D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ 作:ケンゴ
「少し差は詰まったか……?」
直線主体の高速区間の終わりを告げる右コーナーを駆け抜け、前を走る22Bのテールランプを見据えて宮沢が呟く。続いて現れるのは、低速ヘアピンコーナーが続く4連続ヘアピンコーナー区間だ。
前を走る眞子の22Bのブレーキランプが赤く灯り、一気にコーナーの奥へと吸い込まれていく。
「さぁ行くぜ、インプレッサ!」
22Bのテールンランプの軌跡を見届けた宮沢は、己を鼓舞するかのように車内で叫んで目前に広がってくる右ヘアピンを見据えながら、インプレッサの車体をアウト側のラインへと振る。
そしてヒール&トゥで回転数を合わせながら4速から2速まで一気にシフトダウン。エンジンブレーキも併用しつつ、インプレッサの4つのブレーキディスクが真っ赤になるほどのハードブレーキングを行い、ステアリングを進行方向に向かって切り込む。
するとインプレッサのリアタイヤはあっさりグリップアウトし、鮮やかにテールスライド状態へ移行。そしてそこからアクセル全開。フルタイム4WDの恩恵で4つのタイヤに駆動力が一気に伝達され、激しいスキール音を奏でながら4輪ドリフト体制へと入る。
「逃がさないぜ――」
22Bと比べるとコーナーへの進入速度は遥かに速い。しかしインプレッサの車体はアウト側に流されることなく、きっちりとイン側のクリップポイントを捉えて理想のコーナリングラインを描く。フロントノーズとイン側ガードレールの隙間はわずか5センチ程度。文字通り最短距離を駆け抜けて、インプレッサはコーナーをフルスロットルで駆けていく。
「よっ、よっ……」
コーナー立ち上がりでアウト側ガードレールにテール部分をギリギリまで寄せた所で、一気にステアを逆方向へと傾ける。車の重心が急激に変わったことによりインプレッサのリアが暴れ出すが、宮沢はこれを完全に制御してテール部分の流れる方向が変わった瞬間にカウンターステアを当てる。
連続ヘアピン区間のため、右コーナーを抜けた瞬間に左エアピンコーナーが現れる。インプレッサはテールが流れた状態でそのままコーナー進入。いわゆる逆ドリフトというテクニックだ。
「嘘でしょ!?」
後ろのインプレッサの動きを、バックミラー内で確認していた眞子は思わず驚きの声を上げた。彼女の知る限り、あんな芸当をやってのける人物の心当たりは多くない。
圧倒的に速いコーナリングスピードで22Bに喰らいついてくるインプレッサに注意を払いつつ、眞子はハイパワーを武器にしたコーナリングを続ける。
(立ち上がり加速を活かす走り……いわゆるスローイン・ファストアウト走行か。まぁハイパワーを活かすのなら、自然的にそういう走りになるよな)
2速ギアのままフルスロットルでコーナーを立ち上がるインプレッサ。22Bとの距離はさらに縮まる。
(それならば、こちらは――)
続いて宮沢の眼下に広がってくるのは右ヘアピンコーナー。通常ならばアウト側ラインである走行車線に車体を振るのだが、宮沢は前コーナー立ち上がりラインである反対車線からのラインのまま、ブレーキランプも光らせずに明らかにオーバースピードだと思える速度でヘアピンへとインプレッサを進入させた。
「いくらなんでも、突っ込み速度が速すぎるだろ!?」
「クラッシュするぞ!」
そんな光景を間近で見ていたギャラリーは目を見開き、突っ込んでくるインプレッサの動きに戦慄する。
(――ココだ!)
ちょうど道路が曲がり始める辺りで、宮沢はステアを一気に右へと切り込む。どう見てもオーバースピードでのコーナー進入であり、ギャラリーの誰もがクラッシュを予感した。
しかし、インプレッサの車体はそんなギャラリーの予想を嘲笑うかのように何事もなく、イン側の走行ラインを“土埃を巻き上げながら”駆け抜けていき、あっさりと22Bのテールにぴったりと張り付く。
「ど、どうなってんだ!?」
「絶対にクラッシュするかと思ったのに!」
ギャラリーは目の前で起こった出来事にショックを隠せない。そしてそれは、前を走る22Bの眞子も同じだった。
(低速ヘアピンで一気に後ろに来た!? 一体どうなってんのよ!)
4連続ヘアピン区間最後の左ヘアピンコーナーが見えてくる。眞子は後ろのインプレッサの動きが理解できないまま減速を開始するが、それがいけなかった。
(しまっ……!)
ブレーキングポイントを見誤り、理想ポイントより遥か手前で22Bのテールランプが赤く灯る。慌ててブレーキペダルを踏み込む脚力を調整する眞子だったが、後ろにいた宮沢はそんな隙を逃さない。
コーナー進入のイン側ライン、つまり22Bの左横にインプレッサの車体を滑り込ませて、きっちりと理想のブレーキングポイントで減速開始。
(くっ……ラインの選択肢が……!)
一見するとほぼ横並び、しかし僅かにインプレッサのノーズが22Bの前へと出る。これによりライン取りの優先権は宮沢が取得し、眞子は走行ラインの選択肢を減らされてしまう。
(横に並ばれた……! でも、そのラインからじゃあ追い抜きは不可能なハズ……立ち上がりでアクセルをきっちり開けれればポジションは守れる!)
パワーは22Bの方が上だ。コーナー立ち上がりを失敗しなければ、追い抜かれることはないだろう。
しかし眞子の思いはあっさりと砕かれ、ライン取りの制約でコーナリングスピードが低下した22Bを、インプレッサが悠々とやはり土埃を巻き上げながらオーバーテイクしていく。
(嘘でしょ!?)
横を駆け抜けて行くインプレッサの動きが理解できない。走行ラインの制約でコーナリングスピードが落ちたとはいえ、それでもインベタの苦しいラインを走行するインプレッサのスピードに見劣りするわけがない。
「くっ……!?」
焦りからか、アクセルペダルを踏み込むタイミングが早くなってしまう。コーナリングラインが少し外に膨らみ、インプレッサとの距離が開いてしまった。
(意外と上手くいったな)
このバトル中、初めてバックミラーに映る22Bの姿を見ながら宮沢が心中で呟く。
「ちょっと反則気味かもしれないが、峠の走り屋相手に負ける気なんて更々無いからな」
2台は4連続ヘアピンを抜けて、短めストレートを駆け抜けると、今度は先ほどの4連続ヘアピンコーナーよりも曲率の緩い連続ヘアピンコーナーが現れる。
ヒール&トゥで素早く、そして確実に減速を行ってリアテールを振りながらコーナーを駆け抜けていくインプレッサ。
「さぁて、前に出たからには逃げさせてもらうぜ。プロの意地にかけてもな!」
インプレッサのテールランプの軌跡を目で追いながら、眞子も連続ヘアピンコーナーへと進入していく。
「何を仕出かしたかは分からないけど……こっちだって地元の意地があるのよッ。このままあっさりチギられるもんですか!」
フェイントモーションからの4輪ドリフト。WRCばりのドリフト走行で22Bが連続コーナーを駆け抜ける。しかしインプレッサに追いつくにまでは至らない。
バトルはいよいよ最終セクションへと突入していく――。