悪夢の少女と   作:ヤマシロ=サン

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第24話 来訪

「……光、まさかお前もこの世界にいるなんて。」

 

 

そこにいたのは姿は違えど、間違いなく俺の妹、『木崎 光』だった。

 

 

「当たり前じゃないですか♪それよりも私を置いて消えちゃう兄さんの方がひどいですよっ!」

 

ぷんすかと可愛らしく怒る光、だが俺は、それよりも聞きたいことがあった。

 

 

「……光、なんでお前がここにいるんだ。それもどうやって……?」

 

「そんなの、兄さんと同じく転生してきただけですよ。兄さんが行方不明になったって聞いて、実家に戻ってきたら本当にいなくなってるんですもん。」

 

「……行方不明ってことになってたのか。」

 

「そのあとは学校を辞めて、兄さんを探し続けました。でも、一向に見つかる気配がない………私は絶望しました。」

 

「おまえ……。」

 

 

 

 

「だから、私は()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 

いま、なんて………?

 

 

 

「いっそのこと、死んで兄さんのところにいけばいい、そう思ったんです。まぁ、結果的にその願いは届いたみたいでこうして会えてるんですけどね。」

 

 

 

光は天才だ。それは一緒に過ごしていれば嫌でも自覚させられた。見ただけで覚えてしまう記憶力、何かモノを作らせてコンクールに出せば簡単に賞を貰ってくる。どんな難しい問題だって秒で解いてしまう超人的な計算力、一目見て彼女は俺とは違う人間だと気づいた。兄である俺よりもはるかに優れていた光だったが、別にコンプレックスのようなものを感じたことは一度もなかったし、周りから比較されても特に辛く感じたこともなかった、寧ろ、妹のことを誇らしく思ったくらいだった。やっぱりどんな形であれ、かわいい俺の妹のだった、だから辛くもなかったし、誇りに思えたんだと思う。だから、光の才能を無下にして欲しくない、そう思った俺は親に頼み込み、頭のいい学校に行かせたのだ。光なら全国有数の進学校の試験だって余裕で満点を取れる、きっと俺なんかよりももっといい人生を歩めるはず、そう思って送り出したつもりだった。

 

 

「……私は兄さんと同じ学校が良かったです。私には兄さんしかいないんです。私のことを理解してくれて、受け入れてくれる人なんて……。」

 

「そんなことないだろ、お前に仲良くしてくれてた友達もいただろ、(はるか)ちゃんや(めい)ちゃんといつも3人で仲良く遊んでたじゃないか!」

 

 

光は幼い頃から天才的な才能を発揮し、周りから浮いていた存在になってしまっていた。そのせいで友達も出来ず、時にはいじめにあうこともあったのだ。だから、登下校時や休み時間の間はいつも俺と一緒に過ごしていた。そんな光を救ってくれたのが二年生の時に同じクラスになった『赤崎 遥(あかさき はるか)』と『園田 鳴(そのだ めい)』のふたりだったのだ。二人は光の才能と共に受け入れ仲良くしてくれた。気づけばいつも3人で遊び、『親友』のような関係になっていた。だから、そんな自分勝手な理由で命を投げ捨てるようなことは絶対にしてはいけない、そう思っていた。光だけの命じゃない、それを知って悲しむ人がいる、そのことを知ってて欲しかった。………すでに手遅れでどうしようもないことだけど。

 

 

「そうですね、たしかに私のことを理解してくれた友人もいました。でも、遥と鳴ふたりと兄さんを天秤にかけたら、そんなの間違いなく兄さんを選ぶに決まってるでしょう?テストで満点を取って褒めてくれるのは兄さんだけ、読書感想文で最優秀賞をもらったときも兄さんだけ、クラスの合唱コンクールでピアノを一生懸命練習して出来るようになっても周りは何も言ってくれない、当たり前のように受け流してしまう、でも、兄さんは、兄さんだけはその努力を、私の才能と一緒に受け入れ、褒めてくれたんです。こんなバケモノじみた能力、一番比較されて辛いのは兄さんのはずなのに、それでも理解して受け入れてくれた、兄さんが褒めてくれるから私は頑張れたんです。だから、兄さんがいなくなってしまった以上、私があの世界で生きる理由が無くなってしまったんです。たしかに遥と鳴を置いてきてしまったのは申し訳なく思ってますけど。………まぁ、あの二人もきっと……ふふっ

 

「……もうこの話はいいや、解決しそうにもないし。」

 

「私はもう解決しましたけど♪」

 

「…うっせ。で、お前はこれからどうするんだ?この様子だと殿堂入りもしてるっぽいけど。」

 

光もとい、ヒカリは最強レベルのトレーナーになっている。殿堂入りを果たしてるなら、ファイトエリアにでも行って力試しするのもアリだ。てか、すごく羨ましい。

 

 

「…してません。」

 

「え?」

 

「私殿堂入りなんてしてないですよ?」

 

「え、てことはシロナさんに負けたの?」

 

「いえ、勝ちました。あんなのでチャンピオン務まってるのがおかしいくらい弱かったです。」

 

「勝ったならなんで殿堂入りしてないんだよ。」

 

「別に、兄さんがチャンピオンの席にいると思ってたんで、いないとわかった以上、あそこに興味なんてなかったです。とりあえず経験値だけ貰ってそのまま帰ってきました。まぁ、兄さんの居場所はチャンピオンに吐かせましたけど。」

 

 

シロナさんェ………!

 

 

シロナさんでも手も足も出なかったなら本当にシンオウ最強はヒカリかもしれない。ポケモンでは妹に負けてないつもりだったけど、こっちでは先を越されてしまったか……。

 

 

「ま、いいです。とりあえず私とポケモンバトルしてください。」

 

「……え?」

 

「唯一ポケモンだけは兄さんを超えることが出来ませんでした。この世界において、私は貴方を倒して初めて兄さんのとなりに立つことが出来ると思うんです。だから……、勝負してください。」

 

 

光の俺を見る目は真剣そのものだった。さっきまでの執着するようなそんな淀んだ瞳とは違う、ひとりのポケモントレーナーとして俺に勝負をしかけようとしている。

 

 

 

……やっぱりすごいな…。

 

「…?」

 

「その勝負のお誘いだけど、今は無理だ。」

 

「えっ……?」

 

「今の俺じゃ、お前に手も足も出ない。そりゃそうだろ?俺はこれから旅に出るんだし、バッジも0個。それにひきかえ光はチャンピオンに完勝してるんだ。今のままじゃ、お前を満足させることもできないよ。」

 

「……そんなことないです。兄さんは二年前、あのチャンピオンに善戦してた。遠慮しながらも限られた手持ちで相手のポケモンに的確に対応し、タイプが不利な状態でも勝ってたじゃないですか……!」

 

「だとしても、まだお前には敵わないよ。」

 

光はシンオウ最強のトレーナー、それに比べ、自分はこれから旅をしようという新人トレーナー。いくら手持ちが強くてもトレーナーの地力の差で負けるだろう。

 

 

「……そうやって、自分を卑下するの……やめてください。兄さんがすごい人だってことは私が一番わかってますから。」

 

 

光はうつむき、震えるような声で零した。

 

 

 

「……俺はすごくなんてないよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「ま、俺がバッジ8個集めた時くらいにお前に挑戦してみるとするよ。」

 

「………わかりました。その時まで待ってますから。」

 

 

光は渋々了承してくれたようだ。

 

 

 

話が一段落したところで研究所奥の扉が開いた。

 

 

「すまない、探すのに手間取ってな。ポッチャマ、ヒコザル、ナエトルから選ばせたいところなんだが、ちょうど新人トレーナーが旅立ったばかりでいないのだよ。そこでなんだが、このポケモンはどうかね?」

 

「お久しぶりです博士。」

 

「おぉ!ヒカリ君じゃないか!もうバッジを8個集めたと聞いたからポケモンリーグにいると思っていたのだが戻ってきたのだな!」

 

「はい、ちょっと用事を思い出したのでフタバまで帰るところだったんですよ。」

 

「そうかそうか、ポケモン図鑑の方はどうかね?………ふむ、順調のようだね、引き続きよろしく頼むよ。」

 

「はい。」

 

「さて、話が少しそれてしまったが、本題に戻るとしよう。初心者用ポケモンの代わりといってはなんだが君にはこのポケモンはどうかな?」

 

そう言って博士は俺にモンスターボールを渡してきた。

 

「中身はなんですか?」

 

()()()()だ。参加の種類も多種多様だから中々育て甲斐はあると思うぞ。」

 

「なるほど、確かに中々面白そうですね。」

 

 

イーブイ、犬と猫を足して二で割ったような容姿をしており、中々可愛らしい見た目をしている。しかし、魅力はそれだけではない、イーブイにはたくさんの種類の進化があり、それぞれタイプも進化条件も違うのでうまくやれば、自分の好みのタイプに進化させることも可能なポケモンだ。確かに最初から育てるのにはもってこいなポケモンだと思った。

 

「だがな……少し問題があってだな…。」

 

「問題…?」

 

「このイーブイなんだが、元は捨てられたポケモンで少し警戒心が強くてな……。だいぶマシにはなったんだが、それでも少し距離を置かれることがあるのだ。」

 

「そうだったんですか……。まぁ、これから仲良くしていくので大丈夫です。」

 

「……うむ、それならよろしい。さぁ、イーブイを出すんだ。」

 

 

 

「よし、出てこい!イーブイ!」

 

 

ボールを投げると、光とともにイーブイが飛び出してきた。

 

 

「………。」

 

 

辺りをキョロキョロと見渡し、気づいたのか俺の方を向き、一歩後ろに下がった。

 

……ブイ…

 

 

イーブイは明らかに怯えていた。ふるふると震えながら警戒の姿勢を崩さない。

 

 

「……イーブイ。」

 

「……ッ!」

 

 

俺は腰を落とし、手を差し出した。

 

 

「俺はお前を捨てたりなんて絶対しない。お前は無限の可能性を秘めてるんだ。俺はまだまだ未熟なトレーナーだが、必ずお前を活かしてみせる。俺と一緒に成長して、強くなって、お前を捨てたやつを見返してやろう。だから…………力を貸してくれないか?」

 

「………。」

 

 

すると、イーブイは恐る恐る近づいてきて俺の手に触れた。そして、イーブイは怯えるような目で俺を見た。

 

 

『しんじていいの?』

 

 

イーブイの目からそう尋ねられているように感じた。俺は静かに頷き、優しく頭を撫でてあげた。

 

 

「これからよろしくな、イーブイ。」

 

 

イーブイはこくりと頷いてくれた。

 

 

『……このイーブイ、さっきまであんなにはるとのことこわがってたのに、もうこんなになついてる。』

 

デオキシスがテレパシーで俺に伝えてきた。イーブイは気持ちよさそうに俺に撫でられ続けているけど。

 

 

「〜♪」

 

 

……たしかにそれっぽい雰囲気醸してたけど、もう懐いたの!? 思わず俺は自分の手を見た。え、俺の手ってなんか力でも宿ってんの?

 

 

『……はるとはぽけもんから好かれやすいからね……。』

 

「え…………。」

 

「うむ、私も驚かされたがイーブイもハルトくんのことを気に入ってくれているようだな。」

 

「え、あ、はい。」

 

 

そんなことしてる間もイーブイは気持ちよさそうに俺の足に頬ずりをして離れる様子がない。

 

 

「〜♪」

 

 

『むぅ……、ずるい、わたしもっ』

 

 

デオキシスも負けじと頬ずりを仕掛ける。

 

 

「………なにこれ。」

 

 

 

 

***

 

 

 

イーブイを貰った俺は取り敢えずコトブキシティに向かっていた。

 

 

「なぁ、光。」

 

「はい。」

 

「お前ってこれからどうすんの?」

 

「……?兄さんがバッジ8個集めるまで待ちますけど……?」

 

「それまでどうしてるんだ?もっかいリーグ行くとか?」

 

「……?」

 

「ん……?」

 

 

ヒカリが首を傾げている。あれ……、会話成り立ってなかったか……?

 

 

「なんで、リーグに行かないといけないんですか?」

 

「え、そりゃあ俺を待ってる間暇だろ。その間もポケモン育成に励んだ方がいいんじゃないか?」

 

「………?それじゃあ兄さんと離れ離れになるんじゃないですか?」

 

「まぁ、そうなるな。」

 

 

ヒカリの目の光がどんどんと失せていく。

 

 

 

「なんで……、離れないといけないんですか?」

 

 

 

「なんで兄さんの側にいちゃいけないんですか?」

 

 

 

 

「なんで…………?、なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ」

 

 

ヒカリの身体がガクガクと不自然に揺れる。彼女の瞳から一粒の涙が落ちた。

 

 

「お前……。」

 

 

ヒカリは息を上げながら、自分の身体の震えを抑えようとした。

 

 

「私がポケモンを持ってる理由なんて、兄さんと繋がる可能性があったからであって、そこにポケモンとの絆や愛情なんてそんな()()()()()()存在しないんですよ。」

 

 

無表情で彼女はとんでもないことを次々と吐き捨てていく。光のこの世界で積み重ねてきたものがボロボロと崩れていく。狂気を帯びたその暗い瞳は俺以外何も映していない。最初から何も見えていなかったんだ。

 

 

 

「もう、兄さんと再会できて、一緒に居られるなら………、ポケモンなんかどうでもいいんですよ。」

 

 

すると、光は背伸びして顔を近づけた。その光のない目はまっすぐと俺を射抜く。

 

 

「また………兄さんがいなくなったりしたらもう私………、生きていけないです。もうあんな地獄……、味わいたくない……。」

 

 

震えた声でそう零した。俺の服の裾を握りしめる力も自然と強くなった。

 

 

「兄さん………。」

 

「光………。」

 

 

 

 

ーーーすると突然辺りが暗くなった。

 

 

 

「っ!?」

 

 

それに気づいた俺は思わず顔を上げた。そこにいたのは……。

 

 

 

「………エンペルト。」

 

「…………。」

 

 

ひたすらソイツは黙っていた。だけど、目を見てわかった。エンペルトから溢れる殺気、そしてその目には明らかに憎悪が宿っていたのだ。

 

 

『………なにこいつ……。』

 

「デオキシス?」

 

『こいつの頭の中、ひかり()のことしかないよ。ひかり以外なにも考えてない、()()()()()。』

 

 

「壊れてるって……。」

 

『あぶないはるとッ!!!』

 

 

 

デオキシスの突然の強大なテレパシーに驚いて顔を上げると、俺を殺そうと腕を振り上げ、攻撃をしようとするエンペルトの姿が………。

 

 

ーーーだめだ、避けられn………!

 

 

 

 

バギィッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………いた、くな………い?

 

 

 

でも、何かぶつかる音が聞こえたはず。俺は目を開けた。

 

 

 

そこにいたのは紫の長い髪にクッソダサいえんじ色のジャージを着た女性、()()()が少なくとも俺の目では捉えきれないほどの速度を誇るエンペルトの攻撃を片手一本で簡単に受け止めていた。

 

 

「お父さん大丈夫!?」

 

 

片手で受け止めたまま、こっちを向き、心配そうな表情を浮かべる。

 

 

「あ、あぁ……ありがとうヤヨイ。大丈夫だよ。」

 

「よかったぁ……!」

 

 

どこからどう見ても人の姿、ましてや女性の形をしているのに、ポケモンの攻撃もいとも容易く受け止めてしまっている辺り、やっぱりポケモンなんだなぁって思わされる。

 

 

「ヤヨイさん!!エンペルトをなんとか押さえつけたっす!」

 

「お、ナイスレックウザ〜!そのまま押さえといてね!」

 

「はいっス!」

 

 

気がつけば、緑ツインテ巨乳クソダサ緑ジャージ二号のレックウザがエンペルトの両腕を取り、押さえていた。エンペルトは振り解こうと激しく腕を振るがビクともせず、解ける気配が微塵もない。にこにこと屈託のない笑みを浮かべるヤヨイだが、目は全く笑っておらず、凄まじい殺気とともに威圧感を感じた。

 

 

「取り敢えず殺すからね、こんなやつ生かしておく価値もないもん。」

 

 

 

 

 

その直後、一瞬で隣にあった木々が抉り取られるように吹き飛び、消滅した。それに気がついたのは凄まじい風圧を感じたからだ。

 

 

「ヤヨイ!?」

 

 

俺も急なことでビックリしたが、あまり表情豊かではない光でさえ、目を見開いていた。それほどの威力だったのだ。そして、抉られた大地の一番奥、一番細くなっている場所に………。

 

 

 

「………ッ、へぇ………。」

 

 

 

ヤヨイのあの攻撃をもろに食らったエンペルトは腕を盾にし、全身傷だらけになりながらも立ち、受け止めていたのだ。その様子にヤヨイも目を見開き、苦笑いを浮かべた。

 

 

「…………。」

 

 

ボロボロになりながらもヤツの瞳は尋常ではない殺気を帯びており、真正面から堂々とヤヨイと対峙していた。

 

 

「あは………あはは………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アハハははハハははハハッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤヨイは傷だらけになりながらも立っているエンペルトを見て、狂ったように嗤った。恐ろしくも見えるが、俺には何故か、()()()()に見えたのだ。

 

 

 

「すごいよ……!すごいねキミ……!!どうしよう……!?私、アイツのこと気に入っちゃったよ………!」

 

 

 

 

「あぁ………、嫌だなぁ……、殺したくないなぁ………!」

 

 

 

 

「初めて()()()()()()()()()()()()()ヒトに出会えたのになぁ……。」

 

 

 

 

そう呟いたヤヨイの背中はどこか寂しそうに見えた。

 

 

 

「じゃあ、殺さなくてもいいんじゃないか?てか、俺としてはあまり殺しはしてほしくないんだけど。」

 

「ダメだよお父さん!エンペルト(アイツ)はお父さんを殺そうとしてるんだよ?だから、私の殺さないといけない敵なんだ。」

 

「……だとしても、ヤヨイたちには血に汚れて欲しくないよ。あまり命を軽く見ないでほしい。」

 

 

アイツらはヒトじゃない。もしかしたら、命の重さってものは人間に比べたら軽いのかもしれない。だとしても、俺のワガママであったとしても、不要な血は流させないで欲しいと思った。

 

 

「………無理だよ。お父さんをいつ殺そうとするかもわからないヤツを生かしておくなんて……。これで手遅れで死んじゃったら、私は何のために強くなったの………?私にはこの強さしかないのに……。戦うこと以外なにもできないのに………!」

 

 

ヤヨイは俺を守るためだけに強くなった。もしかしたら、彼女に敵う者なんてほとんどいないのかもしれない。

 

 

「だったらさ、襲われた時はさっきみたいに護ってくれよ。あの時、本当に死ぬかと思ったんだ。でも、ヤヨイが簡単に受け止めてくれて安心してしたよ。そして、思い出したんだ。どんなことがあってもヤヨイが護ってくれるから大丈夫だってな。」

 

「………!」

 

「また、さっきみたいなことがあったら護ってくれよ。俺はお前のこと信頼してるんだからさ。」

 

「お父さん………!うん………!うん、任せて……!私が守るからね………!」

 

 

ヤヨイは嬉しそうに笑った。これで、少しは丸くなってくれるといいんだけど……。

 

 

 

 

「……それに、ソイツのこと殺したくないんだろ?だったら、組み手の相手にでもサンドバッグにでも好きにすればいい。」

 

 

「ホント!?」

 

 

 

前言撤回。さっきの五倍くらい嬉しそうな顔になりました。うん、全然丸くなってないわ。

 

 

 

 

「………ダメですね。」

 

「ヒカリ?」

 

 

いつのまにか腕を絡めていたヒカリが言った。

 

 

「一応私のエンペルトは辛うじて意識を保ってますけど、腕の骨は間違いなく持ってかれてます。兄さんのガブリアスの勝ちですよ。」

 

 

そう言ってヒカリはボールを取り出し、エンペルトを戻した。そして、俺の方を向き、頭を下げた。

 

 

「ごめんなさい兄さん、私の管理不足でした。自分のポケモンで殺しかけてしまうなんて……、トレーナー失格です。」

 

「……いいよ別に。気にしてないしね。こうやって襲って来るってことはヒカリに懐いてるってことだろ?」

 

「懐いてる……?あぁ、まぁ、そんなものですかね……。()()()()()()()()()()()

 

 

「ん?今なんて?」

 

「いえ………何でもないです。ほら、やっぱり兄さん強いじゃないですか。あのガブリアス一匹で戦えば、今のチャンピオンなら楽勝だと思いますけど。」

 

「流石にそんな脳筋戦法で戦って勝っても嬉しくないよ。ちゃんと全体的に育成してから相性にあった戦い方で勝つさ。」

 

「ふふ……、さすが私の兄さんですね。」

 

「まぁな、妹の前くらい、かっこつけさせてもらうよ。」

 

「前から兄さんはかっこいいですよ。」

 

 

 

 

 

「で。」

 

 

 

 

「なんで、メスなんですか?」

 

 

笑顔で圧をかけるように迫るヒカリ。うん、そう言った意味ではいつも通りだな。

 

 

「そんなの、厳選してたら性別なんか気にしてられないだろ。」

 

「………わかりました。人の形をしてる件についても問いただそうと思いましたが、不可抗力っぽいので許します。ですが……。」

 

 

俺の腰あたりを指差し、言った。

 

 

「そこの小さい娘はどうしたんです?」

 

「あー、デオキシスのこと?」

 

「デオキシス……!?」

 

 

 

デオキシスはむすっと頬を膨らませて、目をそらす。だけど、服の裾は掴んだままだ。

 

 

『むぅ……、こいつはるとをころそうとしたからきらい。』

 

「別に俺を殺そうとしてたのはエンペルトだろ。ヒカリは関係ないよ。」

 

『……ひかりのもちものなんだから、ひかりがわるい。』

 

「怒るなよ……。」

 

 

「……さっきから一人で何呟いてるんですか?というかなんでデオキシスなんか持ってるんです?」

 

「コイツさ、俺以外と話したがらないんだよ。さっき一人で喋ってたのもデオキシスのテレパシーに答えただけだ。デオキシスを持ってる理由は卵みたいなやつを拾ったからだ。」

 

「ん……!」

 

 

デオキシスはヒカリを睨みつけた。

 

 

「なるほど……。まだ生まれたばかりって感じなんですね。」

 

「ま、生まれてそんなに経ってはいないな。」

 

「やっぱり兄さんの手持ち、既にすごいじゃないですか。」

 

 

 

「ヤヨイさん……、私強くなりますから……!本気も受け止められるように特訓しますからぁ………!!だから、見捨てないでくださいいいいいい!なんならサンドバッグも私がやりますううううう!!」

 

「えぇ……?」

 

 

レックウザがヤヨイの腰にしがみついてそれを引きずるようにこっちに歩いて来るヤヨイ。てか、ヤヨイがガチで困惑してんじゃん。初めて見たわ。

 

 

「………。」

 

「……私のエンペルトをあそこまで追い込むなんて流石ですね。」

 

「……木崎 光。」

 

「ん、なんで前の私の名前を知ってるんです?」

 

 

ヒカリの目の前に立つと一瞬で空気が重くなった。抑えているがそれでもヤヨイから殺気が漏れ出ているのがわかる。だが、ヒカリもそれに微塵も動じていない。

 

 

「私は前世もハルトのポケモンだったから。」

 

「……あぁ、兄さんの厳選の賜物が貴女ってことですね。そりゃあ、勝てないわけですよ。」

 

 

ヒカリも不気味に微笑む。

 

 

「エンペルトのことだけど、お父さんが止めてなかったら迷わず消し炭にしてたよ。」

 

「……そうですか。まぁ、兄さんの所有物に言うことはありません。アウトオブ眼中です。兄さんに謝罪はしましたけど。」

 

「ふーん………。まぁ、お父さんにはちゃんと謝ってるみたいだし、許してあげるよ。」

 

 

「ほざけ。」

 

「あ゙???」

 

 

 

「こいつら……。」

 

 

ヒカリの方が背が低いのに、あんだけ見下しながら嘲笑って煽るとかなんかもうしょうもないところまで天才だな。あんだけブチ切れてるヤヨイもそう見ないぞ。二人ともめちゃくちゃ顔近いし。

 

 

 

 

「エルッ!!」

 

 

すると、大きな声とともにポケットから光が漏れて何か出てきた。頭に深緑色のツノのようなものがあり、腕にも緑色のブレードのような………、こいつエルレイドか……?

 

すると、そのエルレイドは二人の間に割り込み、なんとか引き剥がした。

 

 

「エル君……!?」

 

「なにこいつ……。」

 

 

引き剥がした後、ヒカリのエルレイドはヤヨイにひたすらペコペコと頭を何度も下げて平謝りしていた。まるで上司に謝る平社員のような、そんな感じだ。それには流石のヤヨイも驚きを隠せない。

 

 

 

 

 

 

 

「………優しいんだね、キミ。」

 

「エル………ッ!」

 

 

ヤヨイも驚きながらも穏やかな笑みを見せる。エルレイドも顔を上げた。

 

 

「…………命拾いしたね。今回はエル君に免じてゆるしt「ほざけ」やっぱ殺す!!

 

 

 

 

「エルゥッ!!」

 

 

 

 

エルレイドの悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

「……じゃあ、俺と旅するってことでいいな?」

 

「はい、どこまでもついていきますよ。」

 

 

なんとかヤヨイとヒカリを押さえ、話をひと段落つかせたところでいっしょにシンオウを旅するという提案をした。ヒカリも勿論その話にのってきたので旅することが決まった。

 

 

「とりあえず今日のところは家に帰るよ、準備もあるし。お前はどうする?」

 

「………()()兄さんのお母さんのお世話になるわけにもいかないんで私も家に帰ります。荷物の整理もしておきたいんで。」

 

「そうか。」

 

 

とりあえず一緒に泊まるルートにならなくてホッとした。とりあえず夕方にもなってきたのでコトブキで落ち合うと言う約束をして別れた。

 

 

「ふぃー、そんじゃ家に帰りますかねー。」

 

 

デオキシスもコクリと頷いた。俺とデオキシスがコトブキシティの方へ足を進めようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

「むぐッ……!?」

 

 

 

 

目の前が突然真っ暗になった!

 

 

 

 

 

 

いや、違うからね?ガメオベラ的なそんなブラックアウトじゃないよ?物理的に目の前が真っ暗になったのだ。正確には俺の顔に何かが被さって来ている。少し息苦しいのが証拠だ。

 

 

 

『………ハルト。』

 

 

テレパシーで話しかけられる。デオキシスかと思ったら声が違っていた。

 

 

むぐぐ?(だれだ?)

 

『……なんで会いに来てくれなかったの?ずっと待ってたのに。』

 

 

会いに来てくれなかった……?一体なんのこ………と…………、あっ(気づいた)

 

顔にひっついている生き物の正体がわかった俺はなんとか引き剥がす。

 

 

「ッはぁ……!はぁ、お前かよ……、()()()()()。」

 

 

『ひ・さ・し・ぶ・り・ね、ハルト。元気にしてたかしら?』

 

 

引き剥がして視界がクリアになったところで俺に抱えられているのはピンクを基調としたぬいぐるみのような小さな身体、黄色い瞳に、二つに伸びた独特な尻尾が特徴の、シンオウの伝説のポケモンの一匹、エムリットだ。

 

 

「あ、あぁ……、久しぶりだなエムリット。元気にしてたか?」

 

『はぁ……、同じ質問を返してるんじゃないわよ。』

 

「あ、あはは……。」

 

『で、なんで会いに来てくれなかったの?私、ずっと待ってたのに……。』

 

 

エムリットはぷんすかと怒った様子で理由を聞いてきた。可愛いと一瞬思ったが本気でキレているみたいなのですぐに恐怖に塗り替えられてしまう。

 

 

「ごめんなさい、忘れてたわけじゃないんすよ。ちょっと色々あってホウエン地方に行ってました。」

 

『…………嘘はついてないみたいね。』

 

「はい。ごめんなさい(2回目)」

 

 

エムリットは小さな身体でぽふっと俺の体に身を埋めた。

 

 

『だったらなんで行く前に一言言ってくれなかったのよ……、すっごく寂しかったのよ?』

 

「いやぁ、ソラも置いていったから知らせてくれてるかなって思ってたんだけどね。」

 

 

ソラがあんな末期状態だったら、そりゃあ教えてねえわな。

 

 

 

「……そんなのハルトがキミのことなんて微塵も興味ないってことなんじゃないかな?」

 

『喧嘩売ってるのかしら?………()()()()。』

 

 

振り向くといつのまにか俺の隣にはヒトの姿になったソラ(アグノム)がいた。

 

 

「ボクはハルトから『ソラ』っていう名前をもらってるんだ。キミとはちがってね。」

 

『無理やり捕まりに行ったくせによく言うわね。』

 

「……ハルトに忘れられるどっかのチビには言われたくないな。」

 

『ふふふ……。』

 

「あはは……。」

 

 

あれー?二人とも笑ってるけど全然目が笑ってないし、なんかすごく黒いオーラもでてるぞー?

 

 

「……おまえら、会って早々いきなり喧嘩するなよ……!」

 

 

『むぅ………!』

 

 

俺が仲裁しようと間に割り込んでとりあえず二人を引き剥がした時だった。

 

 

「ひッ………ぁ…………っ!?」

 

 

エムリットは渋々と下がったが、どうもソラの様子が変だ。顔を真っ赤にしてどこか足取りがおぼつかないようだった。

 

 

「ソラ……?」

 

「いっ、いやなんでもないよハルト……!ちょっとびっくりしただけで……………………ぃ………ッ!?♡♡♡」

 

「でも顔真っ赤だぞ?風邪でも引いたのか?てか、そもそもポケモンって風邪引くのか?」

 

 

 

顔を近づけておでこに手を当てると、ぼんっと顔がさらに真っ赤になっていた。

 

 

『アグノム……?』

 

 

思わず喧嘩腰だったエムリットですら心配してしまう始末だ。

 

 

「あ………、らめぇ………♡はるとの、におい……だめなんりゃ……って………♡あたま……ぉかしく………なっひゃ………ぅ……♡」

 

「……っと、ソラ……!?」

 

 

目が泳いでいて、足がまるで産まれたての小鹿のようにおぼつかないソラは俺の方に倒れこんできてしまう。俺は驚いてそれを受け止めた。

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!♡♡♡♡♡♡♡」

 

 

 

ビクンビクンと痙攣するように揺れた後、ソラは気絶したのか完全に俺にもたれかかっていた。

 

 

「………おい、ソラ?ソラ!?」

 

『……気絶してるわよ。』

 

「えぇ……、なんでいきなり……?やっぱり風邪だったりしたのか……?」

 

『……………そうかもしれないわね。とりあえず寝かせておきなさい。』

 

「あ、あぁ………。」

 

『…………。』

 

 

少しほおを赤らめて目をそらしながらエムリットは言った。何故かデオキシスも顔を真っ赤にしていたのだが、そんなこと気にしてる場合じゃないので、とりあえずリュックを枕代わりにして地面に寝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

アグノムが突然おかしくなって気絶してしまったのだが、私にはその原因がすぐにわかった。早い話がハルトに触れられて絶頂してしまっただけだ。その証拠として、彼女の太ももからツーっと何かが垂れてきているのが見えてしまったのだ。

 

 

正直、そんなアグノムのことが羨ましかった。ハルトに触れられただけで発情して絶頂してしまう、体の隅々までハルトの虜にされてしまっていて、もうハルト無しでは生きていけないような、そんな堕ちぶれた姿だった。だけど、私もハルトの虜になって堕ちるところまで堕ちてしまいたい、そう思ってしまった。それにハルトのモノになって、名前まで貰っている。それも羨ましかった。

 

 

2年前、彼に出会って私はニンゲン相手に、恋に落ちた。その時はまだ純粋で綺麗なものだったかもしれない。でも、アグノムが……、ソラが介入してから全てが狂ってしまった。また会おうと約束をしたけど、ハルトは来てくれなかった。彼には彼の事情があるのは知っていたが、それでも一度でもいいから来て欲しかった。

 

 

ソラは湖のことなんてほっぽりだしてハルトのところへ行ってしまった。湖を守護する者としてあり得ない行為だが、それと同時に勇気の要る行動だと思った。そんなソラのことをどこか羨ましくも思っていた。私は湖を抜け出して彼に会いに行くこともヒトの姿になる勇気もなくてずっと湖に篭っていた。……湖の守護を盾にして。

 

 

そして、今日。とんでもない爆発音が聞こえて、思わず湖を抜け出してその現場に駆けつけたら、そこにいたのは彼だった。そばにいたのは、ニンゲンの女と、一目見ただけで強いとわかるヒトの姿になったポケモン。感情を読めばすぐにわかった、二人とも胸の奥には彼に対する愛情が秘められていることに。彼女らもハルトのことが好きなのだ。

 

 

心の中で焦りが生まれた。このままでいいのだろうか?このままだとハルトがほかの女に取られてしまう。勇気とか守護とかそんなことを言って逃げてる場合なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーいくしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう結論付けた私は彼の顔にひっつくことに成功した。…………なんで、こんな行動を取ってしまったのかは正直わからない。顔に覆い被さっているからもしかしたら私だと気付いてくれないかも、内心ドキドキしながらテレパシーで彼に問いかけた。

 

 

 

『なんで会いに来てくれなかったの?』

 

 

 

 

 

………でも、ハルトはわかっててくれてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………エムリットか。』

 

 

 

 

嬉しかった。覚えてくれてて、2年も会ってなかったのにちゃんと気づいてくれた。胸の奥が熱くなるのが感じられた。………鼓動が高鳴る。自然と頰が緩むのがわかった。ハルトのことで胸がいっぱいになった。そして、ようやく決意することができたのである。

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、ハルト。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は生まれて初めてヒトの姿になった。初めてだから緊張して変な感じだけど、ハルトと同じ姿で同じ時を過ごしてみたかったから。私はうまく笑えてるかどうかはわからないけど、声を振り絞って、精一杯の笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーー私を、貴方のモノにして?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の全てを貴方に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな小さな私の、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな決意だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

光に包まれて、目を開くとそこには立っていたのは一人の女の子。ピンク色の腰あたりまで伸びた長い髪に黄色い瞳、ピンク色のパーカーと黒いミニスカートを着こなす、どっかのポケモンのヒトの姿になったときと似ているのがわかった。顔を真っ赤にして視線がおぼつかない様子だが、とりあえず彼女が誰かというのはすぐにわかった。

 

 

 

「………えぇ?(困惑)」

 

 

 

そんなヒトの姿になったエムリットは何を思ったのか自分を捕まえろと言ってきたのだ。すげー穏やかな微笑みで。

 

 

 

「おまえ、湖の管理はいいのかよ。あれって、大事な仕事なんじゃないのか?」

 

「ま、まぁ、湖はいつでも平和だから問題ないんじゃないかしら?」

 

「適当だな……。」

 

 

エムリットですら、そんなソラみたいなこと言い出したらもうどうしようもないな。

 

 

「因みに断ったらどうする?」

 

「え………、断っちゃうの………?」

 

 

エムリットは目をうるうるさせて上目遣いでこちらを見てくる。………そんな顔されたら断れねえじゃん。

 

 

 

 

 

「あーもー……、いいよ!!ついて来なさい!!捕まえたげるから!!」

 

「ホント!?」

 

 

 

俺は半ばヤケクソで彼女のお願いを了承した。

 

 

「ほら、モンスターボールの中にぶち込んでやるから、いくぞー?」

 

「うんっ!」

 

 

俺はポケットから空のモンスターボールを取り出して、エムリットに向けて放った。エムリットの頭に当たったボールは彼女をポケモンと検知し、赤い光を放ちながら開き、取り込んだ。落ちたボールは揺れることもなく、キラリと捕獲成功を意味する光を放った。その直後、すぐにボールが開き、中からエムリットが出てきた。出てきたかと思ったら急に俺に抱きついてきて胸に顔を埋めた。

 

 

「ふふっ、これで私もハルトのモノになれたのね♪」

 

 

とても嬉しそうで彼女の抱きしめる力が自然と強くなった。

 

 

「なぁ……エムリット。」

 

 

「…………ぇ。」

 

 

「え?」

 

 

「なまえつけて………。」

 

 

「えぇ………?」

 

 

不満そうにほおを膨らませたエムリットは俺に名付けを要求してきた。とりあえず俺は腕を組み、彼女に合った名前を考える。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「よし、お前の名前はサクラにしよう。」

 

 

まぁ、名前の由来は言わなくてもわかるよね?ほんとこんな安直な名前しか浮かばない自分のセンスのなさに呆れるレベルだよ。

 

 

「さくら………サクラ、うん。ありがと、ハルト!」

 

 

でも、本人はとても満足そうなので結果オーライってところだろう。

 

 

 

「なぁ、サクラ。」

 

 

「なぁに?ハルト。」

 

 

「本当にこれでよかったのか?俺なんかについてくることになってさ。」

 

 

 

正直、俺はそんなにいい人じゃないと思う。こうやって信頼してくれてるのは嬉しいが自信がないのだ。すると、サクラは少し顔をしかめて言った。

 

 

 

「………ハルトじゃなきゃ、やだ。」

 

 

「………そうか。」

 

 

「ハルトだから簡単に捕まったのよ?他のニンゲンなら、まぁ、殺しはしないけどタダじゃすまないわ。」

 

 

 

ものすごく特別に信頼されてることはよくわかった。いや、にしても湖のポケモン2匹も捕まえちゃって大丈夫だろうか。……割とマジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

アジトの自室で事務作業を行なっていると、無線から通信が入った。

 

 

『アカギ様!!』

 

 

「……なんだ、サターン。」

 

 

『リッシ湖の偵察部隊の報告によると、アグノムの生体反応が完全に消失していたとのことです。』

 

 

「なに……?」

 

 

我々ギンガ団は定期的にシンオウの三つの湖に偵察部隊を送り、湖のポケモン3匹の様子を伺っているのだが、今、予想外の事態が起こっている。

 

 

『こちらマーズ、同じくシンジ湖偵察部隊の報告でエムリットの生体反応が無かったとのことです。』

 

「……。」

 

 

三つの湖のうち、二つの湖のポケモンの生体反応が消失。これが意味するのは、そのポケモンが死んでしまったか、または第三者の手によって捕獲されたか………、いや、あのポケモンたちはそう簡単に人間の前に姿を現わすことは無いはず。人間をあまり信用してないはずだ。

 

 

「………わからん。」

 

 

ここまで順調にことを運んでいたのに、まさかの緊急事態。私の計画はしばらくの間、こう着状態に陥ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

「へくちっ!」

 

「………サクラ?」

 

 

サクラから突然かわいらしいくしゃみが出た。

 

 

「うーん、誰か噂でもしてるのかしら……?」

 

「でも、今のくしゃみ、ちょっと可愛かったぞ。」

 

「ぅぅぅ………///」

 

 

 

顔を真っ赤にしているエムリットだが、本当に噂されていることは知るよしもない。

 

 

 

 




最近、五等分の花嫁にハマってそれのSS書いてみたいなーとか思ってますはい。

是非、感想評価お待ちしてますのでよろしくお願いします。モチベになるのでしてくれると嬉しいです。

キャラ紹介も更新してるのでちょっと目を通せば登場人物についてもっとわかるかと思います(適当)

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