほんの少し前くらいだった。そして、和希たちの頭上から何者かが声をかける。
「猫?」
「そなたらはアティではないか。お昼ぶりだな、そちらの御仁は?」
「俺は風峰和希っていいます。えっと、風峰
「ほう、大智の……。」
門が開き、猫が中に向かって歩いて行く。おそらくついて来いという意味だろう。アティは慣れたように中に入っていく。
リビングに入るとソファの上でネグリジェ一枚という年頃の男の子には少々過激すぎる格好で横になっている女性がいる。
祖父の知り合いということでおばあさんが出てくると思ったら待っていたのは妙齢の女性で独特の色香がある。
「すまなかったな、自由に魔力が使えると物ぐさになっていかん」
ルクレチアはソファの近くに座っている猫を撫でながらそう言う。
「は、はぁ」
「ん? どうかしたか?」
「いえ、失礼も承知ですが、爺さんから知り合いって聞いてたのでその……」
「まぁ、人間と比べれば高齢かもしれないが、まだまだ衰えていないぞ」
体を起こし、右足だけを少しだけ上にあげる。
「程なく完全な夜だ。この体試してみるか? 少年」
ルクレチアはそう言いながら脚を蠱惑的に動かす。和希は目を反らし見ないようにしている。青少年にはいささか刺激が強すぎるようだ。そこで今まで黙っていたアティが口を挟む。
「ルクレチアさん! 和希くんにそんなことしないでください! 教育によくないです」
「だが、アティよ。初心な若者は大抵、色々と持て余しているものだぞ」
「そんなことありませんよね、和希くん?」
ルクレチアはその瞳に悪戯っ気を含めながら、アティは私に同意してくださいますよね? みたいなのを含めた瞳で和希を見る。
「別に持て余してはいませんよ」
少し疲れたように和希が答える。
ルクレチアは怪しげに微笑んだ後、左肩にかかっている肩紐が自然にずれる。その後和希が持ってきた石板に手を伸ばす。座りなおし、肩紐も直す。
「プロメテウス
「プロメテウス!」
プロメテウスとはギリシア神話における一柱の英雄神。彼は天界の火を盗み、人類に与えた存在である。愚者と言われるエピメテウスの兄であり、プロメテウスは熟慮する者、先見の明を持つ者などの意味がある。ティターンの一神で兄弟はエピメテウスだけでなく、アトラスやメノイティスがいる。
「それをどうするつもりですか?」
今までとは一変してアティが真剣な声音でルクレチアに問う。だが、ルクレチアはそれを容易に受け流す。
「さぁ、どうしようか。こんなものがあるとよからぬ輩が集まって困る。出来れば引き取ってほしいものだ。……少年よ、ここに来る間に彼女以外の誰かに会ったか?」
そう聞かれた和希はここに来るまでの道のりを思い出す。色々な人と出会ったが、一番印象に残っている少年がいる。
「そう言えば、子供に会った。日本語を話してたんだけど妙に古い話し方をしてたような気がします」
それを聞いたルクレチアはプロメテウス秘笈を和希に投げる。和希はそれを危なくキャッチする。
「いいだろう、君にやろう」
「本当ですか!」
神話が好きな和希にとってそれは嬉しいことだった。だが、それに対し、アティが意外にも食ってかかる。
「ルクレチアさん! 彼は何も知らない一般人ですよ。それを渡すのは余りにも危険すぎます!」
「だが、神はその石板が少年の手にあることがお望みなのだ。偶然は必然。全ての糸は紡がれていくものだ。分からぬか?」
「分かるわけないですよ!」
そう言ってアティは出ていく。和希はただただ無言で渡されたプロメテウス秘笈を見つめていた。