CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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お久しぶりです
ちょっと環境など色々と変わったりなんなりとゴタゴタありまして、すっかり投稿が遅くなってしまいました
本当に申し訳ありません

……しかし!!
こんな投稿スピードも遅いこの作品……なんと今回でついに100話目の投稿!!
これも読んでくださる皆様のおかげです! 本当にありがとうございます!!
文章力も低く、投稿も遅い(三回目)作品ですが……これからもよろしくお願いします!!
それでは100話目……どうぞ!!





code:79 隻腕の宿敵

 『捜シ者』との闘いが終わった矢先に起こった『コード:エンペラー』の復活……そして、(色々な意味で)波乱を呼んだ乙女と匠との出会い。

 それらを乗り越え、再び『渋谷荘』での生活に戻ってきた大神たち。そんな彼らの日常は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──キーン、コーン、カーン、コーン

 「バイバイ、桜、大神君! また『渋谷荘』に遊びに行くからね!」

 「待ってるぞ、あおば! また明日なのだ!」

 「……さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 危険など何一つ存在しない、とても平穏な日々となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なぁ、大神。そういえば匠さんにお前の指輪のことを聞くのすっかり忘れていたな」

 「また急に唐突ですね……。わざわざ聞かなくてもいいと思いますが」

 「いや、気になるのだ。また機会があったら聞こうな」

 「好きにしてください」

 あれから……ちょうど『コード:エンペラー』が復活した頃から、大神は『コード:ブレイカー』としての仕事をしている様子も無く、こうして平日の日中は桜と一緒に学校へと通っている。授業を受け、クラスメイトと談笑し、帰り道には二人で他愛のない会話をする……それが今の彼らの日常だった。

 「おお、大神。プラモデル屋があるぞ。なんなら寄っていくか?」

 「……結構です」

 「そうか。なら一杯付き合え、なのだ」

 「……酒みたいに言わないでくださいよ」

 ただ、そんな日常は大神にとっては不慣れなものかもしれない。だが、桜にとっては少し前までの生活に戻っただけ。そんな平和な日常に今、自分と大神がいることを実感すると……彼女はついつい笑顔をこぼしてしまうのだった。

 「むふふ~」

 「なんです? おかわりですか?」

 「またこうして、大神と一緒に学校に来られて嬉しいなぁ」

 「そんなことが嬉しいんですか……? 相変わらずおかしな人だ」

 「ああ、そんなことが嬉しいのだ。……あ、あとおかわりも欲しいのだ」

 「……ちゃっかりもしている人ですね、あなたは」

 それは今日も同じであり、帰り道に寄ったカフェで互いに飲み物を飲みながら溢れんばかりの幸せを口にする桜。そんな彼女に、日常と呼ぶには程遠い日常を送ってきた大神は呆れたような顔をする。

 しかし、その表情も桜のある人ことによって別のものへと変わった。

 「しかし、本当によかったのだ。こんな日がずっと続くと良いのだ」

 「ずっと……ですか」

 「……大神?」

 ふと、大神の声のトーンが変わった。パッとその顔を見てみると、大神は目の前にいる桜の方に視線を向けながらも、その眼はどこか遠くを見ているようだった。

 (……また(・・)、なのだ。最近、大神はよくこうやって遠くを見ている……)

 だが、それは今日に限ったことではなかった。『渋谷荘』でも、学校でも……大神はどこか遠くを見ているような眼をしていた。

 今までに何度か「どうしたのだ?」と聞いてみたが、その度に大神は「なんでもありません」とはぐらかしてきた。特に理由となることも思いつかなかったため、今まではそこで終わっていた。しかし、これまでのことを思い出すと関係ありそうなことが一つだけ思い浮かんだ。

 桜はそれを大神にぶつけてみる。

 「……なぁ、大神。前に王子殿が言っていた、大神のやらねばならぬこととはなんなのだ?」

 「…………」

 「よく遠くを見ているのも、それが関係しているのか?」

 「それは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──うっるせぇなぁ。学校行ってんのは珍種のテメーを観察するためだろうが。でなきゃ誰があんな退屈なトコロに好き好んで行くかってんだ」

 「おお、『コード:エンペラー』殿」

 だが、その質問に大神が答えるよりも前に大神の左腕……に灯った『コード:エンペラー』が割って入ってくる。『青い炎』でできた火の玉である彼が出てきたことで、大神は質問どころではなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「テメ──! 急に出てくんじゃねぇ!」

 「宿主如きがオレに命令すんな!」

 「すっこんでろ! このバカが!」

 「んだと、ゴラ! テメーの指図は受けねーよ!」

 「うむ。二人はやっぱり仲良しなのだ」

 「わふぅ……」

 なんとか『エンペラー』を隠そうとする大神とお構いなしに表に出ようとする『エンペラー』。そんな二人のやり取りを見て呑気な感想を言う桜に、彼女のカバンに入っていた『子犬』は呆れたような顔をするのだった。

 ──ぁぁぁん

 「……ん?」

 そんな桜の耳に、今までは言ってこなかった音……いや、声が入ってくる。明らかな幼さを感じるその声は決して話し声などではない。聞こえてくれば、今の桜のようについ視線を向けてしまう声。

 「うわぁぁぁぁん!」

 感情を爆発させた泣き声……その出所である男の子の周りには、同じような子どもたちがいた。

 「アイシュ~! アイシュ食べたいよ~!」

 「が、我慢ちて……」

 「そーだよ……。今日は氷二つ食ったろ?」

 見ると、子どもたちがいるのはアイス屋の前。ショーウィンドーに展示されたアイスのサンプルが道行く人の食欲を刺激させている。それはあの子どもたちも同じようで、泣いている子はもちろん、それを諭している女の子と少しふくよかな男の子も視線はショーウィンドーの中のアイスに向けられている。

 「…………」

 しかし、ただ一人だけショーウィンドーには目もくれない子がいた。他の子たちより1,2歳は年上化と思われるその男の子はゴソゴソとポケットを漁ったかと思うと、そこに入れておいたのであろう小銭を取り出した。だが、それは遠目から見ても何か物を買えるような金額ではない。

 「──チッ」

 ──ダダッ!

 「あ……!」

 すると、その男の子は他の子たちを置いて急に走り出した。自分より小さい子を置いて行ってしまった様子を目撃した桜は、思わず立ち上がって周囲を捜す。

 そうして見つけたのは、走り出した男の子がコンビニへと入る姿だった。

 「…………」

 コンビニの奥にあるアイスコーナーに真っ先に進んでいった男の子。チラチラと周囲を警戒している様子で何度か見渡すと、彼は中にあったアイスを一つ手に取り……

 ──ササッ

 自分の服の中に隠した……それは、紛れもなく万引きという犯罪行為だった。

 「い、いかん! やめるのだ!」

 幸いにも服に隠した瞬間を見たのはコンビニの窓越しに彼を見ていた桜のみ。だが、店員が気付かないという保証はないし、何より犯罪行為を見逃すわけにはいかないという正義感が桜を動かした。

 しかし、桜が中に入って止めるよりも先に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ガシッ

 「ッ──!」

 男の子のアイスを持っていた方の腕を掴むもう一つの腕……その腕の主は、男の子が逃げようとするよりも先に静かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「盗みはやめろ、と言うたじゃろう。和樹(かずき)

 「春人!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は、春人!?」

 和樹と呼ばれた男の子の万引きを止めたのは、かつて桜の命を狙って現れた始末屋・春人だった。過去に大神と闘った際に腕を燃え散らされたが、その腕を自分で切断することで生き抜いた隻腕の強敵。桜を狙って襲ってきた時も人を催眠状態する音や瞳術で大神たちを苦しめたが、最後には大神が『青い炎』で燃え散らそうとしたが、桜が無意識に放った珍種パワーによって再び生き抜いた。

 その後は行方をくらまし、始末屋としての活動も皆無だと思われていた男……その春人が、今まさに桜の目の前に姿を晒していたのだ。桜は驚きつつも物陰に身を隠し、様子を伺おうとした。

 「メグルの分だけ持っていけば、千代(ちよ)勇大(ゆうだい)が不満を持つじゃろうて。……皆の分だ、持っていけ」

 春人は和樹が盗もうとしたアイスを戻して外に出ると、大きく膨らんだレジ袋を和樹に渡した。中には様々な種類のアイスが詰め込まれていた。

 だが、そのアイスを盗んでまで手に入れようとした和樹は、不服そうに眉をしかめて下を向いた。

 「……誰も頼んでねぇよ。だいたい、お前の金で買ったものなんてオレは……」

 「あ! 春人兄ちゃん!」

 春人の申し出を拒否しようとする和樹だったが、そんな彼の後ろから女の子……千代が春人に気付いて小走りで寄ってきた。それに続くように、先ほどまで泣いていたメグルとそれを諭していた幸平も走ってきて、和樹が持っている袋の中身に気付いた。

 「うわぁ! アイシュだ!」

 「ホントだ! アイスだ!」

 「お、おい! お前ら!」

 子どもたちは和樹の思いなんて知らず、それぞれがアイスを手に取り夢中で頬張り始めた。

 「すっご~い! とっても甘い!」

 「ありがとう、春人兄ちゃん! アイスって棒まで甘いんだな~」

 「おいちっ、おいちっ」

 その食べ方は一人ひとり違えど、共通して見えるのはまるで初めて食べたかのように感動しているということだった。先ほど泣いていたことを考えても、彼らにしてみればアイスは手が届かないほどのご馳走なのかもしれない。

 「……こんな奴のくれたモンなんて食うなよな。……おい、メグル。オレの分もやるから、もうちょっとゆっくり食べろよ」

 「いいの!? わーい!」

 他の子どもたちがそのご馳走を食べるところを見ても、和樹はアイスを食べようとはせずにメグルに渡した。それは明らかな我慢だったが、まだ小さいメグルはそれに気付くこともなく、渡されたアイスをまた夢中で食べ始めた。

 「…………」

 「食べろ」

 「──ッ! い、いらねーよ!」

 「これはお前の分だ」

 「お前がくれたモノなんて……!」

 「いいから食べろ」

 「ッ~……! くそっ!」

 そんな和樹の目の前に春人が別のアイスを差し出す。しかし、和樹は春人からの施しは受けまいとそれも拒否しようとする。それでも春人は何度も和樹に渡し、食べさせようとした。そして、最終的には和樹の方が我慢の限界を迎え、彼はひったくるように春人の手からアイスを取って食べ始めた。どうやら限界を迎えていたのは我慢だけでなく空腹の方でもあったようで、アイスはあっという間に無くなってしまった。

 「……この借りは、オレが大人になったら必ず返す」

 「和樹、お前は金の心配はするな。もう辛抱は終いじゃ」

 「は……? オイ、どういうことだよ! まさか、また火傷とか怪我とかするような……そんな危ないことするつもりじゃないよな!? なぁ、春人!」

 「…………」

 「金の心配はするな」……そう言い残して、春人はその場を去っていく。今のやり取りだけで確信は持てないが、少なくとも春人とあの子どもたちは無関係ではない。いや、それどころかまるで春人があの子たちを養っているようにも見える。

 (あの子……また(・・)、と言っていた。ということは、まさか春人は私を狙ってきた時からあの子の面倒を……?)

 去っていく春人の背中を見つめながら、桜はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──シュッ! ババッ!

 「ハァー、ハァー……! ──フッ!」

 ──ブォン! ダンッ!

 場所は変わり、『渋谷荘』の地下にある修業場には空気を切り裂くような鋭い音と荒々しい呼吸が響き渡っていた。そこには、空中に向かって拳や脚を振るう優の姿があった。

 滝のような汗を流しながらも、それを気にも留めずに彼は動き続ける。だが……

 ──パチパチパチ

 「……?」

 唐突な拍手が彼の動きを止めた。肩で息をする彼の視線の先には、彼がよく知る人物がいつの間にか立っていた。

 「素晴らしいです、優君。動きのキレが以前より上がってきていますね」

 「平、家さん……」

 「しかし、いくらあなたでもやり過ぎはよくありません。少し休憩してもいいのでは?」

 「……そう、ですね」

 優の動きを称賛しながらも、彼を気遣って休憩を促す平家。溢れる汗を拭いながらその言葉を聞いていた優もそろそろ限界を感じていたのかもしれない。荒々しく肩で息をしながら、平家に同意して彼の元へと歩いていった。

 「誰に言われるでもなく自主的に修業とは……その精神を刻君や遊騎君も見習ってほしいものです」

 「……あいつらもやる時はやりますよ。それに、オレが鍛えなきゃならないのは当然のことですから」

 「……『コード:07』だから、ですか?」

 「それもありますが……理由の大半を占めているのは別のことです」

 平家の傍に腰を下ろした優に、まるで愚痴のような口調で平家は話し始めた。そんな平家の言葉に苦笑しながらも、優は天井を見上げながら続けた。

 「今のオレは『斬空刀』……自分にとって一番の武器が使えない状態です。ならその分を補えるよう、自分自身を鍛えようと思っただけです。……これからも、『コード:ブレイカー』でいるために」

 「……そうですか」

 『捜シ者』との闘いで破壊され、匠に預けた『斬空刀』。それを使っての戦いぶりを見れば、優にとって一番の武器だということも納得できる。それが使えない今、残された武器である自身を鍛える……それが彼が出した答えだった。

 そんな優の言葉を聞いて平家は何か思うところがあるのか、スッと目を細めた。

 「『斬空刀』といえば、私たちが『天下一品』から帰る時はすごかったですねぇ」

 「……思い出させないでください」

 しかし、次の瞬間にはにっこりと微笑んだ平家。話題も『斬空刀』から『天下一品』へ……正確には、“『天下一品』から帰る時”へと移った。

 そう、それは優たちが『青ノ不灰石』を見つけて帰ろうとした時のことだった────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「や・だ」

 「いや、ですから……」

 「い・や・だ」

 『…………』

 匠に『斬空刀』と『青ノ不灰石』を預けて、誰かが「そろそろ帰ろう」と口にしたまさにその時……乙女は目にも止まらぬ速さで玄関へと向かい、一瞬のうちに釘を打ちつけて扉を封鎖してしまった。その素早さと技術は大神以上だった、と周囲の人々は語る。

 「……すまん、皆。ある意味じゃ、これも恒例行事みたいなものなんだ」

 「まぁ、なんとなく予想はしてたけどな……」

 「いかにも、これも愛ってやつなんだな」

 「しみじみと言ってる場合か、クソネコが」

 乙女がこんな行動に出た理由……それは誰かに聞くまでもなく、優だ。単に優と離れたくないから、彼女はこんな行動に出たというわけだ。

 「オイ、優。いつものことだったらお前がなんとかしろよナ。ハグなりキスなりして、『またすぐに戻ってくるヨ☆』とでも言ってやれヨ」

 「そんなことしても調子に乗るだけだ」

 (いや……まず優にそんなことできるわけねぇだろ)

 現状に呆れた刻が適当なアドバイスをするが、優はバッサリとそのアドバイスを切り捨てた。その横で王子がひっそりと心の中でツッコんでいたのは誰も知らない。

 「……ったく」

 すると、仕方ないといった様子で優が乙女へと近づいていく。しかし、乙女の方も優が帰らないように警戒しているのか、両手を大きく広げて玄関への道を塞いでいる。

 そんな乙女を説得するべく、優は今までの経験から最良の言葉を口にする。

 「乙女……二十歳も過ぎた大人が我儘を言うな」

 (デリカシーの欠片も無い説得ゥゥゥゥ!!)

 女性にとってタブーとも言える年齢から責めた優の説得。もはや説得というより叱責に近い内容に、乙女は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──チラ

 「ッ!?!?!?!?」

 ──バタン

 何のためらいもなく、着物の裾をほんの少しだけめくり上げてみせた。突然の色仕掛けに不意を突かれた優は、そのまま前のめりに倒れてしまい……

 「優君ゲット! もう絶対に離さないもんね!」

 あっさりと乙女に鹵獲されてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「優ゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 「なんというか……もう何も言えません」

 「あ~……情けねぇ」

 「乙女殿! 女子ならばもう少し恥じらいを持つべきなのだ!」

 「いかにも、少し論点がずれているよ」

 (乙女の扱いに関して)経験豊富な優を失った一同。その反応は十人十色だが、このままでは本当に帰ることができない。彼女の性格を考えると「優以外は帰っていい」と最終的には言いそうだが、それで帰るわけにもいかない。どうするべきか悩む大神たちだったが、当の乙女はそんなことは知らずに優を思いきり抱きしめる。

 「も~、下着が見えたわけでもないのに慌てちゃう優君ったら可愛いんだから! こんなに顔を真っ赤にさせちゃって……か、かわ、かわわわわわうへへへへへへ」

 「オイ! あのままじゃ優が喰われちまうゾ! なんか色んな意味で!」

 この上なくだらしない顔で優の顔を眺める乙女。その様子に本能的に危機を感じた刻は顔を真っ青にして他の者たちを見渡す。しかし、なんとかしようにも方法が浮かばず、一同は優が喰われる様子を見ていることしかできなかった。

 「うへへへ……こ、この真っ赤になったほっぺ……! 可愛いよぉ、可愛いよ優く────」

 「……?」

 ふと、乙女の動きが止まった。優の頬に顔を近づけたかと思うと、そのまま状態で止まった彼女を見て一同は首を傾げる。

 「あ、ああ……」

 すると、乙女はわなわなと震え始めた。一人だけ極寒の地にいるような勢いで震える彼女は、驚愕に染まった表情で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「優君のほっぺから……違う女の匂いがするゥゥゥゥゥゥ!!」

 『……は?』

 その言葉を最後に……乙女は、そのまま動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (……リリィの“お礼”がこんな形で役に立つとはな。というか、あいつの鼻はどんな嗅覚をしてるんだ)

 「どうしました? 優君」

 「なんでもありません、忘れてください」

 以前、研究所でリリィにされた“お礼”の際に残った彼女の匂いを嗅ぎ取って乙女は気絶した。その後は、乙女のことを匠に任せた一同は優を連れて(平家が引きずって)『渋谷荘』へと戻った……というわけである。ちなみに、優から女性の匂いがしたことについては「桜チャンか王子のことダロ」という刻の適当な結論で片付いた。この時ほど、優は刻の適当さに感謝したことはなかった。

 「…………」

 そんな思い出話をし終えると、再び平家の眼はスッと細くなる。まるで見定めるかのように……じっくりと優のことを見ていた。そして……

 「ところで優君……一つだけ聞いてもよろしいでしょうか」

 「なんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あなたには前線から退いてもらう……と言ったら、どうしますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まったく、どこに行ってたんですか。あんまりウロチョロしないでくださいよ」

 「う、うむ! すまんな!」

 「何か用事でもあったんですか?」

 「ぬう!? よ、用事など何もないぞ!?」

 「…………」

 「そ、それよりだ大神! 今日は面白いテレビがな……」

 ──パシンッ!

 「痛ッ!」

 春人と子どもたちのやり取りを目撃した後、桜は大神と合流して再び帰路についたのだが、それからの様子は明らかに挙動不審だった。そしてなにより、彼女自身は気付いていないが彼女の表情は例の“ウソ顔”になっていた。

 大神がそれを見逃すはずもなく、呆れ顔をしながら桜の頭をひっぱたくと大きくため息をついた。

 「……今度は何を隠しているんですか? 顔を見ればわかりますから、隠しても無駄ですよ」

 「そ、そんなことは……」

 「桜小路さん」

 「……はい」

 一度はごまかそうとしたが、大神相手にごまかしが通じるわけもない。真っ先に桜の方が折れ、路上での事情聴取が始まったのだった。

 「その……もしも、だぞ?」

 「はい」

 「もしも……本当にもしも、あくまで仮定の話だからな!?」

 「……はい」

 「間違えるなよ!? もしも、仮定、もしかしたらの──」

 「……わかりましたからさっさと言ってください」

 あからさまに「もしも」を強調する桜の様子は、これから話すことが「もしも」のことではないと言っているようなものだった。もちろん大神も気付いてはいたが、話がややこしくなるのでそこに関しては何も言わず、さっさと話を聞くことにした。

 「……もしも、仮に滅し損ねた“悪”が目の前に現れたらお前はどうする? いいか? もしも……だからな」

 桜が言っている滅し損ねた“悪”……それは紛れもなく春人のことだった。一度は自分の命を狙いに来た敵なのは確かな過去。だが、先ほど彼女が見た子どもたちとのやり取りもまた確かにあったこと。

 大神は“悪”に対して一切の容赦はない。それはかつて春人と闘った時も同じ。そんな彼がもし、何かの拍子に春人と再会したら────そんな不安が、桜の中には渦巻いていたのだ。

 「…………」

 そんな桜の問いを聞いた大神は、静かに目を伏せて口を閉じた。しかし、その時間はほんの数秒ほどであり、彼はすぐに……あの目(・・・)をしながら答えた。

 「……愚問ですよ、桜小路さん。“悪”は滅します。……たとえ、誰であろうと」

 「大、神……」

 (また……遠い目をしている……)

 カフェで見た時と同じ……どこか遠くを見ながら答える大神を見て、桜は上手く次の言葉が出てこなかった。そんな二人の間を静寂が包み始め──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ほう……それは面白い。だが、オレは貴様なぞには殺されぬぞ。……大神」

 上……歩道橋から顔を覗かせた男が二人の静寂を打ち破る。そこには、今まさに桜が思い浮かべていた一人の“悪”の姿があった。

 「久しぶりじゃな。貴様の左腕……頂きに参ったぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は、春人!?」

 「……お前か」

 「おーおー、とうとう来やがったぜ。この『エンペラー』様を狙いに来た刺客がよ」

 危惧していた春人と大神の再会に動揺を隠せない桜。対し、大神は驚く素振りもなくスッと目を細めており、『エンペラー』も刺客が来るのを予想していたかのような口ぶりで大神の左手から出てきた。

 「何度も何度も……懲りない“(クズ)”が」

 「ふん……今回の依頼主は気前が良くてのう。この仕事は成し遂げねばならん」

 歩道橋の階段を一歩一歩……ゆっくりと降りてくる春人。帽子を目深に被っているため真正面から対峙していれば見えづらいが、今は大神たちが彼を見上げている状態。

 だから、その顔……口元がニタリと弧を描いたのはすぐにわかった。

 「……金じゃ。小金が少々必要なのでな」

 ──『和樹、お前は金の心配はするな。もう辛抱は終いじゃ』

 (金……もしかして、さっき春人が言っていたのはこのことなのか……?)

 春人の口から「金」という単語を聞いた瞬間、桜の頭の中ではほぼ反射的に先ほど春人が子どもに対して口にしていた言葉が再生された。

 春人が大神の左腕を狙いに来たのは金……子どもたちのためなのではと考える桜。だが、彼が狙う大神は誰であろうと“悪”は滅すると今さっき言ったばかりであり、冗談でそんなことを言うような人間ではない。

 かつて大神を苦しめた春人だが、それは彼の実力に加えて大神がロストしていたというのも大きい。だが、今の大神は『エンペラー』が目覚めて『青い炎』が真の力を取り戻した状態。ましてやロストもしていない。いくら実力が高いとはいえ、異能を持たない春人が敵う相手とは到底思えなかった。

 「や、やめるのだ! いいか、春人! 大神はすごく、すごーく強くなったのだ! お前では敵わぬ! だからここは退くのだ!」

 「言うてくれるわ、桜小路桜。……だが、忌々しいことにそれは真実じゃな」

 「そ、そうだ! だから──」

 「しかし、それはかつてのオレ(・・・・・・)ならの話。そう……オレが異能を持っていなかったからじゃ」

 春人と子どもたち……詳しい関係は知らないとしても、少なからず春人が彼らとなにかしらの関係があると察した桜。もし春人に何かあれば子どもたちがどうなるかわからない。そのためにも説得を試みてみるが、春人は引く様子を見せない。大神たちの前に立ち塞がったままだ。

 そして、彼は近くに停めてあったバイクにそっと右手で触れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──今は違う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ギュオ!

 「バ、バイクを吸い込んだ!?」

 春人が呟いた次の瞬間、彼が触れていたバイクは彼の右手に吸いこまれるように消えていき、跡形もなくなってしまった。そして、かつて大神に燃え散らされ失った左腕部分が突然光り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ジャキン!

 「今度は負けぬ。新しく手に入れた力……異能(・・)変殻(トランスフォーム)』があるからのう」

 春人の左腕……失われたはずの彼の左腕がそこにはあった。いや、正確にはそれは腕ではない。金具やタイヤ……先ほどまでバイクだったもの(・・・・・・・・)が変形した、鎌のような武器だった。

 「バカな──! 異能を持っていない人間が異能を手に入れただと──!?」

 目の前で起きたことに、さすがの大神も驚きを隠せず大きく目を見開く。だが、彼は確かに言った。それ(・・)が異能であると。そして、目の前で起きた現象が異能としか説明できないと、彼は直感で感じていた。

 「さぁ、大神……その左腕、貰い受けるぞ」

 「ッ──!」

 大神と春人……三度目となる因縁の闘いが今、幕を開ける。




和樹以外の子どもたちの名前はパッと浮かんだ名前にしました
どうせなら名前あった方がいいかなと思ったので



さて、100話目記念……というほどのものでもないですが、せっかくなのでいつもとは少し違う内容を
この作品、本編ではオリジナル要素入れつつ原作通りにやっていきますが、番外篇はかなり好き勝手やっております
一応100話も超えたというのもあり、もっと好き勝手やりたいという私自身の欲もあったので……これからの番外篇ではさらに新しい要素を加えていこうと思います
なにかというと……『クロスオーバー』!!
番外篇のみになりますがクロスオーバーの話を書いていきたいと考えております
ちなみに、今のところクロスを考えている作品は以下の通りです
・たんさんすいぶ
・魔法少女オブジエンド
・エンバンメイズ
・ペルソナ5
今のところはこの四つが候補となっており、それぞれ時期をずらして書いていこうと思っています
また、本編が終わりましたらSAMURAI DEEPER KYOとのクロスオーバーでの新作も予定してます(いつになるやら)
もしご意見等ありましたら、よろしければ感想に書いていただけるとありがたいです!



さて、かなり長くなってしまい申し訳ありません
まだまだ未熟者ですが、これからも色々とやっていきたいと思っております
最後になりますが、これからもCODE:BREAKER -Another-をよろしくお願いします!!



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