悪夢の少女と   作:ヤマシロ=サン

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展開が早いのは仕様です。
サイコパス表現も仕様です。


第17話 貧相なバス

 

「釣りすっぞオラァ!!」

 

おれはボロのつりざおを掲げてそう叫んだ。

 

 

「あー、そういえばお兄ちゃん渋いポフィン持ってたね。ヒンバス狙いで釣りにでもいくの?」

 

 

「そう!せっかくヒンバスを進化させるチャンスを手にしているのにヒンバスを釣らないのはもったいないからな。まぁ、釣れるかどうかもわかんねえけどな。………確率低いし。」

 

 

ポケモンRSEでは天気研究所付近の119番道路の川でしか釣ることができず、そのヒンバスが釣れるポイントは6箇所しかないというかなり鬼畜仕様となっている。実際、DPtでもテンガン山でしか釣れないからどこでも同じということがうかがえる。まぁ、つまり言うと根気勝負ということだ。

 

 

「ラティアス、乗せてってくれ。……とりあえず、ヒマワキシティまでな。」

 

 

「おっけー♪まかせてー!」

 

 

ちなみにヤヨイはそらのはしらへトレーニングに(泳ぎで)、メアはおれの夢を食いやがってその余韻が残っているのかまだ夢の中にいる(訳:まだ寝てる)。おかげさまで俺は昨晩寝ている間なんの夢を見ていたのか、そもそも寝ていたのかどうかもわからないような状態なのだ。それは置いといて、俺は見栄えはあまり良くないがラティアスにおぶって飛んでもらっていた。

 

 

「ねぇ、お兄ちゃん。」

 

 

「なんだ?ラティアス。」

 

 

「朝から思ってたんだけどさ、なんでお兄ちゃんからメアの匂いがするの?昨夜なにかあったの?」

 

 

ギクリ

 

 

「い、いや、なにもないぞ。気のせいじゃないか?」

 

 

「…………まぁ、いいよ。どうせ、後で私の匂いをつけておくし。」

 

 

女性の……ヤンデレの嗅覚の恐ろしさを垣間見た瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒマワキシティについたよお兄ちゃん。」

 

 

気づけば森の中にツリーハウスのようになっている家が沢山あるヒマワキシティに着いていた。

 

 

「おっけ、サンキューな。どうする?お前も来るか?」

 

 

「もちろんいくよ。私はずっとお兄ちゃんのそばにいるって決めてるんだ〜♪」

 

 

「お、おう……」

 

 

そして、119番道路の川のところに着いたので早速釣りに取り掛かろうとしていたときだった。

 

 

 

 

「おまえ、気持ちわりぃーんだよ!!いつもいつも川の中覗き込んでブツブツ言いながら笑いやがってよぉ!!」

 

 

「それに何が『ポケモンの言葉がわかる』だよ!!そんなしょーもねぇ嘘つくのやめろよ!きめぇんだよ!!」

 

 

「いたぃ…!!やめてよぉ…!!ほんとだって言ってるじゃん……!」

 

 

 

川のほとりのところで2人の少年がひとりの女の子を蹴ったり、罵ったりしていた。

 

 

「……お兄ちゃん。」

 

 

「あぁ、とりあえず止めるぞ。」

 

 

 

俺は3人のところへ足を進めた。

 

 

 

「おいお前らなに女の子いじめてんだ?弱いものいじめしちゃダメって習わなかったか?」

 

 

「はあ?お前にはかんけーねーだろ!!とっとと失せろや!」

 

 

「そうだそうだ!そもそもお前誰だよ?ヒマワキシティ出身ではないな?」

 

 

「今はミナモの方に住んでるよ。まぁ、そんなことはどうでもいいさ、その子嫌がってるじゃん、やめろよ。弱いものイジメしちゃダメって習わなかったか?」

 

 

 

「なんだてめぇさっきから聞いてりゃ生意気なことばっか言いやがって!!」

 

 

「ぶっ飛ばしてやる!」

 

 

よし、これでいい。取り敢えず、注意をこちらにむけることが出来た。俺が相手をしている(ケンカ歴0秒)間に逃げるんだ!2人の拳が俺の顔面に向けられる、完璧な作戦だと確信した。しかし、俺はひとつ誤算をしていた。この完璧な作戦はひとりの時は有効なのだ。しかし、この時だけ俺は忘れていた。()()存在のことを。

 

 

突然二つの拳が俺の目の前から消えたのだ。気づけば俺の目の前には、そう、彼女(ラティアス)がいた。

 

 

「ぐあぁぁぁ!!?」

 

「がぁっ!!!??」

 

 

突然2人が顔を歪めて膝から崩れる。その直後川に何かが落ちる音がした。ハッとなって彼らをみると彼らの右ひじから先がなくなっており、そこから大量の血があふれ出ていた。

 

 

「おい……ラティアス……お前……!」

 

 

「そもそも私はニンゲンなんかお兄ちゃん以外、誰一人として信用してない。そのニンゲンがその穢らわしい手で触れるどころか私の、私だけのお兄ちゃんに傷をつけようとした…………………おい、死ぬ覚悟はできてんのか?………てか、もう死ねよ。」

 

 

ラティアスは俺の前にいたので表情はわからなかった。でも、とんでもないくらい恐ろしい表情をしていたことはわかった。そして、彼女がやろうとしていたことも。だから止めようとした。しかし、体が動かなかった、いや、動けなかったのだ。すると、ラティアスはこちらの方を向いた。そして、優しく微笑んでこう言った。

 

 

「待っててね、すぐにこの××どもを始末してあげるからね!えへへ、そのあとお兄ちゃんにいーーーーーーーっぱい褒めてもらうんだーー///」

 

 

 

 

 

 

 

 

この後のことは覚えていない。気がつけば、ラティアスが立っていただけで周りには何も残っていなかったのだ。するとラティアスは俺の胸に飛び込んできて俺の胸に顔を擦り付けていた。

 

 

「お兄ちゃん褒めて褒めて〜!」

 

 

「………えらいぞラティアス。」

 

 

「えへへへ〜///」

 

 

「でもな、二度と人を殺すようなことはするな。」

 

 

ラティアスは首を傾げながらわからないと言ったような顔でこちらを見た。

 

 

「なんで?」

 

 

「……これは()()()()としての命令だ。わかったな?」

 

 

「うーん、よくわかんないけどわかった!」

 

 

「よしよし、えらいぞラティアス。」

 

 

俺はラティアスを優しく撫でてあげた。

 

 

 

「えへへへ〜お兄ちゃん////」

 

 

「あっ、あの……!」

 

 

すると、声をかけられた。顔を上げるとさっきいじめられていた少女がいた。

 

 

「そ、その、さっきはありがとうございました……!わ、わたし、アオイっていいます。この道路のはずれに住んでるんです……。」

 

 

「えっと、俺はハルトだ。彼女はラティアスな。よろしくな、アオイ。」

 

 

あらためてアオイを見ると、それは中々に酷いものだった。髪はボサボサで顔も傷だらけで、紺色のワンピースは既にボロボロでところどころ穴があいており、靴も履いておらず、全体的にとても痩せ細っていた。

 

 

「なんで川のほとりにいたんだ?」

 

 

「………自分でもわからないんです。最近、よくここに来ていて水を見ると何か自分の中で沸き立つような………何か胸の奥底で疼いているんです。それに、何故か私はポケモンの言葉がわかります。さっきだってそうでした。近くにいたコイキングが私にこう言ったんです。『君の居場所はここなんだ。」って。……私、この意味がさっぱりわからないんです。」

 

 

「へぇ……」

 

 

「それに、私、親もいないんですよ。昔の記憶は無いし、気が付けばここで暮らしていてきのみを時々食べながら何とか生き延びているんです。……もう、肉体的にも精神的にも限界なんですよ。正直生きているのが辛いんです。同じ人間なのになんでここまで違うんだろうなぁっていつも思います。」

 

 

「は?何言ってんの?()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「え?」

 

 

「は?」

 

 

突然、ラティアスはアオイに向けてそう言い放った。

 

 

「いや、そんな……わたしは……人間……のはず…。」

 

 

「そもそもポケモンの言葉がわかるニンゲンなんていないよ。あなたが人の形をしているだけであって、ポケモンの言葉がわかるのはポケモンだけだよ。その時点であなたはポケモン確定なの。わかる?あなたがポケモンだとしたら、その、コイキングが言ってたことともつじつまが合うでしょ?」

 

 

「そんな……うそ……!!」

 

 

アオイは崩れ落ちた。顔は真っ青になっている。

 

 

「さーて、あとはなんのポケモンかだね。まぁ、その辺はポケモン図鑑で調べればわかるかな。さっきのクソガキから拝借(永遠)したこれで見てみようかな。」

 

 

「おいラティアス!」

 

 

「ここはハッキリさせておかないと彼女のためにならないでしょ?私はニンゲンは信用しないけど、同じポケモンには手を貸すからね。しかも、境遇も私と似ているしね。」

 

 

『ヒンバス、さかなポケモン。

からだは ボロボロだが どこでも いきていける しぶとい せいめいりょくを もつ ポケモン。しかし ノロマなので すぐに つかまってしまう。』

 

 

「へぇ、ヒンバスなんだキミ。」

 

 

「そんな……わたし……ヒンバス……あのヒンバスだった……?……なんて……うぅぅ……!」

 

 

当時はまだヒンバスの評判は良くないらしく、不幸なことにそのことを知っていたアオイは顔を抑えて泣きはじめてしまった。見ていられなくなった俺は気が付けば彼女を抱きしめていた。

 

 

「え?」

 

 

「……(出た。お兄ちゃんのクソ女たらし。ま、私も流石に今回は同情してるから見逃すけどさ。)」

 

 

 

「アオイ……今までよくこんな苦しい時間を耐え抜いたな。本当に尊敬するよ。お前は本当にすごいよ……。」

 

 

「…でも、私はニンゲンではなくポケモン。しかも、あのヒンバスですよ?……はは、もうおしまいですね。」

 

 

アオイは光のない目で諦めたように笑っていた。

 

 

 

「そんなことない。お前はこれから輝ける。」

 

 

「……どうやって?どうやってここから這い上がれって言うんですか!?私はあのみすぼらしい、汚いことで有名なヒンバスですよ!!?もうその時点で生きる価値なんて無いんです!!」

 

 

 

「そんなことない。お前には、いや、お前にしかないんだ。美しくなれるチャンスは。……()()()()()に進化できるチャンスは!」

 

 

「えっ…?」

 

 

「お前は進化したらあのミロカロスになれるんだよ!」

 

 

 

「はは、嘘ですよ。こんなみすぼらしくて醜い私があのミロカロスになんてなれるわけが…」

 

 

「いや、なれる。ミロカロスはヒンバスの進化系なんだ。しかも、お前は人の形をしてる。人間と同じようにすれば、綺麗になれるんだ。」

 

 

「……。」

 

 

「……どうするか?お前が変わりたいなら俺はとことん付き合うぞ。」

 

 

「……私は今までニンゲンに蔑まれ、いじめられてきました。正直ニンゲンのことなんて信用できないです。……でも、あなたのことは……()()()()のことだけは信用できます。私、一生ご主人様について行きます!」

 

 

「なんで、ご主人様って呼ぶんだ?普通に呼べばいいじゃん。」

 

 

「ご主人様はご主人様です。」

 

 

「いや、だから」

 

 

「ご主人様はご主人様です。」

 

 

「いや、その」

 

 

「ご主人様です。」

 

 

「アッハイ。」

 

 

 

こうして、俺は釣り竿を使うこともなくヒンバスをゲットすることに成功したのだった。

 

 

 

 

***

 

 

「てかさ、おまえってさかなポケモンだからさ、」

 

 

「はい。」

 

 

 

「一度水の中に浸かってみたら?肌が潤ってくるかもしれないし。」

 

 

そう、アオイは今まで自分の事を人間だと思い、人間と全く同じような生活を送って来ていた。そのせいで身体に直接水を浴びせることがなかったため肌がパサパサになり乾いていたのだ。しかも、アオイの本能が疼いていたのかしょっちゅう水を無意識に覗いていたのを聞くとかなり限界にきていることがわかる。

 

「わかりました。…えーっと、どこにいけば……」

 

 

「とりあえず、浴槽に水入れとくから翌朝まで浸かっとけばいいか。水入れてくるから待ってな。」

 

 

 

 

 

***

 

「よし、水入れたから入っていいぞ。」

 

 

少し経ってご主人様が戻ってきた。

風呂場に向かうと浴槽の中に満タンに水が入っていた。それを見た瞬間に自分の中にある何かが疼き始め、入りたくて仕方なくなってきたのだ。気づけば私は服を脱ぎ水の中に浸かっていた。冬で冷たいはずなのに全くそれを感じない、むしろ心地が良かった。それに水に顔をつけても苦しくなく、呼吸が出来た。そこで私はニンゲンではないことを改めて実感させられた。

 

 

「気持ちいいか?なら良かった。ゆっくりしていけよ。」

 

 

ご主人様はそう言ってリビングへ戻って行った。

 

 

ご主人様………ハルトさんはニンゲンにいじめられていた私を助けてくれた。ポケモン…それもヒンバスだったとわかっても私に手を差し伸べてくれた。私に希望の光を与えてくれた。その時は私は誓った。ご主人様の所有物となり、一生お仕えしようと。ご主人様にだったら、この命でも、この身体でも差し出すことが出来るし、ご主人様の為ならばなんでもするつもりだ。だから………私を見捨てたりしないでくださいね……ご主人様……。

 

 

 

「ご主人様……」

 

 

気がつけば夜も遅くなっていた。真っ暗闇の中私の中にはある一つの感情がこみあがってきていた。

 

 

寂しい……一人は寂しいよ……。

 

 

「会いたい……ご主人様……。」

 

 

孤独の寂しさのなか浮かんだのはご主人様の顔だった。ご主人様のことを考えるとその感情はより強大になっていく。

 

 

……ご主人様に会いたい、ご主人様…ご主人様、ご主人様、ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ッ!!!!

 

 

 

私の中の感情が爆発し、いても経ってもいられなかった私は風呂場を飛び出し、リビングを抜け、気がつけばご主人様の部屋の前にいた。ゆっくりと扉を開けるとそこにはベットの上で気持ちよさそうに眠るご主人様がいた。

 

 

「ご主人様……。」

 

 

私はそろりとご主人様の近くまで近づき、バレないようにご主人様の隣に入った。

 

 

「ご主人様ぁ……!」

 

 

自分の心が満たされていくのがわかった。これが温もりというものなのか、ご主人様は温かくて心地よかった。気持ちが良くなると自然と眠くなってくる。意識が薄らいでいく中、私は言った。

 

 

「おやすみなさい……ご主人様……」

 

 

ご主人様……私は…ご主人様のことを愛しています………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

「ん、んん……、…………ファッ!?」

 

 

目が覚めてまず、隣に何か違和感を感じた何かがいる。恐る恐る目を開けるとそこには気持ちよさそうに眠るアオイがいたのだ。

 

 

まだ、隣に寝ているだけならよかった。しかし、ひとつだけやばい点があった。それは……()()()()()()()()()()()()()()()()であることだった。

 

 

 

「………不幸だ。」

 

 

どこかの男子高校生が言ってそうなセリフが思わず口から溢れた。こいつらは俺にまともな朝を迎えさせる気は毛頭ないらしい。

 

 

 

 

 

 

 




ラティアスはサイコパスじゃナイヨー………

あ、気づけばUA20000超えてました。ありがとうございます。

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