悪夢の少女と   作:ヤマシロ=サン

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第2話 悪夢の果てに

 

「いただきます。」

 

俺は朝食を摂っている。コッペパンと野菜スープ、そしてベーコンエッグという洋食の時のテンプレのようなメニューだった。

 

「今日はいつもより起きるのが遅かったけど、珍しいわね。」

 

そう、普段は7時ごろに目がさめるのに、今日はいつもより1時間遅い8時に目が覚めたのだ。普段の俺ならあり得ないことだろう。

 

「まぁね、昨日少し遅くまで起きてたから。」

 

「それもまた珍しいわね。調べ物か何か?」

 

「うん、ちょっとね。」

 

 

この悪夢のことは話さなかった。無駄に心配はして欲しくなかったし、自分で解決したかったからだ。

 

 

 

「ごちそうさま。おいしかったよ。」

 

俺は立ち上がって玄関の方に足を進める。

 

「あら、もう図書館に行くの?早いわね。」

 

 

「あ、うん。ちょっと調べたいことがあってさ、行ってくるよ。」

 

 

俺はそう言って玄関のドアを開けて外に出た。

 

 

俺はいつも皆と遊ぶ広場を抜け、ミオ図書館の方へ向かう。

 

 

 

 

***

 

「おはようございまーす。」

 

「あら、おはようハルトくん。今日はいつもより早いのね。」

 

 

入り口付近の受付にいるのは司書のナナミさんだ。俺はほぼ毎日通っているから結構な顔なじみである。

 

「あ、はい。ちょっと気になることができたんで...」

 

「そうなの、ゆっくりしていってね。」

 

ナナミさんは返却された本を抱えて本棚の方は歩いて行った。ナナミさんは司書を始めてから3年くらいになるらしい。本人曰く「本の場所は全て把握している」とのこと。シンオウで一番広いこの図書館を全て把握してるなんてよほど本が好きなのだろう。

 

 

俺はいつも通りポケモンの資料や図鑑のコーナーに足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夢』というものは起きると自然と記憶から消えていくものである。

 

 

しかし、昨晩見たあの悪夢、そしてあの少女の叫びを俺は忘れることができなかった。

 

 

全身が震え上がり、思い出すだけで鳥肌が立った。まるで夢じゃなかったかのようだった。それほど、俺の脳裏に焼き付いていたのだ。

 

 

「.........夢、悪夢......ポケモン......」

 

俺は今、ミオシティの図書館にいた。悪夢に関するポケモンを探していたのだ。前世でそんなポケモンがいた気がするが思い出す寸前で、もやがかかるようにわからなくなる。

 

 

「悪夢を覚えるポケモン......は...あった。」

 

悪夢を覚えるポケモンはエスパータイプやゴーストタイプがほとんどだった。

 

 

「...ゲンガー、ではないな。」

 

 

『あくむ』という技は眠り状態のポケモンに有効で、最悪瀕死状態にまで至らしめることができる。強い分習得は難しいらしく、ゲンガーやゴーストは高レベルにまで上げないと習得できないらしい。しかも、習得しても制御ができず、相手を死なせてしまうという事例も少なくないらしい。この情報だけでゲンガーやゴーストの線はかなり薄くなった。

 

 

そう簡単に断言できたのにはもう一つ理由がある。

 

 

 

 

あの青い瞳、あれが一番印象に残っていた。

 

 

 

いたずらでしたようではなかったように見えたからだ。

 

 

「...どれなんだ?もしかしたら、ただの夢だったっていうのか...?」

 

 

俺はどんどんポケモン図鑑をめくっていく。

 

 

 

「...ん?なんだこれ。」

 

 

ポケモン図鑑に一部違和感を覚える箇所があった。

 

 

 

 

何故か全国図鑑No.491の部分が破り取られたかのようになくなっていたのだ。

 

 

どうしてこの部分だけ無いのか。この図書館にはコピー機もあり、モノクロになるがコピーすることだってできる。そもそもこんな子供が読まないようなポケモン図鑑を破るなんて明らかにおかしい。

 

 

 

気になった俺はナナミさんに聞いてみることにした。

 

 

運良く、ポケモンの資料や図鑑のコーナーの近くにいたので声をかけた。

 

 

「ナナミさん。」

 

「はーい、あらハルト君。どうしたの?」

 

俺はポケモン図鑑の破り取られた部分を見せた。

 

 

「………っ!」

 

 

すると、ナナミさんは目を見開いて驚いた表情をする。何か訳ありらしい。

 

「ここの部分がなくなってるんですけど、誰かいたずらしたんですか?と聞きたいところですけど、ナナミさんのリアクションを見た限り訳ありみたいですね。ここの部分って何のポケモンのページだったんですか?」

 

 

俺は単刀直入にナナミさんに聞いた。

 

ナナミさんは少し悩んだような表情をみせるが、決めたのか俺の方を見る。

 

 

「4年前、このミオシティである事件が起こったの。」

 

 

ナナミさんは真剣な顔で俺にこのページがなくなった理由を話し出した。

 

 

 

「ミオシティにはあるポケモンが住んでいた、そのポケモンは野生のポケモンにも関わらず、人間と仲良くして、何より喋ることができたの。そのポケモンは町の人たちや子供達と仲良く暮らしていた。大人たちの仕事の手伝いをしたり、子供達と一緒に遊んであげたりしていて周りからの信頼も厚かったのよ。」

 

 

 

 

 

「でも、とある事件が起きた。町のこどもの一人が突然悪夢にあったかのようにうなされて起きなくなった。町のみんなが心配してその子の家にお見舞いに来てくれたわ。そう、そのポケモンもよ。」

 

 

 

 

「町の人たちも必死になってくれて、悪夢避けのお守りをくれたり、おまじないなどいろんな手を尽くしてくれた。しかし、どれも効果がない。しかも、その子供はどんどん衰弱していったの。」

 

 

 

 

 

「うなされ始めてから10日くらい経ったとき、とんでもない事実が発覚したの。その子のお父さんが原因を探すために本を読み漁っていたときにポケモン図鑑を見た。」

 

 

「....っ!まさか...!!」

 

 

「そう、そのなくなったページの部分、そのポケモンのせいでうなされていることがわかったわ。」

 

 

 

「その子のお父さんはそのページを勝手に破り取り、事実がわかったことを町のみんなに伝えたの。」

 

 

 

「町のみんなのそのポケモンの見る目は変わった。本人はそんな能力があることなんて知らなかったみたいなの、でも町の人たちは許してくれなかった。そのあと町の人たちがとった行動は......」

 

 

 

ナナミさんは少し間をおいて口を開いた。

 

 

 

 

 

「そのポケモン、『ダークライ』を町から追い出したのよ。」

 

 

 

 

 

「...ッ!!ダークライ......!!」

 

 

「これで私の話は終わりよ。ハルト君はダークライのことを調べに来たんでしょう?」

 

 

「はい。」

 

 

「どうして調べようと思ったの?」

 

 

俺は悪夢のことをナナミさんにつつみ隠さず教えた。

 

 

 

「そう、だから調べに来たのね...」

 

 

「ダークライの仕業だってことはわかりました。でも、ダークライ、いや、()()はイタズラや悪気があってしたわけじゃないとおもうんです。それに......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は彼女に心当たりがあるんで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はミオ図書館を後にした。気がつけば夕日が沈み始めていた。よほど夢中になって調べていたらしい。それに、収穫もあったし、俺のとるべき行動もわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は苦しんでいた。

 

 

 

 

彼女は泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、彼女は俺に助けを求めていた。

 

 

 

 

 

今日の夜、恐らくまたあの悪夢を見ることになるだろう。

 

 

 

でも、俺はもう怖くなかった。俺の取るべき行動がわかっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、そろそろ寝るかな。」

 

 

「あら、今日は早いのね。調べ物で疲れたの?」

 

 

 

「うん、それにやることもあるし。」

 

 

 

「???」

 

 

 

「それじゃおやすみ母さん。」

 

 

 

「えぇ、おやすみ。」

 

 

 

俺は自分の部屋に戻り、ベッドに入った。そして、電気を消した。

 

 

 

疲れていたせいか直ぐに眠りにつくことができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...............。」

 

 

目がさめると、昨日と同じように誰もいないミオシティの広場にいた。

昨日はパニックになっていたが、今日は違う。落ち着いていて周りもよく見える。

 

 

 

 

 

 

「行くか。」

 

 

 

 

俺は覚悟を決め、自分の家へ向かった。

 

 

 

 

 

昨日と同じように自分の家の鍵は開いていた。

 

 

 

『ガチャ』

 

 

ゆっくりとドアノブを引き、中に入る。

 

 

俺は靴を脱ぎ、今回は迷わず二階へと続く階段へと足を運ぶ。

 

 

 

 

一段、一段と階段を登って行く。

 

 

 

『......っ!......!』

 

 

 

二階から昨日と同じ少女の泣き声が聞こえて来た。

 

 

 

そして、俺は自分の部屋の前に立った。

 

 

俺はドアノブに手をかけゆっくりとドアを開ける。

 

 

 

「うっ...!ひっぐ...!」

 

 

少女は俺のベッドの上で泣いていた。

 

 

電気も付いていない真っ暗な部屋。星の光だけが部屋の中を照らす。

 

 

 

 

だが、今日は違う、はっきりと彼女の姿が見え、声もはっきりと聞こえる。

 

 

 

 

 

俺はベッドの上で体操座りでうずくまって泣きじゃくる彼女の横に立った。

 

 

 

 

彼女は気づいていないのか震えながら泣いていた。

 

 

 

 

 

 

そして俺は口を開き、こう言った。

 

 

 

 

「迎えにきたよ。ダークライ、いや......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メア。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣きじゃくる彼女の肩がピクリと動き、ゆっくりと顔を上げた。

 

 

 

彼女の青くて水晶のように透き通った目が俺の姿を映していた。

 

 

 

 

 

そして、彼女の口が震えるようにゆっくりと開く。

 

 

 

 

 

 

 

「来て............くれたの............?」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の震えるようなか細い声が聞こえ、彼女の目からは再び大粒の涙が溢れ出てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、長い間待たせてごめんな......メア。もう大丈夫だ。ずっとそばにいてやる.........ずっと...な......!」

 

 

 

 

 

 

「ぅっ...!!ま、ま、まずだああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 

 

 

メアは俺の胸に飛び込んで来た。俺の胸の中で泣いていた。そして、俺も強く抱きしめかえしてあげた。二度と離れ離れにならないように......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『...っと、こいつは。』

 

 

 

 

俺はボックスの隅にとあるポケモンを見つけた。

 

 

 

 

『懐かしいな、俺はこいつだけは他のポケモンより愛情を込めて育ててたんだよなー、......名前なんだっけ。』

 

 

 

俺は十字キーを押して、矢印をそのポケモンに合わせる。

 

 

 

『そうそう、確かこいつの名前は..................』

 

 

 

 

そして、俺が愛した最高のパートナーの名前を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『メアだ。』

 

 

 

 


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