D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ 作:ケンゴ
宮沢と眞子。白と青のインプレッサがセンターラインを挟んで横並びになり、スタートラインに着く。独特のボクサーサウンドを静かに響かせながら、2台は出走の時を待つ。
「それじゃあ、カウント行きますよー!」
スターター役を引き受けた美春がセンターライン上に立ち、右手を空に向かって突き上げる。
「5、4、3、2、1――」
カウントと共に美春の指が折り曲げられる。
「GO――ッ!」
そして美春の腕が大きく振り下ろされると、2台は一気に加速していく。
――バトルスタートだ。
・バトル車両・
SUBARU GC8 IMPREZA WRX-STi(宮沢 和樹)-V.S- SUBARU GC8改 IMPREZA 22B-STi(水越 眞子)
バトルコース「初音山・下り・夜・晴れ」
バトルBGM「Over The Rainbow(頭文字D ARCADE STAGE Ver.3参照)」
「やっぱ水越の22Bが前だ!」
スタートライン付近に居たギャラリーが叫んだ。ほぼ同時にロケットスタートしたと思われた2台だったが、その差は直ぐに出てしまう。
「まぁ当然っちゃ当然だな」
2台のスタートを見ていた純一が呟く。先程の宮沢とケンタの話を聞く限り、彼のインプレッサはノーマル状態と判断するのが妥当だ。
「水越先輩の車って、結構パワー出てますもんね~」
「それに排気量も、眞子の22Bの方が上だしね」
美春と音夢も、眞子の22Bが先行でスタートするのは当たり前という考えのようだ。
(……いや、少し違う)
しかしただ1人。ケンタは彼女たちと違った思考をしていた。
(確かにチューニングの差はあるだろうが、スタートダッシュを見る限り、宮沢のインプレッサにはまだ余力があった)
先ほどスタートダッシュを決めた2台の姿が、ケンタの頭の中にフラッシュバックする。
「余裕の後追いって事か」
コーナーの奥へと吸い込まれていく2台のテールランプを見送りながら、彼は小さく呟いた。
スタートで先攻した眞子は、リズムよく3速までシフトアップして車速を乗せる。ノーマル状態より100馬力も上乗せされたEJ22型エンジンは、グイグイと車体を引っ張っていく。
「同じGC8型インプレッサだけど、こっちの方が速いわよ!」
第1コーナー。アクセルオフで軽快にタックインを決めていく22B。右への切り返しもクリップをしっかりと取り、続いて左の複合ヘアピンへ進入。ステアを一気に左へと切り込み、慣性力を使ってリアを振ってテールスライド状態へ。アクセル全開のまま、カウンターステアを当ててコーナーをクリアしていく。
「おいおい……マジかよ!」
22Bの動きを後ろで見ていた宮沢は驚く。フェイントモーションからの超高速度の慣性ドリフト――中々真似のできない高等技術だ。
「さながらWRCだな……」
ワイドボディの22Bのその風貌も合わさり、まるでWRCラリーカーの走りを見ているかの感覚に陥る。
(まぁ……その位してもらわないと、こっちも楽しめないけどなっ)
内心で軽口を叩きながら、宮沢のインプレッサも左ヘアピンへ進入。一気にブレーキを踏み込みステアを左へ。リアタイヤのグリップが一瞬で失われてテールスライドを起こし始める。そしてアクセルを全開にしてドリフト走行へ。カウンターを当てずステアリングを真っ直ぐに戻し、ゼロカウンタードリフトでコーナーを掛け抜けていく。眞子の22Bほど派手さは無いものの、とてもスムーズなコーナリングだ。
立ち上がりは4WDの恩恵を活かしてロケットダッシュ。一気に眞子の22Bへと肉薄する。
「なんだあのインプレッサ!?」
「水越の22Bを相手に一歩も引いてねぇ!」
ヘアピンで2台を見ていたギャラリーが騒ぐ。それほどまでに、宮沢の走りは圧巻だった。
「さてと。ギャラリーを沸かしたところで、追走開始と行きますか!」
宮沢はシフトを3速へ放り込み、前を走る22Bをしっかりと見据える。既に眞子の22Bは次の右コーナーをコーナリングしている最中だ。単純にパワー差が出ているのか、それとも宮沢が余力を残しているのか。真相は定かではないが、2台の距離は少し遠い。
インプレッサが右コーナーへ差し掛かる。アクセルオフと同時にステアを切り込み、一気にイン側のクリップへ車体を寄せる。クリップポイントを通過して車体が安定したと同時にアクセル全開。4つのタイヤが地面を蹴飛ばしコーナーを立ち上がっていく。まだ22Bのテールランプは遠い場所で灯っている。
(あの22B、相当パワー出てんなぁ。いくら22Bがクロスミッション積んでるモデルとは言え、2速から3速ギアのシフトアップで離されるかよ)
前を走る22Bを冷静に分析する宮沢。短い直線を駆け抜け、ヘアピンコーナーが連続して続く区間へと2台は突入して行く。
眞子の22Bは相変わらずリアタイヤを少し滑らせながら、素早いコーナー進入を続ける。殆どアクセルを緩めることは無く、攻撃的なドライブだ。
「しかもDCCDをフリー設定で走ってんのか? えらくリアが巻き込んでるじゃねぇかよ」
22Bの動きを見ていた俊介がそう呟く。彼はギアを2速ホールドのまま、ステアリング操作だけでこの連続ヘアピンコーナーを抜けていく。
きっちりとクリップを取り、徐々にコーナリングスピードを上げていけば22Bへと追いつける。パワーで劣っていても、走行ラインのシビアさでインプレッサは驚異的な追い上げを見せていた。
「さて、そろそろ面白くなってきた頃合いかな?」
スタート地点に居たケンタが、ふと呟く。
「どういうことですか?」
ケンタの言葉に、美春が反応した。
「インプレッサて車の戦闘力を考えれば、今頃2台は連続ヘアピン区間あたりに居るだろうな。まぁパワー差を考えて、眞子の22Bが先行してるって形か」
「あの……さっぱり分からないんですけど~……」
美春の頭の上で?マークが浮かぶ。
「なぁお前ら。ジムカーナって自動車競技を知ってるか?」
いきなりのケンタの問いに、3人は不思議な顔をした。
ジムカーナとは、広大な敷地内にパイロンなどを置いてコースを作り、1台の車でタイムアタックをする競技だ。
「勿論知ってるけど、それがどうかしたか?」
純一が他2人の気持ちを代表した質問をぶつける。
「いま眞子の相手をしてる宮沢 和樹だが――彼はプロのジムカーナ選手だ。しかも昨シーズンのシリーズチャンピオンのオマケ付き」
ケンタは苦笑しながら自身のスマートフォンを弄り、画面を3人に見せた。
「はっきり言っちまえば凄腕のプロレーサーってことだ。オレも何処かで見たことある顔だとは思ってたんだけどな」
ケンタはスマホの画面を消し、コースへと顔を向ける。
「このバトル、そう簡単には決着はつかなさそうだな――」