D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ 作:ケンゴ
初音山の山頂駐車場。満員御礼とまではいかないが、今宵も走り屋たちの車で賑わっている。
「おっ、来たな……」
その駐車場に入ってくる黒色のランエボ3を見つけた、本来のオーナーである純一がそう呟いた。
「あっ。あそこだよ」
「アイツほんとに大丈夫なのかよ……」
エボ3の車内から純一の姿を発見したことりが純一の姿を指差すと、ケンタは車を純一の元へと近づける。
「仕上がったか?」
「まぁな。とりあえずパッド交換とローター研磨で様子見ってトコだが、特に問題は無さそうだ」
ランエボから降車しながらケンタは純一にそう言う。
「そういや割と踏んでた音が聞こえてたけど、お前が仕上がったばかりの車で飛ばすなんか珍しいな?」
「まぁブレーキにアタリつけなきゃ駄目だったし、それに……」
ケンタはふと駐車場の入口に顔を向ける。
「――スゲェのと出逢ったからな」
彼の視線の先には、2台の車の姿があった。
1台はノーマル然とした白いVMG型レヴォーグ、先ほどまでバトルをしていた車両で間違いないだろう。
そしてそのレヴォーグの後ろから付いて来る車――青いBNR34型スカイラインGT-Rには、ケンタだけでなく駐車場に居た走り屋の殆どが視線を送っていた。
レヴォーグと34Rの2台は一度、入り口近くのスペースに駐車したがレヴォーグのドライバーがケンタに気付いたのだろうか。2台は再び動き出し、彼らの元へとやってきた。
「よぉ。また会ったな、ランエボのお兄さん?」
「……あっ!?」
レヴォーグから降りてきた口元に笑みを浮かべるメガネをかけた男性を見て、純一が何かを思い出したように叫ぶ。
ことりはその真意に気付くと、純一に声をかける。
「もしかして朝倉君が工場まで送って貰ったのって、この人だったの?」
「ああ……」
そんな会話を聞いたケンタも口元に笑みを浮かばせ、レヴォーグのドライバーに向き直る。
「ウチのスタッフがお世話になったみたいで」
「おいおい、ついさっきお前にも世話になったろ」
ケンタの言葉に苦笑する男。軽口を叩き合う2人だが、そこにお互い敵意は感じられない。
「おいおい、まさか割と踏んでた理由ってバトルかよ……」
純一は少し呆れた顔で2人を見る。片や仕上がったばかりの他人の車で、片や島外ナンバーの走り屋マシンとは程遠い車。
「バトルっていう程のモンでもねぇけどな、ステーションワゴン相手に本気になる走り屋なんてそうそう居ないだろ」
相変わらず口元に笑みを浮かべる男性。随分と余裕があるという雰囲気だ。
「あら、その人たちとはお知り合い?」
ふと男に声をかける黒髪の女性。その横には、小柄な緑髪の女性の姿もある。
「朝に地元のヤツを隣に乗せたって話しただろ、それがそこの彼だっていう事だけだ」
「あ~……例の被害者の人かぁ……」
小柄な女性は哀れみを込めた視線を純一に送る。
「人聞き悪いこと言うんじゃねぇよ」
「あはは……そちらの2人はお連れさんですか?」
ジト目で小柄な女性を見る男性に、ことりが質問をぶつける。
「ああ、この2人は妹だよ。この島に観光に行くって言ったら連れてけーってうるさくてな」
「どうも、妹その1よ」
「えっと……妹その2です!」
女性2人の自己紹介の仕方に、初音島サイドの人間は少々苦笑いを浮かべる。
「しかし、この島はすげぇな、マジで桜が咲いてるんだな。しかも島全体で」
「そうですね、でも私たちにとってはそれが普通になっちゃってますね~」
「まぁこの島に住んでるのなら、それが当然な反応だわな。そういや桜が枯れないのは魔法使いのせいだーみたいな噂が出てるけど、そんなウワサ流されてる方は大変だよなー」
男が笑いながらそう言うと、初音島住人の3人は真顔になり一瞬だけ空気が凍る。
「ハハハ、ナニイッテルンデスカー」
「ソンナワケナイジャナイデスカー」
「なにその棒読みセリフと能面みたいな笑顔!? まさかあのアホみたいなウワサってマジなの!?」
ことりと純一の返答に慌てふためく男だが、さらにケンタが追い打ちをかけて行く。
「実はそれぞれの桜の木の下には島流しされた者の死体が埋められていてその死体から流れた血が桜を紅く染めて――」
「なにそれ!? 違うベクトルで魔法使い云々よりヤベェ話が出てきたんだけど!? 怖ぇ! この島超怖ぇんだけど!?」
「何を言ってるのよ兄さん、とても素敵なお話じゃない」
「たぶんそれは魔法使いさんがやっつけた犯人なんだよ!」
「お前ら何で話に食いついてんの!? 何処が素敵な話なんだよ! 狂気しか感じねぇわ! あとその犯人はどんな事件起こしたんだよ! 桜の木の下に死体埋められるとか意味不明過ぎるわ!」
ついさっき出会ったばかりとは思えないほど、なんとも賑やかな面々である。
「全く……兄さんってばホントに夢が無いわね」
「だねー」
「え? 何? オレが悪いの?」
釈然としない表情で男性は妹2人にツッコミを入れていく。
「ふふっ、とても仲が良くて微笑ましいですね」
そんな3人を見て、ことりは頬を緩ませながらそんな事を言う。
「そうか? 絶え間なくボケられてツッコミが追いつかない、こっちの身にもなって欲しいんだが」
男性は呆れた表情でそう返すが、声色には不満があるような感じはしない。
「いやいや。実は少し取っつき難い人だと思ってましたよ」
ことりの隣に居たケンタが男性に向かって、口元に少しの笑みを浮かべて言葉を続ける。
「あの有名チューンドショップ“SPEED SHOP”の代表――