CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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最近、今さらながらヒロアカにハマったのでタイトルとしてはかなり好きなタイトルです
ただ後半を書いたのが深夜なのでかなり勢いに任せてます
そして、今回もダイジェスト多めでお送りします
それでは、どうぞ!





code:81 たった一人のヒーロー

 人間に限らず、生物というのは少なからず欲求というものを持っている。

 その中でも人間は、特に多様な欲求を持っている。そうした多様な欲求の中でも生命活動の維持に必要な欲求を生理的欲求という。

 食欲や睡眠欲などがそうだ。もちろん、人間はそうした最低限な欲求の他にも様々な欲求を持ち、見足そうと各々が考えている。

 だが、そんな人間が生きる社会はどうだろうか。

 

 店先に並ぶ食品一つを手に入れるためには金がいる。

 安全が約束された場所で寝る・過ごすためには金がいる。

 身なりを整えようと、服を揃えようとすれば金がいる。

 

 何をするにしても、たとえそれが人間にとって最低限度な行動だとしても金がいるのだ。

 だから人は金を得るために社会で働く。

 金を得るため、時には対価となる物を売り払う。

 そうして人は金を得て、人としての生活を保っていく。

 

 しかし、そうした手段で金を得ることができない者たちもいる。

 罪に手を染めた者、働く力がない者、親を失った子ども…………

 

 彼も……春人もその中の一人。

 だから彼は語る。「生きるには金がいる。そのために悪に堕ちて何が悪いのか」……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ、死ね! 大神!」

 ──ドドドドッ!!

 「くっ……!」

 「大神!」

 異能『変殻(トランスフォーム)』によって砲と化した春人の左腕から無数の弾丸が発射される。弾丸一つひとつが鉄材などを球状に固めた物のため、直撃はしなくとも着弾した瞬間の爆風で飛び散った破片が確実に大神の身体を傷つけていた。

 今こそなんとか直撃を免れてはいるが、ダメージが蓄積すれば動きは鈍くなり、直撃のリスクは高くなる。だが、それでも今の大神は『青い炎』を使えずにいる。逃げるしか手段はない。

 「ちょろちょろと逃げ回るだけか! 大方、弾切れを狙っているのだろうが……物がある限り、弾は無限に生み出せる! いい加減、観念しろ!」

 ──ズォ!

 勝ち誇った表情を浮かべながら、春人は空いた右手で周囲の物質を吸収していく。そうして吸収した物質を弾に変えて左腕の砲から発射し続けているのだ。

 こう考えると、二人がいる工事現場というのは春人が圧倒的に有利なフィールドだった。鉄材はもちろん、用具などがそこかしこに置かれているこの場所では、春人は武器に困ることはない。

 もちろん、物によっては大神でも武器として扱えるだろうが、春人の猛攻がそれを許そうとはしない。

 「…………」

 だが、それでも大神の眼は変わらぬ鋭さで春人を見ていた。そこに諦めのような感情は感じられず、なにかの機会を伺っているかのようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ピキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そろそろ終わらせてもらうぞ! 溜めこんだ弾を一斉発射じゃ!」

 ──ドドドドドドドッ!!

 「ぐぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ピキキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もうやめろ、春人! こんなことをするべきでは──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──スッ

 「大……神……?」

 「ふっ、観念したか! さぁ、その左腕を捧げてもら──!」

 そして、その時は訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ビギッ!

 「ぬっ!?」

 ──ドガァン!!」

 「ぐあっ!」

 「春人!?」

 和樹はもちろん、当の本人である春人ですら何が起こったのかわからなかった。今まで逃げに徹していた大神が桜を庇うように彼女の前に出たかと思うと、次の瞬間には春人の左腕の砲が音を立てて爆発したのだ。砲を構成していたパーツは全てバラバラに飛び散り、残ったのはかつて大神に燃え散らされようとした際に斬り落とした左腕の傷痕のみ。

 「こんなタイミングで……! 暴発か!?」

 「いったい何が……? 私には今、砲が勝手に爆発したように見えたが……設計ミスか?」

 「……違う」

 桜も混乱する中、大神はただ一人何が起こったのかを理解していた。

 次に(・・)何が起こるのか、も。

 ──ドパッ!!

 「ガハッ!? な、なんじゃ……これ、は……」

 突然、春人の身体の至るところの皮膚が裂け、大量の血が噴き出した。口内へと溢れてきた血を吐きだしながら思わず膝を突き、春人は自分の身体に何が起こったのか考えようとしたが何もわからない。

 すると、大神が春人との距離を詰めていき、冷酷な眼を向けながら春人の前へと立った。

 「キツそうだな。お前の身体が異能に耐えられなくなったんだよ」

 「な……!?」

 「……オレも途中から左腕と共に異能『青い炎』を得た身だ。同じ経験がある。異能の源は人間の生命力……使いこなせてもいない内に急激に使えば、身体がついていかなくなる」

 そう……大神は春人がこう(・・)なることをわかっていた。他ならぬ、自身の経験から。

 そして、この先がどうなるかも……彼は知っていた。

 「もうその辺でやめておけ。じゃねえと、ロストする前に生命力が事切れる……つまりは“死”が待っている。それもただの“死”じゃねぇ。全身を裂かれるほどの痛みを伴った“死”だ。まぁ……テメェみたいな“(クズ)”には似合いだがな」

 「ぬ……! ぐぐ……!」

 大神の冷酷な瞳が春人を射抜く。迫力に満ちたその言葉は、彼の言葉が嘘ではないことを物語っているようだった。春人もそれを本能的に感じたようで、何も言い返せずに全身の痛みに耐えていた。

 だが、彼はそれで終わるような人間ではなかった。

 「それが……どうした!!」

 ──ギュオオ!!

 「は、春人!?」

 大神の言葉から、全身から今まさに感じる痛みから……このまま異能を使い続ければ自分の身体がどうなるかはわかる。しかし、それでも春人は右手を振りかざし、傍にあったチェーンを吸いこみ左手に武器として構築していく。

 すでに限界を迎えている身体は、吸いこんだ途端に皮膚が裂けて血が溢れ出し、口内に鉄臭い液体が溢れ出す。だが、それでも……

 「それでも……! 異能を使えぬ、今のお前はただの人間……! 限界だろうが、この手で……仕留めてくれるわ!!」

 ──ガガガガッ!

 痛みに耐えながら強気な笑みを浮かべ、武器として構築されたチェーンを大神の顔に向けて放つ春人。大神は左手でそれを防御するが、彼の左手にチェーンが複雑に絡みついた。元々彼の左腕が目的である春人にとっては願ったり叶ったりな状況になり、彼はそのまま左腕を引き千切ろうとチェーンを引き──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──“(クズ)”が」

 ──ブチィ!

 だが、次の瞬間……大神は異能も使わず、素手(・・)の状態である左手で、チェーンを軽々しく引き千切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただの人間……? 残念だが、クソネコに散々しごかれてきたからな。たとえ異能が使えなくても、今の弱り始めたテメェなんざ……オレの敵じゃねぇんだよ。……三度目の正直だ。今度こそオレの手で裁いてやる。春人……心して死ね」

 「ぬ……ぐ……!」

 冷め切った眼で春人を見下ろす大神。それに対し、春人はそんな大神を見上げることすら難しいほどだった。

 全身に痛みが広がり、思うように動こうとしない。誰が見てもわかる……春人の負け、だと。

 「ぐ、うぅ……!!」

 それは春人自身もわかってはいる。ここからの挽回は絶望的だと。今の自分を待つ未来は大神による裁き……死だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……なぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 理解はしていた。

 だが…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──死なぬ!!」

 ──ゴッ!

 「なっ!?」

 限界を迎え、先ほどまで膝を突いていた春人の身体が動き、大神に拳を放った。予想だにしていなかったことに、桜は大きく目を見開く。

 ──ビキ!!

 「ぐうううう!」

 だが、春人の身体が限界なのは変わらない事実。引き裂くような痛みが全身に走り、再び膝を突きそうになる。

 しかし、春人はそれに耐えて再び拳を握る。

 「オレは、絶対に死なぬ! 貴様如きにやられるか! この身体がいかに傷つこうと! この手がどれだけ血に染まろうと…………絶対に死なん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 始末屋でも、自らの命に執着する者はいる。それはただ純粋に、「死にたくない」という命ある者なら持って当然の思いからくるものだ。

 だが、春人はそんな者たちとは違っていた。

 かつて、左腕を切り落として命を永らえた。だが、腕を犠牲にしてまで生きることを選んだのは、決して死に恐怖したからではない。

 それ以前に、始末屋として生きている以上は死などというのは身近にあるものとして受け入れていた。

 死への恐怖はない。

 だが、それでも…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (オレは物心ついた時には天涯孤独。だが、寂しさや不自由はない。金さえあれば生きていけた)

 

 

 

 

 

 (気まぐれで、和樹(じゃり)を生かした)

 

 

 

 

 

 (大した理由はない。情が芽生えたわけでもない。ただの気まぐれだった)

 

 

 

 

 

 (じゃりは……一人二人と増えていった)

 

 

 

 

 

 (ふと気付けば……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「春人兄ちゃん!」

 「春人兄ちゃーん!」

 「春人兄しゃん!」

 「……春人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (気まぐれは……日常になっていた)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あと五年! いや……十年! あやつらが大人になるまで!」

 気を抜けば全身が砕けてしまいそうなほどの痛みの中、春人は拳を振るい続ける。

 「生きるにたる金が手に入るまで! ……オレは!!」

 そして、大神もその拳全てを真正面から貰い受ける。かわすでもなく、捌くでもなく。まるで……

 「あやつらを……生かす!! たとえどんな悪に成り果てようとも!!」

 初めて吐き出された、春人の真意を受け止めるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──バカが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴッ!

 「ぬぐぅ!」

 春人が、もう何度目になったかわからないほど振るわれた拳を再度振りかぶった時、大神は冷たい言葉と共に容赦のない蹴りを春人の顔面へと喰らわせた。

 さらに……

 ──ゴリッ!

 「ぐ……!」

 倒れた春人の頭を踏み、強制的に地に伏せさせた。完全に大神が春人を見下し、その生死を自由にできる状態。そんな状態で大神は、春人に言い放った。

 「“(クズ)”の分際で慈善事業の真似事とは……笑えるな。なぁ、春人。そんなに金が欲しいんだったら……」

 静かに、大神は内ポケットから一枚の真っ黒のカードを差し出した。そして、それを見せつけるかのようにひらひらと動かし、ニヤリと口角を上げた。

 「始末屋・春人、テメェはオレが買ってやる(・・・・・)。オレの靴を舐めて服従を誓え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大神が春人に言い放った言葉を、その場にいた誰もが理解できなかった。

 『コード:ブレイカー』である自分なら春人が望むだけの金は持っている。服従を誓えば依頼主の倍以上の金を渡す……そう取引してきたのだ。

 だが、長年の宿敵からのそんな取引に春人が応じるはずもなく、その首を縦に振ろうとはしなかった。それでも大神は取引を受けるよう言い続けた。

 金のために人を殺せるなら靴を舐めるくらい訳ない……そう言って。

 だが、春人はそれを断固として受けようとはしなかった。すると大神は、そのまま春人を蹴り飛ばし、無抵抗な彼をいたぶり始めた。まるで普段から彼らが対峙する“悪”そのもののような行動に、さすがの桜も大神を止めようとした時……彼らが現れた。

 

 「やめろ! 春人兄ちゃんをいじめるな、この悪者め!」

 「そうよ! あたしたちが許さないわよ!」

 「ゆ、ゆゆ許さないぃぃ……!」

 

 それは、和樹のように春人が匿っていた子どもたちだった。彼らはその小さな身体を震わせながらも、必死になってこしらえた武器である泥団子を大神へと投げつけた。

 彼らは言った。春人は自分たちを助けてくれた正義のヒーローなんだ、と。

 そのヒーローをいたぶる大神は悪者として、彼らの攻撃を一身に受けていた。

 そんな子どもたちに対して……大神はまたもニヤリと口角を上げながら言った。

 

 「……そうさ。オレは悪。金のためなら人だって殺す悪だ。生きるには金がいる。それに、命だって金で買える世の中なんだ。それの何が悪い? オレは金のためなら人だって殺す」

 「ッ──!」

 

 大神の言葉を聞き、桜は大きく目を見開いた。なぜならその言葉は、先ほどまで春人が言っていたことそのままだったから。

 だが、大神はまるで自分の意見であるかのようにそれを言い放った。

 そして、それを聞いた子どもたちは……

 

 「そんなのおかしいよ! 自分さえよければ、他の人が痛い思いをしていいなんて! オレたち、金はないけど春人兄ちゃんのおかげで今とっても楽しいんだ! 一人だった時よりずっといい!」

 「お金なんか無くたっていい! みんなでいれればそれでいいんだよ!」

 

 そう言い、彼らは武器が尽きるまで大神に投げ続けた。彼らのやり取りを聞きながら柱に身体を預けていた春人は、静かに顔を伏せていた。

 子どもたちの言葉は、本当は大神ではなく彼自身に向けられた言葉。それは、彼自身がよくわかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……もう、嫌なんだよ」

 「和樹……」

 顔を伏せていた春人の隣に立った和樹が、絞り出すような声で言った。春人は顔を上げ、真っ直ぐと和樹の方を見つめてその言葉を聞こうとする。

 「春人が傷つくのも、悪いことするのも……オレ、見たくねぇんだよ。あいつらにも……知ってほしくない。だって……だって、春人は…………」

 和樹の身体は震えていた。

 涙も溢れていた。

 それでも、彼の言葉は力強く、不思議なほどしっかりと春人の耳へと届いた。

 「春人兄ちゃん(・・・・)はオレたちを助けてくれた……たった一人のヒーローなんだ……!」

 「…………」

 溢れる涙を隠すように、乱暴に腕で目をこする和樹。そんな彼の言葉を聞いた春人は、全身の痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がった。そして……

 ──ポン

 「……お前たちの下らん茶番のせいで、戦う気も失せたわ」

 優しく和樹の頭に手を置き、そう言った。

 勝敗で見れば、完全に春人の負け。しかし、不思議と悔しさなどは感じなかった。ただ、彼が抱いていたのは……今までとはまったく違った感情だった。

 (大神零……つくづく腹の立つ男よ。小癪な真似をしおって……何があったかは知らんが、昔と違って嫌な奴になりおったわ)

 不愉快だとは感じつつも、悪い気はほとんど感じない……そんな不可思議な感情だった。

 何があったかまではわからない。だが、それでも大神が変わったということは、敵である春人も感じ取ったのだった。

 そして、当の大神はというと……

 「にやにや」

 「……なんですか」

 「オレの靴を舐めて服従を誓え!」

 「…………」

 今までとは打って変わって、にやけ面をした桜におちょくられていた。

 最初は、いったいどうしたのかと感じていた。だが、今となってはまったく感じない。大神がしたことの真意は、桜はしっかりと理解していた。

 「春人と子どもたちのために、わざと悪を演じたのだろう? 憎い奴なのだ」

 「……なんのことですか?」

 「ぬふふ、認めぬか。まぁ、今回ばかりはそれもよかろう。にやにや」

 「なんなんですか、さっきから……! あと、にやけるだけならまだしも、実際に口で『にやにや』とか言わないでください……!」

 桜がおちょくってくる意味がわからず、気味悪そうに引く大神。そんな彼女にため息をつきつつも、彼は次にすべきことをしようと動いた。

 そう……春人のところへと。

 「……春人、わかっていると思うがまだ終わっちゃいない。お前の処遇についてだ」

 「わかっておる。だが、その前にぬしに言っておきたいことがある」

 「……なんだ」

 「知れたこと。お前とて気になっていることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オレが異能を得た理由と、オレにぬしの左腕を狙わせた依頼主についてじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 春人の言葉に、大神の眼がスッと細くなる。

 しかし、今の彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 春人から語られようとしていることが、これからの闘いの幕開けであることを。

 

 

 

 

 




次回で『エンペラー』復活篇、最終回です
またの更新をお楽しみに


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