D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ   作:ケンゴ

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Act.16 訪島者④ -同業-

「…………ほう、まさかそっちから名前を出されるとはな」

「“この業界”で生きていて、貴方を知らない人はまず居ないでしょう?」

 

 一瞬だけ面食らったような表情をした松山だが、その表情はすぐに先程と同じく飄々としたものに戻った。

 

「あらあら、すっかりバレてるわねー」

「お兄ちゃんはもう少し、自分が有名人だって自覚を持った方が良いんじゃないかなぁ」

 

 そんな松山に連れ人である女性2人が茶々を入れる。

 

「別に隠していたわけじゃ無いが――、お前も“同業者”ってワケか?」

 

 松山はケンタ達に視線を戻しながら言葉を投げかけた。

 

「ええ。改めまして、初音オート代表の大城 剣太です」

「同じく初音オートのスタッフの白河 ことりです」

「メカニック担当の朝倉 純一です、今朝はどーも」

 

初音オート側の3人が自己紹介を済ませる。

 

「じゃあこちらも――。SPEED SHOPの松山 健悟だ、今は代表の地位を退いたけどな」

「妹その1、松山 萌(まつやま もえ)よ。事務員という立場だけど、SPEED SHOPに所属しているわ」

「妹その2の松山 楓花(まつやま ふうか)です! 私は学生なんで、たまにお店のお手伝いする程度です!」

 

 こちらは相変わらずの挨拶ではあるが、各々の自己紹介を済ませた。

 

「えっと、松山さんは代表の地位を退いたって……?」

 

 ただ一つ、気になる部分があったことりは質問をぶつける。

 

「ああ、ちょいと前に代表者からショップの設立者って立場に移行してな。いわば“現役引退”ってトコか」

「そう言えば言葉は良いけど、ほとんどニートみたいな感じよね」

「今じゃあ完全に専業主夫だもんねー」

 

 松山家の妹2人が笑みを浮かべながらそう話す。

 

「うるせーな、色々と手続きが面倒臭いから一応はまだ在籍してる形にはなってんだから無職じゃねぇよ。あとオレが家事しねぇと色々と滅茶苦茶になるだろうが、特に台所回りがな」

 

 松山は妹2人をジト目で見ながらそんな事を反論する。

 

「そう言えばこの前も、お兄ちゃんが居ないときにお姉ちゃんが焼き魚作ろうとしたら消防車が家に来ちゃったよねぇ……」

「うっ……あ、あの件は悪かったと思ってるわよ……」

 

 楓花が遠い目をしながらそう言うと、萌はバツが悪そうな表情を浮かべた。

 

「……何かどこかで聞いたことある話だね?」

 

 ことりが純一に対してそんな言葉を投げかける。

 

「そうだな、なんかめっちゃ親近感湧いたわ」

「いやどこに共感してんだよお前」

 

 今ごろ家でくしゃみをしているであろう妹の顔を思い浮かべる純一に、ケンタが呆れた顔でツッコミを入れる。

 そんなくだらない会話をしていた面々だが、ことりがふとした疑問を投げる

 

「そう言えば、松山さん達は何故この初音島に?」

「ん? さっきも言ったが観光だよ、観光。島中に桜が咲き乱れてて綺麗だぞー、って知り合いから聞いたモンでな」

 

 あっけからんと言い放つ松山の声色に、偽りはなさそうである。

 ただ初音島内で有数の観光スポットであるとはいえ、夜中の初音山へ来る人間はそうそう居ないだろう。

 ましてや松山自身は早朝にも此処を訪れているというのだから、他にも何か思惑があるのではないか、と初音島サイドの人間が勘繰ってしまうのは当たり前と言えば当たり前だった。

 

「まぁ実際の所は、観光だけじゃないってのも事実だけどな」

 

 訝しまれている雰囲気を感じ取ったのか、松山は苦笑いした表情を浮かべて言葉を紡ぎ始める。

 

「少し前この山で地元の車とバトルしたっていう、腕が確かな知り合いから行ってみたらどうだって、ちょいと勧められてな」

 

 松山の言う知り合いとは恐らく、先日眞子とバトルをしたGC8型インプレッサ乗りのジムカーナ選手の事だろう。

 宮沢の所属するチームはSPEED SHOPがスポンサーとなっていた筈である。

 

「つまり――敵討ちに来た、と?」

「別にそんなつもりはねぇよ、ただ単純に興味が湧いたってだけだ」

 

 ケンタの鋭い視線を受ける松山だが、不敵な笑みを浮かべる。

 

造り手(チューナー)として。そして、乗り手(ドライバー)としてな」

 

 松山の放つ言葉の意味。それをケンタが理解するのには、多くの時間は必要なかった。 

 

「何となくそっちも察してんだろ? じゃなきゃ、レヴォーグなんて大衆ステーションワゴン車からの挑発に乗るマネしねぇよな」

「ですね、普段なら確実に無視(シカト)決め込んでます」

 

 無用な走りはしない――、それがケンタを良く知る人物が彼に抱いている印象である。

 

「まぁ本当はさっき少し走って、それで終わりにしようと思ったんだけどな」

 

 松山は妹その1である萌の方をチラリと見る。

 

「あら、私の所為だと言いたいわけ?」

「半分はそうだな」

「じゃあもう半分は違うってことで良いわね」

 

 その半分の理由を察した様子の萌は、ケンタに向かって笑みを浮かべた。

 

「造り手であり同時に乗り手でもある。お互い似たような境遇だからこそ――という訳ですか?」

「ああ。そんな人種には語り合うより、もっと手っ取り早い方法があるよな」

 

 松山はそう言うと黒いエボ3の隣に停めてある、黄色いZZW30型MR-Sに視線を向けた。

 

「その黒いエボ3はそこに居る純一君の車だろ。その車をお前が乗って来たってことは、答えは一つしかねぇよな?」

「――お察しの通りで」

 

 ケンタは純一からMR-Sのキーを受け取り、それを松山に見せつけるのであった――。

 

 

 




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