CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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なんというか、大変お待たせしました
思うように書けない時間が非常に続いてしまいました
その時間を使って何話か書き溜めることはできたので、そのストック分は定期的に投稿していこうと思います(そこまで量はありませんが)
では、どうぞ





code:X-2 邂逅~encounter~

 

 

 

 

 

 

 

 当時の夜原優は、抜け殻だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家族全員を理不尽に失った彼は、両親とは旧知の仲で交流があった刃賀匠によって引き取られた。

 しかし、両親・弟を一度に失った彼の眼は虚空のように淀み、口は食事を摂る時以外に開くことは無かった。

 あまりに深い悲しみを背負った彼は……涙も、泣き声すら枯れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 この現実に対し、匠はあまりに無力だった。

 元々、彼は鍛冶屋でしかない。カウンセラーではないし、心理学といったものにも疎い。

 今の匠には、かつての友人たちから引き取った唯一の子宝を救う手段がわからなかった。

 自らの愛娘であり、何度か共に遊んだ仲でもある乙女とも協力し、なんとかその凍りきった心をほぐそうとした。だが、何をしようと変化が現れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼ら(・・)が出会ったのは……そんな匠が行った努力の一つから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──カラン

 乾いた鈴の音が、その空間に新たな人間が訪れたことを告げる。

 不定期に鳴る音だというのに、先ほどから流れているピアノ(CD)に上手い具合に合わさっているように聞こえた。

 「いらっしゃ────まさか、本当に連れてくるとはな」

 カウンターの向こうに立つ細身の男は、新たに訪れた人間たち(・・)を見て一瞬だけ動きが止まった。なぜなら、その光景はあまりにその空間に似つかわしくなかったからだ。

 「……まあいい。久しぶりだな…………匠」

 「ピッ」

 声をかけられ、慣れた様子で手を挙げて挨拶をするのは……刃賀匠。相変わらず咥えている吹き戻しを除けば、彼はこの空間にいてもおかしくない存在だ。

 ……彼だけ(・・・)、ならば。

 「それと……はじめまして、少年」

 「…………」

 彼の隣に立ち、彼に手を引かれて一緒に訪れたもう一人の人間は……まだ幼い少年。

 それは、このバー(・・)という空間ではまず見ることがない存在だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お前はいつもの日本酒でいいだろう? 少年はどうする?」

 「…………」

 「ふむ……とりあえずミルクでも用意しよう」

 カウンターに座った匠と少年は、マスターである細身の男からそれぞれ飲み物を受け取る。匠は慣れた手つきで日本酒を口へと運ぶが、少年は牛乳が入ったグラスを手に取ろうとすらしなかった。

 ただ、ひどく淀んだ眼でグラスを見ていた。

 「話には聞いていたが……これは思ったより重症だな」

 少年のただならぬ様子を間近で見て、マスターは改めて目の前にいるこの少年がどれだけ深い傷を負っているかを知った。

 そもそも、なぜこのマスターが少年のことを知っているか……答えは簡単である。

 「昨日、お前から電話があった時は何かの冗談かと思ったがな。しかし、いくらなんでも無茶苦茶じゃないか? 傷心の子どもをこんな場所(・・・・・)に連れてくるなんて」

 そう、匠は事前にマスターに連絡して少年を連れてくることを話していた。まあ、それも当然だろう。何の連絡もなしに連れていけば、入店拒否されてもおかしくない。そもそも普通なら事前に連絡しても拒否されるようなものだが、このマスターと匠は旧知の仲であったため特例として許してくれたのだ。

 「……今まで知らない世界に触れる。そうすることで、この子が何かに興味を持てばと思ってな」

 そして、なぜ匠が子どもをバーに連れてきたかというと、心に深い傷を負った彼のためを思ってのことだった。

 彼は、そのあまりに深い心の傷のせいで何事にも興味を示すことが無くなっていた。年齢的に普通なら遊びたい盛りのはずなのに、どんなに珍しい玩具や知らなかった遊びが目の前にあっても動くことは無かった。匠や乙女の方から声をかけても無言で首を振るばかりで、匠は彼を引き取ってから彼が何かで遊ぶところを見たことが無く、彼の心の傷の深さを物語っていた。

 そんな優が興味を示すのなら何でもいい、たとえ一般的には間違っている物だとしても……匠はそう考え、行動に移したというわけだ。

 「……見たところ、効果は期待できなさそうだがな」

 しかし、当の優はというと出されたミルクにも手をつけず、ただただグラスを見つめるだけ。店内に流れる音楽にも、カウンターの向こうに並んだボトルにも……一切興味を向けようとはしなかった。

 (そう上手くいくとも思ってなかったが……やはり駄目か。さて、どうしたものか……)

 匠が次の手を考えようとした……その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──カラン

 

 

 

 

 

 

 

 

 入店を告げる鈴の音が鳴り、一人の男が入ってきた。

 ひどく疲れているようで、肩を上下させながら息をしている。バーにはお似合いのスーツを身につけたその男は、大量の汗が流れている顔をマスターに向け、ひくついた笑顔で口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……リ、リンゴジュースって…………あるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「今日は本当に珍しい客が来るな……。子連れの旧友、そして……いい大人の迷子(・・)とは」

 「悪かったな……。ヒデェ方向オンチなんだよ……」

 男が来店してから数分後……男はリンゴジュースで喉を潤すと、店に辿り着いた経緯を話し始めた。

 なんでも知り合いと会うために待ち合わせ場所に向かっていたが途中で迷ってしまい、かれこれ一時間ほど彷徨った挙句にたまたま見つけたこの店に入ったというわけらしい。男は明らかに成人していたが、その経緯だけを聞くと子どもが言ったようにしか聞こえない。

 マスターは仕方なさそうにため息をつくと、奥から携帯電話を持ってきて男に渡した。

 「その知り合いに繋がる番号がわかるんなら、それ使いな。さすがに電話くらい使えるだろ」

 「機械は苦手だが、そこまでじゃねーよ。えーっと……この店、名前は?」

 「桜花(おうか)だ」

 「桜花ね……。じゃ、ちょっと借りるぜ」

 マスターに店の名前を確認すると、男は席を立って知り合いに電話をかけ始めた。どうやら知り合いも飽きれているらしく、男は苦笑いをしながら「仕方ねーだろ」などと話していた。

 そうして男は、知り合いに「桜花」という店名を告げ、最後に「待ってるぜ」と言って電話を切った。どうやら知り合いがこのまま店まで迎えに来るようだ。男は携帯電話をマスターに返すと、ニッと爽やかな笑みを浮かべた。

 「迷惑かけたな。迎えに来るらしーから、もうしばらく邪魔するぜ」

 「そうか」

 「……しっかし、ここも珍しい店だよな。子連れで来店できるバーなんてそうそう無いぜ」

 知り合いが迎えに来ることになり安心したのか、男は今まで触れようとしなかった少年の存在に目を向け始めた。見知らぬ大人だというのに、少年はチラリと男を見るとすぐに目を逸らした。緊張や恐怖から……という様子ではない。ただ興味を失ったように、表情一つ変えずに目の前のグラスへと視線を戻したのだった。

 「この子は特別だ。少し訳ありでな」

 「……ま、それはなんとなくわかるぜ」

 少年の抱える闇の大きさは一目でわかったらしく、男はそれだけ言うと出されたリンゴジュースを口にする。そして、そこから根掘り葉掘り事情を聞いたり、あれやこれやと話を盛り上げようとすることもなく、店内は音楽の身が流れる静かな空間となった。まぁ、バーという場所らしいといえばらしいのだが。

 「……悪いな。もう一杯もらえるか」

 歩きすぎて喉が乾いていたのか、男はリンゴジュースを飲み終わるとおかわりを要求した。それに対して、マスターは空になったグラスを下げつつ男が求めるもう一杯の準備を始めた……のだが。

 「ところでアンタ、まさかと思うが金はあるんだろうな? あいにくこっちも商売だから、タダってわけにはいかないぞ」

 「ハッ、馬鹿にすんのもいい加減にしてくれよ。自分が持ってる金もわからねーほど馬鹿じゃねーよ」

 「道はわからなくなったのにか?」

 「うっ……そ、それとこれとは話が別じゃねーか……」

 的確なツッコミを受け、男は顔を引きつらせる。明らかに分が悪い会話を終わらせようと、男は内ポケットへと手を伸ばして財布を取り出そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……あ?」

 が、そこで男の動きが止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ゴソゴソ

 「…………」

 ──ポンポン

 「…………」

 ──バサバサ

 「…………」

 ズボンのポケットも調べ、全身を軽く叩いて感触を確かめ、上着を脱いで扇いだ……が、見るからに何も入っていない様子だった。そして……

 ──ダラダラダラダラダラダラダラダラダラ

 男は店に入ってきた時よりも大量の汗を流し始めた。

 「……おい、アンタ」

 「ち、違うんだぜ!? 家出た時は確かにポケットに入れててだな!? た、たぶん迷ってる間に落としちまっただけで……」

 「……警察、呼ぶか」

 「だああああ!? ま、ままま待ってくれ! 金はツレが絶対に払う! アイツはその辺しっかりしてるから財布がないなんてことはないはずだ! だ、だから警察なんて穏やかじゃねー話はやめてくれ!」

 「と、言ってもな……。こっちも商売である以上、まだ来てないアンタの連れに免じてタダにするわけにも……ん?」

 まさかの財布が無いという事態に大慌てする男と頭を悩ませるマスター。さてどうしたものかと考えていたマスターだったが、ふと何かを思いついたかのような顔をした。

 そしてまたしばらく考えると……ニヤリと口角を上げながら男にある提案(・・)をした。

 「……なあ、場合によっちゃ全部タダにしてやってもいいぞ」

 「は、はあ……? そりゃ一体どういう……」

 「アレ(・・)で満点取れたらな」

 そう言って、マスターは店の奥側を指差した。見ると、そこにはテーブルが何台かと……ダーツ台が三台ほど置かれていた。

 「……あんな物、いつの間に置いたんだ」

 「つい最近だ。知り合いがいらないからって持ってきてな。ま、ウチはダーツバーじゃないからあんな奥の方に置いてるがね。なんならお前もやるか?」

 「近代的な遊びは好きじゃない」

 「ま、お前はそう言うだろうと思ったよ。それで? アンタはどうする?」

 何度か足を運んでいる匠もダーツ台があったことは知らなかったらしく、少し驚いた様子を見せた。だが、すぐに興味を無くしたようですぐに視線を逸らした。その反応はマスターも予想していたようなのでスルーしたが、それに対して男はというと……

 「……満点取れば、タダでいいわけか?」

 「ああ、男に二言はないぜ」

 「……へぇ」

 「……?」

 その声を聞いて、少年はふと男の方を見た。そして……思わず目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──びびびびび

 男の目……黒目(・・)白目ギリギリ(・・・・・・)のところまで動き、奇怪な音を発していたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……遊びでダーツはやらねー主義だが、仕方ねぇか。考えてみれば、ツレが金を持ってこない可能性だってあるわけだからな」

 (……雰囲気が変わった?)

 男の態度の変わりようは、匠もすぐに気付いた。いや、もはや態度どころではない。纏ってる雰囲気そのものが先ほどまでとは別物のようだった。

 「じゃあマスター、さっきアンタが言った条件でやらせてもらうぜ。満点取れたら全部タダだ。ちなみに何ラウンドだ?」

 「……なんだか自信ありげだな。なら、8ラウンドといこう。3投8ラウンド、ルールはシンプルにカウントアップで」

 改めてルールを決め、マスターは男に矢を渡す。矢を受け取った男は、不敵な笑みを浮かべながらダーツ台の方へと向かう。

 「了解だ。……あぁ、ちなみに言っとくぜ、マスター」

 そして……男は構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「後悔すんなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──完敗だ」

 そう言って、マスターは男の前に新たに注いだリンゴジュースを出す。その態度は平静を装ってはいるが、額には冷や汗が伝っていた。

 「おう、ありがとよ」

 対して男は満面の笑みでリンゴジュースを受け取り口にする。それもそうだ。その一杯も含め、男がここで飲み食いする物は全てタダとなったのだから。

 「しかし……まさか本当に満点を取るとはな。アンタ、プロのダーツプレイヤーか?」

 「そんな輝かしいもんじゃねーよ。ただ、ダーツ(コレ)ばっかやってただけだ」

 「ハァ、とんだ出来レースだったわけだ……」

 「言ったろ? 後悔すんなって」

 支払いという唯一にして最大の問題が解決したおかげか、ニヤニヤと笑みを浮かべながら男は飄々と語る。知らずとはいえ、よりによって相手の土俵で相撲を取ってしまったマスターは「わかってる」と言いながらも頭を悩ませていた。

 数分前とは打って変わって真逆の態度となった二人。それはもちろん先ほどの勝負のおかげなわけだが……もう一人、その勝負によって様子が変わった者が一人いた。

 「…………」

 それは、先ほどまで何があっても反応もせず、興味も示さなかった少年だった。少年は、先ほどまで男がプレイしていたダーツ台をただジッと見ていた。

 「……? どうし──」

 そんな少年の変化に気付いた匠が少年に声をかけようとした……その時だった。

 ──ガタッ

 突如、少年が椅子から下りてダーツ台の方へと向かっていった。そして、近くのテーブルに置かれていた矢を手に取る。

 まさか……匠がそう感じた次の瞬間────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ヒュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──ッ!!」

 少年が、矢を投げた。いや、ダーツをプレイした。今まで何をしても興味を示さず、何をしようともしてこなかった傷心の少年が……ついさっき見知らぬ男がやってみせたダーツを自らやり始めたのだ。その姿に、匠は大きな衝撃を受けた。

 だが、衝撃を受けたのはそれ(・・)だけではなかった。

 ──カッ!

 少年が投げた矢は、先ほど男の矢が全て刺さった場所(・・・・・・・・・・・・・・・)へ吸いこまれるように刺さった。

 そこは、カウントアップでいうなら20点のトリプル……つまりは3倍の60点が取れる最高点の場所だった。もちろん最高点を取れる場所なので、その範囲は狭く当てるのは容易ではない。

 だが、少年はそこに当ててみせた。彼は今までダーツなどやったこともなければ、ダーツの矢を触ったことすらない。(保護者である匠が昔の遊びしかやらないため)

 突然の衝撃の連続に、匠はしばらく言葉を失っていた。だからだろう……そんな少年に最初に声をかけたのはあの男だった。

 「……おい、ガキ。今のは狙ったのか? それともたまたまか?」

 見ると、男はいつの間にか咥えていた煙草をふかしながら少年の方を見ていた。その眼は、明らかに少年を興味深そうに見ていた。慣れなければ鼻をつまみたくなるような独特の匂いが漂い始めた中、少年はそんな男の視線を真正面から見返していた。

 「──った」

 「あ?」

 「ねら、って…………やった…………」

 「ッ!?」

 細々と、かすれるような声で答えた少年。それは匠にしてみれば久しぶりに聞いた少年の声だったが、まさかこんな形で久々に声を聞くことになるとは思わなかっただろう。

 というより……思いたくはなかっただろう(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……首だと(・・・)思って(・・・)…………狙って、やった…………」

 久しぶりに聞いた少年の声には、明らかな怒り(歪み)が込められていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──び

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──びびびびびびびびびびびびびび

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──面白ェ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だからぁ! もっと肘を上げろ! 何回言やわかんだ、このクソガキ!」

 「……こう?」

 「それじゃ上げすぎだっつの! そんで肘ブレ過ぎだ!」

 「……子ども相手にそんなムキになるな」

 それからすぐ、男は少年にダーツを教え始めた。とても丁寧とは言い難い教え方だったが、少年は文句も言わずにその教えを受け入れていた。

 「…………」

 「……難しい顔してるな」

 「……喜ぶべきことか、悲しむべきことなのか。頭も悩ませる」

 「まぁ、だろうな」

 そんな光景を、匠はどこか遠い目をしながら眺めていた。

 今まで、何をしようと動こうとしなかった少年がようやく自分の意志で何かをし始めた。それ自体はもちろん喜ぶべきことだ。

 しかし、少年が発したあの言葉──

 『……首だと(・・・)思って(・・・)…………狙って、やった…………』

 そこに込められたのは、言葉だけ見てもわかる通り……殺意。動き始めたからと言って、少年の心はその内に刻み付けられた傷から欠片も癒されてはいない。

 むしろ、そこに囚われているからこその行動だった。

 「だが、大事なのはこうして何かを始められたってことだ。きっかけは喜ばしいことじゃなかったとしても、ここから好転していく可能性は十分にある」

 「……そう思いたいがな」

 そう呟いて、匠は改めて少年を見る。大の大人が年甲斐もなく大声を出しながら発する教えを聞きながら、ダーツ台を見据える少年。その眼は、標的を射抜こうと狙いを定めているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それが……先輩がダーツを始めた理由、なのですか」

 「決して褒められたものじゃないがな。ただ、あの時のオレにはあの人のダーツがハッキリとそういうもの(・・・・・・)に見えた。……あの人が纏っていた雰囲気が、そう見えさせた」

 「ナルホドな、表に立つ人間じゃないってのはそーゆーコトか」

 「そう考えると、優の射撃の腕もその時の経験があってこそ……ってことだな」

 優から語られた彼の過去に、桜は思わず拳を握る。彼女の性格を知っている優にしてみれば、このような反応は予想していたのだろう。弁解もすることなく、ただ淡々と事実として語っていた。

 そんな彼の話に次第に興味を持ったのだろう。刻と王子は頷きながらそれぞれが感じたことを口にし始めた。

 (といっても、実際のところは……)

 「……夜原先輩?」

 「いや、なんでもない」

 ふと、優が遠くを見るような目をしたのが気になった桜だったが、優はすぐに首を振った。

 「……んで? その『迷路の悪魔』センセーにずっと手取り足取り教えてもらったってカ?」

 「ああ。あの人は基本、人に教えるなんてことはほぼしないらしいんだがな。まあ、あの人にとっては暇潰しの一種だったかもしれないが、その後もオレはそのバーに通ってダーツをし続けた。あの人が客として来た時にはダーツを教えてもらいながらな。といっても、そんなに長い期間じゃない。あの人もいつの間にかそのバーに来ることはなくなったしな」

 「フーン……で、それで終わりなワケ? んだヨ、もーちっと面白い話が聞けると思ったのにヨ」

 「刻君! そのようなことを言っては……!」

 「……面白い話、か」

 「ア?」

 ようやく持てた興味もなくなってしまったような刻の言葉に、優はフッと何か思い出し笑いをするかのように呟いた。そんな優の態度に刻は眉をしかめると、優は言葉を続けた。

 「面白い話になるかはわからないが、もちろんこの話はこれで終わりじゃない。あの人が来なくなってからもオレはダーツをし続けた。教わったことを反復しながらな。そうしていく内にオレは乙女から『コード:ブレイカー』の存在を聞き、こうして『コード:07』となり──オレは『コード:ブレイカー』としてあの人と会うことになった」

 「ハ?」

 優の言葉に、刻は大きく口を開けながら首を傾げる。『コード:ブレイカー』として会う……それが意味することがどういうことか……そこにいる人間全員がわかっていた。

 「……そ、それはまさか……夜原先輩は、その先生殿を…………」

 「勘違いするな。ターゲットは別だ。ただ、そのターゲットを狙う過程で、あの人に会ったということだ。……オレがやってきた中で、他とは違う唯一の仕事────

 

 

 

 

 

 

 

 

 唯一、誰も死ななかった(・・・・・・・・)仕事の時にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……では優君、次の仕事です」

 「はい、平家さん」

 「ターゲットは、ある賭けダーツの胴元を務める組の若頭。一勝負で数千万円ものお金が動くかなり大規模なものです。あなたは、そこにプレイヤーとして忍び込み、ターゲットに近づいてください」

 「賭けダーツ……ですか」

 「聞いたところによると、優君はダーツが得意だそうで。人見が言っていましたよ」

 「……少し覚えがあるだけです」

 「そう謙遜せずに。ハッキリ言って、この賭けダーツは動く金額だけに参加するプレイヤーも並ではありません。しかし、あなたなら十分に通じると人見も言ってましたから」

 「…………」

 「……どうしました?」

 「…………いえ。これが……ターゲットなんですね?」

 「ええ。その写真の男が今回のターゲット────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 講談組の若頭……絹守(きぬもり)一馬(かずま)です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自粛自粛……
色んなことに対する気力も無意識に自粛しているような
他のことに熱がうつらないよう、ようやく再開できたこの作品に集中していこうと思います


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