ハイスクールD×D ~神殺しの王は赤き龍の帝王となりて王道を征く~ 作:ガーネイル
前回のあとがきで書いた通りの話になったのではないかと。ただ聖剣に関してはそれほど掘り下げませんでした。さわりだけです。
それでは前回同様、今回もよろしくお願いします。
部活動を終え、帰宅。夕飯やお風呂を済ませた後、和希の部屋にアティ、リアス、アーシアを含めた四人で集まり、聖剣関係の話をした後、誰が和希の隣にで寝るかと言う話になったが、アティの一喝により、各自部屋に戻り就寝となった。
その日の夜。ドライグの方から和希へと話しかけてきた。
『合宿以来だな相棒。この前の試合は実に見事な物だった。歴代最強と言っても過言ではない活躍だ』
「そりゃ、どうも。あいにく最強なんてものには興味はないけどな。……珍しいなお前の方から話しかけてくるなんて」
『まぁ、昼間の続きでさっきの続きだ。お前は特定の異性とは深い仲にならないのか』
ドライグからの思いがけない方向での会話の切り口に思わず黙り込む。
そんな和希の様子を知ってか知らずかそのまま続ける。
『昼間はあの聖女のことを考えていただろう。それにグレモリーとその眷属は悪魔の中でも特別愛情を持っている。リアス・グレモリーは相棒に特別な愛情を持っているように感じる。それだけじゃない。あの聖女や魔術師も同様だ』
「気のせいじゃないのか。それに俺は眷属じゃないからな」
『ククク、今はそれで良いだろう。だが、過去のことを踏まえても色を知っても問題ない年齢であろうよ。そういう体験は早めにしておいた方がいい』
「何だよ。やけに饒舌だな」
『いや、そんなことはない。前も言ったはずだ、本来俺はお喋り好きなんだ。だが、まぁ本題に戻ろう。いつ「白い奴」が目の前に現れるか分からないのだからな。早めに体験しておいて損はないはずだ』
話の後半はともかくとして和希はどうしても流せない部分を聞き返した。
「白い奴?」
「あぁ。白い龍、バニシング・ドラゴンだ」
白い龍。そのワードをかつて読んだ本にも出ていたことを思い出す。
それはアーサー王の原典の一つとされ、イギリスに伝わる古い伝承の中にもその存在にしている。地底に住む侵略民族の象徴となっていた。
『リアス・グレモリーから聞いたかもしれんが神と天使、堕天使、悪魔。これら三者が大昔に戦争したことは知っているな?』
和希が堕天使と接触し、迂闊にも光の矢を刺された後日。話の冒頭でも少しだけ話していたことである。
和希はそれを肯定し、話の続きを促す。
『その時、精霊や妖精、西洋の魔物、東洋の妖怪、そして人間。これらの種族がいずれかの勢力に力を貸している。だが、そんな中でも力を貸さなかったのがドラゴンという種族だ。詳細な理由など今では分からない。だが、どいつもこいつも力の塊で自由気まま。それに加えて我が儘なやつらばかりだ。中にはいずれかの種族に肩入れした奴も居たみたいだが大半は戦争なんぞ知らんぷり。好き勝手して生きていた』
何というトンデモ種族だろうか。和希は正直なところ引きぎみだった。そんな種族とは関わりたくないところではある。だが、残念ながらその身にその関わりたくない種族を宿してしまったのだ。その事実に頭を抱えそうになる。
それを気にすることなく、ドライグは話を続けていく。
大戦中に最強クラスのドラゴン二体が喧嘩を始め、三大勢力をぶっ飛ばしながらそれを続けたこと。その後幾重にも切り刻まれ神機に封印されたこと。
そして――。
『封じられた二匹は人間を媒介し、何度も出会い、そして戦ってきた。毎回、一方が勝ち、もう一方が死ぬ。それを長い年月延々と繰り返してきた。まぁ、出会う前に片方が死んで戦わない時もあったがな』
「それが『
『あぁ。今回の宿主はお前さんだった。しかもそれがただの人間じゃなく神殺しを成した者。これは当然ながら初めてのことだ。だから、楽しみにしているのだ。今回はどのようなことになるかな』
「面白いことにはならないと思うぞ。俺はただ皆を守る。その為に全力を尽くすだけだ」
『そこまで欲が少ない者も初めてだ。殆どが俺たちの力に溺れるか、恐れおののくか。どちらにしてもまともな人生を送れたやつはいない』
和希は何となく理解した。特定の異性云々というのは全てここに帰結するのだ。
「大半が白い龍との戦いによって命を落とす」。つまり、その中に、特定の異性を作る前に亡くなった宿主も存在している。ということに他ならない。
『元来、俺たちの力は魔王や神を圧倒できる程の力を持っている。今はほど遠い力だが、まぁお前ならどの段階であれ「白い龍」に遅れを取ることはないと思うがな』
「まぁ、あいつらに害を及ぼすならどんな敵であれ容赦なく倒すだけだ」
『本物の神殺しと滅神具。ここまで相性がいいのは今後ないことだろう。これからよろしく頼むぞ、相棒』
「あぁ、よろしく頼む。退屈させないよう頑張るさ」
**************
その日の部活動を終え、家に着いた時。アーシアが足を止めた。彼女の手は和希の制服の袖を掴んでいるが、その手は僅かに震えている。悪魔にしか感じる事が出来ない何かなのか。和希は意識を集中させ、気配を探る。悪魔とも堕天使ともどこか違う気配。その気配は聖に属するもの。つまり、教会か天界、及びそれに関わりがある者が家に居る。
リアスやアーシアのことがばれたのか。和希は必死に考えを巡らせる。
その場合、考え得る最悪のシナリオ。それを以前一度目撃している。フリード・セルゼンというキチガイ神父による夫婦の惨殺。そのことが脳裏をよぎる。大丈夫だと思いたい。だが、楽観視出来ない事実があるのも事実だ。
和希はアーシアを見て一度頷く。和希を先頭にし、アーシアは和希の後ろに隠れるように進む。
だが、リビングの方に近づくと徐々に談笑している声が聞こえてくる。
そっとドアを開けてリビングに入る。すると美奈と見知らぬ女性二人が何かを見ながら話していた。
――あの二人は誰だ……?
「えっと、母さん?」
「あら、おかえりなさい。どうしたの? そんな怖い顔して」
アーシアは美奈が無事だと言うことも分かり、ペタンと床に座り込んでしまった。
「えっと、そちらの二人は一体どちら様?」
だが、和希はまだ気が抜けないでいた。それはツインテールにしている栗毛の女性とメッシュが入り、目つきの悪い女性二人が首から下げている物が関係していた。それは十字架。タイプは違うがフリードが身に着けていた白いマントと同系のローブを身に纏っていることから教会の関係者であることは自明の理だ。
「こんにちわ、風峰和希くん」
栗毛の女性が満面の笑みで和希に挨拶する。だが、和希にはその女性に全く見覚えがないため、怪訝な表情を浮かべる。
「……はじめまして?」
「あれ? 私のこと覚えてない?」
和希はどう反応していいのか分からないまま、突っ立ていると美奈が一枚の写真を見せる。その写真は祐斗がおかしくなった原因となる写真だった。
聖剣と共に一緒に写っている和希ともう一人の人物。
「この子よ、
「え?」
「そういうことで、久しぶりだねカズ君。男の子と間違えてたみたいだね。まぁ、確かに勘違いされてもおかしくないくらいヤンチャだったから。でも、お互い見ない間に色々あったみたいだね」
「そうみたいだな」
色々あった。その言葉に一体どれだけの意味が込められていたのか。それは言った本人だけが理解しているだろう。
そしてそれを和希はその色々の中に後ろで座っているアーシアのことが含まれていることも何となく理解した。
その後、アーシアを一度部屋に帰し、イリナ達教会サイドともう三〇分ほど談笑した後に帰った。 その後に血相を変えたリアスとアティが帰ってきた。アーシアが無事ということが分かって一安心したようだった。
「部活動を終えた後、ソーナに呼ばれていたの。この町に教会関係者が入り込んでいる。しかも『聖剣』を持っているという話をするために。……本当にアーシアも和希も無事でよかったわ」
和希は昨日の夜にドライグが言っていたことを思い出した。グレモリーとその眷属は特別愛情が深い悪魔だと。
落ち着いた後、話の続きを教えてくれた。
「昼間に彼女たちと遭遇したソーナさんの話では、この町を縄張りにしている悪魔――つまり、悪魔としてのリアス・グレモリーさんと交渉したいようです」
「教会の者がリアスさんと?」
敵対関係にあるはずの悪魔と教会がなぜ交渉をする必要性。それか契約なのか、依頼なのか。
考え始めたらきりが無い。
「どういうつもりか分からないけど明日の放課後に彼女たちは旧校舎の部室に来るわ。こちらに対して一切攻撃しないと神に誓ったそうよ。……まぁ、彼女たち、信徒にとって邪悪な存在である悪魔に交渉しに来るくらいだから厄介事であることは確かよ。話ではこの町に訪れた神父が次々と惨殺されているみたい。嫌な予感がするわ」
「神に誓う……ねぇ」
好戦的でどこまでも自己中心的。天上天下唯我独尊を体現したような存在が神であることはこの場に居る和希とアティが良く知っている。
アティはともかく、和希はとても胡乱げである。アティはそれを察したのか先に釘を刺す。
「和希君。私は参加できませんが、喧嘩売るのは駄目ですからね」
「売りませんよ。売られたら買いますけど」
「駄目です!」
和希はその言葉に適当に返事をし、アティの説教が始まるのだった。
*************
翌日の放課後。
リアス含めたグレモリー眷属と協力関係にある和希も部室に集まっている。アティは名義上職員会議という名の集まりにに参加している為不参加である。
王であるリアスと女王である朱乃。そして教会の二人がソファーに座っている。和希はアーシアと子猫を守るように立っている。
この場で一番危険なのは祐斗だった。もはや一触即発。何かあれば今すぐにでも斬りかかって行きそうだった。
話を真っ先に切り出したのは教会側であるイリナだった。
「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管・管理されていた聖剣エクスカリバ―が奪われました」
――約束された勝利の剣が奪われた? そんなことあるかね……。
和希は呆れを隠せず、思わずため息を吐いた。
「和希君、聖剣エクスカリバ―は大昔の大戦で折れたの」
「今はこれがエクスカリバーだ」
髪に緑のメッシュを入れた女性が傍らにおいてある物体に手を伸ばす。そして巻かれた布を取り払う。すると聖に属するオーラが広がる。
「大戦で四散したエクスカリバ―。その破片を拾い集め、錬金術によって七本作られた。これはそのうちの一本」
和希はそれを聞いて確信を持った。あれは偽物だと。
何故なら彼女の剣は、星によって鍛えられた聖剣だ。人々の願いが、祈りが寄り集まって出来たモノだ。それが折れる訳がないのだ。
二人の記憶を垣間見ている和希はそれをここにいる誰よりも理解している。
和希の知識と彼女たちとの聖剣に対する知識の違いが発生しているのはなぜか。原因は和希にある。この世界に転生する際に垣間見た二人の記憶。それは本来余人が決して知ることがない事実であり、現実だ。
つまり根本的な問題として和希とこの場にいないアティの二人とそれ以外の人ではエクスカリバーという聖剣に対する知識に圧倒的な差が存在しているのである。
「私の持っているエクスカリバーは、『
そういって再び布で覆う。一方、イリナの方も紐のような物を取り出す。その紐はまるで意思を持っているかのように動き出す。そして、紐は形を変えて一本の日本刀になる。だが、その刀からも破壊の聖剣と同じオーラが出ている。
「私の方は『
破壊の聖剣の保持者がべらべらとエクスカリバ―の情報を話すイリナにストップをかける。
「イリナ……。わざわざエクスカリバーの能力を話す必要はないだろう?」
「あら、ゼノヴィア。信頼関係を築く上では情報の開示は必要よ。それに能力を知られたところでここにいる全員に勝てるもの」
ここにいる誰よりも私たちは強い。そう言っているのだ。
和希のこめかみに筋が浮かんでいる。今にも切れそうだ。
だが、それ以上に切れそうなのはリアス・グレモリーの「騎士」である木場祐斗。エクスカリバーに恨みを持っている彼は今までにない表情でイリナとゼノヴィアを睨んでいる。
「カトリック教会本部に残っているのは私のを含めて二本。プロテスタントのものも二本だ。正教会も同様だ。残り一本は三つ巴の戦争時に行方不明。各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。そして奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだってわけさ」
「この町は出来事が豊富ね。エクスカリバーを奪った犯人に目星は付いているのかしら?」
「あぁ、奪ったのは『
コカビエル。聖書にも出てくる大物だ。まさかそれにも記されている存在がこんなところまで出張ってくるとは思わなかった。しかも、大戦を生き残るほどの強者。それが出張ってくるのはあまりにも予想外だった。
だからこそ、というべきか和希は一つ引っかかりを覚えた。異形のモノと対峙したときに起こる気分の高揚感。それほどの大物がこの町に、近くに居るというのなら絶好調と言ってもいいほどだ。だが、それがない。
つまり町の外に居るのか、それとも気配を隠し、どこかに隠れているのか。ということになる。前者はともかく後者はありえない。仮に気配を隠し、人間に擬態したところで独特の気配までは隠せない。レベルは全く違うが先日のレイナーレやそこにいた堕天使、魔王の女王であるグレイフィアでも違わず気配を察していたのだ。
先にこっちから仕掛けてコカビエルを倒すにしても、準備が必要だろう。黄金の剣が使えなくとも戦うために前準備はした方がいい。
和希がそんなことを考えている内に話が進み解決したのかイリナとゼノヴィアが立ち上がり、退室するところだった。が、和希を通り過ぎてアーシアの前で止まる。
「風峰和希の家で会った時にまさかとは思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?」
魔女。その言葉に反応したのかアーシアが体を震わせる。そして、その言葉は彼女自身にとっても辛いモノだった。
ゼノヴィアの後ろにいたイリナもそれに気付き頭のてっぺんからつま先までまじまじと見る。
「あなたが一時期噂になっていた元『聖女』さん? 人だけでなく、悪魔や堕天使ですら癒やせる能力を持っていたのよね? 流されたのは知っていたけどまさか悪魔になっているとは思わなかったわ」
対応に困っているのかアーシアはオロオロしている。
イリナは上にここで見たことは言わないという。何故なら元であるとはいえ『聖女』の周囲にいた人に今の状況を話したらショックを受けるからだという。
その言葉にアーシアはひどく複雑な表情を浮かべる。
「しかし、悪魔か。堕ちるところまで堕ちたようだな。まだ、我らの神を信じているのか?」
「悪魔になった彼女が信仰しているわけないでしょう?」
「いや、私はそういうのに敏感なんだ。背信行為をする輩でも罪の意識を感じながらも信仰心を忘れる事が出来ない者がいる。彼女からはそれと同じものを感じる」
「ずっと信じてきたのですからから……。捨てきれないだけです」
「そうか、それならばすぐに斬られるといい。今なら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも我らの神なら手を差しのばしてくれるはずだ」
「待てよ」
ゼノヴィアの行動にストップをかけたのは当然和希だ。
「アーシアのことを『魔女』と言ったな?」
「あぁ。彼女はそう言われるだけの存在ではあると思うが?」
和希は知っている。悪魔になる以前のアーシアを。優しさと慈愛にあふれ、他の誰よりも純粋でどんなに辛いことがあっても決して折れない
「自分たちが勝手に『聖女』に持ち上げたくせして、少しでも求めるモノと違ったら見捨てるとは神も、教会も随分と勝手なことをするんだな。 どうして、彼女の苦しみを、悩みを理解しようとしなかった!」
「神は愛してくれていた。それで何も起きなかったとすれば彼女の信仰が足りなかったか、其れが偽りだったということだ。それに聖女に友情や愛情を求めたら終わりだ。神からの愛があれば生きていけたはずだ。彼女には最初から『聖女』の資格が無かったというわけだ」
ゼノヴィアの答えを聞き届けた和希。こうもハッキリと言い切られると清々しささえ感じた。
もう聞いていられない、見ていられない。昨日散々アティから釘を刺されたがもう限界だった。アーシアの泣き出しそうな顔を、バラバラにされそうなその心を、これ以上黙って見ているなんてことは出来なかった。
だから嗤う。無様だと言うように、見下すように嗤う。
「カズ君?」
初めて見る幼馴染みの笑い方に戸惑いを隠せないイリナと気分が悪そうに表情を歪めるゼノヴィア。
「お前らにとって神がどれだけ偉大かは知らないし興味もない。でもアーシアに手を差し伸べない神なんだ。その神とやらは教徒を含め、人間のことを虫けら程度にしか思ってないだろうよ」
和希が戦ったのは二柱のみだが、どちらも人間のことなどお構いなし。強敵と雌雄を決することだけを目的としていたのだ。
ここではない、所謂正史世界では和希と同一に立つ少年は何柱もの神と戦い、同じ結論に至っているのだ。それがどのような神であろうと結果的には一緒なのであろう。
だが、ゼノヴィアからすると敬愛する神を侮辱されたも同然。ましてや悪魔と同棲しているような男にそんなことを言われて黙っていることなど不可能だった。
イリナが相方の様子に気付いたのか静止の声をかけようとするがそれよりも早くゼノヴィアが動き、破壊の聖剣を和希へと振り下ろす。
が、それもすぐに止められる。他の誰でもない和希の右手によって。
「なっ!?」
驚愕したのは振り下ろした本人だけではない。イリナやリアスこの場にいる全員がそうだった。
ゼノヴィアは藻掻くが全く動かない。
こんなもん室内で振り回すなよ、危ないだろ」
和希は乱暴に掴んでいたそれを放す。その後、ずっと黙っていた後方の爆弾が爆発した。
「じゃあ、僕が相手になろう」
「キミは?」
「君たちの先輩だよ、失敗だったそうだけどね」
不敵な表情、殺気を乗せた言葉と共に大量の魔剣が二人へと突きつけられた。
今回はこんな感じで仕上がりました。
次回は喧嘩混じりの回になるか、オンリーのどっちかになると思います。
またなるべき早く更新できるよう頑張るので今後も応援よろしくお願いします。