チャンピオンマッチ当日、俺はシロナさんのトゲキッスにヨスガシティに送ってきてもらっていた。
「ありがとな、トゲキッス。シロナさんによろしく言っといてくれ。」
「きっす。」
俺はトゲキッスの頭を優しく撫でてあげた。トゲキッスは満足したのかスタジアムの方へ飛んで行ってしまった。
「むぅ……」
振り向くとすごく不機嫌そうな顔をしたヤヨイがいた。
「どうしたヤヨイ?」
「いや別にぃ〜?撫でてもらって羨ましいとかじゃないからね?」
「はいはい、撫でてやるからこっちおいで〜。」
「はーい♪」
ヤヨイは不機嫌な表情から一転すごく満足そうな表情に変わる。……わかりやすい性格してんなぁw
あと、さっきから俺のポケットのモンスターボールがやたら動いてるんですけど。
『ポンッ!!』
あ、でてきた。
「何してるんですかマスター!!こんな女のいいなりになるなんて!!もっと主人としての威厳を持ってくださいよ!!」
「……で、本音は?」
「すごく私も撫でてほしいです♪」
「おい。」
メアもヤヨイもかなり嫉妬深い性格してるので、片方がこんなことになると絶対に過剰反応を起こして同じことを要求してくるのだ。……すげーめんどくさいわ。これ。
「はいはい、なでなで〜」
「むふー♪」
まぁ、嬉しそうならいいか。
「……ボクのハルトに一体何やらせてるのかな?」
「ん?」
この聞き覚えのあるボクっ娘ボイス……まさか……!
気づけば俺の前でメアの胸ぐらを掴んで今にも喧嘩を起こしそうになっていた。
「アグノム……何してんの?」
すると、すごい嬉しそうな声で返事が返ってきた。
「やぁ、ハルト。何だかハルトの気配がものすごく近くなったから居ても立っても居られなくなってね。君に会いに来たってわけさ。」
「……気配でわかるのか。」
……俺の身体にGPSでも埋め込まれてんのか…?少し身震いがした。
「当たり前だよ。僕は1日24時間ずっと君のことを想ってるからね。」
「何言ってんですか。この野生ポケモンの分際で。マスターの所有物でもないくせに調子に乗るのもいい加減にしてくださいよ。」
「……は?」
再びメアとアグノムの睨み合いがはじまる。
「めんどくせえなぁ……」
俺が呆れながら喧嘩を見ていると、
「ねぇおとうさーん。」
すごくつまらなそうな顔をしたヤヨイが後ろから抱きついて来た。すごくアレが当たってるからやめてほしいのだが。
「なんだー?ヤヨイ?」
「さっきあそこでやってるクジを引いたら、こんなもの貰ったんだけど。」
そう言ってヤヨイは大きな箱を一つ渡してきた。
「なんだこれ。」
開けてみると中には青色のポフィンがたくさん入っていた。
『ミロカロス進化用ポフィンセット』
「あーなるほどね。」
「お父さん、中身なんだった?」
「ポフィンだよ。ヒンバスを進化させる用らしい。ミロカロスって結構強いし、欲しいから一応とっておくか。」
俺はポフィンセットをリュックに直した。
ーー
「なるほどね。それならボクがハルトの所有物になればいいってことなんだね。」
「要約すればそういうことですね。まあ、貴方みたいな雑魚なんて、マスターが欲しがるわけがないですけど。」
まだ、メアとアグノムの喧嘩は続いていた。
「いいさ、無理矢理にでもなるから。」
そう言ってアグノムは俺の方へ歩み寄ってくる。
「なんだアグノム?」
アグノムはその透き通るような黄色い目で俺を見つめていた。
「……ごめんハルト。」
「一体何……をッ……!?」
突然体が縛り付けられるように動かなくなる。
見るとアグノムの目が水色に光っていた。
「サイコ……キネ……シ、ス……か……!」
アグノムは俺のポケットからモンスターボールを取り出した。
アグノムはそれを見ながら言った。
「……ボクはこれから君のものになる。これからもずっと一緒にいるんだ。」
そう告げると、アグノムは自分で頭にボールを当てた。
「って、ちょおおおおおい!!?」
もちろん、彼女もポケモンなのでボールは開き、中へ入っていく。彼女も抵抗するわけも無いので、ボールは揺れることもない。
「マジか…!」
「あの女……!本当に自分から入るとは……!」
『ポン!』
すると、アグノムの入ったボールから勿論アグノムが出てきた。出てくると、アグノムはすぐさま後ろから抱きついてくる。
「むふふ〜♪これからはずーーっとハルトと一緒だね〜♪いや、ハルトじゃなくてマスターって呼ぶべきなのかな?」
そんな声は俺の耳には入ってきてはいなかった。俺の頭の中はこれからどうすればいいのか、ただそれだけを考えていた。
「やべぇよ……なんとかする方法はないのか……!?」
「むふふ〜♪」
後ろから抱きつかれて女の子特有の甘い香りと控えめだが柔らかい感触がするがそんなことを気にするほど余裕はなかった。
「あっ!」
悩んでいるとヤヨイが何かを思いついたように相槌を打った。
「どうしたヤヨイ!?なんかいい案あったか!?」
「たしか、ポケモンセンターのパソコンってさ『にがす』って機能あったよね。」
「えっ…?」
「それだ!!ナイスアイデアだヤヨイ!!」
「えへへ〜〜♪」
「今回ばかりはでかしたと言っておいてやりましょう。ナイスです!」
俺もメアも大賛成だった。しかし、
「うそ………!なんでボクが……!せっかくここまでしてハルトと一緒になろうとしてるのに……!ハルトはボクのことが嫌いなの……!?」
俺を後ろから抱きしめているアグノムは震えていた。何かに怯えるように。そして俺は答える。
「違う。俺がお前のことは嫌いなわけないだろ。でもな、俺はお前をゲットするわけにはいかない。お前は意志を司る神のような存在でリッシ湖を守らないといけないんだ。俺みたいなトレーナーでもないやつがゲットしちゃいけないんだ。」
「嫌だ!!!」
アグノムは大声で叫んだ。
「ボクはもうあんなところにずっといなくない!!管理も守護もしたくない!!自由が欲しい!!誰かに護られたい!!メアやヤヨイみたいにハルトと一緒に楽しく過ごしたいだけなんだ!!」
アグノムは涙で顔をぐちゃぐちゃにして崩れ落ちた。
「嫌だよぉ…!ハルトみたいなこんなボクでも優しくしてくれる人間なんてもう二度と現れるわけがない……!ただでさえ人間と過ごせる時間なんてボクからすれば僅かなのにそれでもダメなんて……。」
「……。」
「……なんで、ボクら伝説ポケモンは人間と話せるようになってるんだろ……なんでボクはアグノムとして生まれたんだろ……。普通のポケモンで生まれれば意思疎通も出来ないし、ハルトと出会うこともなかったかもしれないのに……!!ハルトに恋することもなかったかもしれないのに……!!」
耐えられなくなった俺は気づけばアグノムを抱きしめていた。
「ごめんアグノム。俺、お前の気持ち全然わかってなかったよ。せめて、俺がいる間……、その間だけは一人にしない……、俺が守ってやる……、だから、もう泣くなよ……。」
「ハルトぉ……!うぅぅぅ……!!」
俺はアグノムが泣き止むまでずっと抱きしめてあげた。
ーー
「落ち着いたか?」
「うん、ごめんねハルト。……えへへ。」
アグノムは目の周りを赤くしながらもいつもの笑顔を見せた。
「ねぇ……」
「ん?」
「ほんとにずっと一緒にいてもいいんだよね?」
アグノムは確かめるように俺に聞いて来た。
「あぁ、それは認めるさ。でも、条件がある。」
「条件?」
さすがにこれは満たしてもらわないと周りに迷惑がかかると思った。
「せめて、週一くらいでリッシ湖に通えよ?お前はリッシ湖の管理を任されてる身なんだから、俺が生きてる間だけでも守る。それが条件だ。」
「うん、わかったよ。」
「よし。それじゃこれからもよろしくな。アグノム。」
俺はアグノムに手を差し出した。アグノムは満面の笑顔を見せ、
「うん!」
元気な返事を返して握り返して来た。
「はぁ…、まーた私のライバルが増えましたよ。まぁ、マスターのハートを掴むのは私ですけどね。」
「ボクも負けないよ!絶対振り向かせてやるんだからね!!」
「あ、そういえばアグノムには名前つけてあげないの?」
ヤヨイは思い出したように言っ た。
「そうだなぁ……、アグノム。お前、名前欲しいか?いらないならそのままで呼ぶけど。」
「ボクはハルトがつけてくれた名前なら何でもいいさ。さぁ、決めて。」
「そうだな、お前はこの青空みたいな青い髪をしてるから……『ソラ』なんてどうだ?」
「うん、最高だね。ありがとうハルト。」
そう言って、ソラは優しく微笑んだ。
こうして、アグノム改め、ソラは俺の仲間となった。
『ワァァァァァ!!!!』
すると、突然後ろの方から大歓声が聞こえた。……大歓声?
「あっ、やべっ!もう始まってんじゃん!!」
「ホントだ。気づけばこの辺りにも人はあまりいないね。」
ヤヨイの言う通り、周りを見渡しても人はあまり見られなかった。
「いそがねぇとな。よし、メアとソラは戻れ!」
と、俺がボールを二個出した瞬間。
「あ、ボクなら心配ないよ。」
そう言うと、ソラの身体が光り出し、気づけば元のアグノムの姿になっていた。
『これなら大丈夫だね。ハルトの膝の上で見られるし。』
「くっ、卑怯ですよ!私も元の姿に戻れたらぁっ!!」
「いや、お前は元の姿でもそこそこ大きさがあるから無理だろ。」
「……」
メアは黙ってボールの中へ入っていった。
「……なんかごめん。」
俺は小声でメアに謝ったのだった。