D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ   作:ケンゴ

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Act.19 訪島者⑦ -奇術-

「うぉっ……!?」

 

 PCの画面を見ていた純一は、34Rのコーナーへの進入ラインに思わず声を上げてしまう。

 画面越しからでも伝わるほどに、その動きは強烈なモノであった。

 

「あちゃー、始まっちゃったね~」

 

 同じタイミングで画面を見ていた楓花は苦笑し、その反応は純一とは全く異なる物である。

 

「始まった、って……?」

「お兄ちゃんの悪い癖ですねー」

 

 ことりの質問に楓花はそう答えると、画面から目を離して萌の方を見た。

 

「思ってたより早かったわねぇ……」

 

 少々呆れた声を出す萌は、そのまま言葉を続ける。

 

「久しぶりに遊べる競争相手を見つけて、ちょっと熱が入ってるわね」

「遊べる……?」

 

 萌が放った言葉のチョイスが引っかかったであろう様子のことりを見て、楓花が萌にツッコミを入れる。

 

「お姉ちゃん、それは少し言葉足らずなんじゃ……?」

 

 楓花にそう言われると、萌はごめんなさいねと初音山サイドの2人に謝罪をする。

 

「決してあなたたちのボスを悪く言ってるつもりはないのよ。画面越しからでも相当な乗り手であることは理解しているわ」

 

 PCの画面上で凄まじいコーナリングを続けるMR-Sの姿を見ながら、萌は言葉を続ける。

 

「結論から言うと、今あの34RはFRの状態になっているのよ」

「え、FRですか!?」

 

 ことりは驚くがそれは無理もない事だった。まさかGT-RをFR状態に、それもバトル中に変更するとは通常であれば考えられない状況だ。

 

「あの34RはアテーサE-TSを強制的にキャンセルする回路を組んでいて、コンソールに設置されたボタンを押せば即FR化になるシロモノなの」

「完全にお兄ちゃんの趣味ですけどねー」

 

 現在は楓花が搭乗する34Rではあるが、元々は松山の愛車だったことを考えるとそんなシステムが搭載されていても不思議ではない。

 

「知ってると思うけど、アテーサE-TSは車体に取り付けられたセンサーがスリップを感知した際に、前後のタイヤへ最適な駆動力を伝えて車体をコントロールするシステムよ。その恩恵は計り知れず、かつてのグループAレース等でも猛威を振るっていたわ」

「でも今、松山さんの乗っている34Rはそのアテーサをキャンセルしてる状態なんですよね。なぜそんな強力な武器を捨てるようなマネを?」

 

 アテーサE-TSの凄さは重々理解しているつもりの純一は、だからこそ松山がその機能をキャンセルしているのか疑問だった。

 GT-Rという車の成り立ちを考えると、アテーサE-TSがあってこそ高い戦闘力を誇るマシンだからだ。

 

「あら、さっき言ったはずよ。遊び相手を見つけた、ってね」

 

 微笑を浮かべながらそう話す萌だが、純一とことりはあまりピンと来ていない様子であった。

 

 

「マジかよ……!?」

 

 一気に後ろへと喰らいついてきた34Rの姿を見て、ケンタは思わず声を上げる。

 

(なんてコーナリングだ! ありえねぇだろ!?)

 

 ブレーキングからコーナリングの旋回で有利なのは軽量な車体を持つこちらである筈にも関わらず、たった1つの低速ヘアピンでその差を全て埋めてきた。

 どう考えても常軌を逸した行動を起こした34Rの姿に理解が追いつかないながらも、3速へとシフトアップ。ターボ化されたK20A型エンジンが唸りを上げ、MR-Sの車体は加速していく。

 

(この先は割とスピードの乗る高速区間だったな)

 

 MR-Sのテールランプを見据えながら、この先のコース図を頭の中で展開させる松山。エンジンパワーで勝る34Rにとっては有利な区間に突入する。

 イージーに抜き去るのであればこの区間でアクションを仕掛けるのが得策だろうが、相手はコースを走り慣れている地元の走り屋だ。当然、自車が苦手とするポイントは把握しているだろう。

 現にMR-Sの走行ラインは、後ろから迫っている34Rの動きを牽制するかのような反応をしている。

 

(“普段の設定”じゃねぇから思ったよりもパワー差は少ないみたいだし、ここは様子見だな)

 

 松山は口元に不敵な笑みを浮かべ、34RはMR-Sの真後ろピッタリを走行する。

 

「……そもそも直線でブチ抜いたんじゃ面白くねぇよな?」

 

 誰に向かって言ったのか。軽口をたたきながら松山は4速へとシフトアップ、RB26型ツインターボエンジンが重たい34Rの車体を引っ張って行く。

 

「おいおい……あの黄色のMR-Sって初音オートの大城だろ!?」

「ああ……間違いねぇ。この初音山であの初音オートの大城とタメ張ってるなんて……後ろの34Rは何モンだぁ!?」

 

 たまたま路肩に停車して駄弁っていた走り屋2人が、高速区間をアクセル全開で駆け抜けていく2台の姿を驚いた表情で見送る。

 

(さっきのコーナリングでの車体の動き方……まさかFR化か!?)

 

 流石はチューニングに精通している人間だと言うべきか。ケンタは先ほどの34Rの動きから真相に辿りつくが、しかし確証は得られない。

 何せ走行中――増してやバトル中に、GT-R最大の武器ともいえるアテーサE-TSを捨てるなどという行為は、あまりにもムチャクチャであり少なくとも彼にとっては理解し難かった。

 だが相手は“至高の公道ランナー”の異名を持つ、SPEED SHOPのボスである松山 健悟だ。何を仕出かして来ても不思議ではない。

 

「――ったく……敵わねぇよな」

 

 最初に先行後追いハンデスタート方式を提案された時から薄々は気付いていたが、さり気なくこちらが有利になるよう調整されている。

 この高速区間でもパワー差を活かしての追い抜きの気配をも見せて来ない辺り、もはや驚きを通り越えて呆れて笑ってしまう。

 

(……ふぅ)

 

 このバトルに対する意識を変更し、心の中で深呼吸一つ。目の前に大きく右に曲がる高速コーナーが見えてくる。

 

「あっちがその気なら、こっちもソレ相応の“オモテナシ”をしねぇとな!」

 

 吹っ切れたような、それでいて何処か嬉しそうな声色で己を鼓舞した後、ブレーキペダルを全力で踏み込んだ。

 あっさりMR-Sのタイヤは4輪ともロックし、車体はそのまま横滑りを始める。

 そして同時にアクセル全開、タイヤから白煙を上げてMR-Sは鮮やかにドリフト状態へ。

 

「……!」

 

 そんなMR-Sの姿を見た松山は、直感的にケンタの走りが変わったのを理解した。

 

「やっぱり気が合いそうだな!」

 

 松山も嬉しそうな声を上げて、ステアリングを一気に進行方向へと切り込みクラッチペダルを一瞬だけ蹴飛ばす。

 アテーサE-TSをキャンセルしFRとなった34Rは、その遠心力に耐え切れずあっさりとリアタイヤのグリップを失うが、松山はそんな事はお構いなしにアクセル全開。

 2台は高速コーナーで車体を大胆にテールスライドさせながらも、高いスピードを保ったまま駆け抜けていく。

 

 

「あらら……2人とも完全にスイッチ入っちゃってるわね」

 

 激しくテールスライドを起こしながらコーナーを駆ける2台の姿を、萌はくすくすと笑いながらPCの画面で見つめる。

 

「兄さんはともかくとして、MR-Sの彼も積極的に車を滑らせて走るスタイルなのかしら?」

「確かにドリフトを多用する走り方ですけど、ここまで大胆に滑らせているのは中々見ませんね……」

 

 萌の質問にことりが答える。彼女が知っているケンタの走りは、ドリフトを多用するスタイルと言っても、どちらかと言えば高回転域をキープするために車を振り回している印象だ。

 ここまで大胆に、はっきりと言えば無駄なテールスライドを起こすような走りはしないはずだ。

 しかし、そんなことりに純一は待ったを掛ける。

 

「いや……そうとも限らない。俺が走り始めた頃、アイツはこんな走り方をしていたような気がする」

 

 ケンタに次いで、仲間内では比較的早めに初音山を走り出した純一。

 PCの画面に映るMR-Sの走りは、当時の事を思い出すと何処か重なる部分があった。

 

「という事は……いま画面に映ってる走り方が、ケンタ君の本来のスタイルってこと……?」

「ああ、恐らくな」

 

 PCの画面には、ドリフトコンテストかと見間違うかの様な走りをする2台の姿が映る。

 

「ショップの運営が軌道に乗り、仲の良い連中が次々に走り始めるようになったりして、いつしか無意識的に走りをセーブしていたのかもな」

 

 軽く見えるけど責任感は強いしなと、学生時代からことりよりも長く付き合いのある純一は言葉を付け加えた。

 




久しぶりに更新。
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