D.C.Street.Runners.~ダ・カーポ~ストリートランナーズ   作:ケンゴ

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Act.5 邂逅

「遅い!」

 

 深夜。初音山の山頂駐車場に、眞子の怒声が響き渡る。

 

「オレに言われてもなぁ」

 

 眞子の視線の先に居るケンタが、頬をポリポリと掻きながら言った。

 

「今回、この車の担当は純一だぞ。文句ならあいつに言えよ」

 

 ケンタは自分の後ろにある青い車――スバルGC8型インプレッサ22Bを指さしながら、その近くで音夢と談笑している純一を見る。

 

「朝倉からは、もう出来上がってるけどケンタから納車するなって指示を受けた、って言われたわよ!」

「……何の事やら」

 

 視線を眞子から逸らしながら、白々しく答えるケンタ。先日の黒いGTOの件が終わるまで、彼の計らいで眞子の車が納車待ちとなっていたのは事実である。

 もちろんそれは、ケンタが眞子の性格をよく知っているからだ。あの時、眞子が車に乗っていれば、間違いなく黒いGTOとバトルしていたであろう。ただしそうなると、仲間内の心配事も増える。

 だからこそ、彼は納車を延期して眞子にバトルをさせないようにした。結果としては、音夢がGTOとバトルしてしまったが。

 もちろん眞子はそんな事は露知らず、こうしてケンタに文句を言っている。当然と言えば当然だが、眞子の車が入庫した理由を知っているケンタは釈然としない。ここで彼が反撃に出た。

 

「つーか、そもそもの発端は、お前が縁石にタイヤぶつけたからだろうが。しかも結構なスピードでよ」

「うっ……そ、それは」

 

 痛いところを突かれ、眞子は少し怯む。お返しとばかりに、ケンタが攻める。

 

「おまけにそのまま自走しやがって。そこで車止めてオレらを呼んでりゃアライメントの調整で済んだものを、フロントサスペンション一式を交換コースだぞ」

 

 淡々とした口調で語るケンタと小さくなる眞子。気が付けば、眞子とケンタの立場は逆転していた。

 

「それにな――」

「まぁまぁ、その辺で許してやれよ」

 

 純一がケンタの肩に手を置いて、眞子の方へ目配せする。眞子はうつ伏せで倒れこんでおり、背中には矢が何本も刺さっているように見える。もちろん実際に矢は無いが。

 

「仕方ねぇな」

 

 溜息を吐き、ケンタは言葉を仕舞い込む。

 

「まぁ弄ってるとはいえ、22Bなんて希少な車なんだから、もうちょっと大切にしてやれよ」

 

 純一がそう言って、何時の間にやら復活していた眞子に車のキーを渡す。彼女はキーを受け取り颯爽と22Bに乗り込み、そしてエンジンをかけた。ボクサーエンジン独特のサウンドが辺りに響き渡る。

 

「朝倉! 走るのに付き合いなさいよ!」

「かったるいなぁ……」

 

 すっかり元気を取り戻した眞子は、純一に競争相手になるよう指示した。しかし彼は心底面倒くさそうな顔をし、嫌々オーラを全開にする。

 

「ちょっと待てよ。純一が走ったら、オレの帰るアシが無くなるだろうが」

「それはそれで、かったるいな」

 

 ケンタにすかさずツッコミを入れる純一。

 

「ったく……その面倒臭がりな性格は何とかならないもんかね」

「本当よねー」

「お前らほんと無茶苦茶だな」

 

 ケンタと眞子に対し、純一はげんなりした表情を見せる。

 

「まぁ冗談はさておき、走るんなら流すペースで行けよ。組み付けたばっかで、まだ暫定的な仕上がりだからな」

「分かってるわよ。しばらくしたら、またショップに車持ってくわ」

 

 それじゃあね、と言って眞子は車を発進させる。駐車場から出ていく22Bを見送りながら、純一はケンタに言葉を掛けた。

 

「いきなり全開走行に10万円だ」

「だよなー」

 

 2人がそんな事を言っていると、22Bのエキゾーストノートの音が一際大きくなって耳に飛び込んでくる。ケンタは溜息を漏らしながら、頭をポリポリと掻く。

 

「やっぱ追いかけてくるわ」

 

 純一がそう言って、愛車のエボ3に乗り込む。エンジンは掛けっぱなしだったため、すぐに眞子の22Bの後を追って駐車場から飛び出していった。

 

「純一って腰が重いわりに、何だかんだ言って面倒見は良いよな」

「それが兄さんの良い所ですから」

 

 残されたケンタと音夢が、純一の行動について話す。

 

「でも引き止めないんですね、兄さんの事。帰るアシって言ってたのに?」

「まぁオレとしても、また眞子が車壊すのは防ぎたいからな。眞子が心配っていう意味じゃ無く、また修理すんのが面倒って意味だけど」

「ふふっ、そうですか」

 

 音夢は2台が走り去っていった方向を、微笑しながら見た。

 

 

 連続する低速ヘアピンコーナーを駆け抜ける22Bと、その後ろに少し離れた距離を保つエボ3。

 

「思った通り、いきなり全開じゃねーか」

 

 前を走る22Bの速度を見て、純一は呆れた。これはバトルではなく、高速度とはいえあくまでもクルージングだ。

 

(気持ちは分からないでもないけどな……)

 

 修理に出していた愛車が自分の元へ戻ってきたら、いち早く走りたいというのが人情だろう。特に走り屋と呼ばれる人種はその傾向にある。もちろん眞子もその例に漏れない。

 

「ん?」

 

 緩やかな右コーナーを抜けた瞬間、前を走っている眞子の22Bがハザードを出してスローダウン。純一も22Bに続いてエボ3をスローダウンさせる。

 

「おっと……」

 

 2台の先に見える左コーナーから、2台の車が飛び出してきた。眞子がスローダウンした理由がわかり、純一は飛び出してきた2台を目で追う。

 

美春(みはる)のインテグラと……もう1台は何だ?」

 

 前を走るのは黄色のDC2型インテグラ タイプR。このインテグラは彼の知り合いであるため容易に判別できたが、その後ろを走る車は暗がりと言う事もあり彼には車種を特定できなかった。

 

「なっ!?」

 

 純一は前を走る22Bの方へ視線を戻すと、素っ頓狂な声を上げた。なんと22Bがいきなりサイドスピンターンで反転し、さっきすれ違った2台を追いかけていく。

 

「おいおい、マジかよ!」

 

 純一もサイドブレーキレバーを引き起こし、リアタイヤをロックさせてスピンターン。すぐさま22Bの後を追っていった。

 

 

 22Bとエボ3とすれ違った、何故かほんのりとバナナの香りが立ち込めるインテグラの車内。

 

「あれは……水越先輩と朝倉先輩の車ですね」

 

 このインテグラのオーナー、天枷 美春(あまかせ みはる)が、先ほどすれ違った2台の車を見てそう呟く。

 

「っとと……今は前に集中しないと……」

 

 後ろに居る車をバックミラー越しで見ながらシフトチェンジ。暗くて車種は特定できないが、かなり速い車だということは直感で理解していた。現に全開とまではいかないが結構なハイペースで走っている。しかし後ろの車が離れていく気配はない。

 

「新しいコンピュータセッティングを試すつもりだったんですけど……」

 

 ナビシートに置かれたノートパソコンの画面に表示されたグラフを見る。暫定的なセッティングは完了したつもりだったか、まだまだ詰めれる余地はある。

 2台はストレートを抜けて低速ヘアピンが続く区間へ突入。まずは右ヘアピン、アクセルペダルをハーフスロットルの状態で維持しながら、左足でブレーキペダルを踏み込む。

 美春はメーターインパネ付近に追加設置された、ブーストメーターの針の位置をを確認しつつステアを切り込んでいく。ボルトオンターボ化されたB18C型エンジンのブースト圧を落とさないよう、アクセルを戻す時間は最低限にとどめる。

 

「…………」

 

 インテグラの後ろを走る車――白色のスバルGC8型インプレッサ。そのインプレッサのドライバーは、前を走るインテグラのテールランプを見据える。シフトを1つ落とし、高回転を維持しながらインテグラを追走。

 前を走るインテグラが左ヘアピンを曲がる。コーナリング中にブレーキランプが点灯するのを見て、左足ブレーキを使用しているのがわかった。

 

「……ん?」

 

 インテグラに続いて左ヘアピンを抜けると、後ろから迫ってくる2台分のヘッドライト――眞子の22Bと純一のエボ3の2台の存在をバックミラー越しで確認した。

 

「あれま。ちょっとばかし不利かな?」

 

 後ろから迫る2台の雰囲気を感じ取り、インプレッサのドライバーは薄ら笑いを浮かべて軽口を叩く。前を走るインテグラが右へ曲がり、そのテールランプの軌跡が流れるようにコーナー奥に吸い込まれていく。

 

「あのインテグラ、相当えぐい改造してんなぁ。FF駆動ってあれだけ上り勾配でダッシュ出来るもんなんか?」

 

 インプレッサも右コーナーを曲がり、少し長めのストレート区間が現れる。3速ギアへとシフトアップ――インプレッサに搭載されるボクサーエンジン独特のサウンドを辺りに響かせながら、インテグラの後ろへとくっ付く。

 

「インプレッサでしたか……流石にコーナー立ち上がりの加速ダッシュじゃ4WDに敵いません……!」

 

 美春は一気に後ろへと食いつくインプレッサを見て顔をしかめる。頭の中に、彼女の先輩であり仲の良い音夢のエボ6の姿がフラッシュバックする。

 しかし、インテグラの心臓であるB18C型VTECエンジンは元々は高回転型ユニット。レブリミットの8000rpmまで一気に吹け上がり、更にタービン武装された恩恵も合わさって、ストレートの加速勝負でもインプレッサにも引けを取らない。

 

「おいおい……旧型とはいえインプレッサの加速とタメ張れるって言うのかよ?」

 

 流石に少し焦るインプレッサのドライバー。バックミラーを覗くと、先程から追ってくる2台のヘッドライトの光が大きくなっている。あの2台が前を走るインテグラの仲間だと考えれば3対1であり、とても不利な状況だ。

 

「……残念。ここまでだな」

 

 ふぅ、と一息ついてハザードボタンに手を伸ばす。アクセルペダルからゆっくり足を離してからハザード点灯、エンジンブレーキでゆっくり減速しながら車体を左へと寄せた。その横を、眞子の22Bと純一のエボ3が追い抜いていく。

 

「……なんかえらく豪華な車が走って行った気がする」

 

 インプレッサのドライバーが、横を掛けて行った22Bを見て呟く。別の意味で、どこか負けた気がしたインプレッサのドライバーだった。

 

 




美春のバトル相手はZZT231型セリカの予定だったんですが、その場のノリと勢いでGC8に変更となりました。

その理由としては、リアルでGC8インプレッサを購入したからですww(ぉ
エコが叫ばれるこのご時世に、まったく時代に逆行した車ですので維持費が大変なことになりそうですがw

ただ今まで以上に遅い更新ペースになるかも。ま、これでもう少し文章にリアル感が出ればいいかなぁ。

ちなみに今回美春のバトル相手として出てきたGC8ですが、自分が購入したGC8がモデルとなっています。
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