CODE:BREAKER -Another-   作:冷目

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再び遅れての投稿で申し訳ありません!
言い訳になりますが、私生活の方で色々と変わりまして書く時間を見つけられませんでした……
今はなんとか毎日少しずつ書いていけるようにしています
それでは最新話……どうぞ!





code:60 傾く天秤の支柱

 「私のロストは『時を遡る』。身体はもちろん、心も何年も前に戻ってしまう」

 大神の一撃を受け、その身体を『青い炎』に焼かれていく『捜シ者』。そんな中、彼が明かした「ロスト中」だという事実は、そこにいる者たち全員に衝撃を与えた。

 それでも、そのロストの詳細を聞いたところで桜はハッとあることに気付く。

 「『時を遡る』……! そうか、だから『捜シ者』は大神とそっくりな容姿だったのか……」

 「その通りだよ。すでに過ぎた姿だというのに、私はこの姿で何年も(・・・)星の廻るのを見てきたんだ」

 「な、何年も……?」

 しかし、気付いた際の清々しい気分は束の間。また新たな疑問が桜の中で浮かぶ。そして、その疑問は『捜シ者』と同じ者……異能者たちも見逃さなかった。

 「待て……。ロストが何年も、だと……? 異能のロストは、一日経てば元に戻る……。それが、なんでお前だけ……」

 「夜原先輩! 無理をしては──!」

 「どうなんだ……? 答えろ、『捜シ者』……」

 「…………」

 桜が感じたものと同じ疑問が彼女の背後から『捜シ者』に問いかけられる。見ると、『捜シ者』の攻撃により深手を負った優が瓦礫に寄りかかりながら、荒くなりそうな息を整えながら『捜シ者』を睨みつけていた。心配して駆け寄る桜だったが、優はそんなことを気にせず言葉を続ける。

 そんな優に対して、『捜シ者』は眉一つ動かすことなく静かに優を見据える。そして、何かを求めるように『パンドラの箱(ボックス)』に手をかざしながら答えた。

 「仕方がないんだ。元に戻るべき異能がこの身体から消えた(・・・)んだから、ロストは続くしかない。……あの時、この『パンドラの箱(ボックス)』に私の異能が閉じ込められてからね」

 「さ、『捜シ者』の異能が『パンドラの箱(ボックス)』に──!?」

 「なるほど……。確かに、それなら最強の異能者になれるって話も、納得だな……」

 もったいぶるようなことはせず、淡々と答えを用意する『捜シ者』。だが、それは『捜シ者』の異能が『パンドラの箱(ボックス)』に閉じ込められているという予想だにしないものだった。その答えに桜は隠す余裕もない驚きを見せ、優は冷静に情報の整理に徹していた。

 そして、残った一人も冷静に動きだす。

 「……それがどうした? その箱に何が入っていようと関係ない」

 優と、優に駆け寄る桜を庇うように手をかざしながら大神が前に出た。『捜シ者』がロスト中であり、その『捜シ者』の異能が『パンドラの箱(ボックス)』に閉じ込められている……この衝撃であるはずの事実にも動揺せず、ただ静かで熱い闘志を『捜シ者』にぶつけていた。

 そして、同時に彼も真実を突きつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「『パンドラの箱』(それ)は珍種の血がないと開かない……。お前が箱を開く前に全てを終わらせればいいだけだ」

 「──!?」

 『パンドラの箱(ボックス)』は珍種の血で開く……今まで聞いたことがなかった言葉に、優は大きく目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……大神? なんで、お前はそんなことを知って──」

 「へぇ、どうやら少しずつ思い出してきたみたいだね。あの時のショックでだいぶ記憶が混濁していたようだけど……まぁ、どうでもいいさ」

 珍種という単語に疑問符を浮かべる桜をよそに、優は身を乗り出して大神を問いただそうとする。すると、大神よりも先に『捜シ者』が口を開く。どうやら彼にしてみれば隠すことでもないらしい。そのまま『捜シ者』は自分の手の内で浮かぶ『パンドラの箱(ボックス)』を差し出した。

 「そう、この『パンドラの箱(ボックス)』を開くには珍種の血が必要。そして珍種の血によって開いた時、ここに閉じ込められていたものは放たれる。私の異能も、それ以外に入っているたくさんのものも…………もちろん、お前の大切なもの(・・・・・・・・)もね」

 「……さっきも言っただろう。関係ない、と」

 隠すことなく『パンドラの箱(ボックス)』を開く条件を『捜シ者』は明かした。さらに、『パンドラの箱(ボックス)』には大神に関係あるものも入っているとも口にした。

 だが、大神は眼を鋭く光らせて、戯言を切り捨てるように再び刀に手をかけた。

 「次で終わらせる」

 「……お前は昔からやると決めたことは必ずやり通してきたが、その技をここまで短期間で仕上げることまでやってのけるとはね」

 刀を構える大神を前に、『捜シ者』は記憶を辿るように呟く。そして、表情を何一つ崩すことなく平然と続ける。

 「でも、もう見切った」

 「だからどうした。見切ったところで、ロスト中のアンタじゃ避けられない」

 「……だから、ロストはどうしようもなく憂鬱なんだ」

 一方的に傷を負った状態で放った「見切った」という言葉。強がりのようにも聞こえるこの言葉だが、『捜シ者』の眉一つ変わらない表情を見る限り、それが偽りだとは到底思えない。

 しかし、彼の言葉が真実か強がりなど気にすることなく、大神は鋭い眼を光らせて意識を集中させる。それに対し、『捜シ者』はひどく憂鬱そうに近くにあった瓦礫に腰を下ろした。大神の言葉を否定せず、素直に認めているところを見るとおそらく真実なのだろう。勝機を感じた桜は強気に身を乗り出す。

 「では、負けを認めるのだ……。このままやっても──」

 「あう」

 「……ぬ?」

 と、緊張感に支配されたはずの空間に明らかに場違いな声が響く。ひどく能天気で、気を張り詰めた状態で聞けば確実に気が抜けてしまうような声。いや、正確にはその姿が原因かもしれない。

 とにかく、先ほどまではいなかったはずの……場違いな人物が確かにそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いかにも、この秘密の抜け穴は超狭くて嫌になっちゃうんだな」

 『か、会長!?』

 「うむ、私は渋谷生徒会長だよ?」

 『にゃんまる』……ではなく、その着ぐるみを着た渋谷生徒会長であった。よほど狭い場所を通ってきたらしく、尻尾部分の先端が少しばかり切れていた。

 だが、そんな部分などに目はいかず、平然としている会長の姿に開いた口が塞がらなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「い、いや……それはおそらく皆わかっていると思うのですが……」

 「そう? あ、優君。この尻尾の部分、縫っといてくれない?」

 「……今は、無理です。すみません……」

 『おやおや、会長は戻ってきちゃいましたか』

 『テメェ、マジで何考えていやがる……』

 あまりにもいつも通りな会長の姿に、桜はツッコむにツッコめず、優は思わず謝り、平家は笑みを浮かべ、王子は完全に呆れていた。そして、大神はというと……

 「このクソネコが……! 空気も読まねぇで何しに来やがった……!」

 「い、いかにも落ち着いてほしいんだな……」

 怒りを隠そうともせず、思いきり会長の両頬を引き伸ばしていた。会長もなんとか落ち着かせようとするが、当然のことながら大神は聞く耳を持たない。

 「オラ! 今は珍種の血のことで立て込んでるんだ! お前はさっさとどこかに行ってろ!」

 「えー、仲間外れは寂しいよ」

 会長を追い払おうと、「しっしっ」と手で払いのけようとする大神だったが、会長はのらりくらりとかわしていく。その様子にさらに腹を立てる大神は、根本的な問題を突きつける。

 「うるせぇ! 第一、お前は中立だろうが! なんでわざわざ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「中立はもうやめたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は──?」

 会長はポツリと発したその言葉を完全に理解する前に、大神の顔を一発の拳が殴り抜いた。

 「ぐっ!?」

 「お、大神!」

 そして、殴り抜いた張本人はゆっくりと『捜シ者』の隣に移動し……その肩に触れ、彼の身体を燃やす『青い炎』を完全に消した(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いかにも、私は『捜シ者』側につくことにしたよ」

 そう宣言したのは見間違えるはずもない……中立であるはずの会長そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「会長!? そんな……どうして!」

 「冗談……なわけないし、それで片付く問題じゃないな……」

 あまりに突然の対立宣言に、桜と優は驚きを隠せない。あれだけ中立という立場を守ってきたはずの会長が、こんなにもあっさりと『捜シ者』側に寝返ってしまった。信じられない話だが、珍種である彼の力を使って『青い炎』を消したという行為が紛れもなく『捜シ者』に味方するということを表していた。

 「それじゃあ、あとはよろしく。……お師匠様(・・・・)

 「いかにもっ」

 そのまま会長に後を託す『捜シ者』。会長はそれに答え、『捜シ者』を庇うように一歩前に出た。そして、次の瞬間にはその姿は消え、大神との距離を詰めていた。

 ──ガッ! ドッ! ゴッ!

 「ぐ! がっ! この、クソネコ……! 何考えてやがる!」

 「話している暇が……あるのかい!」

 「くっ!」

 次々と打ち込まれる会長の拳をなんとか耐えながら、大神は会長の真意を問いただそうとする。だが、当の会長はそれを答えようとはせず、容赦のない拳を振るい続けた。

 「もうやめるのだ、会長! どうして──!」

 「君は邪魔しない」

 「ッ──!?」

 一向に大神への攻撃をやめようとしない会長の姿に、桜は居ても立っても居られずといった様子で立ち上がった。しかし、次の瞬間には『捜シ者』が背後まで移動しており、陶器のような冷たさを持つ手が桜の手首を掴み、それを止める。突然のことに桜は息を呑むが、『捜シ者』はまるで嘲笑するかのような眼で大神と会長の闘いを眺める。

 「……愛情って愚かしいものだね。平気で、こんなにも簡単に事の善悪を超えてしまう」

 「な、何を言って……」

 「ハアッ!」

 『捜シ者』の意味深な呟きに気を取られる桜だったが、それを断ち切るように優の斬撃が閃く。桜を巻き込まず、『捜シ者』だけを狙った正確な斬撃だが、『捜シ者』はその場から跳んでそれを避ける。

 しかし、同時に桜を掴んでいた手も離したようで、桜と『捜シ者』の間に距離が生まれる。

 「耳を貸すな、桜小路。そして、自分の身くらい自分で守れ」

 「す、すみません……」

 厳しい言葉をかけつつも、優は桜を庇うようにして『捜シ者』との間に立つ。砕けて短刀ほどの長さになった刃を『捜シ者』に向け、意識も彼に集中させていた。だが、『捜シ者』は呆れた様子でその姿をジッと見て、ポツリと呟いた。

 「……よほど深い傷を受けたんだね。話に聞いていたスピードより、ずっと遅い」

 「確かに本調子には程遠い……。だが、人一人くらいは護れる」

 「それはなにより。だけど、私は君と闘う気はない。それよりも、彼らを見ている方がいい」

 闘志をむき出しにする優に対し、『捜シ者』はゆっくりと視線を動かして大神と会長の方を見る。つられるように優たちも二人の方を見ると、状況は明らかに大神の劣勢だった。

 無理もない。会長の強さは日々の修業で体験した通り、大神たちのはるか上をいっている。コケシを取るだけでも精一杯だったことを考えれば、対等に闘うのは難しいだろう。

 「この、いい加減に……!」

 「ふっ!」

 「うぐっ……! おい! なんとか言え、クソネコ!」

 「…………」

 ただただ一方的な攻撃を続ける会長。大神はその攻撃を受けながら会長に言葉をかけ続ける。しかし、会長はそれに答えようとはしない。表情が変わらない着ぐるみを着ているため、彼の行動が本心からのものなのか、読むこともできない。

 『大神君』

 「平家……!?」

 すると、いきなり通信機から聞き慣れた平家の声が響く。耳に着けていた通信機を指で押さえながら、そこから聞こえる彼の声を聞き逃すまいとする。優も『捜シ者』への警戒を解かず、同様に通信機を指で押さえた。

 『会長が『捜シ者』に味方したのは……あの『約束(・・)』のせいかもしれません』

 「『約束』……!?」

 『それって……前に会長が、『捜シ者』に連れ去られた桜小路を連れ帰ってきた時に言っていたことですか?』

 『ええ、その通りです』

 平家が口にした『約束』という言葉に、同じく通信機を通して優が心当たる記憶を答える。どうやらそれは平家が考えていたことと同じだったようで、同意の言葉に続いて彼の考えが語られた。

 『先ほど大神君も言っていた通り、『パンドラの箱(ボックス)』を開くには珍種の血が不可欠。おそらく『捜シ者』が桜小路さんを連れ去ったのは、箱を開ける際に彼女の血を使うつもりだったのかもしれません』

 『あの『捜シ者』の性格を考えると、必要な分の血だけ取って解放……とはいかないはず』

 『そう。そして、それに気付いた会長が桜小路さんの身の安全と引き換えに、自分自身が『捜シ者』に協力する。おそらく、これが『約束』の内容でしょう。……わかりやすく、()まであったわけですからね』

 印……という言葉を聞いて大神たちが真っ先に思い出したのは、桜の首のちょうど後ろ。『捜シ者』の右手の甲に刻まれている、十字の刺青と同じ刻印(マーク)。もしも、あれが『捜シ者』の合図とともに何らかの効果を発揮するものだとしたら、桜の命は文字通り『捜シ者』の掌の上ということになる。

 もちろん、あの刻印(マーク)が必ずしもそういったものだという確信はないが、『捜シ者』と同じ(・・)というだけでも不吉なものに感じてしまう。刻印(マーク)を見つけた時の、大神の切羽詰まった表情を考えれば余計に。

 「……けど、おかしいだろ!」

 しかし、当の大神にしてみれば納得できるような内容ではなかった。仮に、本当に桜の命がかかっているとしても、それを救うためにしては対価が大きすぎる。

 例え桜の命が助かったとしても、『捜シ者』がそのまま『パンドラの箱(ボックス)』を渡すよう要求するかもしれない。もちろん、協力者として。桜の血を『捜シ者』が手に入れたとしても、それを使わせなければいい話。だが、会長が『捜シ者』に協力しては『パンドラの箱(ボックス)』を開かせないための条件はかなり厳しくなる。

 「いくら桜小路さんの、ためとはいえ……それじゃあ『捜シ者』の言いなりに──!」

 『……零、それは仕方がないことなんだ』

 新たに通信に入ってきた王子の声。負傷して息が荒い中で発した次の言葉は、大神たちの意識を一瞬で真っ白にさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……娘、なんだ。桜小路 桜は渋谷の……会長の、正真正銘の実の娘なんだ』

 「な──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前、桜は大神に「自分は拾われっ子」という事実を明かした。その時は、血の繋がりを無視した桜小路家の絆を感じたくらいで、どこかにいるはずの実の両親についてはなんとも思わなかった。

 『……王子、そのことを桜小路は──』

 『もちろん知らない。いや、これから知ることもないし……知られてはいけないんだ。……渋谷は娘が五歳の時に、桜小路家に預けたらしい』

 『理由は色々あるでしょう。ですが、会長の言葉から考えるなら……珍種としてではない、普通の幸せを娘に願ったのでしょう』

 だが、その実の両親の片方がここに存在し、今まさに相対している。全てを隠して、今まで守ってきた自分の立場も何もかも捨てて、娘を助けるために行動している。今、着ぐるみに隠されてみることができない彼の顔は……どのような表情に染まっているのだろうか。

 「…………」

 様々な思いをそれぞれが抱える中、大神は静かに過去の記憶を思い出していた。修業の中で会長が漏らした、あの言葉を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──大神君。もし私が中立をやめて『捜シ者』側についたとしたら……君はどうする?」

 「はあ……?」

 それは、会長と一対一で修業をするようになってから数日が経った日のこと。その日の手合わせも終わり、修業の後始末をしていた時に会長は静かに尋ねた。突然の問いに、大神は思わず顔をしかめるが、内容から考えてふざけているわけではないと悟ったのだろう。

 「そんなもん、ぶっ殺すに決まってんだろうが」

 「あ、あれ~? もうちょっと悩むとかは……」

 「ねぇよ」

 大神は何の遠慮も無しに、ストレートでキツイ言葉を返した。あまりにハッキリしていたため、当の会長も思わず引いていた。

 だが、そんな反応も束の間。会長は大神に背中を向け、清々したように続けた。

 「……まぁ、それでいいんだよ。大神君、もし私が敵になったら遠慮なく討ってくれ」

 「…………」

 その様子に、大神の中で違和感が膨らんでいく。そして、大神はその違和感を隠すことなく会長にぶつける。

 「……さっきから何を訳のわからないことを言っている。アンタは中立。そもそも、どちらかにつくなんていう喩え自体があり得ないだろ」

 「たとえそうでも……君ならば正しい判断ができるはずだ。大神君……君ならきっと、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉を聞いた時はわかるはずもなかったが、今ならばわかる。会長が言っていたのはまさに今この時のことであり、大神は正しい判断を迫られているのだと。

 会長の思いを知ったことで、大神はよりクリアな気持ちで会長を見る。そうして見るとよくわかった。今の会長は修業の時と比べると、あまりに構えが甘く、あまりに拳が大振りで、あまりにも……

 「……いつもと違って、隙だらけじゃねぇか」

 修業の時とあまりに違う会長の動きを見て、大神は覚悟を決めた。そして、静かに眼を細めて会長を捉える。

 「さあ、大神君! これで最期だよ!」

 それに気付いてか、会長は大神との距離を詰めていく。一方通行に、ただ真正面から突っ込んでいく。それを迎え撃つ大神の眼は……冷たい“悪”の眼。

 「──いい覚悟だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドッ!

 「悪には────悪を」

 「か、会長ぉぉぉぉ!!」

 大神が瓦礫の山から手にした長く鋭い凶器。その先端は確かに会長を捉え、鈍い音を立ててその身体を貫いた。

 本人が知らないとはいえ、大神は娘の前で実の父親を──刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……い、いかにも、これはどういうことかな?」

 「……え?」

 会長は確かに刺された。だが、それは着ぐるみの端っこであり、血も出ていない。だが、貫いた状態で凶器……「取扱注意」の看板がついた鉄の支柱は後ろの壁に突き刺さっており、会長の動きを完全に封じていた。会長は必死に手を伸ばすが、支柱まではギリギリで届かない。結果、手足をジタバタする標本のようになっていた。

 「お、大神……?」

 「──ハッ。笑わせるなよ、お師匠様(・・・・)

 何かを吐き捨てるように呟く大神。わざとらしく「お師匠様」と呼んだかと思うと、そのままニヤリと口角を上げた。

 「正しい判断だと? 悪いな。生憎だが、最初からそんなもの持ち合わせていない。オレは……“悪”なんでね」

 「大神、君……」

 「悪には悪を」──大神にとってモットーとも呼べるこの言葉の通り、彼は自身を“悪”とする。そして、“悪”である自分にとって、正解や相手が求める答えなんて関係ない。ただ自分の中に浮かんだ考えや答え、それだけを中心に行動する。

 だからこそ、大神は会長に向かっていき、その上で動きを制限させた。迷わず討つ──会長のその言葉を完全に無視して。

 「そんな……。すまない、大神君……。結局、私は──」

 「聞かねぇよ」

 大神の意図を感じ取った会長は、申し訳なさそうに目を伏せた。すると、大神は会長の言葉を強制的に中断させ、そのまま背中を向けて歩き出した。

 「アンタは、アンタにとって大切なものを護ろうとしただけ。そんなアンタに謝られる筋合いなんて微塵もない。そもそも……『捜シ者』(ヤツ)を斃せば全ては終わる。箱だの珍種だの、そんな面倒なことはどうだっていいさ」

 「……ありがとう」

 会長を責めることはせず、その思いをくみ取った言葉をかける大神。そして、改めて『捜シ者』を斃すと堂々と宣言する。たとえ桜に刻まれた刻印(マーク)に危険があろうと、それが原因で会長が『捜シ者』に利用されようと関係ない。全ては『捜シ者』を斃せば終わる……大神の言葉に、会長は心からの礼を口にした。

 「ところで大神君。キメッキメのところ悪いんだけど、そろそろこれ(・・)抜いてほしいんだな。いかにも、まったく動けないし」

 「知るか。着ぐるみはそこで見世物にでもなってろ」

 「え~!? 見捨てないでよ~!」

 しかし、そんな言葉も一瞬、すぐにいつもの調子に戻って呑気な口調になる会長。相変わらず調子が狂う物言いに、大神はバッサリと切り捨てる発言をぶつけ、会長はさらに手足をジタバタさせた。

 闘いの最中とはいえ、いつもの日々に戻ったような雰囲気が流れ始める。それを感じ取ってか、今まで隠れていた『子犬』も出てきて、満足そうに後ろ足で頭をかき始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ドッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……そう、こんな面倒なことはもうする必要はない」

 

 

 

 

 

 だが、それは一時の幻想として儚く散り行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「初めから、こうしておけばよかったんだから」

 

 

 

 

 

 その終わりは突然で、あまりに非情な合図となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これで……」

 

 

 

 

 

 そして、その終わりがあってはならない始まりをも告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「この珍種の血で『パンドラの箱(ボックス)』は開く……」

 折れた『捜シ者』の刃。荒々しく崩れた刃先は会長の身体の中心に深々と突き刺さり、紅い鮮血を刀身に滴らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「か、会長ォォォォォ!!」

 『パンドラの箱(ボックス)』と珍種の血……揃ってはいけない二つが、ついに『捜シ者』の手に堕ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか
優は完全にアウェーな感じとなっております
いよいよ本格的に始まろうとしている『捜シ者』との闘いでもそのポジションなのか……ぜひお楽しみに!
なるべく早めに投稿できるよう頑張ります……!
では、失礼します!


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